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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第13章 海魔舞踏
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第9話 温泉街のチンピラ

 アリスターを出発してから3日目の昼前にはフェルエスに辿り着いた。

 温泉街として有名なフェルエスの大通りには多くの人が行きかっており、活気に溢れていた。


「まずは、どこかで昼食にするか」

「そうですね」


 みんなも同意してくれる。

 ぶっちゃけシルビアの手料理の方が美味しいのだが、彼女の料理のレパートリーを増やす為にも別の街へ行った時には現地の料理を食べるようにしている。


「どこがいいかな?」

「みんなは前にも来た事があるんだよね」


 以前に来たのは休暇として温泉に来たアルケイン商会の護衛。あの時はまだイリスがパーティに加わる前だった。


「そうだな。ただ、あの時は高級宿に泊まったから利用した店とかはもっと奥の方だったな」


 俺たちが今いるのは街の入口に近い場所。

 奥へと行けば行くほど大商人や貴族が利用するような高級宿になって行く。

 冒険者である俺たちがわざわざ高級宿に泊まる必要はないので入口近くで適度にゆっくりと休める場所で宿を取るつもりだ。


「ここなんかいいんじゃない?」


 アイラが前にも利用した店に雰囲気が似た飲食店を発見した。

 飲食店の中には昼食の書き入れ前ということで何人かの客がいるだけだった。


「マグマバードの卵包み?」


 メリッサが店の前に立てられた看板に描かれたメニューに気付いた。


 それは、この時期限定のおススメメニュー。


「入ってみようか」


 反対意見は出なかった。


「いらっしゃいませ」


 女性店員が俺たちに気付いてテーブルへと案内する。


「このマグマバードの卵包みっていうのは何ですか?」

「お客さんはフェルエスに来るのは初めてですか?」

「この季節に来るのは初めてですね」

「では知らないのは無理ないですね。マグマバードというのは、フェルエスの近くにある火山にのみ生息している魔物でして体にマグマを纏う事ができる魔物なんです。その魔物がこの1カ月の間にのみ卵を産む習性を持っていまして、この時期でしか手に入らない貴重な代物なんです」


 しかもその卵が非常に美味。

 卵を溶いた物で炒めたご飯を包み込んだ料理がマグマバードの卵包み。


「じゃあ、マグマバードの卵包みを人数分お願いします」

「かしこまりました」


 女性店員が厨房へと向かうと厨房にいた男性が調理を始める。

 注文をした俺たちが見ている事に気付くとペコっと頭を下げる。


「どんな料理だと思う?」

「メニューに描かれていた絵からオムライスのような物だと思われますが、問題は味の方ですね……」


 シルビアが思案顔になって出される料理について考える。

 そんなに美味しい卵なら迷宮でも産出できないかな?


『止めておいた方がいいよ』


 俺の考えを読んだ迷宮核が忠告してくる。

 マグマバードを迷宮のマグマフィールドで育てれば解決する話のような気がする。


 商売になると判断していたメリッサも迷宮核の言葉に耳を傾けている。


『マグマバードは周囲の環境に関わらずこの季節でしか卵を産まないんだ。それは迷宮の力で産み出しても同じ。さらに問題なのが親鳥は食肉には適さないほど臭みが強い』

「それは……」


 一時の贅沢の為に生み出す事になる。

 魔物の維持には多少ながら魔力を使われる事になるので無駄遣いになる可能性が高い。


「それで、こらからだけど――」


 迷宮での利用は諦めてとりあえずこれからの予定について話していると店に大柄な男が3人入って来た。


「おう、今日こそ家賃を払ってもらおうか」

「こ、困ります……」


 何か困り事か?


「こっちはこの土地を持っているんだ。土地の持ち主が値上げをするって言ったなら借りているお前たちは素直に家賃を支払うしかないんだよ」

「そんな事言われても! 今までの5倍の家賃を払うなんて不可能ですよ」


 ぶはっ!

 思わず口に含んでいた水を噴き出しそうになった。


 家賃が5倍?


「そんな事があり得るのか?」

「どうやら店主が最初に土地を借りた相手と今現在持っている持ち主が違うみたいです」


 男たちの会話をしっかりと聞いていたメリッサが教えてくれる。


「つまり、新しい地主になったから値段を釣り上げられた?」

「そのようです。ですが、それは不可能なのです」


 借主は前の貸主との間に交わされた内容で納得して契約している。

 だから、別の人間が土地を買い取ったとしても前の貸主との契約が尊重されるので値段が釣り上げられることはない。

 それが王国の法律で決まったルール。


「ですが、そこまで法律を詳しく知っている人は少ないでしょうから店主たちは泣く泣く増額された家賃を支払うしかないかもしれません」


 ここで誰も助けなければ、の話だ。

 シルビアたちを見れば俺を見てニコニコしているだけで自分から動こうとしていない。


 仕方ない。ここは俺が動くか。


「あの……」

「なんだ!」

「土地の値段は借主が納得された値段で支払われなければなりません。これは、王国の法律で決められた事なので土地を貸しているあなたたちは従わなければなりませんよ。折れるのはあなたたちの方です」

「ふざけるな! 俺たちが誰だか分かっているのか!」


 怒られた。いや、知らないけど。


 大柄な男の一人が拳を振りかぶって来る。

 一般人からしてみれば脅威に思える攻撃だが、俺にとっては凄く遅い攻撃だ。


 振りかぶられた腕を掴むと懐に飛び込んで背中を向けるとそのまま背負って床に叩き付ける。


「ぐべっ!」


 何か変な声を上げていたのが気持ち悪かったので頭を蹴って気絶させる。


「な、なんなんだお前は……」

「ただの客だ」

「無関係な奴が突っ込んでくるんじゃねぇよ!」


 仲間があっという間に倒されて恐れているのか男の声が震えている。


 無関係? 違うね。


「あのな。お前たちみたいなチンピラが騒いでいると店員さんが対応に追われて俺たちの注文が出てくるのが遅くなるの。分かったらさっさと帰って契約通りの金額で受け取るようにボスに言ってくれないかな?」

「ふざけやがって! 俺たちはグリーソン一家だぞ!」


 グリーソン一家?


「へっ、今さら誰を相手にしたのか知ったのか震えていやがる」


 まさかもう1度聞くことになるとは思っていなかった名前を聞いて考えていた事を勘違いした男がナイフを懐から取り出す。


「死ね!」

麻痺(パラライズ)


 掌底を当てると同時に雷属性のパラライズを打ち込んで動けなくさせる。


 残った1人の服を掴んで壁に押し当てると事情を聞く。


「お前たち、さっきはグリーソン一家って名乗ったな?」

「ああ、そうだ……俺たちに手を出せばグリーソン一家が黙って――」

「グリーソン一家は壊滅したはずだ。どうしてお前たちがグリーソン一家を名乗っている?」

「どうして、壊滅した事を知っている!?」


 他ならぬ俺たちが壊滅させたからだ。


 あいつらは俺の祖父が商会主を務めていたアルケイン商会を敵視していたガルガンド商会の汚い仕事を高額で請け負っていた。その関係でフェルエスを訪れた時に暗殺者を何人も差し向けて来たので後顧の憂いを絶つ為にも組織ごと潰した。


 その後、ガルガンド商会はグリーソン一家との繋がりがある証拠をアルケイン商会から突き付けられて投獄されるような事はなかったものの現在は経営の厳しい状況に追い込まれていると聞いている。


「お前は、俺の質問にだけ答えろ」

「俺だって自分の命が惜しい! 言える事と言えない事がある」


 つまり、こいつにとってはグリーソン一家が今でも存続している事は自分の命以上に大切な情報。いや、喋った事が誰かに知られれば消される可能性がある。

 馬鹿な奴だ。


「すいません。ちょっとこいつらを尋問してくるので席を外しますが、数分以内に戻って来るので注文の方はお願いします」

「は、はい!」


 気絶した男、麻痺して動けない男、恐怖で足が竦んだ男の服を掴んで店の裏手へと回る。


 俺に着いて来たのはアイラだ。

 シルビアは他の料理を見て忙しいし、メリッサは俺がこれからやろうとしていることの説明をイリスにしていて忙しいので手が空いているのがアイラぐらいしかいない。

 それに前回もアイラに任せているのでちょうどいい。


「というわけで、こいつらを全員地下59階に強制連行してくれ」

「了解。あたしもお腹空いたからさっさと終わる事を祈るわ」


 アイラの姿が男たちを連れて消える。

 彼らには情報を漏らした事で味わう事になる恐怖以上の恐怖を痛感してもらうことにしよう。


 その後、3分もしない内に聞きたい事は聞けたので食事には間に合った。


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