第8話 森の狼討伐―中編―
「退却は一時却下だ。ここで迎え撃つ」
既に後方以外は80匹を超えるフォレストウルフに囲まれている。森という走りにくい環境で周囲を警戒しながら逃走するのは難しい。
「ったく……どうしてウォーウルフなんているかな?」
愚痴りながらもネイサンさんが右から襲い掛かろうとしてきたフォレストウルフの頭部を正確な射撃で撃ち抜いていく。
「すごく正確な射撃ですね」
「本人は銃を手に入れてから凄く努力していたからね。おかげでスキルにまで昇華させることができたらしいよ」
技能は、魔力を消費することによって強化され、正確に発動されるようになった技術のことだ。
元が正確な射撃を可能にする技術から昇華された技能だから、ネイサンの努力が実ったということだ。
弾丸が尽きても補充する速度が速く、射撃以外の技量が高いことも窺える。
「銃も業物みたいですね」
「ええ、王都で造ってもらった特注品みたいで威力が増強されているみたいよ」
「いいですね!」
欲しいとは言わないが、銃を構えて次々と魔物を撃ち抜いていく姿は格好良く見えた。
「みんな、下がって!」
俺に説明しながらも地面に下したリュックから筒のような物を取り出し、フォレストウルフがいる方向へと構える。
「4発しか準備してきていないからそんなに倒せないわよ」
「構わん。少しでも数を減らしてくれるだけで十分だ」
「はーい」
構えた筒から拳大の魔石が射出される。
魔石がフォレストウルフの中心に叩き付けられると、魔石が弾け飛び、内部に蓄積されていたエネルギーが放出され周囲にいたフォレストウルフの体がボロボロになる。
「もう1発!」
同じように右から来ていた群れに1発。
左から迫って来ていた群れに向かって2発撃ちこむ。
そこで、弾切れが来てしまったらしく筒をリュックの中にしまう。
「威力はあるんだけど、重いのが難点なのよね」
「それでもきちんと戦えているじゃないですか」
戦闘では役に立たないと言っていたのは何だったのか?
「今みたいに群れ単位で大量に襲い掛かってくれば効果的だけど、最初に遭遇したような小規模な群れ相手だと魔石を造る費用の方が高価になって赤字になるわよ。だから、あたしにとっての切り札の一つなの」
冒険者はただ魔物を倒すだけではいけない。
魔物を倒してきちんと利益を生み出さなければならない。
「大変なんですね」
「君も他人事じゃないよ」
腰に装備した2本の短剣を抜いて、すぐに構えていた。
その視線は、ブレイズさんたちと同じように鋭くなっていた。
やっぱり、戦えないなんて嘘じゃないか。
「来るわよ」
ウォーウルフが細かく指示を出すと、左右を守っていたブレイズさんとギルダーツさんの周りを翻弄するように細かく動き始めた。
「くそっ……!」
細かく動き、回避することを優先されているせいでブレイズさんの攻撃が当たらない。
それがフォレストウルフ――ウォーウルフの狙いだった。
「しまった……」
ブレイズさんが苦戦している間に2匹のフォレストウルフが駆け抜ける。
リシュアさんの撃った砲筒の攻撃によって20匹以上のフォレストウルフが倒された。その光景からリシュアさんを脅威だと判断したのかリシュアさんから倒す判断をしたらしい。
「リシュア!」
「大丈夫っ!」
近接戦闘が得意ではないリシュアさんを助けようとマリアンヌさんが魔法を向けようとしていたが、リシュアさんが押し留め、噛み千切ろうと先に飛び掛かってきたフォレストウルフを2本の短剣を交差させて受け止める。
そこへもう1匹のフォレストウルフがより高く飛び上がり襲い掛かる。
やはり、個人の食欲よりも連携によって倒すことを優先させている。ウォーウルフが統率していることは間違いなさそうだ。
それが?
大きく飛び上がったフォレストウルフの体を左右に両断する。ついでにリシュアさんが受け止めていたフォレストウルフも隙だらけだったため上から剣を振り落として上下に両断する。
おそろしいほど滑らかに斬れてしまった。
ま、手加減なしで攻撃したからな。
周囲を見ると魔物であるはずのフォレストウルフまでもが動きを止めて、全員がポカンとした表情で見ていた。
ブレイズさんたちが驚いてしまうのも仕方ないか。新人だとばかり思い込んでいた冒険者がフォレストウルフを一撃で両断したのだから。村での討伐がそうであったようにフォレストウルフは一般人が相手にするには強い。それこそ大人が数人がかりで攻撃する必要があるほどだ。
そんな相手を新人が両断すれば驚きもするか。
だが、ここで止めるつもりもない。
「リシュアさんが危なそうだったんで、俺も戦いましたけど問題ありませんよね」
「あ、ああ……」
俺はリシュアさんが危険に思えたから戦闘に介入した。
しかし、ブレイズさんとしては俺の身が危なくなるようなら戦ってもいいと許可を出したつもりだったのだろう。
まあ、普通のE級冒険者が1人でフォレストウルフの相手をするのは難しい。
「今から、魔法を使うので突っ込まないで下さいね」
魔力を体内で巡らせ、足へと収束させる。
「なに、あの魔力量……」
魔法使いであるマリアンヌさんは気付けたようだな。
今、発動させようとしている魔法にはステータスで言えば800近い魔力を注いでいる。大丈夫だとは思うが、余力は残しておいた方がいいと判断して8割に抑えた。
「大地の棘」
使用するのは迷宮魔法ではなく、土属性の魔法。
魔力を収束させた足を地面に叩き付けると魔力が地面を伝って目的の場所まで辿り着くと地面から先が鋭く尖った土で出来た円錐が出現し、近くにいたフォレストウルフを次々と串刺しにしていく。
「うそ……」
マリアンヌさんから言葉が漏れる。
まあ、使用した魔法は本来ならば下級に属するような簡単な魔法で、少し離れた場所に土の棘を出現させるだけである。それを魔力量に任せて離れた場所にも出現させ、40個も生成させていた。
グランドスパイクによって30匹のフォレストウルフが串刺しになっていた。
残りの10匹は危機を察知したウォーウルフの指示によって後ろへ跳び、どうにか難を逃れていた。しかし、30匹のフォレストウルフは指示が届く前に串刺しにされてしまっていた。
これで、残りのフォレストウルフは取り残した10匹だけだ。
「グレイさん、こいつは俺が倒すので下がってもらえますか?」
「あ、ああ……」
グレイさんがおずおずとしながらウォーウルフの前を離れる。
そうだな。今の一撃で俺の実力の一端を見せたつもりではいるが、それでも新人にウォーウルフの相手を任せるというのは先輩として心配になるか。
「では、みなさんは取り巻きのフォレストウルフの相手をお願いします。相手もそのつもりのようですから」
ウォーウルフが人間には分からない言語で指示をだしていた。
それを聞いたフォレストウルフはウォーウルフの傍を離れてブレイズさんたちを警戒していた。
そうだ、それでいい。
ブレイズさんたちが協力すれば、おそらくフォレストウルフを10匹倒すぐらいならすぐに終わるだろう。
だが、俺の心はウォーウルフを1人で倒すつもりでいた。
何よりも手加減なしで戦える相手というのが貴重だ。それに俺が倒すことによってブレイズさんたちに被害が及ぶような心配はない。
彼らは死なすには惜しい存在だ。
迷宮で出逢った盗賊のような冒険者とは違う。
常に仲間のことを思って行動し、故郷の為にも立ち上がれる冒険者――俺もそんな冒険者になってみたいと思わせてくれた先輩。
「ま、これは授業料代わりに手助けしますよ」
迷宮魔法のような特殊な魔法を使うつもりはないが、ステータスによる強力な戦い方はさせてもらうつもりだ。
「行くぞ」
俺が駆け出すと、それに合わせるようにウォーウルフも駆け出し、鋭い爪で突き刺そうと手を伸ばす。
神剣と爪がぶつかり合う。
(お互いの力は似たようなものか)
しかし次の瞬間、ウォーウルフが手に体重を乗せて俺の体を弾き飛ばす。
弾き飛ばされた俺は、背中から木に叩き付けられ、肺から空気が一気に吐き出される。
「マルス君!」
一番近くにいたギルダーツさんがこれまでの1日の間に発したことがないような大きな声を上げていた。心配させてしまったようだ。
でも、そんな必要ないですよ。
クラクラ揺れる視界を押さえながら『制約の指輪』を外す。
こちらも制限は解除しますから。




