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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第13章 海魔舞踏
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第1話 迷宮拡張

 春が終わり、夏へと向かい始めた6月の中旬。


 俺は眷属を全員集めて迷宮の最下層――地下82階にある迷宮核の前に立っていた。


 今日の目的は――神樹の実の魔力変換。

 これまでに俺だけでなく歴代の迷宮主が何度も行って来た魔力変換だが、神気の塊と目される神樹の実は行った事がなかった。


 何かが起こる可能性がある。

 慎重にならざるを得なく、迷宮核やメリッサと相談した結果、準備を万端にしてから魔力変換を行うことになった。


『本当にいいんだね?』


 迷宮核が最後の確認をしてくる。


「まあ、俺たちにとっては毒になるかもしれない代物だからな」


 食べた事のあるエルフによれば非常に美味らしいが、副次的な効果として神気に対する適性が高くなるという効果がある。

 元々神気に対する適性のない人間が取り込めばどんな結果になるのか分からない。


 それに神気への適性を得られてしまった場合には人間を逸脱した存在になってしまう可能性がある。迷宮主になって常人とは比べ物にならないほどの力を手にしたが、そこまで変わるつもりはない。


「準備もしたんだから何か起こっても大丈夫だろ」


 準備、と言っても特別な事は何もしていない。

 何かが起こった時に対応できるように迷宮の魔力を溜め込む為、満月の日を待って構造変化を起こして多くの冒険者を呼び込んだ。

 結果、迷宮の魔力が4000万残してある。


 迷宮には維持にも魔力を使われる為、迷宮に冒険者を呼び込んで魔力を得るのは必須だった。

 それでも財宝や魔法道具を魔力変換した時に得られる魔力量に比べれば迷宮を訪れた冒険者から得られる魔力量は微々たるものだ。やはり、本気で迷宮の強化を考えるなら財宝や魔法道具の魔力変換は必要だ。


「じゃあ、始める」

『了解』

「魔力変換」


 目の前に置いた二つの神樹の実の一つが消える。

 魔力に変換された。


『あはっ!』


 と迷宮核が笑い出した。


『あははははは! なにこれ!? 前にも神樹の枝なら魔力変換をした事があるけど、こんな事がありえるの!? あの時は、100ぐらいにしかならなかったのに!』


 一人で何かに納得して笑い続けている。


「俺たちにも分かるように説明しろ」

『ごめんごめん。そういうわけで今の魔力量を見せてあげるよ』


 迷宮核の水晶に現在の魔力量――2045132627が表示されていた。

 桁が多くて分かりにくいな。


『さっきまで魔力量は4000万しかなかったんだよ! それが神樹の実を魔力変換しただけで20億も手に入ったよ! これは笑うしかないね』

「え……?」


 迷宮核の言った数値が信じられず呆然としてしまう。

 それは、後ろにいる眷属たちも同じで戸惑う気配が感じられる。


 魔力変換によって得られる魔力量は、対価に差し出した道具の価値や保有している魔力量によって変化する。

 3カ月前に起こった帝国との戦争時に倒した帝国軍が保有していた武器や防具、魔法道具を全て魔力変換しても得られた魔力は3500万だった。


 一国の軍隊を相手にしてもそれだけしか得られない。


 しかし、神樹の実一つでその50倍以上の魔力を得る事ができた。

 はっきり言ってこれは異常だ。


「ところで問題は起こっていませんか?」


 メリッサの質問に全員がハッとした表情になる。


 神樹の実から信じられないほどの魔力が得られたことは分かった。

 しかし、俺たちが全員迷宮の最下層にいる理由は神気の塊である神樹の実を迷宮に取り込んで問題があった時に即座に対処する為だ。迷宮同調により、どこにいても迷宮内の様子を瞬時に伝えてもらうことができるが、万が一の事があって迷宮核に非常事態が発生した時には自分たちだけで対応する必要があった。


 だが、結果は問題なし。

 拍子抜けもいいところだった。


『特に問題は起こっていないね。膨大な魔力が得られた以外は平和そのものだよ』


 今も迷宮には冒険者が挑んで魔物と戦い、資源を採掘している。

 至って平凡な光景だった。


『それで、どうする?』

「どうするっていうのは?」

『これだけの魔力が臨時で得られたんだよ。何かするつもりはないの?』


 とはいえ、迷宮で大規模な事はあまりない。

 いつも通りに運営されるようにコツコツ補充したり、生えている薬草の種類を少しずつ入れ替えるぐらいしかない。


『どうせなら今の内に階層拡張の練習をしておく?』

「拡張?」


 階層拡張は文字通り、迷宮に階層を追加する能力だ。


 しかし、必要性は全く感じない。

 迷宮が深ければ深いほど迷宮に挑む冒険者が最下層に到達する可能性を下げてくれるが、今のところアリスター迷宮における最大到達階層は地下55階までだ。その偉業も200年近く前の事。

 それ以降の冒険者は伝説を前にして迷宮の踏破を諦め、迷宮から得られる資源からコツコツと生活をしている。中には本気で迷宮踏破を目指す者もいるが、地下47階にある広大な迷路を踏破することができず、運が良い者は引き返していた。


 そのため地下55階以降の階層には迷宮主と眷属以外では訪れた者がいない。


 階層追加には膨大な魔力が必要になる。そんな使い道のない階層を追加したところで魔力を無駄に消費してしまうのは勿体ない。


『たしかにその通りなんだけどね。けど、階層を追加することには次の迷宮主の為にもなるんだ』


 迷宮が深ければ深いほど迷宮主になった時に得られるステータスが上昇する。

 要は、自分たちの為ではなく未来の迷宮主の為に投資しろと言っているようなものだった。


『それからもう一つ。君の代で到達するのは難しいけど、迷宮が地下100階に到達すると素晴らしい特典があるらしい』

「特典ってなんだよ」

『僕にも分からないかな? けど、この知識は迷宮に最初から備わっていたものだよ』


 つまり、迷宮というシステムを作った神が遺した情報。

 怪しい。あからさまに怪しい。


 とはいえ、会ったこともないような相手に何かができるはずもなく、迷宮核の勧めとは別にちょっとした探究心から階層を追加することを決めた。


 そこで、一つ目の問題が発生する。


『レイアウトはどうしようか?』

「レイアウト?」


 階層追加の詳しい方法を聞いていなかったアイラが首を傾げている。


「迷宮の階層を追加する時は、大まかな構造については最初に決めることになっているんだ」


 地下36階~40階は海フィールドだから周囲を海に囲まれた島。

 そこから島の大まかな形や生息している魔物、島内に生えている植物を決める必要がある。


 後からも改造することは可能だが、何もない状態で準備した方が魔力は抑えられる。


 今回、俺たちが今いる最下層が地下83階へと落ちて地下82階を追加することになったので地下82階の構造を決める必要がある。


「そういえば、この上はどんなフィールドになっているの?」

「イリスは行ったことがなかったな」


 彼女だけではない。

 地下81階には俺しか行ったことがない。

 眷属を連れて迷宮探索を何度も行っているが、広大な迷宮の全ての階層を巡ったわけではない。


「地下82階を追加するっていうことは、フィールドは地下81階と同じなのよね」


 今までの構造からしてフィールドは5階層ごとに変わっている。

 セオリー通りに行くなら新たに追加される地下82階と81階は同じフィールドにする必要がある。

 細かな部分での調整は必要だったとしてもそれでフィールドは決められる。


「……行ってみるか?」


 あまり気乗りしない。


「どうしたの?」

「いや、俺が造った階層じゃないんだけど、どうしてあんな階層を造ったのか頭を抱えたくなるところなんだ」


 迷宮も下層となれば冒険者を招き寄せるのではなく、最下層に到達させない為の構造になっている。

 特に地下71階から先は環境を厳しくすることで探索者の足を止めていた。


「行くぞ――転移!」


 口で説明するよりも見せた方が速い。


 全員で地下81階へと転移し、その先に広がっていたのは……


「なに、これ……」


 朽ちた建物がどこまでも広がっている廃棄された都市。


「ようこそ廃都市フィールドへ」


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