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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第12章 夢幻樹海
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第28話 エルフの宴

「今回は助かったよ」


 日が暮れ始めると宴会の準備が終わり、里の中心にある広場に人々が集まり酒や料理が振る舞われた。

 特に大きな猪を使った肉料理が人気らしく、宴会に参加したエルフの食い付きが凄い。


 森の中で生活するのがエルフだと聞いていたから人間は勝手に草食系のイメージを持っていたが、実際にはそんな事はなく森で普通に動物を狩るし、森の中にあるらしい湖で魚の養殖にも手を出しているらしい。


 宴会の趣旨については長老から語られた。

 そうなると森の中に危険な魔物がいたことを説明しなくては討伐された事を祝う宴会などできるはずがない。


 危険な魔物がいることを隠されていた事をエルフたちは怒るかと思っていた俺たちだったが、エルフたちは「仕方ないな」という感じで曖昧に笑うだけで黙っていたことを許してしまった。


「みんなの反応が信じられないかい?」

「そうですね。人間ならこんな簡単に許すような事はしないでしょう」


 宴会の最中もルイーズさんは俺たちの傍で案内をしてくれていた。


「エルフは森の中で生活が完結するような人種だからね。大きな問題が起こっていても既に解決されているなら気にしたりしないのさ。良く言えば大らか、悪く言えば無頓着なのさ」

「そういうものですか」


 その割には肉料理に夢中になっている。


 若い期間が長いせいか自分の力で何でもできると思い込んでいる節がある。

 生物は成長が著しい若い時期に色々な経験をすれば、それだけ強く成長することができる。

 エルフにはそれが顕著に現れているせいか多少の危機ならどうにかなると思い込んでいるらしい。

 実際には巨大魔物に対して多数の犠牲を出しているにも関わらず。


「それで、メリッサの方はどうだったんだい?」

「はい。今日一日で学べる事は学びました」


 俺たちの近くにいるメリッサは本当に嬉しそうにしていた。

 あの薬を作れるようになる日に近付いた事が相当嬉しいらしい。


「この娘は物覚えがいい。本当なら私がもっと色々と教えたいところなのだがな」


 メリッサの傍にいるマリウスさんは俺たちが会った時とは別人に思えるぐらい若返ったように見えた。

 どうやらメリッサと触れ合うことで生きがいを取り戻したらしい。


「本当に明日には帰ってしまうのか?」

「はい。朝の内に出発すれば夕方には街に辿り着けるかもしれませんから」


 既に迷いの森にも慣れた。

 真っ直ぐに駆け抜けるだけなら往路以上早く辿り着く事ができる。


 マリウスさんが知り合いに呼ばれて離れて行く。

 そこで、ルイーズさんから明日の予定について待ったが掛かった。


「ところでアンタたちの転移だけど、本当に主人であるアンタの許へ移動するだけのスキルかい?」

「え?」


 ルイーズさんにはそこまでしか説明していない。


「他にも条件を付与するなりして空間を跳躍する事ができないかい? たとえば――自分たちの拠点とか?」


 完璧に当たりを付けているらしく責められている。

 必要以上の情報を与えるつもりがなかったので転移ほど便利なスキルを詳しく教えていなかったが、ここまで来たら信用してもう少し教える事にしよう。


「たしかに俺たちは拠点――アリスターにある自分の屋敷とある場所にも転移することができます。それがどうしました?」

「そんな便利な能力があるなら使わない手はない。アンタたちがそんな便利な能力を持っている事は墓まで持ち込む事を約束するから帰りはそのスキルで安全に帰ろうじゃないか」


 俺たちの実力を思えば道中に現れるような魔物は相手にならない。

 しかし、慢心はいけないという事を今回は学んだ。

 安全を優先させるなら転移で帰ってしまう方が確実だ。


「……本当に約束してくれますか?」

「もちろんだよ。アンタたちは故郷の危機を救ってくれた大切な相手だ。それに孫のように思っている相手を貶めるような事はしないと約束しよう」


 なんだか、いつの間にか俺やシルビア、アイラも孫枠に含まれているような気がする。

 まあ、特に困るような事もないので問題なく受け入れる。


「アタシからも何かお礼ができればいいんだけど、なにせギルドから着の身着のまま出て来たようなものだから持ち合わせがないんだよね」

「いいですよ、お礼なんて……神樹からは実を貰っていますし、エルフの長老からは交易の再開を約束してくれて昼間の内に色々と貴重な素材を頂いているのでお礼は十分ですよ」


 神気の満ちた迷いの森でしか生える事ができない薬草や迷いの森の中にしかいない魔物の素材。

 本当に貴重な代物らしくアリスターとの交易でも滅多に売らないので商人相手に高額で売ることも可能だと言われた。

 もちろん商人に売るつもりはなく、迷宮で利用ができないかと思案している。


「冒険者なら報酬は分捕るぐらいでないといけないよ」

「そこまで生活に困っているわけではありません。それに彼女たちとの間に子供が出来ても問題がないくらいの蓄えがあります」


 実際、迷宮が貯め込んだ金貨は凄まじい。

 既に一生を遊んで暮らせるだけの蓄えがある。


「そうかい。メリッサが作ろうとしている薬が手に入っても問題ないみたいだね」


 覚悟はできている。

 眷属たちの方を見ると顔を赤くして視線を逸らされて宴会で提供されている料理を取りに行ってしまった。


「だが、いつかきちんとお礼はさせてもらおうじゃないか」


 王都のギルドマスターへの貸しができたと思えば報酬としては破格だ。


「アリスターへは一瞬で安全にお連れします」


 実際には迷宮への転移となる。

 さすがに何日も街にいなかったのに王都のギルドマスターほどの人物が門で街に入る手続きしていないのに街から出れば不審に思われる事になる。


 転移を教えるならルイーズさん以上に親しい相手でなければならない。


 もっとも懸念しているのは迷宮への転移でルイーズさんがどこまで気付くのか、だ。


「アンタには本当に感謝しかないね」

「また、その話ですか?」

「今回だけの話じゃない。メリッサとイリスの事だよ」


 ルイーズさんの視線の先では、巨大魔物を討伐した人物だとエルフたちから持て囃された眷属たちがいた。


「アタシが初めてメリッサと会った時、あの娘は笑顔ではあっても大人相手に舌戦して故郷を取り戻そうと必死だった。イリスも同じだよ。大人の中に混じって故郷を守ろうと必死だった。アタシにはあの娘たちの気持ちが痛いほど分かったから止めるような事はできなかった」


 ルイーズさんも故郷を追い出された者の一人だ。

 その生い立ちは違っても故郷を懐かしく思っていた日々は同じだ。


「アタシがあの娘たちを引き取って弟子にしようとしていたのも詳しい事情は知らなかったけど、同じ立場の者として何か力になりたかっただけだよ。だけど、本当の意味でアタシは信用してもらえなかったんだね。アタシに本当の意味での笑顔を向けられる事はなかったよ。けど、今のあの娘たちを見てごらん」


 俺がどんな風に巨大蛾を倒したのか喜々として語る彼女たちは心の底から本気で笑っていた。

 少なくとも取り繕った笑顔ではない。


「アタシが言った意味が分かったかい? あの娘たちはアンタと出会った事で本当に幸せそうにしている。アンタはあの娘たちの笑顔を全力で守りな。その代わりにあの娘たちはアンタに全力で応えてくれるだろうさ」

「もちろんですよ」


 言われなくても分かっている。


 ルイーズさんと一緒に持っていたグラスを当てる。

 そのまま一口だけ飲むと酒と自分の言った言葉の気恥しさから顔が赤くなるのが分かる。


「ふん。戦争で何千人を相手に無双し、あれだけ強力な魔物に立ち向かった奴なのに意外な弱点があったもんだね」

「放っておいてください」


 せっかくの宴会だ。

 お酒を飲まなくてどうする。


 もっともチビチビと飲んでいる姿から酒が苦手な事はルイーズさんに知られてしまっていると考えた方がいい。


第12章のリザルド

・神樹の実×2

・迷いの森でのみ得られる薬草、魔物

・ギルドマスターへの貸し

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