第12話 振り子
地下77階。
そこは、5つの部屋があり、部屋の主を倒すことによって宝箱の財宝が得られる特殊な階層だった。
俺は、そこで3つ目の部屋を攻略していた。
目の前には3つ目の部屋の主――オリハルコン・ゴーレムという名の巨大な金色のゴーレムと戦っていた。いや、戦っているという表現は正しくない。なぜなら……
「どうした? さっさと向かって来いよ」
部屋の中に入った瞬間に黒い靄が集まり、ゴーレムの形を取った瞬間に『迷宮魔法:鑑定』を発動させて相手のステータスを把握した。
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名前:オリハルコン・ゴーレム
レベル:500
体力:20000
筋力:15000
俊敏:3000
魔力:0
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スキルや魔力を持つこともなく、俊敏も極端に低かった。しかし、体力が20000で、筋力も俺より高い。
体力と筋力にステータスを割り振ったような魔物であり、物理的な方法によって倒すのが困難と思われた。
というわけで、部屋の入り口から魔法を撃ちまくる。
右手からは火球が、左手からは電撃の弾丸が次々と放たれる。
魔力を持たないオリハルコン・ゴーレムに魔法は大ダメージとなる。しかし、持っている体力が破格なため次々と魔法を撃ちこまれても耐えながら近付いてくる。もっとも、俊敏も低いせいで動きはかなり遅い。
「そろそろかな?」
部屋の半分ほどまで来たところで水魔法を発動させてオリハルコン・ゴーレムに水を叩き付ける。すぐに叩き付けた水を凍らせると氷の棺の中にオリハルコン・ゴーレムが閉じ込められる。
それでも持ち前の筋力を活かして氷の中から力尽くで脱出する。
しかし、そこでオリハルコン・ゴーレムの侵攻が止まる。
「ご苦労様」
迷宮主としてお礼を言いながら圧縮した風を胸に叩き付けるとオリハルコン・ゴーレムの体が粉々になって崩れ、最後には粒子のようになって消え去る。
「え……?」
てっきり死体が残ると思っていただけにオリハルコンが残らなかったことは残念だ。売ればオリハルコンというとてつもなく貴重な金属なら高額だったはずなのに。
デストロイ・ミノタウロスの死体は道具箱の中に回収してあるので、素材の解体は後で行えば問題ないだろう。中には例外があるが、魔物の肉は、その魔物が強ければ強いほど美味しくなるとされていた。レベル500の魔物ならさぞ美味しいのだろう。
「さて、今度こそ当たりであってくれよ」
2つ目の部屋では真っ黒な騎士甲冑の魔物を倒し、レア度Sの財宝を手に入れた。
しかし、中身はポーションだった。ただし、迷宮核によれば死んでいなければどんな怪我や病気でも一飲みするだけで癒してしまうという破格の効果を持ったポーションだ。
これについては、役に立つかもしれないので回収しておいた。
「3つ目もダメだったか」
オリハルコン・ゴーレムを倒して得られた宝箱の中には、紫色に輝くビー玉のようなサイズの球体が入っていた。
これもレア度Sであることには違いない。
いつものように迷宮核から解説が入る。
『これは、「死魂の宝珠」という魔法道具で、死体に使用することで死体に残留している魔力を吸収して疑似的に死者の人格を投影することができるんだ。効果時間は、死者の魂の強さや死体に残留している魔力量によって変わるから、一概には言えないかな』
つまり、幽霊と会話ができるようになる魔法道具か。
これも回収しておかなくてはならないな。使いたくはないけど。
3つの宝箱を開けたが、目的の魔法道具を得ることはできなかった。
『まあ、まだ2つあるし、もしかしたらっていう気持ちでいた方がいいよ。それに全くの無駄っていうわけじゃないよね』
「そう、なんだけどな」
最初は全く予想していなかった恩恵があった。
確認するのは色々な意味で怖いので、まだ確認しない。
4つ目の部屋の扉を開けると、今までと同じように黒い靄が部屋の奥で集まり、形を作る。
現れた4匹目の魔物は、漆黒のローブで体を隠し、両手で巨大な銀色に輝く鎌を持った死神と形容すべき姿をしていた。
そんな魔物が宙に浮いている。ちょっと……かなり、不気味だ。
これまでと同じように鑑定を即座に行う。
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名前:ヘル・グリムリーパー
レベル:500
体力:9000
筋力:11000
俊敏:10000
魔力:18000
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今度は、魔力が高い魔物で来たか。
「まったく、迷宮はレパートリーが多いな」
俺が動くよりも早くヘル・グリムリーパーが右手を掲げ、手から闇と呼べる漆黒が広がっていく。
真っ白な部屋が黒く染め上げられ、俺も闇に飲み込まれる。
「……っ!」
突然、体が重くなり立っていられなくなってしまい、両手両膝を突いてしまう。
明らかにヘル・グリムリーパーが放った闇による仕業だ。こういう場合は、元凶であるヘル・グリムリーパーをどうにかするのが正しいのだが、なぜだか倒そうという気概が湧いてこない。
「そういうことか」
闇に飲み込まれると体が動かなくなり、気力も失われてしまう。
バッドステータスを与える魔法らしい。
だが、そのバッドステータスも瞬時に元に戻る。
「……この時ばかりは、迷宮適応があったことを喜ぶべきなのかな」
回復した理由は、迷宮適応によってバッドステータスに体が慣らされてしまったからだ。消耗した状態で強力な魔法を受けてしまったせいで効果が発揮されるまでに3秒もの時間を要してしまったが、こうなってしまえばヘル・グリムリーパーにはなにもできない。
「悪いな」
闇の中を真っ直ぐに駆け抜ける。
視界は黒く染め上げられ何も見えないが、部屋の奥から動いていないことは気配からなんとなく分かる。
そして、目の前まで辿り着く。
――斬。
ヘル・グリムリーパーがいるであろう場所に向かって剣を振り下ろすと何らかの金属を斬るような感触があるが、一撃の下に両断すると、そのまま剣を地面まで振り下ろす。
直後、闇が晴れる。
闇が晴れた原因を探ろうとヘル・グリムリーパーの様子を見てみると右手が切断され、地面に落ちていた。持っていた鎌も刃と柄が切断され、左手には柄の半分ほどしか残されていなかった。
「なんというか破格の切れ味だな」
4匹目ということもあって消耗していた。そんな状態でも鎌だけでなく腕を斬ることができたのは神剣・星雫の効力によるものが大きいだろう。
「なんというか……ホントすまん」
謝りながらヘル・グリムリーパーを両断する。
本来ならば、最初の闇で相手のバッドステータスを付与させる。そんな状態でも立ち上がってきた者には、鎌で応戦するはずだったのだろうが、バッドステータスは迷宮適応によって無効化され、鎌も神剣の斬れ味のせいで役に立たなかった。
両断された体が地面に落ちると後にはローブだけが残されていた。そのローブも両断してしまったせいでボロボロになっていた。
正直ボロ布にしか見えないせいで売れるかどうか怪しいので捨て置く。
「今度こそ『天の羅針盤』であってくれよ」
願いを込めながら宝箱を開けると中には細い鎖の先に水晶の付いた振り子が入っていた。
カタログで見た『天の羅針盤』ではない。
しかし、宝箱の中身を見た迷宮核は喜んでいた。
『やった! これがあれば探し物が見つかる!』
「え、これって何なの?」
『これは、ペンデュラム・ダウジング。ペンデュラムを持ちながら探したい物を思い浮かべると探し物がある方向を水晶が指し示して、目的地までの距離も教えてくれるっていう優れ物だよ』
効果を見る限り、天の羅針盤と変わらないように思える。
『問題は、その消費魔力量だ。天の羅針盤は一度使用すれば目的地を指し示したままだけど、ペンデュラムは使用している間は常に魔力を消費することになる。消費量はだいたい1分間で1000ってところかな?』
その消費量では、一般人ではすぐに消耗してしまい、使い物にならない。
しかし、俺の魔力量なら何の問題もない。10分間は使用できる。
目的の物ではなかったが、俺だからこそ使える魔法道具が手に入った。
第2章のリザルト
・ペンデュラム・ダウジング
・死魂の宝珠
・強力な回復薬