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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第13章 海魔舞踏
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第25話 海底迷宮

「おい、迷宮があるとかどういう事だ?」


 ここは海のど真ん中。

 口に出して会話をしていても不審に思われる事はない。


『とりあえず、この地図を見てもらおうか』


 迷宮同調によって視界の右隅に地図が表示される。


「これは、この辺りの地図ですか?」


 まだ数日しか経っていないが、サボナ近辺の地形についてはある程度把握する事ができている。視界に表示された地図は、大雑把ではあるもののたしかにサボナを中心とした地図だった。

 その地図で海になっている場所に赤い点が打たれる。


『これが現在地であり、迷宮がある場所。次にこっちの地図も見てみて』


 今度は左隅に地図が表示される。

 ただし、似ているようで全く違うように見える地図が表示されていた。


「これって同じ場所?」

「違う場所に見えますが、同じ場所です」


 イリスの疑問にメリッサが答える。

 同じ場所の地図であるはずなのに別の場所に見えるのは海岸線の形が全く違うせいで海の位置が変わってしまっている為だ。逆に今も陸地の場所にある山なんかは位置が変わってなくて同じ場所だと判断する事ができる。


「どうして二つの地図で、こんなに形が違うの?」

『それは、二つの地図が違う時代の物だからだよ』

「やっぱり……」


 後から見せられた左隅に表示された地図は、いつの物なのかは分からないが大昔に作られた物。それも地形が変わってしまうような何かが起こるほど大昔。


『最初に見せた方は君たちがサボナに来てから見た光景を元に僕が自分で作ってみた地図。それで、後から見せた方の地図は君たちの4代前の迷宮主がサボナ――当時はそんな名前じゃなかったはずだけど、この場所を訪れた時に作った地図だよ』


 4代前――それだと、たしか1000年ぐらい前の話だったな。


『この1000年の間に地形が変わるほどの何かがあったんだろうね。けど、今重要なのは地形が変わった原因じゃなくて地形が変わったという事実なんだ。さっきの地図を重ね合わせてみようか』


 迷宮核がわざわざ左右に並べられた地図をゆっくりと近付けて重ね合わせる。

 すると迷宮核の言いたい事が俺にも分かった。


「この場所、昔は海の底じゃなかったんだな」


 どちらかと言うと海に近い陸地にあった。


『当時の迷宮主は、この場所にある迷宮の迷宮主と揉め事を起こしてしまってね。揉め事そのものはすぐに解決したから問題ないんだけど、こんな海の底に迷宮の入口があるというのが問題なんだ』


 海の底にあっては誰も訪れる事がない。

 そうなれば迷宮に蓄えられる魔力が足りなくなるどろか維持すら覚束なくなる。


 次第に誰からも忘れられてしまった迷宮は、周囲の土地から得られる僅かな魔力を頼って規模を縮小しながら維持されていた。


『周囲の土地から魔力を得るっていうのも問題なんだ。土地に宿る魔力は、その土地の影響を強く受けやすい。で、今この迷宮の近くには海しかない状態だ。そんな場所の魔力を吸収していたら、迷宮の中も海と変わらない――それどころか既に水没しているかもしれない迷宮になってしまうんだ』


 水で満たされた迷宮。

 これほど水棲生物にとって好条件な棲み処はない。


巨大海魔(ジャイアントクラーケン)は、この迷宮の中にいるんだな?」

『間違いなくいるだろうね』


 迷宮核は確信を持っていた。


『根拠は、振り子(ダウジング・ペンデュラム)が反応しなかった事だよ。あれは物を探すうえで他の追随を許さないほど強力な魔法道具だよ。でも、そんな強力な魔法道具でも次元を超えるほどの力は持っていないんだ。迷宮は入口から入れるようになっているせいで勘違いしやすいかもしれないけど、内部は異空間になっているんだ』


 だから外と中では次元が異なる。

 おかげで迷宮内にある物を探知する事ができない。


『もしかしたら、この近くに他にも異空間があってそこに隠れている可能性もあるけど……』


 そんなホイホイと異空間がある方がおかしい。

 むしろ迷宮内にジャイアントクラーケンがいると考える方が自然だ。


「分かった。迷宮内にジャイアントクラーケンが隠れているという前提で方針を考えよう」


 隠れているなら追い出す方法を考える必要がある。

 その辺は俺とメリッサで考えるべきだ。


「いくつか案はありますが、ほとんどは力業になってしまいますが構いませんか?」

「ちょっとくらい派手になるぐらいなら構わない」

「かしこまりました」


 あまり目立つような行動は控えるべきだが、サボナの住民から称賛を受けているような状況では今さらだ。


『ところで、もう気付いているよね?』

「巨大海魔は、迷いの森にいた巨大魔物とは無関係なんだな」


 何者かの手によって作られた巨大魔物。


『おそらくだけど、ジャイアントクラーケンは周囲の魔力を吸い続けた結果生まれた迷宮のボスだろうね。その力は、迷宮が海フィールドだけになってしまったせいか海中戦闘に特化している。おまけに魔力の吸い過ぎであのサイズになってしまっている』


 人工的に作られた魔物などではなく、周囲の魔力を吸い続けた結果生まれた偶然の産物。

 3体の巨大魔物とは全くの無関係。


『で、当初の目論見は外れてしまったわけだけど、どうする?』


 最初にサボナの依頼を引き受けた理由の一つに巨大魔物を作った人物の手掛かりを求めて、というのがあった。

 しかし無関係なのだから、ここには手掛かりなど全くない。


「何を言っている」


 もちろん討伐はする。

 手掛かりが得られなかったとしても俺は既に依頼を引き受けてしまっている。

 契約上、討伐ができなくてアリスターへ帰っても問題ないと言えば問題ないのだが、ギルドマスターだけでなく街の住人からも期待されている状況で逃げ出すような真似はしたくない。


「ジャイアントクラーケンは必ず討伐する」

『僕としてもそうしてくれると助かるから嬉しいよ』

「どういう事だ?」

『さっきも言ったように当時の迷宮主同士は知り合いだったんだ。で、迷宮主を介せば迷宮核同士も会話をする事ができるようになる。知らない仲でもなかったからね。この迷宮の迷宮核とは友達――知り合い以上の仲だったのは間違いないよ』


 新たな迷宮主が現れるまでの間、何十年から何百年という時間を孤独に耐えている迷宮核にとって対等に会話ができる相手というのは貴重だ。

 それだけ会話ができる相手ができた事がうれしかった。


 けれども、そんな関係も当時の迷宮主が生きている間だけ。

 迷宮主が死亡していなくなれば、しばらくは孤独に耐える時間が続く。

 その孤独は、迷宮核から友達の存在を忘れさせるには十分な時間だった。


『今回、改めてサボナに来るまで相手の事を忘れていた僕が言えた事ではないけれど、友達は僕以上の時間を孤独に耐えている。いや、もう耐えられていないのかもしれない。その結果が、迷宮で生まれた魔物の制御不能だと言うなら僕としては迷宮を管理する者としてどうにかして欲しい』


 その声には切実さが込められていた。

 ただし、その言葉を聞いている俺たちはどこか納得できずにいる。


「だったら最初から協力してくれればよかったんじゃない?」


 アイラが言うように最初から迷宮核が協力してくれれば1週間も無駄にせずに済んだはずだ。


『僕がジャイアントクラーケンの正体について気付く事ができたのはジャイアントクラーケンが迷宮主である君の事を恐れていたから、もしかしたらと思ったからなんだ。で、決め手になってくれたのがダウジング・ペンデュラムを使う事ができなかった事なんだ』


 おかげで迷宮の存在に思い当ることができて、友達だった迷宮核についても思い出す事ができた。


「今日とかにさっさと言わなかったのは?」

『それだとつまらないじゃないか』

「は?」

『僕としてはどうにかしたいけど、今さら数日急いだところで何かが好転するわけでもないからね。だったら余裕のある内は、色々と悩んでいる姿を見て楽しませてもらおうと考えたんだよ』


 やっぱり最低だ。

 それでもいつまでも眺めていても事態が進まなくてつまらないので、迷宮を見つけたなら色々と説明するつもりだったみたいだ。


 ま、依頼を引き受けた事もあるので討伐はなんとしても成功させる。


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