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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第13章 海魔舞踏
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第3話 罠設置

※イリス視点

 地下82階。


 新たに廃都市フィールドとして生まれ変わった場所で私たちはせっせと罠を設置していた。

 設置、と言っても穴を掘って落とし穴があるように思わせない為に偽装の為の蓋を自分たちの手で行うわけではない。


 ――迷宮操作:罠創造(トラップクリエイト)


 魔力を消費することで任意の罠を指定した場所に設置するスキル。

 このスキルによって罠が瞬時に構成される。


 今も南から続く大通りの真ん中に落とし穴を設置していた。その手前には離れた場所から槍が何本も飛んできて自然と落とし穴のある方へと誘導されるようになっていた。


「次、こっちいい?」

「分かった」


 少し離れた場所でアイラが呼んでいる。


「落とし穴に落ちた後なんだけど、油が穴に流れるようにして引火させるのがいいんじゃないかな?」

「たしかにまだ穴の底には何も設置していないから穴に落ちた後のことはどうにでもできるけど」

「じゃあ、それで行こう」

「いいのかな?」


 穴に落ちた後で油を被り引火する。

 対処を間違えれば確実に死んでしまう。

 冒険者として罠のある迷宮や遺跡を攻略してきた身としてはこういう罠を設置することに抵抗がある。


「なに、気にしているの?」

「むしろアイラはよく気にしていないって感心している」

「普通はこんな体験できないからね。普通に楽しませてもらっているわ」


 笑っているアイラは楽しそうにしていた。

 私にはそこまで楽観的に考えることができない。


 私とアイラはパーティ内では同じ剣士として動くこともあるけど、アイラから聞いた一緒に行動するようになる前の生き方が違う。


 大人たちに負けないよう、ティアナさんみたいに成れるよう努力してきた私。

 幼いながらに父親の遺した魔剣を破壊する為にたった一人で生きて来たアイラ。


 私もそれなりに大変だったし同年代の友達も少なかったけど、私以上に孤独な子供時代を過ごしていたのがアイラだ。私には助けてくれる大人がそれなりにいたけど、魔剣を追い求めて旅をしていたアイラには同年代の相手どころか助けてくれる大人すらいなかった。


 時には偽情報を掴まされ、自分の持っている財産を狙ってくる男まで現れる始末で、酷い時には貞操が狙われることもあったらしい。

 信じられる相手など誰もいなかった。


 その頃は本当に殺伐としていた、と前に聞いた時は語ってくれた。


 とても普段の楽しそうにしている姿からは想像もできない。


「私もそんな風に笑うことができるかな?」

「なに? あたしの生い立ちとか気にしているの?」

「そういうわけじゃなくて……」

「人の過去なんて人それぞれ。一番大事なのは過去の教訓を活かして今をより良くして生きて行こうとする心よ」


 今をより良くする……。


「あたしの殺伐とした旅はアリスターに来てマルスと出会った時に終わったの。後の人生はのんびりと楽しみながら過ごす事を決めたの」


 だから全力で何事も楽しむ。

 その、楽しむという感覚には私も賛成だ。


「なら、さっさと私たちの仕事を終わらせることにしよう」

「そうね」


 と言っても作業をするのは主に私だ。

 罠を設置するには迷宮操作のスキルが必須になる。そのため私とマルスが分かれて私にアイラが、マルスにメリッサが助言役として傍に付いている。


 私とアイラは南門から中央に向かって、マルスとメリッサは中央から南門へと向かって罠を設置している。


 ちなみに残ったシルビアは【探知】を駆使してシーフという立場から罠の状況を全体を見ながら確認している。


「でも良かったのかな?」

「何が?」

「結局追加した階層だけど、かなりの量の魔力を消費したんじゃない?」

「ああ、そういうこと……」


 どれだけの魔力を消費したのか具体的な数値は教えてくれなかった。

 けど、迷宮操作が使える私には現在の迷宮が保有している魔力量が分かるから階層追加に消費した魔力量が逆算できる。


「知りたい?」

「教えて!」


 精神衛生上の事を考えると教えない方がいいのかもしれない。

 けど、せっかく得た会話のきっかけだ。

 本人が聞くことを望んだのだから教えてしまっても構わないだろう。


「階層追加に1億。廃都市フィールドにするのに2億。罠の設置に1億くらい」

「え……っていうことは」

「トータルで少なくても4億くらい消費することになっている」


 本当に神樹の実が手に入らなければ階層追加など不可能な消費量だった。

 階層追加と改造は本当に一瞬で終わってしまい、私たちは最下層で待機していたけど、気が付いたら地下82階にあった最下層が地下83階へと移動していて地下82階に移動してみると廃都市フィールドが広がっていた。


 景色が変わらないと感じてしまうのは仕方ない。

 実際に同じ物だったのだから。

 階層を追加した際に廃都市フィールドも作製することになったけど、詳細な部分を決めずに追加してしまったので迷宮核が面倒になって地下81階にあった廃都市をそのままコピーして地下82階にも同じ物を作り上げてしまった。


 構造の変化まで一瞬で行ってしまうのだから3億もの消費も当然だ。


 ただ、階層追加に必要な魔力は下層へ行けば行くほど多くなるらしく、90階以降の階層を造る時には更に多くの魔力が必要になるとのこと。もっとも残った神樹の実も魔力に変換しても90階までは届かない。


 それと今設置している罠の消費も大きい。

 一つ一つはそれほど大したことはないのだが、広大なフィールドに大量の罠を設置していくことになるので最終的には1億になるだろうと予想していた。


「そんな量を消費して大丈夫なの?」


 アイラが額に手を当てて呆れている。


「大丈夫。このペースで行けば神樹の実一つで4階層分は追加できそうだから」

「あれ、1階層足りなくない?」

「さっき言ったのはフィールドに必要な魔力量。問題はもう一つ」


 私が指差した廃都市の外には紫色の鎧を着た鎧武者が立っていた。


 レベルは700。

 大昔に災厄のように現れた魔物でレジェンドソードマンという名前の魔物らしい。


 あの魔物の召喚に魔力が8000万も消費されてしまっていた。


「維持には魔力を使わないらしいけど、召喚するだけで大量の魔力を消費してしまうから……」

「よし、せっかくだから後で相手をしてもらおう!」

「私の説明聞いていた!?」


 相手はレベル700の魔物。

 普通に戦って勝てるような相手ではない。


「あの姿と名前からして剣を使う魔物なんでしょう? だったら同じ剣士として一度手合わせをお願いしてみたくない?」

「ん、私も剣士として興味があるけど……」


 ティアナさんの剣を振るう姿が格好良くて手にした剣だったけど、今では剣を手にしてよかったと思える。

 それに剣士としての矜持もそれなりに持っているから強い剣士には挑んでみたい。


 けど、相手のレベルは700。


「止めた方がいいって! 昨日は同じレベルのレジェンドドラゴンを相手に逃げ出したんだから」

「あの時は、敵が突然現れて空を飛んでいたから手を出せなかっただけ。レジェンドソードマンなら空を飛ぶような様子はなさそうだし、もしかしたら対等な戦いができるかもしれないし」

「ああ、もう……!」


 都市の外へと駆け出したアイラを追う。

 マルスから決して手を出さないように言われているから戦うべきではない。


 どうにかして足を止めさせようとするけど、


『そろそろ昼飯にしないか?』


 マルスさんから念話が来てあっさりと足を止める。


『どこに行けばいい?』

『屋内はどこも汚れているけど、中心部はそれなりに綺麗にされているからこっちで合流しよう』

『了解』


 昼食にはシルビアが朝早くに起きて作ってくれたお弁当が用意されている。

 それを断るなんて選択肢は私にもアイラにもない。


「挑むのは今度にして、まずはお昼にしよっか」

「うん……」


 この人は本当に自由に物事を楽しんでいる。


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