第4話 来訪者の正体
アリスターにある喫茶店。
俺たちのパ-ティ5人と相手のパーティ9人。14人が話し合いをしても問題ないくらい広い場所を用意する必要があった。
人目に付かず、広い場所――その条件だけなら屋敷に招くのが一番問題なかったのだが、さすがに自分の拠点へ正体不明の相手を招くのは憚れた。
そこで、選んだのが喫茶店。
俺の事を調べようとしている帝国の諜報員がいるかもしれない状況で完全に人目を防ぐのは不可能だ。だからこそ、ある程度の喧騒がある状況の方が話を聞かれる心配がない。
それにこの喫茶店は冒険者と依頼者が秘密の会話をしたい時に利用される店として一部の冒険者の間で知られていた。マスターに会話内容を聞かれる事になるが、口が固い事で知られているので最低限の信用はできる。
だが、完全には信用しない。周囲に風の障壁を発生させて声が聞こえないようにする。大声を出せば聞かれてしまうが、普通に会話している分には聞かれる心配はない。
喫茶店内にあったテーブルをマスターの許可を得てから1箇所に固める。
入り口に近い方に俺を中心にメリッサとイリスが左右に座る。この二人がいてくれた方が話し合いを進めるうえで助かる。外側にシルビアとアイラを配置して警戒させていた。
対面には中心にリオと呼ばれた男の冒険者が座り、その隣に先ほどと同じように金髪の女性と黒髪の女性が座っている。他のメンバーは適当に席を決めていた事から両隣以外は特に決まっていないのかもしれない。
「まずは自己紹介から行こうか。俺の名前はグロリオ。帝国にある帝都を拠点に活動しているAランク冒険者だ。冒険者をしている間は、リオっていう名前で活動しているし、仲間もそう呼んでいるからお前もリオで呼んでくれ」
「分かった。リオと呼ばせてもらおう。そっちは知っているみたいだけど、俺の名前はマルス。このアリスターを拠点に活動しているAランク冒険者だ」
人数が多いのでパーティメンバーの紹介はしない。
まずは、それぞれのパーティメンバーの中心人物である俺とリオの間で話し合いを行う。
「それで、わざわざ帝国からアリスターまで来た用件は?」
「随分とせっかちだな」
「お前もAランク冒険者なら色々と忙しい事は分かっているはずだ」
「生憎と俺はしばらくの間は悠々自適とした生活を許可されている。そっちだって依頼を終えたばかりなら数日ぐらいは余裕があるはずだ」
依頼で王都まで出掛けていた事はルーティさんによって教えられているので知られてしまっているのは仕方ない。
ここは、向こうのペースに乗るしかない。
「さて、ここまで来た用件だが……その前に俺が何者なのか知らせておいた方がいいだろう」
やっぱり冒険者以外の身分を持っていたか。
「俺に『鑑定』を使え」
「なに?」
「分からなかったか? だったら、具体的に言ってやる。『俺に「迷宮魔法:鑑定」を使え』、そう言っているんだ」
「……!」
今度こそ言葉が出て来なかった。
鑑定を使える者なら一般にもいる。
しかし、こいつが言ったのはただの『鑑定』ではなく『迷宮魔法:鑑定』だ。
迷宮魔法の存在を知っているだけでなく、俺が迷宮魔法を使える事まで知られてしまっている。
「こっちは既に鑑定をお前に使用してステータスを確認している」
「いったい、いつの間に……」
鑑定能力は、人間に使用した場合には見られている事が相手に感覚的に伝わってしまう。そのため勝手に覗き見るのはリスクがあり、マナー違反だとされていた。
だが、覗き見られた感覚はなかった。
「感覚の事か? そんな物はスキルでどうにでもなる」
リオの2つ左隣に座った小柄な薄い紫色の髪をした少女が手を振っている。
スキルの詳細な内容は分からないが、彼女が鑑定を使用した事によって相手に知られることなくステータスを覗き見られたらしい。
相手の許可も得られたなら遠慮する必要はない。
「鑑定」
スキルを使用して相手のステータスを確認する。
「……これは、予想外」
帝国の軍と関わりのある冒険者かと予想したが、それ以上の大物が現れた。
==========
名前:グロリオ・グレンヴァルガ
年齢:19歳
職業:冒険者 迷宮主 帝国皇太子
性別:男
レベル:180
体力:14879
筋力:14885
俊敏:12257
魔力:14856
スキル:迷宮操作 迷宮適応 眷属契約 魔力変換 迷宮接続 帝国迷宮の加護
適正魔法:迷宮魔法 迷宮同調 火 土
==========
突っ込みどころが多すぎる。
まず、レベルが俺たち並に高い。
このレベルまで到達するには自分よりもレベルの高い相手に勝ち続けなくてはならない。それもレベルに見合わない高ステータスがあれば可能だ。
次に一番重要な職業だ。
「おまえ、迷宮主だったのか」
マスターに聞かれないよう大声を出さないように驚く。
「そんなに驚く事か?」
「初めて自分以外の迷宮主にあったんだから驚くのも仕方ないだろ」
「俺だってお前が初めてだ」
だが、リオの口ぶりから俺が迷宮主だと分かったうえで接触してきている可能性は高い。
事前に心の準備ができていたリオと俺では状況が違う。
迷宮同調で俺が確認したステータスをシルビアたち眷属にも見せる。
全員が高いステータスに驚いていた。
今まで、自分たち以外でこんなに高いステータスを持った人物には遭遇した事がない。
「それで、迷宮主がどんな用事なんだ?」
この時点で敵対するつもりはない。
相手のステータスを見ればメティス王国の王都にあった迷宮の迷宮主に比べて強い事が一目で分かる。迷宮主は、迷宮主になった迷宮の深さに応じて管理する為に必要な力だとしてステータスの向上が可能だ。
自分の迷宮主補正が加わる前のステータスと比べて、迷宮主になった事で得られたステータスは7000と考えられる。
迷宮の力は俺の方が上だが、レベルは相手の方が上だ。
その事実が戦闘における経験値は相手の方が豊富という事を示しているので、万が一の場合も考えられる。
それに侍っている女性陣だ。
パーティリーダーである男が迷宮主ならパーティメンバーの女性陣は眷属の可能性が高い。
全員が眷属なのか、一部だけが眷属なのか分からないが、敵対するにしても覚悟が必要になる。
「ククッ、そう構えるな」
対してリオの方は俺の反応を面白そうに見ていた。
「さっきも言ったように俺は、お前と話がしたいだけだ」
「そう簡単に信用できない。ステータスが正しければ、お前は迷宮主だけでなく皇太子なんだろう」
それも俺と年齢が近い事から継承順位が低いながらに次期皇帝である皇太子になる事ができた人物。
どんな方法で皇太子になったのか分からないが、全く油断する事ができない相手である事には違いない。
「俺を警戒している理由はそれか。どうやら俺が第1皇子だから皇太子になれたわけじゃなくて、何らかの方法によって皇太子になった人物だからか。そこまで知っているなら話は早いし、俺の実力を正しく評価してくれているようで嬉しいよ」
本来、王太子になるべき存在だった第1皇子が健在で戦争の責任を取らされているのだとしたら生きており、暗殺のような実力行使でないのは明らか。むしろ、実力行使では第1皇子を皇太子の座から下ろす事はできても自分が皇太子になる事はできない。
「とはいえ、俺が何かをした訳じゃないんだがな」
「何を言っておられるのですか。全てはリオ様の功績です」
リオの隣に座った金髪の女性がおっとりとした口調で注意する。
「たしかにそうかもしれないが……」
「リオ様が自らの功績を誇られないなら私から説明させていただきます」
金髪の女性が真っ直ぐに俺を見つめて来る。
「私は、リオ様の第1眷属を務めておりますカトレアと申します。実は、帝国皇帝になる為の条件は、前皇帝から皇太子として指名される事です。ですが、それ以上に優先させなければならない条件があります」
その条件を満たしたからこそリオは皇太子になる事ができた。
「その条件とは、帝都地下にある迷宮の迷宮主になる事です」