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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第13章 海魔舞踏
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第32話 ビーチ

リザルドその3

「おお、かなり上手じゃない」

「ありがとうございます」


 アイラの言葉にメリルちゃんが嬉しそうにしている。


 現在、メリルちゃんはアイラに手を引かれながら泳ぐ練習をしている。


 それというのも妹たち3人は全員が泳げなかった。


 だが、それも仕方ない。

 海や湖のない地域出身では泳ぐ機会そのものがそもそもない。


「これならすぐにでも泳げるようになるわよ」

「本当ですか!?」


 姉と同様に器用なメリルちゃんは泳ぐ事に慣れるのも早かった。


「でも、2人はのんびりと遊んでいるんだし、そんなに頑張らなくてもいいんじゃない?」

「私は何でもできるお姉様みたいになるのが目標なのです。泳ぎぐらいできなくてどうしますか」

「そ、そう……」


 少し苦笑しながら泳ぎの練習に付き合うアイラ。

 ただし、その胸中はちょっと微妙だった。


『何でもできるですって』

『買いかぶり過ぎです』

『まあ、あんなキラキラした眼差しでなんでもできる、なんて言われたのに本人は未だに泳げないんだもんな』

『うっ……』


 メリルちゃんには聞かれないように念話で会話する。

 初めてサボナに来てから1週間が経過しようとしているというのにメリッサは未だに自力では泳ぐ事ができなかった。


「私もお姉様みたいに泳げるようになりたいです」


 そんなメリッサはバレないように魔法の力で水に浮かびながらクリスとリアーナちゃんと一緒に遊んでいた。

 クリスとリアーナちゃんにも最初は泳ぎを教えていたが、メリルちゃんほどの向上心がなかったので現在は浮き輪を使って海を泳いでおり、メリッサがそれに付き添っている。


 三人が海から上がって来る。


 妹たちはワンピースタイプの水着を借りており、クリスは黄色い水着で腰にスカートのようにフリルが付いている。リアーナちゃんはピンク色で腰と胸の位置にフリルが付いている。


 姉の威厳があるので『何でもできる女性』を演じていたいメリッサが砂浜を見て思い付いたらしくちょっと力を使う。


「ほら、これが私たちの住んでいる屋敷です」


 手を掲げると二人の前に膝下ぐらいまでの大きさがある砂で作られた見覚えのある屋敷が出来上がる。

 屋敷の形、窓の付いた部屋の配置から自分たちの住んでいる屋敷だという事がすぐに分かる。


「今の魔法ですか?」

「そうですよ」

「私も魔法を教えてもらって土属性に適性があるのにここまでの物は作れません」


 血縁故かクリスにも土属性に適性があった。

 だが、彼女の魔力量では1日に何度か土に穴を開けるのが精一杯で手を掲げるだけで精巧な屋敷を作り出すのは不可能だった。


「……わたしにもいつか作れるようになるでしょうか」

「大丈夫です。土属性に適性があるなら練習すればできるようになります。それに貴女のお兄さんは私以上の物が作れますよ」

「お兄様が?」


 楽しそうだな、と眺めていたらいきなり話を振られた。


 そう言えば、妹たちには俺の力を見せた事がなかった。

 さすがに魔物との戦いを実際に見せるのは危険があるので見せるわけにはいかないが、平和的な方法で実力を示すなら問題ない。


 ちょっと本気で魔法を使うか。


砂流(サンドフロー)


 足元にある砂を自由に動かすだけの魔法。

 一般的な魔法使いは、この魔法で周囲にある砂を自分の傍に集めて盾のように扱う事で防御をする。


 だが、土属性に対して高い適性があれば意思一つで自由自在に形を変える事ができる。


 イメージするのは巨大な城。

 ただし、実物大で作るのは難しいので2メートルサイズで我慢してもらう。


「これ、お城ですか?」

「凄いです」


 二人は初めて見る城に感激していた。

 アリスターで一番大きな建物と言えば領主の館で、初めて見た時は二人とも驚いていた。けれども、城から受ける威容はそれ以上だったらしく実物には程遠い大きさながら感動しているみたいだった。


 頑張った甲斐があった。

 さすがに精巧に作る為には精神を削り過ぎた。


「しかも、このお城は王都にある王城そのままですよ」

「メリルちゃんは見た事があるのか」

「はい。幼い頃に1度見ただけなので朧気ですが、その時に見た王城そのままですよ、お義兄様」


 海から上がって来たメリルちゃんが気付いた。


 うん、頑張った甲斐があった。

 俺も2度ほど中に入った事があるとはいえ、数える程度しか見た事がなかったので少し自信がなかったが、妹の一人からお墨付きをもらえたので十分だ。


 現にメリルちゃんの言葉に「これが王城ですか」と砂の城を見つめている。


「凄いですね」

「そうか? メリッサだって頑張ればこれぐらい……」

「尖塔の数が本物と一緒です。城門は細かい紋様まで正確に掘られていますし、周囲との縮尺も本物とほとんど変わりません。それをこのサイズで再現して、数秒で作り上げてしまう事が異常だという事を理解して下さい」

「……ちょっと頑張った結果なんだ」

「いえ……妹たちの顔を見ていればどうでもいいです」


 本物の王城について知っているメリルちゃんがクリスとリアーナちゃんに色々と説明をしている。

 これは、これでほのぼのしい光景だ。


 ただし、改めてメリルちゃんの姿を見る。

 妹二人がワンピースタイプの水着を着ているのに対してメリルちゃんが借りた水着はビキニタイプの水着だった。それというのも姉のメリッサと同様に年齢に似合わずある部分が大きかったのでビキニタイプの方が動き易かったらしい。


 ただ、幼いせいか自分の体格に対して自覚がない。

 城の低い部分について説明する為に屈んだ時に胸が変形していた。


 果たして、アイラとどっちが大きいか……


「ねぇ、なにか失礼な事を考えていない」

「……気のせいだろ」


 メリルちゃんに泳ぎを教えていたアイラも上がって来た。

 これ以上、この話題について考えるだけでも危険だ。


「メリルちゃんはどうだ?」

「とりあえず手を放しても少しなら泳げる程度にはなれたわ」

「……え?」


 妹の急激な成長に姉が驚いている。

 メリルちゃんの向上心を考えればそれぐらいできても当たり前だ。


「あの子、泳ぎだけじゃなくて他の事――料理や勉強にしても向上心が尋常じゃないのよ」


 それもこれも姉のようになりたいが為。

 メリルちゃんから頼まれて簡単な体術程度なら教えているが、少し教えるだけで次々に吸収して行ってくれる。おかげでレベルが8になろうとしていた。


 まるで、誰かさんのようだ。


「でも、誰かを真似て強くなろうとするのも危険」

「イリス」


 ビーチに落ちている貝殻を集めていたイリスとシルビアが近付いて来る。

 誰かさんの登場だ。


「明確な目標があるのはいいけど、模倣するだけだと目標以上になれる事は絶対にない。私もティアナさんを目標にしているだけだと今みたいになれることはなかった。肝心なのは、目標にしている人物を自分にどんな風に取り込むか」


 姉を目標にして自分はどんな人間になるのか?


 目標にするのはいいが、メリルちゃんには自分なりの『なりたい自分』を見つけてほしい。


「で、姉のお前はどうするんだ?」


 メリッサに尋ねる。

 さすがに妹がこれだけ頑張っている状況で魔法に頼るような真似はしないだろう。


 隣にいたアイラに耳打ちする。

 頷いたアイラと共に二人で海へと消えて行ったので練習するつもりなのだろう。


「ありがとうございます、マルスさん」

「楽しんでいますかミッシェルさん」


 水着姿のミッシェルさんが現れた。

 招待した母親たちだったが、年齢を気にしてなのか水着姿になるのを渋っていたが、せっかくなのでという事で大人しい水着を借りていた。


「はい、それはもちろん。ですが、こんな楽しんでいていいのでしょうか」

「いいんですよ。魔物を討伐したお礼だって善意でくれた招待券です」


 当の本人は出費に胃を痛めているかもしれない。


「いえ、そういうわけでは……」


 ミッシェルさんが頬を掻いている。


「私は領主の妻という地位を追われた時から贅沢など無縁の生活を覚悟しました。実際、アリスターに来るまでは生きるだけで精一杯の時間が続いていました。それが冬には温泉に連れて行ってもらい、夏には海に連れて来てもらえる」


 しかも、利用する施設は貴族が利用するような施設。

 明らかに平民では味わえないような贅沢をしている。


「いいんですよ。俺たちなりの親孝行です」

「ですが……」


 それでもミッシェルさんは気後れしている。

 せっかくだから行けるところまで贅沢をしてみよう。


「どうせなら貴族でもなかなか味わえない贅沢をしてみませんか?」

「え?」


 深くなっている場所まで行って潜水艦を出現させる。


「せっかくなので海中遊泳と行きましょう」


次回で第13章も最後です。

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