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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第14章 迷宮踏争
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第34話 荒野の熱

 ――帝都迷宮地下32階。


「というわけで5日目の今日は4人で探索する事になった」


 地下32階の入口にある転移結晶の前に4人で立つ。


「さすがに今も眠り続けているシルビアを起こすわけにもいかないからね」


 アイラが言うようにシルビアは今朝になっても眠ったままだった。

 イリスの診察で毒が抜けているのは間違いないみたいなので命に別状はない。おそらく疲れが出てしまったのだろうというのがイリスの判断だ。


「さて、荒野フィールドの攻略方法だけど……」

「それなら私が昨日の内に帝都のギルドで聞いて来た」


 屋敷へすぐに帰らずに何かをしていたのは知っていたが、イリスは帝都で情報収集をしていたみたいだ。


「さすがに地図を手に入れる事はできなかったけど、ある程度の情報は手に入れて来た。この荒野フィールドは巨大なサボテンが出口に向かっていくつか植えられているみたいだから出口を目指すならサボテンを目印にすればいいみたい」

「そんなのどこにあるんだ」


 見渡す限り何もない荒野が広がっている。

 サボテンなんてどこにもない。


 そもそも迷宮の構造を自由に変えられる能力を持った相手なのだから目印なんて逆に迷わせる要因にしかならない。一般的に知られている目印は頼りにしない方がいい。


「じゃあ、私の集めた情報は役に立たない?」

「いや、基本的な構造はそれほど変わらないはずだから、その情報が役に立つ事があるかもしれない」

「うん」


 しかし、進むべき方向すら分からないのは辛い。

 適当に進んだ結果、出口とは正反対の方向へ歩いていたなんて分かった時には目も当てられない。


「あたしもさすがにどっちへ進んだらいいのかなんて知らないわよ。普通、こういう未開拓の場所を探索する時は、そういう進行方向を調べながら進むのが当たり前だから進む方向も分からないのに探索をするわけないじゃない」


 アイラの言う通りだ。

 急いでいる時こそ未開拓の場所を進むべきではない。


「幸い、あいつらは今日36階からスタートだ。37階で確実に足止めができるから何か方法を考えながら進もう」


 とりあえず適当に方向を選ぶ。

 ただし、【神の運(ゴッドラック)】を使用しながらだ。


「で、お前はずっと黙っているけど、何をしているんだ?」


 ずっと黙ったままのメリッサ。

 自分の手に魔力を集めて考え事をしている。

 こういう時こそ打開策を用意してくれるのがメリッサの役目だったはずだ。


「すみません。もう少しでできそうなので進んでもらえますか?」

「何か急ぎなら迷宮へ戻って落ち着いた方がいいんじゃないか?」

「いえ、この迷宮内でないとできない事なので着いて行きながら集中したいと思います」


 本当なら考え事をしながら探索なんて危険な真似はしたくない。

 しかし、注意をしている間も受け答えをしながら意識は考え事に向いてしまっているのでこれ以上の注意は意味がない。


「よし、行くか」


 荒野を進む。

 乾燥した空気が俺たちを蝕む。


「……水」


 あっという間に水筒の水を飲み干したアイラが水の催促をする。

 昨日の俺と同じように水筒へ補給をするイリス。

 熱中症で倒れてしまったばかりなので水分補給を欠かさないように今朝注意したばかりなので、すぐに飲み干してしまった事を注意するわけにもいかない。


「それにしても魔法があると便利よね。普通、飲み水の持ち運びなんて探索をするうえで一番大変な作業じゃない。パーティに一人は、水魔法を使える魔法使いがいた方がいいわよね」

「それが、そうでもない」


 分かり易く両手にそれぞれ水の球体を浮かべるイリス。

 退屈な探索が続いてしまっているので雑談がしたいみたいだ。


「右手の水が飲み水として使える水。左手の水が普段から攻撃に使っている水」

「え、全然違いがあるようには見えないんだけど」


 魔法が苦手なアイラには両者の違いが全く分からない。

 というよりも水魔法が少し使えるだけの魔法使いでは飲み水に使える水を生み出す事すらできない。


「攻撃に使っている水は衛生的によろしくない。体を拭いたり、被った水を少し飲んでしまったりする程度なら問題ないけど、こっちの水を多量に飲んでしまった場合には体を壊してしまう事があるかもしれないから注意が必要」

「でも、昨日とかも魔法で作った水を飲んでも問題なかったわよ」


 俺もこれには苦労させられた。

 迷宮魔法を手に入れたばかりの頃、自分の魔力で水を生み出せると知って水筒を持ち歩かずに探索をしていた経験があった。

 その時に改良をしていない水を飲んでしまった。

 あの時ほど、迷宮内なら誰もいない場所へ転移できる迷宮魔法を持っていた事に感謝した事はない。


「魔法で飲み水を生み出す時は、攻撃に使っている時以上の魔力を消費して水の性質を変化させる必要がある。魔法を専門にしている魔法使いでも、簡単に飲み水を何度も用意していれば魔力がすぐに枯渇する事になる」

「うわ、ごめん」


 そうして大切そうに水筒を抱える。

 体調を壊されるわけにはいかないが、そういう理由から手持ちの水は大切にしてほしい。


 ただし、ここでイリスが暴露してしまう。


「もっとも、それは普通の魔法使いの魔力量の話。私でさえ、普通の魔法使い以上の魔力量を持っている。私の3倍以上の魔力量を持っているマルスなら余裕。さらに……」


 後ろを付いて来るメリッサの魔力量はイリスの10倍以上ある。

 はっきり言って飲み水の調達をしたぐらいで魔力が枯渇するような事態にはならない。


「……なんだ! だったら余裕ね」


 結局、ガバガバと水分補給を始めてしまうアイラ。


「……アイラ」

「気にするな。それよりも、お前は大丈夫なのか?」


 水分の方もそうだが、天井から降り注ぐ熱の方も問題だ。


「大丈夫。私は常に【冷風(コールドウィンド)】で体温を調節している」


 冷風(コールドウィンド)――攻撃に使うには弱い冷気の風を発生させる魔法。

 他者に対して使用するなら触れるほどの近距離で体を冷やすのが精一杯だ。

 けれども、自分に対して使用するなら距離は関係ないようなものだし、荒野の熱から守ってくれる効果にも期待できる。


「本当だ。ちょっと冷たい」


 ピタッと体をイリスに寄せていた。

 ちょっと羨ましいと思ってしまった。

 いや、俺たちの関係性を考えれば体を寄せるぐらいなら問題ないんだろうけど、ここは迷宮内部。そういう行為は自重した方がいい。


「いいな。あたしにも使ってよ」

「無理。自分の周囲に発生させるのが限界。それ以上、範囲を広げてしまうと魔力の消費量が心配になるレベル」

「残念」


 アイラにも魔力の残量を気にする事の大切さは分かっている。

 自分の探索が大変だからと言って無理を言うような事はしない。


「そんなに大変ならメリッサに頼めばいい」

「メリッサ?」

「彼女の魔力量と魔法適性なら私より効率よく周囲を冷やす事ができるはず」

「でも……」


 チラッと後ろを一瞥する。

 そこには俯いたままブツブツと言っている銀髪少女がいた。


「今のメリッサには関わらないようにしよう」

「それには賛成」

「探索も私たちで進める事にしよう。ちょうどいい事に敵の方からやってきてくれたおかげで体を動かす理由ができた」


 俺の方でも少し前からドタドタと大きな走る音が聞こえていた。

 音のする正面の方を見てみる。

 最初は、走りながら巻き上げている土煙のせいで姿がはっきりしなかったが、姿がはっきりしてくると大きな鳥のような魔物が走っているのが見えた。


「ヒットオストリッチ。駝鳥に似た魔物で、荒野みたいな何もない広い場所を好んで生息していて、自分の縄張りを訪れる人を見つけると走って撥ね飛ばして行く魔物」

「うわ、面倒くさそうな魔物……」


 しかし、ヒットオストリッチは俺たちの方へ進行をしっかりと定めて走って来ている。逃げるのは不可能みたいだ。


「焼くか」


 幸い、正面から真っ直ぐに走って来てくれている。

 正面から魔法を使って狙い撃ちにするのは難しくない。


 手を前に突き出して魔力を集中させ……


『ちょっと待って下さい。ヒットオストリッチに火属性魔法は使わないで下さい』


 屋敷で留守番をしているはずのシルビアの声が聞こえて来た。


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