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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第14章 迷宮踏争
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第6話 皇太子の思惑

 だが、過去の歴史が証明しているように迷宮主だからと言って簡単に皇帝になれるわけではなかった。


「俺が皇帝であると証明しても初代皇帝みたいな昔の人間が決めたルールに従える皇太子なんていない」


 それが第1皇子だった人物。

 ルールとして決められている以上、リオを排除しなければ自分の地位はない。

 だが、何かを画策しようとも悉く失敗に終わってしまう。


「皇都で何かを計画しようとも地上を迷宮化されている以上、隠し事などできるはずがありません」

「それもそうだな」


 俺も迷宮主だからこそ分かる。

 迷宮を管理している迷宮核は、その気になれば迷宮内の全てを把握することができる。そして、迷宮核を掌握しているのは迷宮主だ。


 アリスターの迷宮は、現在地下の部分と迷宮入口がある地上部分が迷宮化されている。地上部分まで迷宮化されているのは、転移で迷宮の地上に出ても誰かに見られる事がないようにする為だ。

 迷宮化して地上の様子を把握する事ができているから誰もいない場所を選んで転移することができている。


 それと同じような事をリオは帝都に対して行っている。


「帝都ってどれくらいの広さがあるんだ?」

「全長10キロほどの街の中に30万人ほどが住んでいます」

「王国の王都よりも大きいな」


 メリッサが俺の質問に答えてくれる。

 皇帝になるリオならもっと詳しく教えてくれるんだろうが、仲間から齎された情報の方が信用できる。


「帝国は、周囲の国々を併呑して大きくなっていった国です。いくら併呑したとはいえ、支配しているわけではなく国の一部として迎え入れているわけですから中心である帝都には多くの人が集まってきます。その関係から徐々に大きくしていった結果、大都市が出来上がりました」


 それだけの人、部族がいれば後ろ暗い事も当然ある。

 だが、内密に相談された事も全て迷宮主の手によって明るみになる。


「この力は便利だぞ。なんせ誰も俺に隠し事ができない。俺に反発している奴に対しては後ろ暗い弱みを握って脅してやった。皇族の中でもトップクラス以外は、俺が迷宮主である事を知らないから弱みを握られた奴らは間諜なんかを疑っているが、そんな方法で防げるはずがない」


 なにせ帝都にいる限りリオの支配下にあるようなものだ。


「それにしても、よく帝都を移動させようなんて話が出てこなかったな」

「それには大都市ならではの理由があるんだよ」


 帝都の外壁には魔物避けの効果を持つ魔法道具が使用されている。

 そうでなければ大勢の人が集まる大都市には魔物が大軍を成して襲い掛かって来ており、王国の王都にも同様の魔法道具が使用されている。


 だが、そんな規模の魔法道具は維持しているだけでも多額の費用が必要となる。

 王都よりも巨大な都市である帝都がどのように魔法道具を維持しているのか?


「まさか……」


 魔法道具の維持に必要なのは魔力。

 普通は魔物を退治して得られた魔石を消耗することによって得られた魔力を使用して維持している。


 けれども、もっと純度があって豊富な魔力が地下にあったなら?


「そう。帝都の結界は迷宮の魔力を利用して維持されている。というか、そんな裏技を使わないと巨大都市の維持なんてできない。だから、遷都なんてできない訳なんだが……俺は、何者だ?」


 迷宮主である絶対的な支配者だった。

 ちょっと迷宮核に命令するだけで迷宮から供給されている魔力を遮断することができる。そうなれば、巨大都市はたちまち魔物に襲われて壊滅する。


「帝国が帝都を維持する為には迷宮主に従うしかないのさ」


 国として一個人に脅されているなどという事態を公表することもできない。

 だから、表向きには皇族だけが受けることができる試練をクリアしたことで皇帝になることができる、としている。


「今回、俺がアリスターに来たのも最初に言ったように皇位継承権に関してトラブルがあったことでお前にお礼が言いたかったからだ」

「これまでの話を聞いて俺が関わった事は何一つないんだけど」


 全てが初めて聞く内容の話だった。

 それは、パーティメンバー全員も同じで首を傾げている。


「俺が皇帝になる資格を得たことで第一皇子が1番困惑していた。そこで、どうにか俺を排除しようとしたり、宰相なんかに働きかけて『いきなり皇太子位を譲るのは混乱を起こすので1年待ってほしい』なんて状況にしたりした」


 それが今年の年明けの話。

 その1年の間、第1皇子は色々と画策していた。

 そうして全ての策が失敗に終わり、次に狙った物が――栄誉。


「大国の領土ですか」

「正解」


 第1皇子が狙ったものをメリッサが言い当てたことで上機嫌になっていた。


「何十年、何百年と国境を接しながら何度も戦争をしているにもかかわらず、決定的なダメージを与えられないせいで領土を奪うことができない大国。これを奪うことができたなら皇帝になる資格を持った者が現れても、第1皇子という立場を利用して皇帝になることができるかもしれない」


 たしかに大きすぎる功績だ。

 たとえ、皇帝になることはできなくても功績を理由に王国の土地を支配することができるかもしれない。そこから独立という選択肢もある。


 追い詰められた者にとっては、まさに魅力的な餌に見えた。

 しかし、その餌はリオによって仕掛けられた釣り針の付いた餌だった。


「ただし、ただ王国と戦争したところで決定的な勝利にならないのは目に見えていた。だから、俺の迷宮主としての力に頼って物資や武具を魔力で用意したんだ」

「どこから調達したのか分からなかった物資は迷宮の力で生み出したのか」


 だから王国の諜報員も物資の調達先を知ることができなかった。

 帝国の中心である帝都へとどこかからか運び込まれていれば、その動きから戦争の兆候を察知することができただろうが、秘密裡に帝国の地下で生み出されていれば迷宮の価値を正確に知っている者でなければ気付くのは難しい。


「俺も次期皇帝になる事が決まっている者として協力するしかなかった。だが、本当に第1皇子が戦争に勝利されてしまっては俺が困ってしまう。だが、俺は困る素振りなんて一切見せずに協力した」


 協力は物資の提供まで。

 そこから先は、全て軍の総指揮官となった第1皇子の責任。


 完全な失脚を狙う為に戦争には協力するが、王国へ攻め込んだ後で完膚なきまでに叩き潰されるのがリオにとっての理想だった。


 そうして叩き潰されたことによって責任を取らされた第1皇子は奴隷となって皇位継承権も完全に失った。第1皇子の後ろ盾となっていた貴族たちも今回の責任を取らされる形で賠償金を支払い、失脚することになった。


 そこまで言われたところで、リオの言いたい礼の内容が分かった。


「ありがとう。お前たちが帝国軍を完膚なきまでに潰してくれたおかげで俺の皇帝即位に邪魔な連中が消えてくれた」


 王国を守る為に全力で戦ったが、それがリオを助ける形になった。


 リオの思惑は分かった。

 しかし、納得はできない。


 中でも一番納得できないのがイリスだ。


「そんな理由で戦争を起こしたの!?」


 ――バン!


 テーブルを叩いて立ち上がると大声を上げる。マスターに聞かれるかもしれないなんて心配は一切していない。


「戦争をなんだと思っているの!?」


 結局のところ、帝国内での権力争い。

 俺たちがギリギリのところでクラーシェルに間に合ったからこそよかったものの少なくない被害が出てしまっている。


「勘違いするな。戦争を起こそうと画策したのは第1皇子だった奴と協力していた貴族連中だ。俺は物資調達にちょっと協力しただけだ」

「そんな言葉で犠牲になった人たちが納得するとでも……!」

「戦争なんて手段の一つでしかない。他者の領土が欲しい。けれど、話し合いでは解決しない。だから戦争を起こしてでも奪い取る必要がある。今回の場合は、功績が欲しいが為に戦争という手段を取っただけだ。戦争を起こした連中の勝手なエゴを押し付けているんだから納得する必要なんてない」


 ただ巻き込まれただけ。

 そう言われてしまっては何も言えない。


 シルビアが立ち上がったイリスの肩を抱いてイスに座らせて落ち着かせている。

 少しイリスには時間を置いた方がいい。


「お前たちの礼は一応受け取っておこう。けど、俺は自分がやりたいようにしただけだ。だから、礼を言われるような筋合いではないと伝えておこう」

「ま、俺でも同じ立場なら腹が立って礼なんて受け入れないだろうな」


 そう言ってイリスを見る。

 イリスの態度から戦争の被害者、関係者である事は予想されてしまっている。

 お願いだから挑発するような態度を取るのは止めてほしい。


「礼を言うのはここまでだ。ここからは提案――お願いだ」


ここまでが第10章にあった戦争の裏事情。

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