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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第14章 迷宮踏争
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第23話 マリーの矜持

 復讐を終えた後は、悠々自適な日々が始まった。


 さっきまでいた街には戻る事ができない。戻れば確実に面倒な事になる。

 私の故郷を探してみるのもいいかもしれない。どこにある村なのかも分からないけど、村の様子はしっかりと覚えている。旅をしていれば行き着く事があるかもしれない。


 そんな風に旅をしていると立ち寄った村で困っている少女を見つけた。

 その少女は、村の広場にあるベンチに座って呆然としていた。


「どうしたんですか?」

「……あなたは?」

「ただの旅人で通り掛かっただけです。困っているようなので話し掛けたんですけど、お邪魔でしたか?」

「そういうわけではありません」


 少女は少しずつ自分の状況を語った。

 小さな道具屋を村で営んでいたが、村にある日粗暴な冒険者がやって来た事で状況が一変してしまう。村を拠点に活動し始めると実力があることもあって大きな顔をするようになった。時には無銭飲食をし、女性に対するセクハラなんて当たり前に行われる。

 しかし、迷惑を被っているからと言って追い出す事なんてできない。


 村人全員が困り果てていたところに道具屋の少女が襲われてしまった。


「女の敵みたいな男ですね」

「そうなんです。わたしは、貧しくてもいいから村でひっそりと暮らす事ができればよかっただけなんです……」

「大丈夫です。私に任せて下さい」


 必要な物を準備する。

 幸いにも復讐相手だった元盗賊たちを嵌める為に貴族の契約書を偽造している内に【模写】のスキルを手に入れたおかげで必要な物の準備は簡単に終わった。

 後は、同じように手に入れた【交渉】と【詐術】のスキルを利用して暴力を働く冒険者を嵌めるだけ。


「お兄さん、ちょっといいですか?」

「なんだ?」


 その相手も酒場で酒を飲んで上機嫌になったところを狙って交渉する。

 酒を飲んでいたおかげで思考力も低下している。


「ちょっとした儲け話があるんですけど、乗りませんか?」

「ほう……」


 冒険者が興味を持ち始めたところでテーブルの上に地図を置く。


「この地図は?」

「近くで見つかった遺跡の地図と遺跡に辿り着くまでの地図です。よければ、こちらを金貨2枚で譲りますよ」

「……どういうつもりだ?」

「別の街にいた時に私も金貨3枚で手に入れた地図なんですけど、私の実力だと遺跡の最初の方を探索するだけで精一杯。私が手に入れられた財宝も僅かばかり。私以上に実力がありそうな方なら買い取ってくれるんじゃないかと思って話し掛けたんです。けど、一番近くにある村だと高ランクの冒険者もいないので、あなたに話しかけました」

「遺跡にはどんな魔物がいた」

「私が探索した範囲にはゴブリンばかりでした。とはいえ、私だとゴブリンが群れでいると勝てないんです。探索能力だけは、それなりにあるのでどうにか生き延びたって感じですね」

「……いいだろう」


 酔った冒険者はすんなりと買い取ってくれる。

 実力がある馬鹿ほど目先の利益に食い付いてくれる。



 ☆ ☆ ☆



「そういう事で例の冒険者についてはもう大丈夫です」

「村から少し離れた場所にある森の奥に遺跡がある事は知っていますけど、どこが大丈夫なんですか?」


 出会った時と同じように広場のベンチで道具屋の少女に報告をする。

 私のした事と言えば、冒険者に地図を売り渡しただけ。

 目的を果たして帰って来れば何も解決されていない。


 そう、戻って来る事ができれば……


「売り渡した地図ですけど、遺跡内部の地図は全くの偽物。遺跡に辿り着くまでの地図は、途中までは本物ですけど安全に辿り着けるのはそこまで、気付いた時には強力な魔物の巣窟になっている場所です」


 しかも獰猛な事で有名なバジリスクがいた事を確認している。

 地図を信じて進んだ時にはバジリスクの縄張りの中に入ってしまっている。


「たしかに、この辺りの事を聞かれた時にバジリスクが出るので森には入らないようにと教えましたけど……」

「あなたは善意から教えてくれました。そして、そんな事を無法者の冒険者に他の村人が教えるはずがありませんよね」


 だからバジリスクが現れる事など知らずに森へと向かった。


「無事なら3日以内には帰って来るはずです。ですが、今日になっても帰って来ないところをみると……」


 無事では済まなかった。


「でも、こんな事をしていいんですか?」


 私のした事は冒険者を騙して危険な場所に誘導した。

 冒険者にとって害意のある存在だ。


「構いません。冒険者は、自分の身に関しては自己責任です。私の話を信じて危険地帯に踏み込んでもそれは本人の意思です」


 それに小さな村での一度きりの接触。

 冒険者ギルドから咎められるような事はあっては小さな村では大きな事件へと発展するような事はない。


「ありがとうございます。これで安心して過ごせます」


 少しは気が晴れてくれたのかもしれない。

 私のように理不尽な暴力に晒されるような被害者は少ない方がいい。


「何かお礼ができればいいんですけど……」

「いいですよ。私にはこれがありますから」


 偽物の地図を売り渡して得られた金貨2枚。

 貧しく、冒険者からも脅されていた村から騙しただけで報酬を要求するようでは私の事を私は許せない。



 ☆ ☆ ☆



 その後も困っている理不尽な暴力に困らされている人を見つけては、相手を騙して窮地に陥れた。

 相手が暴力を使うなら、こっちは詐術。


 街や村を転々としながら足が付かないようにした。

 そんな生活は大変だったけど、私のしている事は相手から恨まれる。


 逆恨みされて襲撃されれば戦闘能力の低い私ではあっという間に制圧され、辱められたうえで殺されることになるだろう。

 そんな最期は迎えたくない。


 だから、自分を追跡している者がいないように警戒していた。


「……あ」

「よう、久しぶりだな」


 けれども相手に先回りされてしまっては仕方ない。

 相手は、私の家族を奪った元盗賊。


「お前のせいで俺たちは借金をして散々な目に遭った」

「ミスリル製の装備を買ったのはあなたたちの意思。私に逆上してギルドを壊してしまったのは、あなたたちの素行が悪かったから」

「俺たちの事を盗賊だって言ったな」

「それが?」


 私にとっては紛れもない事実だ。


「俺たちは何年も前に足を洗ったんだ」

「盗賊から冒険者になっただけで過去の罪が全て許されたと? 本当に足を洗いたいなら被害者全員に頭を下げて許しを請うぐらいの事はしなさい。それすらできていないあなたたちは被害者にとっては未だに犯罪者です」


 言いたい事は全て言い終えた。

 後は惨めな最期を迎えない為に懐に忍ばせていたナイフで心臓を一突きするだけ……


「そんな事、俺たちが知るかよ!」


 元盗賊の一人が殴り掛かって来る。

 それを多くの人が目撃している。

 街の人にとっては、無抵抗な女性を男が襲っているようにしか見えない。

 これで元盗賊たちは本当に終わりを迎える。


「あ、あれ……?」


 暴力に備えて怯えているが、いつまで経っても殴られない。

 目を開けてみると黒い鎧に身を包んだ冒険者に元盗賊たちは殴られていた。


「お前たちが借金でギルドに追われている連中だっていうのは分かっている。大人しく捕まるなら痛い目を見る事はないぞ」

「なんだと!?」


 元盗賊が武器を抜いている。


「武器を抜いた時点で抵抗の意思ありと判断する」


 私が全く敵わないと思っていた相手をボコボコに殴って鎮圧していく冒険者。


「なに、あれ?」


 私のこれまでは一体なんだったのか?

 理不尽な暴力を振るっていた相手が理不尽な暴力に屈している。


「気にしないで下さい。あれがリオ様ですから」

「あなたは?」

「私はリオ様のパートナーのカトレアです。あなたの事情も聞いています。おかげでギルドから逃げて指名手配を受けていた彼らを待ち伏せる事ができました」


 ギルドからの依頼で借金苦から逃げ出した元盗賊を追っていたリオパーティ。

 元盗賊の足取りを追ううえで目的を考えた結果、自分たちを嵌めた私へ復讐しに行くだろうと考えた。元盗賊でも追えた私の足取りを私以上の情報収集能力のあるパーティに追えないはずがなかった。


 私を襲っている光景もあって元盗賊たちの罪は増える事になった。


「あんたの事情は聞いている。あちこちでこいつらみたいな馬鹿を騙しているみたいだな」

「……そうです」


 パーティメンバーがいるのに一人で鎮圧してしまったリオ。


「そんな危険な事をしているんだ。それなりの事情もあるし、覚悟をしたうえで騙しているんだろ。でも、こんな事はいつまでも続かない。きちんとした交渉能力があるなら商売とかで役立てた方がいいぞ」

「それは無理です。私みたいな厄介者を雇ってくれる人はいません」


 どこかで腰を落ち着かせれば今回のように逆怨みして襲ってくる事もある。

 それでは雇ってくれた人に迷惑を掛けてしまう事になる。

 こんな事を始めてしまった私はいつまでも一人でいるしかない。


「だったら、俺が保護してやる」

「え……?」

「俺が俺の責任で、お前を保護すると言っているんだ。どうにも人数は多いんだけど、交渉みたいな事ができるメンバーが俺のパーティには不足していた。だから、交渉能力を俺の為に役立てるって言うなら俺が雇うって言っているんだ」


 訳が分からなかった。

 私みたいな厄介者を傍に置いても利益なんてないに等しい。


 戸惑っていると金髪女性のクスクスと笑っていた。


「ごめんなさい。こんな事を言っていますけど、リオ様は行き場がなくて困っている人を放っておけない人なんです」

「おい!」

「私としても一緒に交渉をしてくれる人がいるのは助かります。行く宛がないなら一緒に行きませんか?」

「行きます!」


 即答だった。

 ずっと一人だった私は一緒にいてくれる人を求めていた。

 だから迎えてくれたリオ……リオ様たちの仲間になる事を決めた。


「いや~、あたしとしても元犯罪者の仲間が増えてくれるのは大歓迎。これから一緒に仲良くして行こう」

「あなたは?」

「あたし? あたしはピナ。元は壊滅してしまった盗賊団の生き残りで、今はリオの女だよ」

「え?」


 それからは妙に馴れ馴れしくしてくるピナや仲間と一緒に冒険をして、迷宮へ挑む事があった。


 気付けば迷宮を攻略して迷宮眷属になっていた。


 後悔はしていない。

 新たに【未来観測】なんていうスキルまで手に入れた。

 私は、私を迎え入れてくれたリオの為にスキルを使うと誓った。

 そして、皇帝という地位に就く者としては小さな……あまりに小さな願いを叶える為に勝たせる。


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