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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第12章 夢幻樹海
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第24話 エルフの報酬

「また、きさまらか……」


 エルフの里に帰って来た俺たちを疲れた様子の長老が睨み付けて来た。

 自分たちを脅かしていた魔物を討伐してきたというのに睨まれる理由が分からない。


『睨まれるのも仕方ないよ。向こうはたった5人で本当に討伐ができるなんて思っていないんだ。そんな状況でライトニングボールやら地雷の爆発音が派手に届いていたら不安にもなるよ』


 迷宮核(ダンジョンコア)が教えてくれる。

 言われてから改めて長老を見てみれば疲れているというよりは余裕がない、という感じの表情だ。


『普段は何十年も変わらない森の中にいるから派手な事が起これば慣れないせいで緊張しちゃうからね』


 疲れさせたことを申し訳なく思いながら周囲に誰もいない広い場所に道具箱(アイテムボックス)を出現させる。

 次いで、現れた巨大な蛾の魔物を見て長老が驚いている。


「これは、ジャイアントモスか……!」

「そうですよ。他にこれだけ巨大な蛾の魔物がいますか?」


 長老がフルフルと首を横に振っている。


「これでエルフを脅かしていた巨大な魔物は全て討伐された事になりますね」

「ああ……」


 俺たちの力を侮っていた長老は死体となったジャイアントモスを見ても信じられないらしい。


「ところでジャイアントモスの毒を受けた人々はどうなりましたか?」

「先ほど解毒薬が完成して全員に飲ませたところだ。今はまだ毒が抜け切っていないせいで目を醒まさないが、直に目を醒ますことになるだろう」


 その辺はシルビアたちと同じで起きるまでは時間が掛かるらしい。

 むしろ夢の世界から自力で脱出して普通に動き回っていたアイラの方が異常だ。


「そこで相談なんですが、ジャイアントモスの死体を買い取りませんか? エルフすら苦しめられる毒を持つ魔物なら強力な薬が作れるかもしれませんよ。それからジャイアントスパイダーの死体も回収していますよね」


 俺たちはすっかり忘れていたが、ジャイアントスパイダーの死体の回収を忘れていた。

 里に戻って来てから討伐した事は伝えているのでエルフの方で回収しているかもしれない。


「……たしかにジャイアントスパイダーも回収している」


 本当は黙ったままでいたかったのだろうが、苦戦させられた巨大魔物をあっさりと討伐した俺たちと敵対したくないと思った長老は簡単に認めた。


「身体のどこが使えるのか分からない魔物だったから素材を選ばずに解体して持ち運べるサイズにしてから里へと持ち込んだ」

「では、運搬費用などを差し引いた討伐報酬が俺たちに払われてもいいと思いませんか?」

「そう、だな……」


 巨大蜘蛛(ジャイアントスパイダー)巨大蛾(ジャイアントモス)の討伐報酬。

 彼らの立たされた苦境を考えれば請求しても問題ないと考えた。


「何が望みだ?」

「まずは、アリスターとの交易も再開してくれると考えてよろしいですね」

「もちろんだ。こちらも困っていたところだ近い内に伺う事を約束しよう」


 これで最低限の目的は達成された。

 口約束だが、俺に恩があるはずのエルフが簡単に裏切るとも思えない。


「そちらも準備があるでしょうからそこまで急がなくてもいいですよ」

「こちらも巨大魔物が出現したせいで採取に赴くことができずにいた。おかげで交易ができるほどの素材が手元にないから助かる」


 ジャイアントモスの毒で眠ってしまった数人を治療できたようにある程度の素材は残っているのだろうが、売りに行けるほどの余裕があるわけではない。


 まあ、アリスターにいる人が本格的に困る前に再開してくれればいい。


「二つ目は神樹を間近で見る権利をもらえませんか?」


 神樹の周囲に作られたエルフの里だったが、神樹に触れられるような距離の場所には住居がなかった。


 どうやら神聖視されている事から神樹の近くに家を建てる事すら禁止されているらしい。


「神樹に一体どんな用だ?」

「せっかくエルフの里まで来たので後学の為に神樹を間近で見ておきたかったんです」


 観光目的だと長老に伝える。


「いいだろう。私の判断だけで返事をするわけにはいかないからこの後長老会議に掛けて近付くことができないか伺うことにしよう。ただし、妙な事をした場合には只では済まされないからな」

「はい、大丈夫です」


 これで俺からの要望は伝えた。


 安心していたところで俺の後ろから長老に対して要望が上がった。


「それから調合に関する知識と欲しい素材がありましたら譲って頂くことはできませんか?」


 要望を伝えたのはメリッサだ。

 自分の要望を伝えるなんてメリッサにしては珍しい。


「実は、少々調合に関して興味があって独学で調べていたのですが、独学では限界がありましたのでエルフの方たちが持っている技術についても教えていただけないかと思ったのです」

「別に特別な事はしていませんよ。それでも構わなければお伝えしても構いませんし、素材についても問題のない代物ならお譲りできます」

「ありがとうございます。先方の都合がいい時に伺うことにします」


 メリッサの要望も受け入れられたようだ。


『お前らはどうする?』


 メリッサ以外の3人にも尋ねる。

 しかし、3人とも特に要望がないとの事だったのでこれ以上の要求はない。


「では、報酬の方についてはよろしくお願いします。今日はさすがに疲れたので早いですけど休ませてもらうことにします」


 長老の指示を受けてエルフの若者がジャイアントモスを運び出す姿を見送るとルイーズさんの案内で家に戻る。


 人々が普通に暮らしているエルフの里だが、里を囲むように魔物避けの魔法道具が設置されているだけで迷いの森の中である事には変わりない。神気の影響を受ける俺たちはエルフの案内なしでは道に迷ってしまう。


「それで、神樹の見学なんて要望してどうするつもりだい?」

「分かりました?」

「ああ、最初はアンタが言ったような単純な観光目的かと思ったけど、アンタの実力を考えると神樹が相手でも何かをするんじゃないかと思えるんだよ」


 酷い言い掛かりだ。

 俺は単純に1度引き受けた依頼なら最後までやり遂げようと考えているだけだ。


「今回の巨大魔物の討伐ですけど、まだ終わっていません」

「どういうことだい?」


 ベテランであるルイーズさんなら気付きそうなものだが、故郷が救われた事による安心感からか見落としていたみたいだ。


「そもそも今回現れた巨大な魔物は急に現れたわけですよね。突然現れた原因については全く分かっていない。根本的な原因については解決されていないどころか解明すらされていない状態なんですよ」

「言われればそうだね。巨大な魔物は森の奥や険しい谷底みたいな魔力の濃い場所だと稀に生まれることがあるけど、同じ場所に3匹も発生したとは聞いたことがないね」

「他の場所では聞いた事すらない。ここだけにある特別な要因がありますよね」


 全員で巨大な樹――神樹を見上げる。


「ご主人様は神樹に今回の事件の原因があると考えているんですか?」

「馬鹿な。神樹は世界を浄化する為にあるんだよ。それなのにエルフを脅かすような魔物を生み出すはずがないよ」

「エルフは神樹を信用し過ぎています。それは危険です。それに神樹とは全く違う意思が働いているのかもしれません」


 その時は、巨大魔物と対峙した時以上の危険を覚悟しなければならない。

 そういう意味もあって体調を万全にする為に明日以降の見学をお願いした。


「ま、調べたいっていうなら好きなだけ調べな。追い出されたとはいえ、エルフであるアタシには神樹がどうしても危険な存在だとは思えない」


 それは、他のエルフでも同じだろう。

 いや、最悪の場合には神樹を確認したいと申し出ただけで俺を害することも考えられる。そういった行動に出ないのは純粋に俺が恩人だからだろう。


「それよりもまだ言っていなかったね」


 家に辿り着いたところでルイーズさんが俺たちの方へ振り返る。


「アタシの故郷を救ってくれてありがとう」


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