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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第14章 迷宮踏争
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第1話 次期皇帝の情報

 王都までの護衛依頼。

 辺境のアリスター近辺でしか採取することができない素材や迷宮でしか手に入れる事ができない物がある。


 そんな物資の運搬を王都まで行う事を担った商人の護衛。

 それが、今回引き受けた依頼だった。


 依頼そのものには問題はない。

 これまでにも護衛依頼は何度も受けて来た。

 今回の依頼は王都までの護衛だけで途中で魔物が何度か襲って来ただけで簡単な依頼だった。俺たちを雇ったのも強い魔物が現れた時に守ってもらうよりも有名になった俺たちに近付きたいという思惑が見え隠れしていた。


 ついでに帰りは自由にしていいというのもポイントだ。

 王都から護衛を引き受けた冒険者パーティが二組いたが、王都まで辿り着いた今となっては王都を本拠地に活動している彼らと一緒に行動する必要はない。


 だが、問題は依頼完了の報告をギルドでした後で発生した。


「なんだい? あたしの茶に招かれる事がそんなに不満かい?」

「別に……」


 王都の冒険者ギルドでギルドマスターをしているルイーズさんに捕まってしまった。

 俺たちが事前に来ることを知っていたルイーズさんはわざわざギルドの入口が見える場所で待っており、報告を終えたところで攫うようにメリッサとイリスの手を引いて部屋へと向かってしまった。


 さすがに他の冒険者の目があるところでギルドマスターを無下に扱うわけにもいかない。


 彼女たちだけにするわけにもいかないので全員で部屋に向かう。


「それで、どんな用ですか?」


 メリッサが不満そうな表情を隠そうともしない。


「さすがに王都へ来たからと言って毎回執務室に呼ばれているようでは困ります」


 イリスも同様だ。


 ルイーズさんの目付きが真剣な物に変わった。

 よかった、きちんとした理由はあった。


「あんたたちを呼んだのは人には聞かせられない情報を教えておきたかったからだよ」

「情報、ですか?」


 ギルドマスターともなれば色々な付き合いがあって、そこから情報が得られる。

 また、長年冒険者として活動していたルイーズさんには彼女なりの伝手がある。


「帝国に関する噂だ。聞いておいて損はないはずだよ」

「聞きましょう」


 これにはメリッサも真剣になる。


 帝国と俺たちの関わりと言えば春先に起こった戦争ぐらいしか思い付かない。


「安心しな。また、攻めて来るとかそういうわけじゃない。むしろ、あの国が攻めて来る事はしばらくないだろうね」

「そうなんですか?」

「そもそも今回の戦争では、食料や武具をどこから用意したのか王国側は全く察知することができなかった。それでも、その方法には無理があったんだろうね。今、帝国側は色々な事情も重なって大慌てなんだよ」


 戦争には当然のように物資の為に金が掛かる。

 必要な物資を用意すれば事前に戦争をしようとしている事を予測できるはずなのだが、帝国に潜入させた王国の偵察は全く見抜く事ができなかった。

 買収などを疑って徹底的に調査したらしいが、結局のところ誰かが買収されたような事実は見つからなかった。


「原因の特定はできなかった。だけど、こっちはあんたたちにとってはそれほど重要じゃないだろうから省くね」


 物資を用意した方法についてはそれほど興味がない。

 帝国軍から徴収した物資だが、食糧には獣ではなくオークなどの魔物の肉が大量に使われていた。が、他にも野菜や魚がきちんとあったので肉だけというわけでもない。


「王国へ攻めるように進言した貴族連中は揃って戦争における敗北の責任を取らされる事になった」


 具体的には資産の没収。

 それによって失った国庫の回復に努めるようだ。


 もっとも貴族が持つ財産を全て没収したところで失った国庫の回復にはほど遠いので貴族家の関係者全員には奴隷に堕ちてもらうなどしてしっかりと補填されることにしたらしい。


「そして、一番の責任者が帝国の第1皇子だった奴だよ」

「まさか第1皇子の発案で戦争を起こしたんですか?」

「そうらしいよ」


 その言葉に呆れるしかない。


 第1皇子なら余程の事がない限り帝位を継承する事ができる。

 当然ながら戦争は勝てば相手の領地を奪え、占領した街では略奪が許されるなどのメリットがあるが、同時にデメリットも存在する。


 負けた瞬間に奪う側から奪われる側へと転がり落ちる事になる。


 戦争に必要な物資のほとんどを俺たちに奪われただけでなく、王国から帝国へと正式に抗議文が送られ賠償する事が決定しているらしい。

 その額は、奪った物資の比ではない。


 いや、実際にクラーシェルに住んでいた地域に少なくない被害が出ているのだから当然の補償だ。


 今回、何もしなくても次期皇帝になれたはずの第1皇子は、必要以上の欲を掻いて戦争を起こしたせいで帝位継承権を剥奪。さらには奴隷落ちになってしまったらしい。


 何をやっているんだか……


「それがアタシも気になったから個人的に調べてみたんだけど、どうやら帝位継承に関して問題があった事が戦争の原因らしい」

「どういう事ですか?」

「……近い内に帝位継承が行われる」

「珍しい事ではないのでは?」


 王国だって来年には第1王子のランドルフ王子が王太子になる事が決まっている。

 こっちは、3男が横槍を入れて来たせいでなかなか決定する事がなかったが、無事に次代が決まってくれてよかった。


「次の皇帝になる奴が第1皇子。責任を取らされた結果、第2皇子や第3皇子みたいに皇位継承順が高い奴なら問題なかったんだよ。だけど、次に皇帝になる奴は皇位継承権なんて持っていないに等しい奴だったんだよ」


 皇位継承順位46位。

 本来は予備の予備にもなれない存在。


 元々は、前皇帝が現皇帝に帝位を譲った晩年に帝城で働いていたメイドとの間に生まれた現皇帝の弟。つまり、第1皇子の叔父にして現皇帝の末弟。


 皇位継承権は皇帝の息子、娘が優先され、皇帝の一族にも継承権を主張する権利が与えられているので前皇帝の息子である彼にも継承権がある。


「ややこしいな」


 次期皇帝が生まれる頃には、既に第1皇子も10歳になっていた。

 前皇帝が晩年にハッスルしてしまったせいでおかしな人間関係になってしまった。


「話を要約すると、戦争を起こした原因は『年下の叔父に次期皇帝の座を奪われそうになった第1皇子が自分の地位を確固な物にする為に明確な手柄を求めて王国に戦争を仕掛けた』――そういうことですか?」

「概ねそんな感じだね」

「そんな!」


 イリスが声を上げる。


 俺だって当事者なら怒っている。

 あの戦争で少なくない人が犠牲になっているにも関わらず、その理由は権力闘争によるもの。


 約束された地位が奪われそうになった。

 ただ、それだけ。


「もうすぐ半年近い時間が経過しようとしている。そろそろ帝国の方も落ち着いて来てもいい頃だ」


 これまでは戦争を起こした事に対する責任の追及などで国内の問題を解決するだけで精一杯だった。


 それが片付けば次は国外へと目が行く。

 メティス王国そのものへの報復もそうだが、それ以上に憎しみの対象になりやすい存在がいる。


「俺たち、か……」


 個人的な報復。

 さすがに国同士の戦争に負けたばかりで国へ報復するのは問題だが、個人間での報復なら問題が起きても解決し易い。それに俺たちみたいな危険に対しては自己責任な冒険者なら恨まれて死ぬ事になっても責任を追及するわけにはいかない。


 俺たち自身は問題ない。

 襲われたとしても返り討ちに出来る自信ができる。


 問題は家族の方だ。

 相手が俺たちについてどこまで調べて、どこまでを報復対象にするつもりなのか分からない状態では全てを救うなど不可能な話だが、せめて一緒に住んでいる家族ぐらいは守らなければならない。


「アタシにしてもアンタたちの母親は家族も同然だ。傷つくような事がないようにしっかりと守りな」

「分かりました」


 俺が立ち上がると他のメンバーも立ち上がる。


「転移するならこの部屋から転移するのが一番目立たない。出て行った事に関しては適当に誤魔化しておくから安心して行きな」

「ありがとうございます」


 ルイーズさんにお礼を言ってアリスターに転移する。

 本当なら王都をゆっくり見て回ってから帰るつもりだったが、そうも言っていられない状況かもしれない。


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