第10話 帝都の拠点
転移して連れてこられた場所は、人々の喧騒で賑わう街中だった。
見たことのない街。少なくともアリスターではない。
「ここが帝都ですか?」
「はい。帝都迷宮前になります」
そう言って示してくれたカトレアさんの先には冒険者ギルドと大きな神殿のある広場があった。
広場には他国の人間というだけでなく、弓を背負ったエルフ、槌を持ったドワーフ、槍を持ったマーマンなどと人間以外の亜人もいる。
「亜人が珍しいですか?」
「そうですね。メティス王国には亜人が少ないですから」
メティス王国にも亜人はいるのだが、辺境よりも更に奥である何もない田舎のような場所、エルフの里のように迷いの森を抜けた先にある神樹ユグドラシルの傍にしかいない。
それと言うのも排斥しているわけではないのだが、元々住んでいる数が少ないので亜人の発言権が低い。そのせいで下に見られてしまっているせいで、都会で奇異の目で見られるよりも田舎で同族たちと一緒にのんびり過ごす方を選んでいる。
中にはルイーズさんのように仕方なく、好奇心から田舎を出てきた者もいるので全くいないという訳ではない。
「帝国は周囲の国を併呑して大きくなっていった国です。その中には亜人を中心とした小国もあったので亜人を迎え入れることになりました。併呑した国だからと言って亜人を排斥していたのでは不和の元になります。そのため、今の状況は国を落ち着かせる為には当たり前の光景なのですよ」
「なるほど」
侵略者の中には、支配した国の人々はどう扱おうとも自由だと考える者もいる。
ただし、帝国の為政者はそうではないようで、少なくとも帝都では併呑された国の人々も問題なく受け入れられていた。
「それで、あそこに見えるのが……」
「はい。冒険者ギルドと迷宮への入口がある神殿になっています」
広場の中心には大きな神殿があり、その左右には大きな建物が建っていた。
「帝都は、一般には知られていませんが初代皇帝が迷宮の力を使って大きくされた都市です。そのため迷宮が中心にあり、迷宮の管理を任されている冒険者ギルドが傍にあります」
管理を任されていると言っても迷宮内の運営に口出しするような権利はなく、迷宮へ挑む冒険者が無謀なことをして貴重な人材を失わないようにしている。また、冒険者が得た迷宮内の情報を冒険者に渡して効率よく資源を回収している。
その辺は、アリスターと変わらない。
実際の運営は、迷宮主になった者によって行われている。
今も迷宮から出て来た一団が討伐した魔物の素材が詰められたリュックを背負って冒険者ギルドの方へ入って行った。
「迷宮へ挑むだけならどこの都市でも構わないので冒険者カードがあれば簡単に入ることができます。希望されるのでしたら冒険者ギルドに案内することもできますが」
「いえ、今はいいです」
帝都の冒険者ギルドには少し興味がある。
しかし、後で時間を作った時にでも覗けばいい。
「では、宿へ案内します」
迷宮攻略が1日で終わるとは考えていない。
本格的に攻略を考えるなら何日も必要とするのが迷宮だ。
路地から出たカトレアさんに連れられて迷宮がある方向とは反対へ歩いてすぐ近くにあった建物へと入って行く。
「いらっしゃいませ」
建物――宿に入ってすぐの場所にあるカウンターに立つおじさんが笑顔で迎え入れてくれた。
宿では食堂も経営しているらしく、入口横にある部屋では十数人の冒険者らしき人物が騒がしくしていた。中にはまだ午前中だというのに酒を飲んで騒いでいる人物までいる。
「騒がしくてすみません。なんでも大きな依頼を終えたばかりの冒険者らしいんで朝から騒いでいるんです」
「そうですか」
カトレアさんが短く答える。
一瞬だけ目付きが鋭くなって冒険者たちを一瞥するもののすぐににこやかな笑顔に戻っていた。
今はどういう扱いになるのか分からないが、カトレアさんだって最近までは冒険者として活動していたから大きな依頼を終えた冒険者が騒ぎたくなる気持ちも分かる。けれども、騒がしい状況に納得が行っていないような様子だ。
「彼らの為に部屋を用意してもらえませんか?」
「……お泊りは3名だけですか?」
「ええ、それと予約を入れておいたはずですが」
「少々お待ちください」
たぶんリオたちが帝都を旅立つ前にしていた予約だ。
俺たちが話を引き受けるかどうかも分からなかったのに予約を入れていたのか。
「たしかに本日からの予定で部屋を空けておくように予約が入れられていますが、これは国からの依頼でして……」
カトレアさんが冒険者カードとは違う身分証を見せる。
それだけで宿屋の主人は全てを察した。
「皇族の方でしたか。申し訳ございませんでした」
「いいえ、構いません。その予約は彼らを宿泊させる為の物です。ちなみに彼らは次期皇帝にとって重要な客人です。粗相がないようにお願いします」
「ありがとうございます。ですが、大切な客人だということでしたら帝城で御持て成しをされるのがよろしいのではないですか?」
「彼らは次期皇帝が直々に招いた人物ですが、冒険者です。彼らには次期皇帝の私用で特殊な依頼のため迷宮へ挑んでもらうことになっているので、帝城へ招くわけにはいかないのです。そこで帝都でも冒険者の間で評価の高い宿を利用させてもらったわけです」
「ありがとうございます」
カトレアさんの評価を聞いて主人が満足そうな笑顔を浮かべている。
しかし、カトレアさんの説明は凄いな。
俺たちが次期皇帝から招かれた冒険者であることは間違いないし、次期皇帝の私的な依頼で帝都に来ていることも変わらない。実際には迷宮攻略の競争をしようっていうだけなんだけど……嘘は全く言っていない。
「当宿は、料理の方も自慢でして快適な生活をお約束いたします」
主人に案内されながら2階にある部屋へ向かう。
宛がわれた部屋は4人部屋でベッドが2つずつ左右に並んでいた。部屋も隅々まで掃除が行き届いているし、評価が高いというのは本当みたいだ。
「本日の予定を聞いてもよろしいでしょうか」
「依頼の件もありますので迷宮へ挑んだ後、何時ごろに戻って来るのか分かりませんね」
「では余程遅くならない限りは、いつでも召し上がれるようにしておきます」
俺たちが皇帝とも繋がりのある冒険者だと知って上客を逃がさないよう親切な対応を心掛けてくれている。
さすがに夜中とかに帰って来るのは悪いな。
「外で食事して来る可能性もあるのでそこまで気を遣わなくても大丈夫ですよ」
「そうですか。では、ごゆっくり」
主人が部屋を出て行く。
するとカトレアさんとボタンさんが頭を下げてきた。
「申し訳ございません。私たちが冒険者時代に利用していた宿屋なら簡単に対応してくれたのですが……」
「さすがに次期皇帝と皇妃、側室になった状態では気軽に利用することができなくなったんです」
「そりゃ、そうでしょう」
冒険者向けの宿屋は冒険者だからこそ満足できるサービスを提供できる。
そこに元冒険者とはいえ皇帝が家族を連れて現れたら騒ぎになるし、宿屋の主人だって緊張してサービスを提供することができない。
「帝都にいる間はこの部屋を拠点にしてください。貴方がたに無理な依頼をしているのはこちらですから、費用は全てこちらで持ちます」
「ありがとうございます」
迷宮攻略に何日も必要になる以上、拠点になる場所は必要だった。
いや、眷属のみんなは俺が召喚すればいつでも呼び出せるから彼女たちだけはアリスターへ転移で帰っても問題ないのだが、俺まで帰ってしまうと帝都へ来る為にはリオの眷属の誰かに頼る必要がある。そんな事で借りを作るぐらいなら拠点になる場所を確保しておいた方がいい。
「それでは、拠点の確保もできたところで迷宮へ向かいましょう」




