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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第13章 海魔舞踏
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第15話 水歩行

 泳げないイリスの手を引いて水の中を泳がせる。

 俺の眷属になった事でステータスが上昇し、身体能力的には泳げてもおかしくないだけの実力を持っている。


「は、放さないで」

「放さないよ」


 必死に足をバタつかせているイリス。

 そろそろ手を放しても大丈夫だと思うのだが、何か怯えていた。


「ちょっといいか?」

「なに?」


 足が付く浅い場所で立たせる。


「何か水中を怖がっているみたいだけど、何か理由があるのか?」

「特に理由はない。でも、人間は水中で生きられるようにはできていないの!」


 要は理由もなく水中を怖い場所だと思い込んでしまっている。

 魔法で精神に干渉して一時的に恐怖心を忘れさせる事は可能だが、仲間にそんな魔法は使いたくないし、それでは何も解決しない。


「ちょっと奥の方まで行ってみようか」

「え……?」


 そのままイリスの手を引いて遠くの方へ行こうとすると恐怖心から足が竦んで動けなくなってしまうので、イリスの肩に触れて跳躍(ジャンプ)する。


 移動先は、100メートル先の沖。


「きゃっ!」


 イリスが短い悲鳴を上げる。

 だが、すぐに海の中に叩き落されてそれどころではなくなる。


 随分と深くなっているな。

 砂浜からしばらくは浅い場所が続いていたし、たった100メートルぐらいの移動しかしていないので5メートルぐらいの水深かと思えば、10メートルはありそうな深さだった。


 海底に足が付きそうになる直前、イリスが海中から海面に向かって手を伸ばす。相当必死なのか目はきつく閉じられ、手足は激しく動かされていた。


 こんなに綺麗な景色を見ないなんて勿体ない。


気泡球(バブルボール)


 イリスの周囲を気泡の球体が包み込む。


『もう大丈夫だから落ち着け』


 水中なので念話で会話をする。


『大丈夫って……え?』


 イリスも自分が水中にいるのに会話ができる事に気付いた。


『今、お前に施した魔法はバブルボール。この球体の中にいる限り、水中でも呼吸が可能になる魔法だ。安全だと思ったなら目を開けてみろ』

『目を……?』


 俺に言われて恐る恐るイリスが目を開く。


『うわぁ……!』


 念話を通してイリスの素直な感想が漏れ聞こえて来た。


 目の前には蒼く澄み切った水の世界がどこまでも広がっており、水中を魚が自由に泳ぎ回っていた。リゾートとして開発された事で、この辺の海は綺麗に作り直されていた。


 と、泳いでいた魚の一匹が自分たちを見ているイリスに気付いたのかこちらに近付いてくる。人懐っこい様子で近付いて来た魚に対してイリスが人差し指を立ててあげるとパクパクと口を開閉しながら人差し指の先を突っつく。


『かわいい……あっ』


 仲間に呼ばれたのかイリスから離れて行く魚。

 離れて行くその姿を見ているイリスの表情は寂しそうだった。


『それよりもどうだ? 水中は怖い場所か?』

『ううん』


 イリスが首を振っている。

 バブルボールの空気を消費してしまうので、あまり激しく動かないでほしい。


『もちろん海の中には魔物だっているし、息ができなければ死んでしまうような危険な場所である事には変わりない』


 それでも必要以上に恐れる必要はない。


『よし、そろそろ終わりにして昼食にしよう』


 イリスが頷いたのを確認して海面へと向かう。

 午前中の練習がしっかりと活かされているのか足をバタつかせているような様子はない。


「ぷはっ」


 海面から顔だけ出して息を吸い込む。

 俺もイリスと同じようにバブルボールを体に纏っていたが、やはり人間としては自分の口で息を吸い込んだ方が落ち着ける。


 少し待っているとすぐ傍にイリスも顔を出して息を吸い込んでいた。


「水中でも大丈夫みたいだな」


 イリスは海面から上半身だけを出して浮かんでいた。


「あ、本当だ」

「お前の場合は水中を必要以上に怖がっているせいで妙な力が入っていたんだ。だから水の中に沈んで行く。浅い場所で泳ぎ方の練習をするよりもまずは水中への恐怖心をどうにかする方が先だったんだ」


 少々荒っぽい方法になってしまったが、水中の綺麗な様子を見せる事でイリスの中から恐怖心を少しばかり拭い去る事に成功した。


 ちょっと納得していない様子のイリスだったが、それでも浮いていられる事に自信が付いたのか、俺の手を握って砂浜の方へと泳ぎ出す。戻るだけなら、もう1度跳躍を使用すれば速いのだが、イリスの為にも一緒に泳いで付いて行く。


「あ、泳げるようになったんですね」


 イリスと同じようにアイラの指導を受けて泳げるようになったシルビアがまだ浅い場所だけだがしっかりと自分の力だけで泳いでいた。


 泳ぎながら笑顔で俺に近付いてくる。


「どうですか?」

「うん。しっかりと泳げるようになっているじゃないか」

「本当は今まで何度も迷宮で練習しようとは思っていたんですけど……」


 イリスと同じように潜在的に泳ぐ事への恐怖心があった。

 普段から泳げるような場所が近くにないとそういう風になってしまうのかもしれない。


「今後は迷宮へ釣りに出掛けた時も一緒に行くことができるようになりました」


 俺が釣りに出掛ける時は決まって朝の内にお弁当を渡すだけで付いて来るような事はなかったからな。


「やっぱり今まで一度も海フィールドに来たことがなかったのは泳げなかったから?」

「恥ずかしながら」


 別に恥ずかしがる必要はない。

 これまでは泳ぐ機会がなかっただけなんだから。


 で、問題は……


「どうして手を放した瞬間に落ちて行くの!?」

「私にだって分かりません!」


 足が付く浅い場所で泳ぐ練習をしているメリッサと教えているアイラだ。

 メリッサの手を掴んでアイラが泳がせている最中は問題ないのだが、アイラが手を放した瞬間にメリッサの体が水中に沈んでしまっている。


 何度繰り返しても同じだ。

 イリスとシルビアは最初からそれなりの身体能力があったから問題なかったが、メリッサは苦労しているみたいだった。


「ぷはっ」


 再び沈んだメリッサが水中から顔を出して息を吸い込む。


「沈みます」

「そんな重たい物を胸に抱えているからじゃない? というか大きいと浮くっていう話を聞いた事があるけど、嘘だったんだ」

「私だって好きで大きくなったわけではありません!」

「それはあたしに対する当てつけ?」


 アイラとメリッサから魔力がメラメラという感じで放出されるのを感じる。

 二人とも泳げない事にイライラしているみたいだ。

 ちょっと止めた方がいいな。


「そこまでだ」

「ふぎゃ」

「きゃっ」


 二人の頭に手刀を落として落ち着かせる。

 剣や杖がなかったからよかったもののこんなリゾート地で二人が本気の喧嘩を始めればとんでもない事になる。

 ただでさえこの場所はリゾートという事で静かで落ち着ける場所になっている。時折、楽しそうな声が聞こえて来るものの二人のように喧嘩をしているような声は聞こえて来ない。


「そうです。バブルボールを頼れば泳げなくても問題ないではないですか」

「魔法に頼るのは禁止だ」


 泳ぐ練習をするにあたって魔法の使用を事前に禁止していた。


「俺たちが泳ぐ練習をしているのは水中の敵を相手にするにあたって泳げないと困るからだ。もしも、魔力が切れた状態で水中に叩き落されたらどうする? お前は魔法を使えるのか?」


 よほどの事がない限りメリッサの魔力が切れるような事はないだろうが、念の為に泳げるようになっておいた方がいい。

 だが、泳げない事を不安そうにしているメリッサの表情を見ていると強く言う事ができない。


「……魔力残量に細心の注意を払うなら魔法を使ってもいい」

「ありがとうございます」


 メリッサが魔法を使って水面に立つ。

 ……って、泳げるようになるんじゃないのか。


「水属性魔法の水歩行(アクアウォーク)です」


 そのまま水面を滑るように移動する。


「そう言えば、そんな魔物が沼フィールドにはいたな」


 アメンボの姿をした魔物で、足で水面に立つと滑りながらこちらを攻撃して来る魔物だ。

 その魔物の特性を迷宮魔法で再現したらしい。


「楽しそう……」


 楽しそうに水面を滑るメリッサを泳げなかったイリスが羨ましそうに眺めている。


「これは、水属性に適性があれば使えそうですからイリスさんなら簡単に使えるようになりますよ」

「なるほど」

「あ、バカ……!」


 俺が止める間もなくイリスが水面に立って滑り始める。


「ご主人様……」


 シルビアもこの魔法の問題点に気付いた。


 リゾートにいる人々からの視線が痛い。

 アクアウォークは水面を滑るように歩く魔法で、歩く度に水面に波が発生する。そのため、波を受けた人々があり得ない方向から押し寄せて来た波の発生源を見ようとする。


 その先には水面を滑る少女。


 とにかく目立つ魔法だった。


「そろそろ昼食にしよう……」


 疲れたように言って中断させるしか俺にはできなかった。


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