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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第12章 夢幻樹海
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第27話 調合

「初めまして、お爺様」


 メリッサが案内人に連れて来られた家にいた老人のエルフに挨拶をする。

 そう、顔は皺くちゃになって髪が真っ白な老人のエルフだ。


 初めて見る老人のエルフ。

 エルフは若い期間が長く、死期が近付くと追い始める為老いた姿を晒す期間は非常に短い。

 つまり、老人のエルフは本当に死が目の前にある状態という事だ。


「アンタらが長老の言っていた調合を習いたいという人間か?」


 老人が若い姿をした相手に対して長老という言葉を使うと違和感があるな。

 しかし、長老たちは神樹の実を食べているから若い姿を保てていられるに過ぎない。実際の年齢は目の前の老人よりも上だからこそ長老と呼んでいるのだろう。


「そうです。お爺様の技術を学ばせて貰えますか?」

「こんな死を待つだけの老人の技術が欲しいというのならいくらでも教えてやる。だが、お爺様などという呼び方は好かん。私の名前はマリウスだ」

「はい、マリウス様」


 お爺さん――マリウスさんが家の奥から調合に必要な乳鉢と乳棒などの調合に必要な道具。それから薬草の入った籠を持って来る。


 俺たちが待たされていたのは広い板張りの部屋。

 部屋の隅には調合を行う為の大きな台が置かれていたが、埃を被っていてしばらく使っていない事が窺える。


「ご家族はいないんですか?」


 部屋の中が少し汚れていたのが気になったのか掃除用具を取り出して掃除を始めたシルビアが尋ねる。


「家族や弟子は何人もいたが、全員独り立ちしているから家にはいない。妻も最近まで家にいたが、こんな老いた姿を見せたくなかったんで少し前に息子の家に行くように言って追い出した」


 暗い空気になり掛けたところをマリウスさんが手を叩いて気分を変える。


 そうして話題を変える為に調合の話が始まる。


「調合と言っても素材が定期的に手に入れられるならそれほど難しい事はない。まずは、素材となる薬草を乳鉢の中に入れる」


 形の異なる2種類の乾燥させた薬草を乳鉢の中に入れる。

 乳鉢の中でゴリゴリと音を立てて磨り潰されたところで用意しておいた小鉢に水を入れて金属の棒で溶いていく。


 数分と掛からずに調合が終わる。


「ただ2種類の薬草を混ぜ合わせるだけならこれだけだ」

「けっこう簡単なのですね」


 もっと複雑な作業を予想していた。


「錬金術師など名乗っているが、私は調合が専門の調合師だ。調合師にできるのは薬品を作る為に必要な素材を熟知して用量を守って混ぜ合わせるだけだ」


 その点、メリッサなら物覚えもいいので安心だ。

 用量を間違って薬品ではなく毒を作るような事もないだろう。


「言っとくがこれだけの手間では簡単な傷薬しか作れん。お前たちがどのような物を作りたいかによって教え方も変わって来る」


 本格的に弟子入りして調合について教わるなら1から10まで教えてもらうのが1番なのだろうが、何日も滞在するつもりはないので調合を教われるのは今日だけにするつもりだ。


「そうなのですか?」

「薬草の中には魔力を込めながら磨り潰すことで初めて効果を発揮するような物も存在する。お前さんが持っている魔力量は相当なものだから調合に魔力を使う事に問題はないかもしれないが、繊細な魔力操作も必要になる。残念だが、魔力操作の方は一朝一夕で出来るような物ではない。本格的に学びたいなら自分の街に戻った後で錬金術師の許で学んだ方がいい」


 アリスターにも錬金術師はいる。

 近くに迷宮があるおかげで多種多様な薬草が季節を問わず手に入り、迷宮で稼ぐ為に薬品を購入する冒険者が多いため次々に売れて行くため多くの錬金術師が街に居着く。


 しかし、彼らにも生活がある。

 マリウスさんは長老たちから言われて恩のある俺たちだからこそ調合についての知識を教えてくれたが、アリスターにいる錬金術師から知識を得ようとしたらそれなりの対価を要求されることになる。

 しかも俺たちは最近有名になったばかりで大金を持っていることはそれなりに予想されてしまうので、こちらから頼み込めば足元を見られることになる。


「なんとかなりませんか?」

「そう、言われてもの……」


 マリウスさんがメリッサからお願いされて困っている。


 まあ、最初に言っていたように久しぶりに人と接したというのは本当みたいだ。

 部屋の中は最低限の掃除はされているものの埃や汚れが天敵な錬金術師の部屋とは思えないほど清潔に保たれていない。


 この部屋の状態を見るだけでもマリウスさんが錬金術から遠ざかっていたのが分かる。


 どうして遠ざかったっていたのか?


 この人は自分の老いた姿を誰かに見せるのが嫌だった。そうして人との関わりを避ける内に生きがいだった錬金術からも興味を失ってしまった。

 それでも人と長老から頼まれて仕方なくでも出会えば嬉しく思える。


「今日1日だけでいいので彼女に調合の知識を教えてあげてくれませんか?」


 マリウスさんに頼み込む。


「1日で教えられる事などたかが知れているぞ」

「彼女ならあっという間に吸収してしまいますよ」


 それ以上にメリッサが何かを得たいとワガママを言っている。

 主として眷属の願いは叶えてあげたい。

 必要な場合には滞在日数を延ばしても構わない。


「お前さんは調合を覚えて何がしたいんじゃ?」

「実は……作りたい薬があるのです」

「ほう」


 作りたい薬。

 その言葉を聞いた瞬間、調合を覚えようとするメリッサを応援しようとしていたことを後悔した。


 彼女が作りたい薬は『妊娠促進薬』。

 ランクSの貴重な薬は手に入れるのが難しく、一人分しか手に入れることができなかった彼女たちは全員分の薬を手に入れることを望んでいた。


 そうしてメリッサが至った答えが、自分で調合する。


「実物がこちらになります。効果は――」


 収納リングから出て来る例の薬。


 薬についての説明を聞いている内にマリウスさんが俺の事を可哀想な物を見るような目で見て来る。

 きっと俺を相手に使われることを思って不憫に思っているのだろう。


「それから、こちらが調合に必要な素材になっています」

「よく必要な素材が分かったの」

「私は鑑定が使えます」

「なるほど」


 俺たちの鑑定は迷宮から得られた財宝が対象なら薬に使われている素材まで調べ尽くすことができる。

 おかげで薬を見るだけで必要な素材が分かり、既にリストにしていたらしい。

 その準備の良さから相当前から調合を計画していたことが窺える。


「そのリストにある素材はエルフの里で手に入りますか? 貴重な物を使用しているらしくアリスターではどれも手に入らなかったのです」

「残念だが、エルフの里で――私から提供することができるのは一つだけだ」


 あるのかよ!


 叫びそうになるのを堪えている間にマリウスさんが家の奥から抱えるほど大量の紫色をした葉を持ち出してくる。

 見た目だけなら毒草にしか見えない。


「これがお前さんの必要としていた素材だ」

「いただいてもいいのですか?」

「長老からは必要としている素材が余っているようなら提供するようにも言われている。私のところに残しておいても腐らせるだけだし、この薬草は扱いが限定されるせいで弟子も持って行かなかった代物だ」


 マリウスさんが持っていた調合に必要な道具は、独り立ちした弟子に渡してしまったらしく、そのせいで調合をしていた部屋には道具がなくて部屋が広く感じられてしまっていた。


 その余り物だった薬草を受け取るメリッサ。


「他の素材については名前すら聞いた事がない代物ばかりだ」


 エルフはほとんどが神樹の傍で引き籠っているような存在だから一般の錬金術師に知られていてもエルフの錬金術師が知らないだけだという可能性もある。


「しかし、本当にそんな薬が必要なのか?」

「いずれ使いたい時が来ます。その時に仲間内で揉めない為に作れるようになっておきたいのです」

「分かった。そういうことなら教えられる範囲で教えようじゃないか」


 眷属同士の仲が良いのはいいんだが、その目的が受け入れ難い。


「じゃ、じゃあ俺たちは里の観光をしているからメリッサは自由にしていてくれ」

「はい、ありがとうございます」


 笑顔で送られながらマリウスさんの家を後にする。


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