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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第14章 迷宮踏争
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第13話 懐かしのゴブリン

 迷宮の洞窟フィールドを奥へ向かって進む。

 セオリー通りなら階層の一番奥に下の階へと続く階段がある。

 当面の目的は階段を探す事でいいだろう。


「シルビア、近くに人はいるか?」

「いえ、この階層には誰もいないみたいです」


 地下1階ともなれば訪れるのは初めての冒険者。

 そうそう誰かが訪れるような事はない。


「それよりもこんなにゆっくりと歩いていていいのですか?」

「とりあえず1階にいる間はいいかな」


 メリッサの質問に答える。


「まずは帝都の迷宮がどんな場所なのか把握する」


 なにせ何の情報も得ないまま訪れた。

 普通なら事前に情報を得ない、などという危険な真似はしたくないのだが、ルールで事前に攻略情報を集めない事は決められている。自分たちの力だけを信じて未知の場所を突き進んで行くしかない。


 それでも頼れる知識が全くないというわけではない。


「帝都の迷宮もアリスターの迷宮と同じで地下1階は洞窟フィールドになっている。そこで、セオリー通りの洞窟フィールドなのかを確認する事でアリスターの迷宮と比べながら攻略を進めて行こう」


 俺たちが同じように迷宮の関係者だからこそできる芸当。

 迷宮に関する知識は、一般的な冒険者どころか超ベテラン冒険者以上に持っている。


 その知識を活かさずしてどうする?


「それにしても……王都にあった迷宮もそうでしたけど、どうして迷宮の最初は洞窟フィールドからなんですか?」

「迷宮ができた経緯は知っているか?」


 迷宮の構造を思い出して首を傾げていたシルビアが頷く。


 迷宮ができた経緯――大昔に発生した大災害から逃れる為に避難施設として神が用意してくれた場所。地下に逃げ込む事で激変してしまった地上の環境から人々は逃れる事ができた。

 そういった目的から迷宮の地下1階から20階までは、神の手によって最初から造られていた。


「地下1階から10階までは人々の居住スペース、地下11階から20階までは食べ物を作る為の作物スペースとして用意されていたんだ」


 それが洞窟フィールドと草原フィールド。

 最初は洞窟フィールドも部屋のようになっており、魔物も狩りに用意された魔物以外はいない事もあって平和な草原フィールドで畑を作って野菜を育て、牧場で家畜を飼育していた。


 地上の環境が元に戻って、そんな生活も終わりを告げれば人々は迷宮から出て行くようになった。

 その後、魔物が出現する洞窟と草原だけが残された。


「当時の事情がそのまま残されているから迷宮の最初は洞窟フィールドから始まるようになっているんだ」

「でも、居住用としての目的が失われたのなら造り変えてしまえばいいのでは?」


 それができれば苦労はしない。

 いや、できなくはないが無駄に多くの魔力を使う事になる。


 メリッサがその事を分かっているので溜息を吐いていた。


「なによ」

「いえ、せっかく地下82階を造ったばかりだというのに分かっていないのだと思うと……」

「地下82階を造る時、最初にどんな階層にするのか色々と悩んだだろ」


 迷宮の構造は何もない状態から造るよりも既に出来上がった物を造り変える方が多くの魔力を消費する。

 そのため造る前に廃都市フィールドにするべきか悩んだ。


 そして、そのルールは迷宮の上層である洞窟フィールドでも変わらない。


「上層の洞窟フィールドを造り変えるような魔力があるぐらいなら、もっと別の場所に魔力を使った方がいいんだよ」


 多くの冒険者を呼び込む為に財宝を置く。

 探索に慣れた冒険者を足止めする為に下層の難易度を上げる。

 訪れる人が少なく、重要度の低い洞窟フィールドを改装する必要性があまりないのでそのまま残されている。


「だから手付かず……という程でもないけど、そこまで手の込んだ事がされていないんだよ」

「あれもですか?」


 シルビアが指差す先にある曲がり角からゴブリンが姿を現す。

 洞窟フィールドでは一般的なありふれた魔物だ。

 ちょっと力を付けた冒険者でも狩れる程度の力しかないので、初心者の多い洞窟フィールドには打って付けの魔物。


「懐かしいな。迷宮に入って最初に討伐した魔物がゴブリンだった。苦戦こそしなかったけど、無我夢中で戦ったのを覚えている」

「ご主人様が無我夢中?」

「少し、信じられないですね」

「俺の力は迷宮主になった特典で得られたものばかりだ。迷宮主になる前なら村の門を守る兵士程度の力しかなかったんだよ」


 迷宮主になる前の頃を思い出しているとゴブリンも俺たちに気付いたらしく、こちらへ向かってくる。


 その姿にシルビアとメリッサが目線を鋭くする。

 雄しかおらず、他種族から雌を攫って自分の種族を増やすゴブリンは女性にとって天敵以外の何者でもない。女性にとってはキッチンに現れる黒い虫の次に排除しなければならない生物だ。


 メリッサが手を掲げる。

 その手に魔力が集中し、魔法へと変換されようとしている。


 メリッサの前に手をかざして攻撃を止めるように言う。

 そのままゴブリンに向かって駆け出すと以前と同じように首を斬る。


「チッ、ゴブリン程度だと実力を計るには足りないな」


 もっと歯応えのある相手と戦うなら更に下へ行く必要がある。


「あの、私が魔法で倒してしまってもよかったのではないですか?」

「それはダメではないけど、雑魚相手なら魔力の消費を抑えた方がいい」

「私の魔力量があれば魔法の1発や2発は大した事がありませんが?」


 メリッサの6万を超える魔力量があれば魔法を使用しても問題ない。

 だが、ここが俺たちの迷宮ではないという事を忘れてはいけない。


「お前は魔力量が多すぎるせいで多少減ったぐらいだと気付かないのかもしれないけど、シルビアなら気付いているんじゃないか?」

「はい。王都の迷宮に潜った時と同じように魔法やスキルを使ったわけでもないのに魔力を消費しています」

「あ……!」

「迷宮は侵入者から魔力を吸い取るようになっている。俺たちがアリスターの迷宮に長時間潜っていても魔力を一切吸い取られる事がなかったのは迷宮適応のスキルが作用していたからだ」


 迷宮のどんな環境にも適応できるようになるスキル。

 これがあるからこそ魔力を吸われるという効果も無効化する事ができていた。


 そして、迷宮適応は自分の迷宮以外では作用しない。


「迷宮の探索をするなら魔力の消費は抑えて進め。お前の魔法はただでさえ威力が強めなんだからゴブリンみたいな雑魚を相手にするなら魔法の使用は控えて杖で殴る、とかの方がいい」

「魔力残量……気を付けた方がいいですね」


 探索、という意味ではメリッサの魔法は後半にこそ役立ってくれる。

 その時こそ迷宮適応が使えない事の意味を理解してくれるはずだ。


「ご主人様、魔石です」


 魔力の消費についてメリッサに注意している間にゴブリンの体内からシルビアが魔石を取り出してくれていた。

 ゴブリンからは取引されるような素材は手に入らない。


 それに今回は時間の掛かる解体をして行くつもりはない。

 魔石ぐらいは余裕があれば回収するつもりだ。


 取り出した魔石を収納リングに回収する。


「よし、行くか」


 地下1階に出て来るような魔物が相手では大したことがない事が分かった。

 それに出現するゴブリンがセオリーから逸脱したような力を持っているわけでもない。


 とりあえず自分の知識を頼りに進んでも問題なさそうに思える。


「ところで、こちらはどうしますか?」

「ん?」


 シルビアが見ている先には壁しかなかった。

 いや、詳しく見てみるとただの壁ではない。


「向こう側に何かあるのか?」

「えい」


 シルビアが掛け声と共に洞窟の壁を殴ると壁が砕けて小さな空洞が見える。

 空洞には宝箱があった。


「相変わらず宝箱を見つけるのが上手いな」


 初めて一緒に迷宮探索をした時も碌な説明をしていないにも関わらず隠された宝箱を見つけていた。


 宝箱を開けてみる。

 中には銀貨が5枚入っていた。

 新人冒険者が1日に稼ぐ金額としては、それなりにいい金額だ。


 こうして宝箱を見つけることによって他にもあるんじゃないかと近場をウロウロして探すのが新人冒険者。


「まさか、これが足止めなつもりじゃないよな」


 だが、俺たちにとって銀貨5枚は既に大したことがない金額。

 先を急ぐ今の状況なら宝箱を探しているような状況ではない。


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