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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第13章 海魔舞踏
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第5話 剣匠

「よし、昼食も済んだし午後はちょっと別の事をするか」

「別の事?」

「地下82階の改造は時間を掛けてやっていくとして、ちょっと他にもやりたい事があるんだ」


 4人を連れて廃都市の外へと出る。


 その先では紫の鎧武者が待っていた。


「稽古を頼む」


 鎧武者が頷く。


「ちょ、ちょっとレジェンドソードマンに挑むつもり?」

「もちろん」


 お互いに剣を構えた状態で対峙する。

 ここまで準備した状態で戦わない方がおかしい。


「一体、何の為に戦うんですか?」


 シルビアが心配そうに聞いてくる。

 レベルだけを見ても相手は人類が到底敵わないような強さだ。もしもの場合を考えれば心配になるのは仕方ない。


「前回の巨大蛾との戦いで慢心はいけないと気付かされた。そこで気付いたんだけど俺って全然剣術ができないんだよ」

「え、普通に使えてない?」

「うん。戦場でも次々と帝国の兵士を斬っていたし、魔物相手でも綺麗に斬る事ができている」


 剣士二人が俺の剣を素直に称賛してくれる。

 しかし、あれを剣術とは呼びたくない。


「俺の剣はステータスの高さに任せて強く、速く振っているだけの剣だ。あれだけのステータス差がある状態で斬ればどんな物だって真っ二つに斬ることができるから綺麗に斬れているように見えているだけだ」


 俺の説明に剣士二人が頷いて納得している。


「最低限の事は父から教わっているからある程度の事はできるけどな」


 兵士だった父からはどんな武器でも使えるようにと剣だけでなく、槍に斧、弓なんかの扱いまで教えられた。


 父曰く、本気で辺境の兵士をするならどんな状況でも戦えるようになっておかなければならず状況に対応する為に武器の扱いは覚えておいた方がいいとの事だ。


「時間もありそうだし、せっかくだから剣術を覚えておきたいんだよ」

「もしかして、その為のレジェンドソードマンなの?」

「ああ」


 レジェンドソードマンは、名前そのままに伝説の剣士だ。

 剣の相手に不足はない。


 階層の門番として呼び出したが、それだけで終わらせるつもりはない。


「そっちも準備はいいな」


 レジェンドソードマンが頷く。

 兜で顔全体が覆われているせいか寡黙な相手だ。


「行くぞ」


 お互いに駆け出す。


 殺すつもりで胴体へ横薙ぎに剣を振るうと剣の腹を上から叩き付けられて方向を強制的に変えられる。


 その直後、流れるような動きで俺の首へと向かってくる刃。


 咄嗟に後ろへ下がると首の皮一枚で斬られていた。

 首から血が薄らと流れてくるが、気にしていられる暇はない。


 上下、左右、斜め――ありとあらゆる場所から刃が振るわれる。

 ただし、全ての攻撃が正面から。


 正面から来る攻撃だけだったとしても刃を弾いて凌ぐだけで精一杯だ。


 レジェンドソードマンは、これが俺の剣術を強化する為の訓練だということを分かっている。

 だから不意を打つような卑怯な攻撃はしてこない。


「ふ、二人とも速すぎます」

「あたしでも目で追うのが限界だからメリッサだとどんな動きをしているのか分からないか」

「私では2、3回の攻撃を防いだだけで限界」


 剣士二人でも俺たちの動きに付いて来るのは不可能。メリッサは最初から捉えられていない。

 でも、これだってステータスを活かして速く動いているに過ぎない。


 対してレジェンドソードマンは俺以上のステータスを持っているにも関わらず、巧みな脚捌きによって流れるように動いている。俺とは大違いだ。


「……というわけで、動きに関してはレジェンドソードマンの方が上なの」

「なるほど」


 その辺はしっかりと見えているシルビアが説明している。


「っていうか、見えているならシルビアだったら戦えるんじゃない?」

「わたしだと相手の動きが追える、速さに対応できるというだけでレジェンドソードマンの力にまで対応できるわけじゃない。わたしの短剣で受け止めたりしたら短剣の方がぽっきりと折れてしまうか、わたしごと倒されてしまうのがオチよ」

「「ああ……」」


 その光景を想像したのか剣士二人が溜息を吐く。


 クソ、外野の声を聞きながらレジェンドソードマンの攻撃を捌くことはできているが、攻撃を捌くだけで精一杯……


「……っ!」

「ここでフェイント……」


 シルビアには見えていたみたいだ。

 俺も左から迫る刃が見えていた。だから弾こうと剣を振ったのだが、レジェンドソードマンの剣に触れようかという瞬間、剣が軌道を変えて俺の脇を擦り抜けた。


 気が付けば首に刃が押し当てられていた。


 俺は剣を振り抜いた状態。

 とてもではないが、ここから対処できるはずがない。


「まいった」


 俺の首に添えられた剣を見ながら降参する。


「なに……? 『今の一撃を叩き込むだけで精一杯でした?』 よせ、最後の一撃は俺でも全く近付ける事ができなかった。お前が全力を出せばそれだけの速度が出せたっていうことだろ」


 レジェンドソードマンは何も言わない。

 しかし、迷宮主である俺には迷宮内にいる魔物の感情や言いたい事を受け取る事ができる。


「『離れて魔法を使われれば対応できませんでした。私は剣を振るうしかできない武者です』か……たしかにその通りなんだろうが、俺は剣術訓練で戦ってもらっているんだ。次からは魔法を警戒する必要はない。必ず剣だけでお前に勝てるぐらい強くなる」


 レジェンドソードマンが頷く。

 次からは警戒心が失われた更に鋭い攻撃が飛んでくるだろう。


 だが、今は体中が悲鳴を上げている。訓練をしているような状態ではない。


「お疲れ様です。どうでしたか?」


 シルビアがタオルを渡してくれたので体に流れる汗を拭きながら答える。


「なかなか俺よりも強い奴なんていないからな。戦うだけでもいい経験になる。現に今の一戦だけでレベルが上がった」

「それは……」


 ここまでレベルが上がってしまうとなかなかレベルが上がらないのだが、模擬戦だけでレベルが上がったのはそれだけレジェンドソードマンとの一戦が濃かったという事だ。


「いや、今はレベルやステータスよりも技術の方を磨きたいんだ」

「どうしてですか?」

「俺はどちらかと言うと剣よりも魔法の方が得意だ。剣を持っているのは自衛の為と一人で活動していた時の一人で前衛も後衛もできる中衛になろうとしていた時の影響から『どっちつかず』になってしまった。けど、パーティを組んだ今ではそれだとダメなんだ」


 俺が目指すべきは『どちらもできる』だ。

 魔法は基本属性を全て使える事から色々と模索して行く事になるだろうが、剣については実力者と少しでも手合わせして強くなりたい。


「ねぇねぇ、次はあたしが戦っていい?」

「いいけど……」


 一応、レジェンドソードマンに確認を取ってみる。

 レジェンドソードマンは頷いて剣を構えてくれた。

 気の利く彼なら寸止めで止めてくれるだろう。


「姿を見た時から一度戦ってみたいと思っていたのよね」


 アイラも剣を構える。

 俺の眷属となってから他の冒険者では相手にならなかったから少しストレスが溜まっていたのだろう。


 レジェンドソードマンが鋭く踏み込み、振り下ろされた剣をアイラが剣で受け止める。


「……なに? 馬鹿にしているの?」


 レジェンドソードマンが首を横に振る。


「そうね。今の一撃は全力だったわ……あたしを相手にするには」


 つまり、アイラを相手にするならあれだけの力で十分と判断された。

 手加減されていると知って怒ったアイラだが、すぐに落ち着きを取り戻すと明鏡止水で斬る覚悟をする。


 対してレジェンドソードマンは正面から受け……流す。


「そういうこと!」


 明鏡止水は鋭い斬撃を放てるだけの冷静さがあるだけでなく、対象を斬れるだけの斬撃が伴っていなければならない。受け流された剣では斬撃が不十分と判断されて明鏡止水が発動しない。


 アイラが次々と斬り込んでいくが悉く逸らされて行く。


「次は私が戦っていい?」


 戦いを観ていたイリスが訊ねて来る。

 既に彼女の中ではアイラの勝利はなくなってしまったらしい。


「いいけど本気か?」

「二人が剣術の訓練をしているのに私だけ訓練をしないのもおかしいから。せっかくだから私も剣士としてもっと強くなろうと思う」


 そういうつもりなら拒否するわけにはいかない。

 レジェンドソードマンもアイラを相手に手加減を覚えたらしく攻撃と防御を巧みに織り交ぜながらアイラを押していた。これならイリスが戦っても問題なく手加減をしてくれるだろう。


「時間はけっこうあるだろうし、のんびりと強くなって行こう」



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