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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第1章 借金返済
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第2話 兄

「え、借金……?」


 事の経緯を兄であるカラリスに説明し、その第一声が村長から借金の件を聞かされた時の俺と同じ反応だった。


「そうです」


 俺が肯定すると頭を抱えて椅子に座った。


 現在、俺がいるのはお金を貸してくれた相手である伯爵のアリスター様が治める街――アリスターにある兄のアパートに母と妹を連れて押し掛けていた。

 借金についての説明がされたのが朝、ということもあって母と妹に事情を説明し、簡単な準備を済ませると昼に出発する馬車を捕まえてアリスターまで乗せてもらった。


 村を離れた理由は、冷たい視線を向けてくる場所に二人を置いておきたくなかったからだ。

 母は、父が行方不明になってから体調を崩しており、妹も明るい性格をしているが精神的に強いというわけでもなかったので、二人の精神面を考えて村を離れることを決意した。


 ちなみに行き先を告げたところ、村長からの許しは出た。

 行き先が兄の所であるため、実質家族全員が伯爵の監視下に置かれているようなものである。


 一時は、兄に迷惑を掛けないために借金のことについては黙っていようと考えたこともあったが、万が一の場合を考えると母と妹を守ってくれる存在が俺以外に必要になる。自然と、その相手は二人以外の家族である兄に限られる。


「済まない。父さんが行方不明になっているなんて全く知らされていなかったから驚いてしまった」

「いえ、俺の方こそすみません。兄さんがいない間の留守を任されていたのにこんな事態になってしまって……」

「いや、少なくともお前は何も悪くない。家族が困っているなら長男である俺が真っ先に駆け付けるべきだったんだ」


 予想通りと言うべきか真面目な兄は責任を感じてしまった。

 しかし、俺は兄こそ何も悪くないと考えていた。

 伯爵様の抱える騎士団から直々に騎士として任命され、2年前にアリスターの街へと移住している。引っ越しの別れ際には、「これからはお前が家族を守っていくんだぞ」と言われている。その言葉を守れなかった俺にこそ責任があると思っていた。


「それで、しばらくの間でいいので泊めてもらえないでしょうか」

「ここにか?」


 兄が怪訝そうな声を上げるのも無理ないと思う。

 兄が生活しているアパートの部屋は一人暮らしを目的に作られていた。だが、対象を騎士や商売を行っている人間など経済的に裕福な相手に貸し出しているため、手狭ではあるが、四人で暮らしても問題ない広さがある。現に同じアパートで家族と一緒に暮らしている人もいるらしい。土地の余っている外縁部などで下手に広い部屋を借りるよりも利便性などを考えれば街の中心部に近いこのアパートの方が過ごしやすかった。

 それでも村にあった一軒家の実家より小さい。

 村にいた頃の生活と比べて、実際に生活している当人として不安に思ったのだろう。


「贅沢は言っていられません。二人とは既に話が付いていますから。ただ、この部屋の家主は兄さんです。兄さんさえよければ、ということになりますが……」

「いや、住む場所の提供ぐらい俺にさせてくれ」


 それが、兄さんなりの責任の取り方、ということなのだろう。


「ただ、借金についてはどこまで協力できるか分からない」


 そう言って部屋の奥にある棚をゴソゴソと漁るようにして袋を取り出す。取り出した時に鳴っていた音から中に硬貨が入っているのは間違いない。


「この2年の間にある程度の貯蓄はできたから銀貨で何枚かは余裕があるが、まだそこまで貯められていないんだ」


 騎士と言っても駆け出し、大きなコネもなくスカウトによって入団したため色々と先輩騎士たちと付き合いもあるため散財とは言わないが、使い先が色々とあるとのことだ。騎士とはいえ、出世して初めて裕福な生活が送れるようになる。兄としては、出世して将来的に楽を家族にさせてあげようと今は色々と苦労していたようだ。


「いえ、借金については俺がどうにかするつもりです」

「だが、騎士よりも安い給料の兵士だと何年も先になるぞ」


 村長にも言われたが、真面目に働いていればいつかは完済できるはずである。

 しかし、それは十数年も先の話になる。

 信用があったおかげで低い利子で借金をすることができたが、働き始めたばかりの給料では毎月利子の返済に追われることになる。

 もしかしたらその頃には状況が変わってしまい、今より良くなることはないが、もっと悪くなっている可能性はあった。


「兵士になる話は断ってきました。あんな村を守る仕事なんてしたくありません」


 世話になっておきながら誰も無実であることを信じてくれない。

 そんな村人の住む村を守りたい、と今では思えなくなってしまっていた。


「では、どうする?」

「俺は、『冒険者』になろうかと考えています」


 冒険者――街の清掃といった子供でもできるような雑用から街の外に出現する魔物を退治するなど、依頼の仲介をしてくれる冒険者ギルドで依頼を受けて、それを遂行する、という何でも屋のような仕事を生業としている人たちである。

 中でも俺が目を付けたのは迷宮(ダンジョン)の存在である。


 迷宮(ダンジョン)――世界各地に昔からいくつか存在し、地上に作られた入り口から地下深くへと続く場所のことだ。中には人間を襲う魔物が出現し、侵入者を迎撃する為の罠も設置されているため非常に危険な場所である。しかし、宝石や強力な武具など宝と呼べる物が入った宝箱が出現し、貴重な鉱石や薬草が採取できるような場所でもある。

 危険ではあるが、一獲千金を狙うことができる場所だった。

 そんな場所がアリスターの街のすぐ近くにあった。


「危険、じゃないか?」


 アリスターの騎士団に所属する兄は、当然のように迷宮についても詳しく知っていた。

 一獲千金を目指して迷宮に挑む冒険者は何人もいる。しかし、同時に帰ってこなかった冒険者もこの2年の間だけで何人もいた。一獲千金を得ることができた冒険者など、ほんの一握りしかいなかった。

「危険は承知のうえです」


「もしものことがあったらどうするつもりなんだ?」


 冒険者というのは基本的に自己責任である。

 もし、依頼中に事故が起こったりして怪我をしたとしても仲介をした冒険者ギルドが何らかの補償をしてくれることはない。仕事中に怪我をして仕事ができなくなった、もしくは死んでしまったために家族も含めて補償してくれる騎士や兵士とは違う。


「もう、決めたことです」


 兵士として仕事ができるようにそれなりに鍛えてきたつもりなので、迷宮の浅層に挑めるぐらいの実力は持っているつもりだった。

 浅層で借金を返せるほどの大金を稼ごうと思うのなら宝石が詰まったような宝箱を見つける必要があるだろうが、なんとかなるだろう。

 少なくとも身に覚えのない借金返済の為に十数年の時間を掛けるつもりはない。


「それに冒険者になるのは、情報収集の為でもあります」

「父さんのことか」


 父の行方は一向に知れていない。

 もし、どこか他の街で生活しているのなら人の出入りが激しい冒険者ギルドの方が情報収集には適している。色々と冒険者との間に伝手を用意しておく為に自分も冒険者になるのが手っ取り早く思えた。


「昔から家族の中では賢いお前のことだ。家族を心配させるような無茶はしないと思っているが、絶対に家族の下に帰ってくるんだぞ」


 村を出る時に村人から向けられていた冷たい視線とは違う、本心から心配した兄の言葉を受けて、俺は冒険者として活動する覚悟を決める。


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