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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第14章 迷宮踏争
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第3話 帝国からの来訪者

 酒場にいる見た事のない若い男性。

 俺よりもちょっと年上に見えるが、それでも20歳には届かないぐらいだろう。


 そんな若者が昼間から酒場にいる。


 冒険者なら危険な依頼を終えて打ち上げで楽しみにしていた酒を飲む。若者でも珍しくない光景なのだが、若者の周囲にいる人が珍しかった。


 若者の両隣には女性が侍っており、右側に座ったおっとりとした金髪の女性が男性の空になったグラスにエールを注いでいた。反対の左側に座ったニコニコと笑顔の黒髪の女性が一口サイズに切り分けた魚を口に運んで、男性が普段から食べ慣れた様子で食べていた。


 両隣の女性を侍らせた若者。

 それだけなら俺の傍にも女性が4人もいるのだから気にしないのだが、若者が座っているテーブルの両隣にあるテーブルには女性が3人ずつ座っていた。


 冒険者ギルドに併設された酒場は基本的に冒険者しか利用しない。

 冒険者の中には粗暴な者もいるので、打ち上げで酔って気分の良くなった冒険者から変に絡まれて場合によっては暴力沙汰になる場合もある。そのため、自分の身は自分で守れる者でなければ酒場で飲まない。

 そのため冒険者しか利用しない。


 つまり、両隣のテーブルで食事をしている女性も冒険者の可能性が高い。

 おまけにわざわざ両隣のテーブルで食事をしている事から若者を中心にした関わりがある可能性も高い。


 8人の女性を侍らせた若者。

 数の上では俺の上を行っている。


「俺に用があるのってあいつですか?」

「そうです。ただ、依頼がしたいというわけではなく、個人的に何か話があるみたいな感じでした」


 ルーティさんに確認すると肯定されてしまった。

 しかも、ますます警戒する情報まで付けられた。


 依頼者だというなら内容次第では引き受けても良かったが、帝国との状況もあるので断るつもりでいた。


 だが、依頼者ではない。

 冒険者なら時間はある。ここで俺が姿を現さなければいつまでもアリスターに滞在され続ける可能性があった。


「どうするべきだと思う?」

「面倒な事はさっさと終わらせた方がいいんじゃない?」

「わたしもそう思います。問題の先送りは意味がありません」


 アイラとシルビアからは面倒事を解決する為に関わり合いになるべきだと言われた。

 俺も賛成だ。

 メリッサも特に反対意見がないみたいで後ろから状況を見守っていた。


 ただ一人……


「どうしたイリス」

「いえ……」


 イリスだけは何か考え事をしていた。


「9人の冒険者パーティは多いな、と思って」

「たしかに普通は4~6人ぐらいだよな」


 パーティは多ければ強いというわけではない。

 維持する為には金が必要になり、パーティの構成によって違うが必要最低限の人数で留めるのが普通だ。


「それから男性1人に、女性8人という構成で思い出したけど帝国でそれなりに有名な冒険者パーティだった」

「そっか、クラーシェルなら帝国の有名な冒険者の噂ぐらいなら手に入るよな」


 イリスが元々拠点にしていたクラーシェル。

 帝国との国境に近い場所にあるおかげで帝国から王国へやって来る冒険者が立ち寄る事が多い。立ち寄った事で、帝国の噂が落とされる。


「そいつらは、どんな風に有名だったんだ?」

「まずハーレムパーティ」


 それは間違いなく有名になる。

 俺の4人でさえ注目される理由になるのに倍の8人もいれば更に注目されるのは間違いない。


 おまけに魔物や人と戦う事があるのに侍っている女性は全員が美少女、美人だ。


「それから男性はAランク冒険者。女性冒険者はBランクやCランクばかり」

「実力者揃いってわけか」


 実力行使になった場合、女性陣全員がAランクである俺たちの方が有利かもしれないが、相手の方が人数は多いので何があるのか予測する事ができない。敵対するのは得策ではない。


「そんな相手がわざわざアリスターみたいな辺境まで来てする話の内容が予測できない」

「そうなんだよな」


 帝国からアリスターまではけっこうな日数が掛かる。

 その苦労を考えれば話の内容は重たい物に思える。


 とはいえ、話をしないという選択肢はない。


「一応、何があってもいいように警戒しておいてくれ」


 4人が頷く。


 けれども酒場の方へ近付いて行くと俺も先に接触した冒険者がいた。


「よう、兄ちゃん見ない顔だな」

「ああ、さっき着いたばかりだからな」

「悪いがここは女を連れて来るような場所じゃないんだ。別の場所で飲んでくれないか?」


 酔った冒険者に絡まれていた。

 女性冒険者が酒場を利用したがらない理由がここにある。女性だけで飲んでいてもナンパ目的に絡まれるし、男性と一緒でも男性の方にいちゃもんをつけられる。


「なぜだ?」

「なぜ?」

「ここは冒険者に限らず誰でも利用できる酒場だ。なぜ、同じ利用客であるお前に出て行くよう言われなければならない。酒場に迷惑を掛けてマスターから出て行くように言われたなら別だが」


 若者が酒場の奥にいるマスターに目を向ける。

 目を向けられたマスターはゆっくりと首を横に振って迷惑を掛けられたわけではない、と告げる。

 その意図は二人にもしっかりと伝わっていた。


「そういうわけでマスターは問題ないと言っている。俺が出て行く理由はないな」

「テメェ……! 迷惑だとかそういう話は関係ないんだよ。単純にお前みたいな女を連れた奴を見ているとムカつくんだよ」


 ああ、思い出した。

 俺も依頼を終えて全員で酒場を利用していた時に同じような理由で絡まれた事があったな。


 その時は、絡んでいる奴の仲間から酔って上機嫌になっていたところに女を何人も連れた俺の姿を見て嫉妬してしまったせいで絡んでしまったと言っていた。


 俺としては少し絡まれるぐらいなら問題なかったのだが、奴と同じようにお酒を飲んで気分が高揚していたシルビアとアイラによってボコボコにされていた。ま、俺に相手にされなくてニタニタとした笑みを浮かべながら下心満載でメリッサの肩に触れようとしていたので情状酌量の余地はない。


「なんだ悔しいのか? 女が欲しいなら俺みたいな奴に絡むんじゃなくて女に声を掛ければいいだろ」

「テメェ……!」


 若者の言い方に怒った男が腰に差していた剣を抜いた。


 酒場での武器の使用は厳禁だ。

 俺に絡んだ時は、武器を使用する暇もなく女性陣によってボコボコにされてしまったのでお咎めはなかったが、武器を抜いてしまっては酒場とギルドから何らかのペナルティが発生する。


 酒場にいた冒険者が呆れた視線を向けていた。

 同時に離れて行く。これから行われる喧嘩に巻き込まれないようにする為だ。


 剣を向けられている状況にも関わらず若者に慌てた様子はない。

 そもそも慌てる必要がない。


「あ?」


 絡んで来た奴の持つ剣に鞭が絡み付いていた。


「あたしたちの前でリオに剣を向けるとかいい度胸」


 鞭は左隣のテーブルで食事をしていた栗色の髪をした女の子が握っていた。

 女の子が手を引くと剣が男の手から離れて女の子手元へと手繰り寄せられる。


「か、返せ……!」

「悪いけど、こっちは武器を向けられた時点で正当防衛が成立しているの」


 右隣のテーブルに座っていた眼鏡を掛けた藍色の髪をした女性が男の背後に立つ。


 後ろから掛けられた声に振り返ろうとするが、それよりも速く頭を掴むと女性が男の頭を酒場の床に叩き付けていた。


 酔っていた事もあって一撃で意識を失う男。


 藍色の髪をした女性が男の懐を探っている。


「ごめんなさい。迷惑を掛けたお詫びにこれを渡しておきます」


 男の懐から抜き取った財布を酒場のマスターに渡していた。

 マスターも床の修理があるのでそっと自分の懐にしまう。


「すげぇ……!」

「女も強いとかマルスのとこと同じかよ」


 2人の女性の活躍を見ていた客から声が上がる。

 その称賛する内容を聞いてシルビアたちが苦笑いしている。


 関わり合いになりたくない。しかし、今関わり合いにならなくても向こうから接触してくるのは明らかだ。


「仕方ない」


 気絶した男を酒場の隅に移動させていた藍色の女性が戻って来たのを確認してから若者に近付く。


「ん?」

「あんた、俺に用があるみたいだな」

「という事は、お前がAランク冒険者のマルスで間違いないんだな」


 最初は近付く俺たちの事を警戒するように見ていた8人の女性たちだったが、俺が目的の人物だと分かると警戒心を解いていた。


「ちょっと人には聞かれたくない話がしたい。場所を移動しよう」


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