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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第14章 迷宮踏争
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第32話 毒には注意

 ――帝都迷宮地下31階。


 探索を始めてから3時間。

 攻略地図なしではどっちへ進めばいいのかも分からない。

 頼りになるのはシルビアの【神の運(ゴッドラック)】だけだ。


「どうだ?」

「今のところ魔物の気配はありません」

「でも、油断するわけにはいかない。さっきだってこっちの不意を突いて現れたんだから」

「はい」


 空から降り注ぐ熱に意識が散漫になっていた。

 目の前の地面をカタカタと音を立てながら近付いていたのに蠍型の魔物が近付いている事に気付く事ができなかった。


 結局、気付いたのは攻撃される瞬間だった。

 蠍の尻尾から放たれた針をシルビアが短剣で捌き、アイラが剣で叩き割った事で全員が無事だった。


 それ以降、魔物の姿は見ていない。


「……でも、魔物が全く出て来ないのは退屈よ」


 アイラも熱にやられたのか辛そうにしている。


「あ……」


 水筒の水を飲んでいたシルビアから声が漏れる。

 中身がなくなってしまったらしい。


「ほら」


 魔法で飲み水を生み出して水筒に入れてあげる。


「……ありがとうございます」


 力ない返事をしてシルビアが再び水を飲み始める。

 こんな調子になっているのは荒野という環境が原因だ。


「ここに来て【迷宮適応】が足を引っ張る事になるなんて……」

「言うな。あのスキルに頼っていたのは事実だ」


 【迷宮適応】――自分の迷宮内ならどんな環境にも適応できるスキル。


 だが、その弊害として迷宮にある『砂漠フィールド』を訪れても砂漠の暑さに耐える訓練ができないという欠点が存在した。

 おかげで環境への対応は後回しになっていた。


 ――ドサッ。


「おい、大丈夫か!?」


 シルビアが倒れた。

 額を触ってみたが、熱があるのか凄く熱い。

 荒野の熱にやられただけではない。


「だ、大丈夫です……」


 口では大丈夫だと言っているが、絶対に大丈夫ではない。


「イリス!」


 迷っている暇なんてない。

 即座に【召喚(サモン)】を使用する。

 こっちの様子は見続けていたおかげでイリスにも状況が分かっている。


 イリスは慣れた様子で倒れたシルビアの体を抱えて瞳や口の中の様子を確認し、最後に手の甲に付いた傷に注目した。


「これは、荒野フィールドに来たばかりの時の戦闘で付いた傷ね」

「……そう」

「どうして報告しなかったの?」

「心配をかけさせたくなかった。それに攻略情報のない場所だから、わたしが先導しないと……」

「この攻撃には毒が含まれている」

「毒!?」


 収納リングから解毒ポーションを取り出してシルビアに飲ませている。

 薬の効果が表れたのか眠り始めた。


「ポーションを飲ませたから解毒はできるはずだけど、しばらくは安静にしている必要がある」

「しばらくって……」

「少なくとも今日一日は安静にしている必要がある」

「そうか」


 まだ昼過ぎだが、今日の探索は切り上げるしかない。

 シルビアなしで探索を続けるのは危険だし、責任感の強い彼女の事だから自分なしで探索を進めた事を知れば責任を感じて落ち込んでしまうのは目に見えている。


「そっちの馬鹿も一緒に連れて屋敷に帰る」

「馬鹿?」


 後ろを見るとアイラも倒れていた。


「アイラ!?」

「問題ない。そっちは熱中症で倒れているだけ」

「そうか」


 大事ではないようでよかった。


「冒険者なら自分の体調には気を配れてないといけない。なにより少しでも不調を感じるようなら自分で問題ないと思っていてもリーダーには申告しておく義務がある」

「いや、俺の方で気が付かないといけない事だったんだよ」


 シルビアは冒険者としてあちこち移動した経験が少ない。

 アイラも旅をしていたようだが、基本的に一人旅をしていたから過酷な環境を誰かと一緒に旅した経験は少ない。

 俺はすぐ傍にいたのだから気を付けるべきだった。


「ところで、解毒ポーションが余っているようなら俺にもくれないか?」

「ん? 必要なの?」

「いや、足に刺さっていたらしく少し気分が優れない。暑さのせいだと思っていたけど、毒針だっていうなら毒の可能性もある」

「……! それを早く言って」


 慌てた様子で収納リングから解毒ポーションを取り出すイリス。

 俺としては、今すぐにどうこうなるような体調ではないので慌てるほどではない。


 蠍の放った毒針の対処は前にシルビアが出てくれたので任せてしまったが、シルビアも荒野の熱にやられていた。防御も完全ではなかったらしい。


 ポーションを飲むと体からダルさが抜けた。


「毒は解毒されたみたいだ。けど、シルビアは倒れたのに俺が倒れなかったのはどうしてだ?」

「それは単純にステータスのせい」

「なるほど」


 毒を受けたことで体力が徐々に減って行った。

 しかし、俺の体力はシルビアの3倍以上ある。

 まだ倒れるほど深刻なダメージではなかっただけで俺も倒れていた可能性があったのかもしれない。

 少しでも不調を感じるようなら仲間に知らせておいた方がいいな。


「じゃあ、私は二人を連れて行くからここで待っていて」

「ここで?」


 俺の返事を聞くことなく二人を抱えたイリスが転移(ワープ)する。

 何もない荒野に一人取り残されると寂しさが込み上げて来る。


「一人ってこんなに寂しいものだったんだな」


 もう一年以上もの間、誰かが隣にいた日が続いていたせいですっかりと忘れてしまっていた。

 仕方なく一人で20分ほど待っていると連絡が来た。


『今からそっちに戻るから【召喚(サモン)】して』

「分かった」


 イリスを呼び出すと肩に捕まったメリッサも一緒に来た。


「メリッサ?」

「いえ、予想以上に寂しそうにしていたので私も来ることにしました」


 話し掛けるのは躊躇われたし、寝かせる為に着替えさせたりする必要があったのでこちらから覗くような真似は控えていた。

 しかし、向こうからこっちは覗ける。


 何より……


『はははっ「寂しい……」とか呟いていた時は笑ったよ』


 迷宮核は常に俺の様子を覗いている。

 こいつに笑われるのが一番悔しい。


「で、シルビアたちの体調は大丈夫なのか?」

「はい。治療中に私が屋敷へ戻ってオルビアさんに看病を頼んできましたので、今日1日ぐっすりと休んでいれば明日には復帰できるはずです。ただ、大事を取って明日も休ませるべきかもしれません」

「そうなんだよな」


 帝都迷宮の探索が始まって4日目。

 シルビアには先頭でずっと走ってもらっていた。

 そろそろ疲れが出てもおかしくない状況なので休ませるべきだと考えていた。


「シルビアなしなら探索は切り上げた方がいいな」

「それは、そうなんですが進みますか? 退きますか?」

「は?」


 メリッサの質問で思い出した。

 正面、そして背後を見てみる。


「どっちだ?」


 入口、そして出口の場所が分からない。


「私たち眷属は主の場所を起点に転移と召喚で行ったり来たりする事ができますが、主だけは戻るわけにはいきません」

「そうなんだよな」


 探索を切り上げる為には転移結晶で地上へ戻る必要がある。

 俺まで屋敷や迷宮のあるアリスターへ戻ってしまえば帝都へ戻って来る手段が失われてしまう事になる。

 いや、アリスターにいるリオたちに頼み込めば連れて来て貰えるだろうが、競争中に相手に頼み込むなどペナルティが発生してもおかしくない事態だ。


「さすがに主を一人で探索をさせるわけにはいかないので、ここからは私とイリスさんが一緒に探索をします。シルビアさんが倒れてしまった今こそ気合を入れて探索を進めることにしましょう」


 メリッサが先頭を歩き始める。


「いや、お前の場合は溺れる心配のない荒野だから張り切っているだけだろ」


 メリッサらしくなく動揺から体を震わせていた。


「ま、いいけどな」

「うん」


 イリスと一緒にメリッサに付いて行く。


「そう言えば迷宮の方は大丈夫なのか?」

「地下37階の改装は終えてある。地下47階の改装はまだだけど、この攻略速度だと到達するまで数日の時間が必要になるはずだから今日、明日ぐらいならこっちで活動していても問題ない」

「なんだか忙しくて悪いな」


 とりあえず慌てる段階ではない事は分かった。

 しかし、シルビアとアイラが倒れた事を教訓に注意はしなければならない。


「二人とも少しでも体調が悪くなってきたら報告しろよ」

「問題ない。冒険者としての経験なら私の方が上」

「大丈夫です。私は体調が悪くなってきたら自分で回復魔法を使用するようにします」


 イリスとメリッサについては問題ないみたいだ。


IN

メリッサ、イリス


OUT

シルビア、アイラ

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