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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第13章 海魔舞踏
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第22話 VS巨大海魔―触手―

 海中へと逃げるはずが、あっという間に海面を凍らされたせいで逃げられなくなった巨大海魔(ジャイアントクラーケン)


「ご苦労様」


 噴射亀(ジェットタートル)に乗っていたイリスが凍らされた海面の上に立つ。


「ねえ、これアタシにとっては戦えなくなったんだけど」

「気合で慣れて」

「ちょ……」


 海面に即席の地面ができたような物なので空中戦ができない二人でも戦えるようになったように思えるが、実際には戦えるようになったイリス一人だけだ。


 氷に対して高い適性を誇るイリスは氷の上を走る事にも慣れているので問題なく駆け回る事ができるが、アイラでは氷の上で駆け回れば滑って転んでしまう事になる。


 イリスと同じように氷った海面の傍にジェットタートルを寄せると氷の上に立つ。


 二人を運んでくれたジェットタートルは、いつでも二人を乗せられるように凍っていない場所で待機している。


 ジャイアントクラーケンに対して剣を構えるイリス。

 対してアイラは滑る地面に怯えながら剣を構えていた。


「おかしい……」

「そうですね」


 二人の剣士と対峙しているジャイアントクラーケンは落ち着き払っていた。


 ジャイアントクラーケンは、その巨体が特殊過ぎるが体の方は普通の蛸と変わらない。


 氷の上に乗っている現在の状況は陸に上げられた時とあまり変わらない。

 もっとジタバタしてもおかしくない……いや、触手を内側に集めて固まった。


「違う、そうじゃない」


 近距離で対峙しているイリスとアイラは気付いた。

 体を丸めていたジャイアントクラーケンが触手をバネのようにして跳び上がると、上空から二人に襲い掛かる。


「逃げる」


 上から圧し掛かられるのを防ぐ為にイリスがその場を離れる。


「ま、待って……!」


 足元が凍っているせいで動きの鈍いアイラだったが、蹴り飛ばすように後ろへ跳ぶとジャイアントクラーケンが圧しかかって来た場所から逃れる。


 圧し掛かられた事によって氷が罅割れる。


「そっちから近付いて来てくれたなら好都合……え?」


 凍った地面でも数歩程度なら問題ない。

 しかし、近くにいるジャイアントクラーケンに斬り掛かろうとした瞬間、アイラの足首に触手が巻き付けられていた。


 俺がエアロアームで持ち上げた時と同様に掴んだアイラの足首を持ち上げると誰もいない方向へ投げ捨てた。


召喚(サモン)して』


 俺たちからどんどん離れて行くアイラ。

 念話で『召喚』するように言ってくる。


 だが、今の状況で召喚するわけにはいかない。


『召喚は、近くに呼び寄せるだけで、その時にお前が受けている運動エネルギーまで消失するわけじゃない。この状況で召喚すれば海の上じゃなくて氷の上に叩き付けられることになるぞ』

『それはちょっと……』


 召喚した後の結果を聞いてアイラの頬が引き攣っている。

 俺の傍に召喚しても後ろに吹き飛ばされたままなのは変わらないので、再び飛んで行く事になる。しかも、その先はイリスが凍らせたばかりの海面になる可能性が高い。


 凍った海の上に叩き付けられるのと海面に叩き付けられる。

 どちらも痛い事には変わりないが、水の上に落とされた方がまだ安全だ。


 まあ、アイラなら海面に叩き付けられても平気な顔をしていられるかもしれない。少なくとも命に関わるような怪我ではない。


 そんなやり取りをしている間にアイラが海に叩き落される。最低限の泳ぎはできるし、ジェットタートルが向かっているから放置しても問題なさそうだ。


 その間、イリスが触手を斬り付け凍らせて行っている。


「シルビア、援護に行け」

「はい」


 上空からシルビアが触手を斬り付けて行っている。

 俺とメリッサには考える事がある。


「メリッサ、どう思う?」

「これを見て下さい」


 手に持っていた黒い鎖をメリッサが見せて来る。

 黒い鎖は、短い時間だけとはいえジャイアントクラーケンの体を拘束していた鎖だ。完全に雁字搦めにしていたから簡単に抜け出せるはずがない。


「ここです」


 メリッサが指し示す場所は海の水とは違う、粘液によって汚れていた。


「どういうわけか粘液によって鎖が滑りやすくなっています。再生能力まで持った触手です。今さら粘液を出す能力が加わったところで大した事ありません」


 触手から分泌された粘液によって滑ってしまったせいで鎖からも抜け出る事ができた。

 そう考えるのが一番自然だ。


「そうなると鎖での拘束は諦めた方がよさそうだな」

「はい、その通りです」


 拘束して動きの止まったところをシルビアに魔石の位置を探知してもらい止めを差してもらうつもりでいた。

 だが、そこまで甘くはない。


「俺たちも行くぞ」


 現在、イリスが剣を振るいながら魔法を同時に発動させて氷の槍で手数を増やしているが、全て魔石のある額に届く前に触手で叩き落されている。


 魔法さえ叩き落してしまう頑丈な触手。


 しかし、最も困らされているのが触手の再生だ。

 氷柱が突き刺さった事で抉られ、イリスとシルビアの攻撃によって深い傷跡が残されるにも関わらず10秒と経たずに元の状態に戻っている。


 再生能力。

 これほど厄介な能力も存在しない。


 だが、同時に何らかの欠点も抱えている。


『こういうのは再生能力の供給源を絶たれると再生できなくなる、あるいは再生に魔力を必要としているなら魔力が尽きるまで攻撃していれば倒し切る事ができるはずだ』


 再生能力の供給源についてはサッパリ分からない。


 そうなると俺たちが選べるのは必然的に後者――魔力を尽きさせる事になる。


「触手1本の再生にどれだけ魔力を使うかな?」


 再生には膨大な力を必要とする。

 既にイリスとシルビアの手によって4本の触手が斬り落とされているので、魔力が尽きるのも時間の問題だ。

 俺とメリッサも加わればもっと速度は上昇する。


 氷の上を歩かない方がいい俺とメリッサは飛行(フライ)で飛びながら接近する。


 再び、ジャイアントクラーケンが触手を丸めて跳び上がる。

 跳び上がったジャイアントクラーケンと目が合う。


 空を飛んでいる俺よりも高い場所に辿り着くとジャイアントクラーケンが全ての触手を大きく広げている。


「いったい、なにを……」


 ジャイアントクラーケンの体中を巡っていた魔力が大きく膨れ上がり、触手から強い力を感じるようになる。


「……! イリス、近くを航行している貨物船を守れ! メリッサはジャイアントクラーケンの攻撃が周囲に被害が出ないようにしろ」

「かしこまりました」


 最初に襲われていた貨物船だが、離れて行ってはいるものの未だに近くをゆっくりと航行していた。

 俺がジャイアントクラーケンを引き受けた瞬間に船の中にいた人々は一様に安堵した表情を浮かべていた。


 退避が完全に間に合っていない。

 そのせいで氷結させる海の広さも狭めており、今まさにジャイアントクラーケンに狙われていた。


 跳び上がったジャイアントクラーケンの触手――吸盤から水を圧縮させた弾丸が周囲に向けて一斉に放たれる。


 地面にも放たれた弾丸が凍った水面を穿ち、穴を開け、巨体が氷の上に落ちた瞬間に凍った海面に大きな亀裂が生まれる。


 そして、放たれた弾丸の内の何発かが貨物船へと向かうものの迷宮結界を発動させたイリスが全てを受け止めていた。

 もしも、全ての攻撃を防いでくれる迷宮結界で防御していなければ船に護衛の冒険者が乗り込んでいても船体に大きな穴を開けられて無事にサボナまで辿り着く事ができなかった。いや、運が悪ければ全員が海で溺れて死んでいるところだった。


「しまっ……!」


 貨物船の事が不安になり防御してもらっている間に罅割れた凍った海面に触手を叩き付けると氷が割れてジャイアントクラーケンが海中へと落ちる。


「追えるか?」


 北東の方へと向かったところまでは見ていたので分かるが、それ以降はどこにいるのか俺たちだけでなく、冒険者ギルドでも分からない。


 おそらくギルドが把握していない大きな穴があり、そこで姿を隠しているとの事だった。


 だが、ジャイアントクラーケンほどの巨体が隠れられるほど巨大な穴など本当にあるのだろうか?


「お前の方はどうだ?」


 シルビアに尋ねてみるものの首を振っている。

 これでは追う事ができない。


 せっかく釣り上げる事には成功したものの逃がしてしまった。


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