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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第13章 海魔舞踏
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第23話 リゾートの報酬

 わざわざ海面を凍らせて逃げられないようにしたにも関わらず逃げられてしまった。


 少し巨大海魔(ジャイアントクラーケン)の力を過小評価してしまっていた。


 理由は分からないが、奴は今までの巨大魔物と同様に俺を恐れてしまっていた。

 その事実から『弱い』と判断してしまっていたが、ジャイアントクラーケンは普通の冒険者でも倒せないほどに『強い』。凍らされた海面を割るぐらいなら全力で攻撃すれば可能な事まで予想するべきだった。


「その辺は俺の落ち度だ」

「でも、蛸の触手にあそこまでの力があるなんて誰も予想できないわよ」


 脇に抱えたアイラがそれとなく慰めてくれる。

 海中に落とされたアイラだったが、すぐに噴射亀(ジェットタートル)が救援に駆け付けてくれたおかげで溺れるような事にはならず、俺が駆け付けるまで待機していた。


 合流すると空を飛べる俺がアイラを抱えて港へと戻る事になる。

 シルビアでは飛べるようになったとはいえ、あれは空中を駆けるという方が正しく、誰かを抱えて移動するのは少し危険だったので俺が抱えて行く事になり、シルビアは海面近くを飛んでいる俺たちの傍を跳んでいる。


「お前の方は大丈夫だったのか?」


 アイラは強力な触手に足を掴まれていた。


「いや~、あれはあたしにも危険だったけど、眷属になったおかげで常人離れした力を身に着けていたから無事だったわ。ちょっと痣が残っているけど、その辺はメリッサかイリスにでも治療してもらうことにするわ」

「それって……」

「普通の冒険者なら足が砕かれていてもおかしくないわね」

「それはヤバイな」


 俺たちだったから無事だったもののジャイアントクラーケンは本当に危険だ。


「あの触手は危険ですね」

「そっちの作業は終わったのか?」

「終わった」


 頼んでいた作業が終わったメリッサとイリスが合流する。

 メリッサは空を飛んでいるが、イリスは海面を滑るように走っている。


「氷は完全に溶けたんだよな」

「もちろん」


 イリスに凍らせてもらった海面をそのままにしておくわけにもいかない。

 魔法を使用したイリスが冷気を拡散させ、上空にメリッサが特大の火球を生み出して溶かしてもらった。


「明日も船が航行する事になるんだから、あのままにしておくわけにもいかないよな」


 もしも航行できないような状態だったならサボナにいる人々から何を言われることになるのか分かったものではない。


「それは、どうでしょう?」

「どういう意味だ、シルビア」

「港に人が集まっています」

「は?」


 魔法なしだと俺よりも遠くを見る事ができるシルビアが港に多くの人が集まっているのに気付いた。


 俺も鷹の眼(ホークアイ)を使用して港の様子を確認する。アイラを抱えて片手が塞がっているので遠視鏡(スコープレンズ)を使う余裕がない。


「本当だ。たしかに人が集まっている」

「一体、どういう事でしょうか?」


 集まっている人々はこっちを見ているばかりで何かをしている様子がない。

 ただ、その顔には不安そうな様子が見て取れた。


「もしかして怒られるとかじゃないよな」

「可能性はありますね。氷は溶かしましたが、一時的とはいえ凍らせたりしましたから生態系に異常が生まれたかもしれません」


 メリッサが言う。

 それに戦闘中は人目が少ないと思って結構派手な魔法も使ったりしていたから余計な騒動を起こしてしまったかもしれない。


「行けば分かるでしょ」


 港の様子が分からないアイラがのんびりとした様子で言う。

 いくら拒否したところで港へ行かないわけにもいかないので覚悟を決めて行くしかない。


「どうも」


 港に降り立つ。

 同時に抱えていたアイラも下ろす。


「これ、何の集まりなの?」


 港に数百人近い人が押し掛けていて溢れそうになっていた。


「できれば、早く宿に帰りたいんだけど」


 服を絞って水を落としながらアイラが言う。

 海に落ちたアイラだけでなく、俺たち全員が少なくない量の水を被ってしまったので濡れてしまっている。こんな事なら水着に着替えてから戦闘をした方がよかったかもしれない。


「いや、その前に少しだけ確認させて欲しい事がある」


 港に押し掛けた人々の中から一人の青年が歩み出て来る。

 青年は30代ぐらいの青いスーツを着た男性で、いかにも文官といった感じの男性だった。


「あなたは?」

「失礼。僕はサボナの冒険者ギルドでギルドマスターを務めているジェフリーという者だ」

「冒険者でもないのにギルドマスターになるのは珍しいですね」


 ジェフリーと名乗った人物は冒険者には見えない。

 クラーシェルのギルドマスターのように元騎士からギルドマスターになるような者もいるが、ルイーズさんのように冒険者について詳しい者がギルドマスターになるのが普通なため優秀な冒険者が選ばれる傾向にある。


「僕は元々サボナをリゾートとして開発する役人の一人だったのですが、このような場所だと貴族や商人との交渉能力が必要とされるので、僕みたいな人間がギルドマスターに選ばれた次第だ」


 リゾートらしい理由で選ばれたみたいだ。


「それで、ギルドマスターとして尋ねる。先ほど貴方方が戦われていた蛸の魔物がサボナを騒がせているジャイアントクラーケンで間違いありませんか?」

「はい、そうだと思います」


 誰もが触手しか確認した事がない。

 それでも、あれだけ大きな魔物が他にいるとは思えないのでジャイアントクラーケンで間違いないと判断できる。


 俺が肯定すると港が騒がしくなる。


「やっぱり、あの魔物がジャイアントクラーケンらしい」

「本当に蛸だったんだな」

「マジかよ……」


 どうやら全員が街を騒がしくしているジャイアントクラーケンの姿を見に来ていたらしい。

 誰もが困らされているのに見た事があるのは触手だけ。

 そんな中、全身が露わになれば気になってしまうのも仕方ない。


「あれがジャイアントクラーケンですか」

「何か?」

「いえ、ここ数日ジャイアントクラーケンがおかしな行動ばかりするので街にいる人々が不安に思っていたところですが、ここに来て貴方方のようにジャイアントクラーケンを討伐できるかもしれない冒険者が現れてくれた。これは人々を明るくするのに十分な朗報です」

「ちょっと待って下さい。ジャイアントクラーケンのおかしな行動?」


 聞き逃す事ができない。


「そうです。現れても1日に1度しか船を襲わなかったはずのジャイアントクラーケンによる被害が昨日は3件、先ほど貴方たちが助けた船も今日襲われた船の中では2件目です」


 昨日と今日だけで5件の被害。

 これまでの傾向を考えれば多すぎる件数だ。


「理由は分かりますか?」

「それが、まったく……そもそもあのように巨大な魔物が現れる事など全くないわけではないですが、異例中の異例です。王都から情報を取り寄せたりしてみましたが、芳しい結果は得られず……僕たちはこれまでの出現傾向から安全そうな時間を選んで出港するしかありませんでしたが……」


 それも当てにできなくなってしまった。


「……あなたとしては俺たちにどうして欲しいですか?」

「現在サボナには多くの冒険者がいます。ですが、ジャイアントクラーケンを釣り上げるほどの成果を得られた冒険者は他にはいません。もう、僕たちが頼れる冒険者は貴方たちぐらいです。早急に討伐してくれないでしょうか。ギルドで協力できる事なら可能な範囲で手を貸す事を約束しましょう」


 それを待っていた。


「では、船の手配をお願いします。さすがに俺たちでも近距離からの攻撃でないと討伐する事ができません」

「分かりました。ギルドの方で保有している船があるので、そちらをお貸しする事にします」

「ありがとうございます」


 これで船を手に入れる為に煩わしい交渉をしなくても済む。


「それから特急料金もいただきますよ」

「特急料金ですか?」

「当り前ですよ」


 他の冒険者には急いで欲しいとは頼んでいないのに俺たちに対してのみ急いで欲しい、と言う。

 ちょっとぐらい報酬を弾んでくれてもいいはずだ。


「さすがに討伐報酬を現金で弾んで欲しいとは言えません。今度、家族を連れて来るのでリゾートに無料招待ぐらいしてくれませんかね?」

「……それぐらいならいいでしょう」


 これでクリスたちを招いても無料で利用する事ができる。


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