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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第14章 迷宮踏争
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第20話 幻惑の森

 ――帝都迷宮地下17階。


 地下16階から下りて来ると目の前には一定間隔で植えられた木が並んでいた。


「ここも地下16階と同じで森フィールドみたいだな」

「そうみたいです」


 草原フィールドを抜け、地下16階に辿り着いた瞬間に目の前の景色が草原から森へと変わった時には驚いた。


 地下11階から15階の草原フィールドは作物を育てる為の場所だったが、地下16階から20階までは森でしか得られない薬草や植物などといった素材が育てられているらしい。駆け抜けている間に見えた冒険者も森の中での採取を目的としているため装備も軽装だった。


 一応、地図通りのフィールドである事を確認すると進み出る。


「ちょっと待って下さい」

「どうした?」

「情報屋から購入した地図によると地下17階には幻惑の森と呼ばれる場所が存在するそうです」

「幻惑の森?」

「はい。その場所に踏み込むと方向感覚が狂わされて森から出られなくなってしまうそうです」


 なんだかエルフの里の手前にあった迷いの森みたいな場所だな。

 あそこは世界の浄化するシステムである神樹ユグドラシルから漏れ出た神気が森の中に漂い、神気の影響を受けることによって迷い込んだ者の認識をおかしくしていた。唯一の影響を受けない者が長期間神気の影響を受けて人から進化というレベルで変貌したエルフだけだ。


 エルフでなければ迷ってしまう森――それが迷いの森。


「迷いの森と同じで俺たちでも迷うのか?」

「詳しい事は分かっていませんが、長時間歩いていれば出られるみたいですけど踏み込んでしまうと必ず迷ってしまうみたいです」

「なら、避けるしかないな」


 森の中で迷って時間を消費しているような余裕はない。


「これまでのペースを考えると地下16階の探索を終える頃には夕方前になっている可能性が高い。今日は地下16階の探索を終えたら地上に戻ろう」


 二人が頷くのを確認すると森の中を進む。

 森と言ってもきちんと陽の光が届いており、進行方向に何があるのかは見えている。


 シルビアから地図を見せてもらったが、注意事項として幻惑の森は高く聳える木が陽の光を遮っているので薄暗くなっており、注意していれば誤って踏み込むような事はないと描かれていた。


 それでも冒険者が迷い込んでしまうのは、幻惑の森の中でしか得られない貴重な薬草があるので依頼を引き受けた冒険者が仕方なく入って行くらしい。

 また、初めて地下17階を訪れた冒険者の中には攻略情報を得ずに踏み込んでしまう冒険者もいる。そんな者が何も知らずに幻惑の森へ入り、迷ってしまう事で時には餓死してしまう事もあるので注意するようにと描かれていた。


 幸い、幻惑の森へ入らなければ地下17階には危険はないらしい。


 だから、迷わないように注意していた。


「……迷いました」


 途方に暮れたシルビアの言葉に俺の注意は無駄だと悟ってしまった。


「ちょっと待て。さすがに幻惑の森なんていう場所で迷うのは危険だからシルビアに任せるんじゃなくて俺とメリッサもそれぞれ注意しながら進んでいたんだぞ。それなのにどうして迷う事になるんだ」

「わたしにも分かりません」


 薄暗い森を避けるようにして進んでいた。

 しかし、気付いた時には薄暗い森の中にいつの間にかいた。


「原因はあれです」


 メリッサが迷ってしまった原因に気付いたらしく気の傍に生えていた青紫色の花を指差す。


「これは?」

「途中の普通の森の中にもありました。私も普通の花だと思っていたのです……鑑定を使ってみたところ……」


 言い難そうにしているので自分でも鑑定を使ってみる。

 ペズンという名前の花で幻覚作用を引き起こす効果があるらしい。


「調合について色々勉強している時に聞いた事がある名前の花です。調合する際には鎮静効果のある薬の材料として使われる事があるらしいですが、間違った使い方や野生で大量に生えていた場合には花粉を吸い込んだ事によって、人の感覚を僅かばかり狂わせる効果があるらしいです」

「僅か?」

「真っ直ぐ歩いていたと思えば、少しばかりズレている……迷いの森の効果に比べれば微々たるものですが、足止めとしてこれ以上の花はありません」

「ちょっと待て。足止めっていう事は、これも向こうが仕掛けて来た罠だって言うのか?」

「はい。少し変わった色の花だったので走っている最中も気になっていました。とはいえ、私も迷うまで効果を思い出す事ができなかったので申し訳ありません」


 謝る必要はない。

 俺は怪しい花があるなんて思わずに幻惑の森にばかり注意が向いていた。


「私たちの進行方向にこの花を設置するだけで私たちを迷わせる事ができます。しかも配置次第では、幻惑の森へと誘導する事ができます」

「そして、いつの間にか幻惑の森へ迷い込んでしまっていた」


 地図を見て幻惑の森がある場所を避けるように動いていた。

 しかし、実際に迷わせる要因は走っている道端にあったわけだ。


「私たちは地図があるおかげで入口から最短ルートを進んできました。逆にそれが相手に進行方向を教える事になってしまったみたいです」


 申し訳なさそうに謝るメリッサ。


「過去を悔いるよりもこれからどうするかを考える事にしよう」


 どうにかして幻惑の森を脱出するしかない。


「そもそも幻惑の森で迷ってしまう原因というのは、さっきの青紫色の花が出している花粉なんでしょうか?」

「青紫色の花だけではありません。他にも様々な幻覚効果を持つ花が自生しています。複数の花が放つ香りによって迷ってしまう森が形成されているようです」

「だったら花粉が届かない場所なら幻覚効果は及ばない可能性はあるんじゃないですか?」


 そう言ってシルビアが上を指差す。


「空からか!」


 迷いの森では巨大な神樹から放たれる幻覚効果が土地全体に及んでいたため飛べるような高さでは感覚を狂わされて迷ってしまった。それは、偵察に出した使い魔で確認している。


 しかし、地面に生えている花に人を迷わせる原因があるのだとしたら森の上には影響が及んでいないかもしれない。


 森の上に出てしまえば森の全容が見えるようになる。森を出るまでは感覚を狂わされる事になるかもしれないが、出口の方向さえしっかりと分かっていれば脱出も難しくない。


「そうとなれば……」


 地面を蹴って跳び上がる。

 森を形成している樹は15メートル近くあり、普通なら簡単に樹の上まで行く事はできないが、空を飛べれば簡単に出ることができる。


「あ……」


 メリッサが何かを言い掛けるが、聞き届ける前に樹の上部まで辿り着く。

 樹の上から頭を出して1メートルほど飛び出すと、


「いてっ!」


 何かに頭が当たって衝撃が体に伝わって来る。

 そのまま地面に向かって落下するもののメリッサの発生してくれた風がクッションとなって受け止めてくれる。


「ありがとう。でも、何があったんだ?」

「お忘れですか? ここは迷宮です」

「そうか天井」


 そんな事にも全く気付かなかった。

 周囲が森である事もあって普通に自然の中にあると思い込んでしまったが、天井のある迷宮の中にある森。樹に登って出口を見つけるという手段ができないようにされていた。

 森についても天井があっても問題がないように周囲の環境を整えられている。


 迷宮主だというのに迷宮内だという事を忘れていた。


「でも、どうしますか? 迷いながら入ってしまったので地図があっても現在位置はおろか方向すら分かりません。どっちへ進めばいいのかも分からない状況では脱出など不可能です」


 周囲は薄暗い森が広がるばかりで目印になるような物すらない。

 進むべき方向が分からない状況で闇雲に進むのは更なる遭難に繋がる可能性がある。


「進むのは危険。けど、戻るだけなら方向はしっかりと分かるんだよな」


 収納リングから振り子(ペンデュラム・ダウジング)を取り出す。


 振り子を使えば入口にあった転移結晶を目印に入口が分かるようになる。

 ただ、入口に戻るという事はこれまでの探索を無駄にする必要がある。それに気を付けながらでも同じ道を通れば再び迷ってしまう可能性が高い。迷わないようにするには幻惑の森を避けるのではなく、大きく迂回して移動する必要がある。


「まったく……次から次へと足止めの策を用いて来るな」


 面倒になりながらも結局入口まで戻る事になる。


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