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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第13章 海魔舞踏
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第20話 巨大魔物釣り

「貨物船が襲われています!」


 真っ先にジャイアントクラーケンに気付いたのは甲板で警戒していたシルビアだ。

 サボナが近付いて来た事で船内にある個室から出て巨大海魔(ジャイアントクラーケン)が現れても問題ないように甲板で警戒していたのだが、襲われたのは俺たちが乗り込んでいる貨物船ではなく、別の貨物船だった。


 進行方向からして俺たちが向かっていた交易都市とは正反対の方向へ荷物を運んでいたらしく、俺たちの船に対しては左舷を向ける形でサボナへ向かっていた。


 まだ、かなりの距離があって見えにくいので遠視鏡(スコープレンズ)を使用して拡大する。


 襲われている貨物船は、船の左右から触手を2本ずつ海中から出されて取り付かれようとされていた。

 触手に対して船の中に乗っていた冒険者4人がそれぞれ槍や槌を振り回して追い払っている。昨日の貨物船のように遠距離から弓や魔法で攻撃した方が安全なのだが、彼らの中にはそういった攻撃手段を持っている者がいないのか近距離での攻撃しかしていない。

 あれでは、いつ取り付かれるか分かったものではない。


「ちょうどいいですね」


 甲板に出て来て貨物船が襲われている光景を見たニルセンさんが呟いた。


「ジャイアントクラーケンはあの船を襲う事に夢中なようです。今の内に入港することにしましょう」


 その巨体故にジャイアントクラーケンは浅瀬である港まで追って来る事ができない。港にさえ入ってしまえば安全だ。


 しかし、それは襲われている貨物船を見殺しにするということだ。


「この船は、元は軍艦なので頑丈に造られていますが、さすがに海中まで引きずり込まれれば抵抗する術がありません。商人としては積み荷を確実に運ぶ事を優先しなければならないのです」


 商人として積み荷を優先しなければならないのは分かる。

 俺もニルセンさんの立場なら襲われている貨物船は見捨てる。


「それに言い方は悪いですが、襲われて沈んでしまったのだとしたら優秀な護衛を雇う事ができなかった船の責任者のせいです」


 自分たちは優秀な護衛を雇っているから安全。


「ところで、ここまで来れば安全は保障されたようなものでしょうか」

「そうですね。さすがにジャイアントクラーケンが複数出現するという話はこれまでに聞いたことがありませんし、実は複数いたなんて可能性も低いと思われますので安心して港へ向かう事ができます」

「では、護衛も終わったようなものですね」

「……そういうことですか」


 船を安全に入港させたいニルセンさん。

 ジャイアントクラーケンを討伐したい俺たち。


 護衛として同じ船に乗せてもらったが、目的は全く違う。


 俺たちはジャイアントクラーケンに近付くことができなければ困る。


「いいでしょう。その代わり、報酬を支払う事はできませんよ」

「これだけ近付くことができれば十分ですよ。報酬は結構です」


 元より乗船が報酬みたいなものだ。


 襲われている貨物船までは1キロちょっと。

 すぐに辿り着ける距離だ。


「ボートぐらいはお貸しできますよ」

「必要ありません。メリッサ」


 呼んだだけで俺の意図を察してくれたメリッサが頷く。


 二人で甲板の横から飛び降りる。


「ちょ……」


 急に海へ飛び出した俺たちを心配したニルセンさんが船から身を乗り出して海面を覗いていた。

 が、その視線はすぐに真正面へと向けられる。


「浮いている……」

「そういうわけで同行はここまでになります」


 ジャイアントクラーケンの下までは飛んで行く。


「行くぞ」


 一気に加速し、貨物船を背後に置いて行く。

 メリッサも護衛の為に付いて来てくれる。


『まず、俺とメリッサが一気に近付く。そうしたらイリスを召喚(サモン)するから待機していてくれ』

『分かりました』


 ある程度は泳げるようになって、水の上も歩けるようになったイリスだが、単純な速さでは空を飛んだ俺たちには敵わない。なので近くまでは俺とメリッサだけで移動する。


『あの……わたしも近くに呼び寄せてもらえないでしょうか?』

『シルビア?』


 海上戦ができないシルビアとアイラは貨物船で待機したままにするつもりだった。

 さすがに泳いだ状態で戦闘をさせるような真似は黙認することができない。


『大丈夫です。わたしなりに考えがあります』


 シルビアが自信満々に言う。

 その言葉には海上戦の不安は一切感じられない。


『そういうことならアイラも来る?』

『え、あたしは海上戦の方法なんて持ってないわよ』

『私なりに考えがある』

『そういうことならお願いするわ』


 いつの間にかみんな色々と考えていた。


『そろそろ接敵します』


 ジャイアントクラーケンまで300メートル。


 しかし、そこまで近付いたところでジャイアントクラーケンが飛んでいる俺たちの存在に気付いた。

 襲われている貨物船の左舷側の触手2本が近付いてくる俺たちの方へ向けられた直後、触手が海の中へと沈んでいく。


「は?」


 その動きはまるで何かに怯えるようだった。


 似たような気配に覚えがある。


「逃げてんじゃねぇよ!」


 以前に遭遇した巨大蛾(ジャイアントモス)は俺が自分よりも絶対的な強者だと分かった瞬間に逃げ出してしまった。

 その姿にどこか似ている。


 怯えている原因は、俺というよりも同行しているメリッサだ。

 何らかの方法で昨日の魔法を使った相手の事を把握し、恐れている可能性の方が高い。


空気腕(エアロアーム)


 風属性魔法のエアロアーム。

 空気を圧縮させて作り出した腕を自分の手の先端から伸ばして疑似的な腕を作り出す魔法。


 逃げ出したジャイアントクラーケンの動きは速く、このままでは俺たちが辿り着く前に逃げられてしまう。


 だが、伸ばされたエアロアームが海面ギリギリのところで触手を掴んだ。


「掴まえた」


 綱引きのような状態で拮抗する。


「何をやっているんだよ!」


 襲われていた貨物船にいた冒険者が声を上げている。


 海面から触手の先端だけを出した魔物。

 海上を飛んでいる冒険者。


 エアロアームは目を凝らせば空気が圧縮されているところを見る事ができるが、遠くから見ただけでは何もないような状態にしか見えない。

 魔法使いレベルで魔力を感知する事ができれば目視できなくても魔法が使われている事を認識することができるが、襲われている時に魔法を使っていなかった事から魔法使いが乗っていない事は予想できる。


「今の内に離れな。倒せないなら、こいつは俺が引き受けた」

「引き受けたって……」


 ジャイアントクラーケンの姿が見えなくなった事から撤退には早いが、逃げてくれたと勘違いしているらしい。


 実際にジャイアントクラーケンは俺たちから逃げ出していた。

 だが、俺が逃がしていないだけだ。


 状況を把握していない彼らに逃げるような様子はない。

 俺も綱引きに集中しなければならないので仲間を呼び寄せているような余裕はない。


 だから助けてくれるのは同行しているメリッサだ。


空気竜巻(エアストーム)


 渦巻く風が俺の真下にある海面から発生し、真上にいる俺の体を持ち上げる。

 自然、俺と一定の間隔を保っていたジャイアントクラーケンも上へと引っ張り上げられる。


 海面を割って現れる――巨大な蛸。


「やっぱり巨大な蛸だったか」


 8本の足を持つ丸い体をした魔物が現れた。

 その体は全長30メートル近くに及び、迷いの森で見た巨大魔物よりも遥かに巨大だった。


 だが、驚いてばかりもいられない。

 俺たちの仕事は巨大な蛸型の魔物の討伐だ。


 海上へと釣り上げられたジャイアントクラーケンに接近したメリッサが火球を何十発と浴びせる。


召喚(サモン)


 メリッサが隙を作ってくれている間にスキルを使用すると眷属3人が姿を現す。


「ここからは総力戦だ」


 ようやく姿を現した巨大海魔との戦いが本当の意味で始まる。


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