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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第14章 迷宮踏争
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第30話 海底洞窟

 ――帝都迷宮地下27階。


 海底洞窟を進む。

 左右にある水中からの攻撃に警戒する必要はあるが、中央付近を歩いていれば対処は十分に可能だ。


 水の中から鱗に覆われた人型の魔物――サハギンが4体現れた。

 サハギンは銛を構えた状態で10メートルほど先にいる。


「ははっ、いただき」


 無情にも何もできないままアイラに斬り捨てられた。


「……可哀想だ」

「仕方ありません。ずっと留守番でストレスが溜まっていたんです」


 ウツボのような水中から飛び出してアイラに襲い掛かって来る。

 しかし、いつの間にか振るわれた剣によって下ろされていた。


「はい」

「いえ、この状態で貰っても……」


 魔物の肉には相手によっては毒が含まれている場合がある。

 どのような状態なのか分からないまま調理するのは危険だ。

 しかし、満面の笑みを浮かべるアイラの顔を見ていると断るに断れない。


「頑張って調理します」


 シルビアには頑張ってもらうしかない。


「さあ、じゃんじゃん出て来なさい」


 アイラの声に応えるように魔物が水中から次々と姿を現す。

 ブレードフィッシュ――背ビレが刃になっている魔物。


 ――キンキン。


 刃を打ち合わせる音が響き渡る。

 地面に落ちるブレードフィッシュ。刃のように固く輝いていた背ビレは見るも無残なほどボロボロになっていた。


 すぐに別の魔物が現れる。

 左右の水中から手裏剣のように回転しているヒトデが飛んでくる。

 上から叩くと地面に落ちる。


 迎撃している間に水面から亀が体の上半分を出していた。

 アリスターの迷宮にもいるキャノントータス。


 甲羅に背負った砲がアイラへとゆっくり向けられる。

 キャノントータスの砲から水を圧縮させた砲弾が発射される。

 スッと回避すると水の砲弾が後ろに落ちて激しく弾ける。

 短い息と共に放たれた斬撃が水面にいたキャノントータスの体を真っ二つにしていた。


 反対側の水面には背を向けた状態。

 その隙を突いて真っ黒な肌をした体長5メートルの鮫――デッドシャークが牙の生えた大きな口を開けて襲い掛かる。

 魚だけでなく小型の魔物すらも一呑みにして捕食してしまう危険な魔物。

 攻撃直後で対応の遅れる状態を狙った攻撃。


「甘い!」


 背を向けながら跳び上がると体を回転させながら空中にいるデッドシャークを両断する。

 血を地面に撒き散らしながら落ちる。


「ふぅ……こんなものでしょ」


 デッドシャークの近くに着地したアイラが息を吐いていた。

 少し疲れたような様子ではあったものの表情は晴れやかだった。


「いや……ストレス発散ができたみたいならいいんだけど……」


 改めて周囲の様子を確認する。

 地下27階に下り立って少しした場所からここに至るまでの道は襲い掛かって来た魔物の血と臓物によって汚されていた。


 最初は侵入者を警戒している様子だったが、転移結晶への退避が難しい距離まで離れると一斉に襲い掛かって来た。


 襲い掛かる魔物への対処はアイラ一人。

 地下26階でも魔物が襲い掛かって来る事があったものの俺たちからすれば弱く、少数でしかなかった。

 留守番でストレスの溜まっていたアイラにしてみれば不満だった。


 地図によると地下26階は、海底洞窟に慣れてもらう事を目的とした場所で、生息している魔物も大人しい性格の方が多く、主に漁や釣りを楽しんでもらうのが目的な場所だった。


「それにしては出て来る魔物の数が多くないか?」

「そうなんですよね……」


 改めて地図を確認させてもらう。

 地下26階よりも出現する魔物の数が多くなっているとは描かれているものの、さすがに40体近い魔物が襲い掛かって来るのは異常だ。アイラだからこそ一人でも対処できたが、一般的な冒険者では一つのパーティでは対処しきれない。それにデッドシャークなんて死者が出てもおかしくない。


『……おそらく他の階層から集めた。それも地下30階にいるボスが含まれます』


 落ち込んだ様子のメリッサの声が聞こえる。


「まだ交代させられた事を落ち込んでいるのか」

『いえ、仕方ない事だという事は理解しています。私も泳げない事が致命的である場所の探索を私みたいな者を連れて行うというのが危険である事は重々承知しています』


 それでも交代させられた事はショックだった。


『私も泳げるように頑張った方がよろしいのでしょうか?』

『冒険者としては泳げるようになっておいた方がいい。今回のように泳げる必要がある場所なんていくらでもある』


 イリスが慰めている。

 彼女も最近まで泳げなかったし、今でも泳げるというレベルではないものの水中で暴れないだけの冷静さは持っていた。


 しかし、イリスの言う通りだ。

 たまたま帰還する手段を持っていたからよかったものの通常は泳げない状態でも進まなければならなくなる。


 もしも、なんて事態を考えたらゾッとする。


「その辺は、お前の裁量に任せるさ」


 メリッサは賢い。

 泳げるようにならなくても何らかの対策は考えて来るはずだ。


「で、出て来た魔物にボスも含まれているっていう話だけど」


 メリッサは既に地図の内容を暗記している。

 出現する魔物の傾向、罠の位置を把握していれば現地にいなくてもアドバイスができる。


『はい。地下30階の最奥は、周囲を水に囲まれた円形の部屋らしく、襲い掛かって来る魔物を倒す事で次の階層への転移魔法陣が起動するようになっています。ボスには何種類かいますが、その内の一体にデッドシャークが含まれます』


 ボスが部屋から出ているのは緊急事態と言っていい。

 装備などの準備をきちんと整えてからでなければ対処できない魔物もいるからだ。


「向こうはかなり焦っているみたいだな」


 昨日の内に地下25階まで探索を終えたおかげで差は縮まっていた。


「せっかくですし、本来の迷宮探索もしてみたかったんですよね」

「本来の迷宮探索?」

「はい。この地下27階は、左右の水路に宝箱が隠されているらしく、水中にいる魔物に対処しながら宝箱を探すのが主流みたいです」

「この、大量の魔物がいる状況で?」

「いえ、本来なら水中探索ができる程度の数しかいないみたいです」


 ある程度の魔物を間引くことができれば宝箱探しも可能。


「そういうことなら任せて」


 アイラが水中に飛び込んだ。


「あの馬鹿!」


 慌てて水中を覗き込む。

 かなりの数を倒したはずだが、水中には未だに大量の魔物がいる。


 今もアイラの倒した魔物が撒き散らした血の匂いに誘われるように大きな鮫や銅の長い蛇のような魔物が水中を進んでいた。

 近付いて来る魔物に構わず深く潜って行く。

 その後を魔物も追って行く。


「どうしますか?」

「追い掛けるしかないだろ」


 飛び込もうとした瞬間、水面に浮かび上がって来る鮫の死体。

 さらに蛇や魚の死体も次々と浮かび上がって来る。

 死体の状態を見れば全て体が斬り裂かれていた。

 水中でも斬撃を飛ばして近付いて来る魔物を斬り裂いて行っているらしい。


「ぷはっ」


 浮かび上がって来る魔物を見ているとアイラも浮かび上がって来た。

 腕には箱が抱えられている。


「なんか、水底で蛸みたいな魔物がいたから倒したら奥に宝箱があったわ」


 水中での探索も何でもなかったように言うアイラ。

 地面に宝箱を置いて中身を確認している。


「凄く綺麗な指輪ね」


 宝箱の中には翡翠色に輝く宝石が埋め込まれた指輪が入っていた。


「売れば金になりそうね」


 収納リングに入れている。

 各々が見つけた宝については、パーティの資産にしてもいいし、各自で売ってお金にしたり、自分の物にしたりしてもいい事になっている。


「自分で使ってもいいんだぞ」

「あたしは剣士よ。指輪には興味ないのよね」


 指輪をした状態では剣を握りにくい。

 とはいえ、宝石の類に興味がないわけではないので誕生日にはネックレスをプレゼントさせてもらった。ただのネックレスというわけではなく、普段から体を動かしているアイラの為に疲労回復効果のあるネックレスの装備品だ。


「他にも動こうとしない魔物がいたから、たぶんだけど宝箱を守っているんじゃないかな。探せば他にもあるみたいよ」

「いや、先を急ぐことにしよう」

「それもそうね」


 競争の最中に宝箱探しに熱中するわけにはいかない。


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