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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第12章 夢幻樹海
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第19話 夢幻樹海

「ここは……デイトン村?」


 周囲を見渡すと生まれた時から見慣れた村の光景があった。

 柵に囲まれた村。村の至る所には畑があり、何世代もかけて広げてきた畑は村の中だけでは少なくなり現在は村の外にまで広げられている。


 俺が立っていたのは、そんな長閑な村の門だ。


 手には槍を持っており、着ている服は兵士に支給される物。


「どうしたマルス?」

「とう……さん?」


 初めは元気な姿で立っているのが信じられなかった。

 だが、たしかに死んだはずの父が目の前に立っていた。


「お前の父親であるクライスだが……何を呆然としているんだ?」

「いや……」

「仕事の最中に眠るような真似はしないでくれよ」

「分かっている」


 自分が着ている服を見れば、どんな仕事をしているのか分かる。


 村の兵士。

 いつか父親のようになりたいと思って目指した仕事だ。


 けど、そんな夢は……


「お兄様、お父様、お弁当を忘れていますよ」

「ああ、すまないクリス」


 今の状況に戸惑っていると妹のクリスがお弁当を持って現れた。

 彼女は色違いのお弁当の包みを二つ持っており、門の近くに置いてあった小さなテーブルの上に置いた。


 朝バタバタしていたせいで忘れてしまっていた。


「こっちはお父様のです」

「そっちは?」

「シルビアさんのお手製のお弁当です。当然、お兄様のお弁当ですよ」

「女の子からのお弁当なんて羨ましいな」

「そうですね」


 当然のように言う父と妹。


「シルビアからの弁当?」

「後、朝早くにアイラさんと家の前で出会ったのですが、会いませんでしたか?」

「ああ、今日は大物を狩ってくると張り切っていたぞ」

「アイラさんももう少し大人しくしてくれれば美少女なんですけどね」

「違いない」


 今度はアイラの話で盛り上がる父と妹。


 状況が分からない。


「どういうこと?」

「今日のお兄様はどこかおかしいですよ」

「そうなんだ。さっきからボーっとしていておかしいんだ」


 おかしいのは今の状況の方だ。

 そう思っても言葉にすることができない。


「しっかりして下さいお兄様。シルビアさんやアイラさんだけでなく、メリッサさんやイリスさんだって頑張って仕事をしているんですから、たくさんの女性から想われているお兄様がしっかりしなくてどうするんですか?」

「そうだぞマルス」


 メリッサとイリスまでいるのか。


「ちなみに二人は今日どうしている?」

「……? メリッサさんはいつものように村長の補佐をしているので数日前から村を出ていますし、隣村にいるイリスさんも含めて村にいない二人が何をしているのかは分かりませんよ」

「そういう設定か」


 呆れるしかない。

 この世界では、俺は子供の頃に憧れたように村で兵士をしている。


 そして、眷属4人から想われているらしい。


「お兄様もそろそろ誰と結婚するのか決めた方がいいですよ」

「相手を決めていないのか……」

「みなさん告白までしたのですから返事はした方がいいと思いますよ」


 そういえば、と思い出す。

 眷属として迎え入れる話をしたり、デートらしい事をしたりしたことはあっても俺の気持ちを彼女たちに伝えた事はない。


 その辺の事情――心の奥底に秘めていた願望が現れているのかもしれない。


「ちょっと相談に乗ってくれるかな二人とも」

「もちろんだ」

「はい」


 家族として当然のように俺の相談を聞き入れてくれる二人。

 もう、父に相談することはできない。


 これは――夢だ。

 夢だという事が分かっていても相談せずにはいられない。


「俺は、ハーレムとかそういうの興味がないし、父さんが母さん一人を想っている姿を子供の頃から見ていたから俺も将来は誰か一人と仲睦まじい家庭を築きたい、なんて事を考えていたんだ」


 将来は本当に村を守る兵士になるものだと考えていた。

 その事に疑問を持ったことはないし、当たり前だと思っていた。


「それが普通ですよ、お兄様。私はまだ相手がいないので、そういう気持ちは持っているだけです」

「お前は、まだ嫁に行く必要はないんだ」


 いつかは嫁に行く。

 その状況を想像した父が妹に注意していた。

 死魂の宝珠に記録された父とは大違いだ。


「けれど、シルビアは俺に一生懸命仕えようとしてくれるし、アイラと一緒にいるのは楽しい。メリッサも俺が気付かない事に気付いて色々と教えてくれるし、イリスだって慣れない同年代の相手と一緒にいる為に努力しているのを知っている」


 状況に流され、眷属になる事を勧めてみた。

 気付けば後には退けない状況になってしまったが、今の状況を楽しんでいた事に今さら気付いた。


「あいつらの事を好きなのかどうか今の俺には分からない」

「では、みなさんの告白は断るんですか?」


 妹からの質問に首を横に振る。


「俺には彼女たちが必要なんだ。だから誰一人として欠けるような事があってはならない」


 誰か、ではなく全員が必要だ。


「正直言って男として最低な発言をしているっていう自覚はある。それでも俺は彼女たちの主である事を選ぶよ」


 眷属として受け入れる時に自覚がなくとも俺は主になった。

 今さら捨てられない。


「この世界にいれば、失った父と憧れた仕事をして誰かと幸せな家庭を築けるかもしれませんよ」

「それはないよ」


 それだけは自信を持って言える。


「俺の手は誰かと手を繋ぐ為にあるんじゃない。4人と輪を作る為にあるんだ」

「それがお兄様の選んだ道なんですね」


 別に誰かとだけしか幸せな家庭を築くことができないなんて事はない。

 俺たちは既に5人で一つの家族だ。


「こんな選択をする息子を軽蔑する?」

「いや、しないさ。これで彼女たちを見捨てるような真似をする方が軽蔑する」

「そっか」


 俺の夢が作り出した父だったとしても父は父。

 父からの賛同が得られた事が何よりも嬉しい。


「だが、相手の親御さんにはきちんと了承を得ろよ」

「が、頑張る」


 父親にあたる人はメリッサの父親であるガエリオさんしかいないが、娘を持つ父親を相手に必要な事だ。

 最後にこの世界に感謝を述べる。


「この世界を作り出したのは俺のイメージや願望だろうけど、外で何かがあったんだろう。俺の最後の意識ではエルフの二人が離れて行く姿があった」

「この世界を作り出した原因については私も知りません。ですが、寝ている者が心の奥底に沈めていた願望を呼び起こして再現する夢の世界です」


 俺の場合は父と一緒に村の兵士をする。

 そこに自分を想ってくれる女性がいてくれる。


 なんて、ありふれた幸せな夢だろう。


 本来なら夢の世界でのんびりと生活を送るはずだった。


 だが、そうはならなかった。

 俺が特別だった原因が何かあるはずだ。

 スキル、魔法、体質――様々な要因に思いを巡らせて辿り着いた。


「イリスだな」


 自分は特別な存在なんかじゃない。

 頼りになる仲間がいる。


「この世界は、一種の状態異常です。お兄様には絶対の回復能力を持つ仲間がいるみたいですね」


 周囲の景色がドロドロに溶けだす。

 甘い夢の世界は終わりの時間を告げて溶けるらしい。


「あんまり堪能できなかったな」

「この世界が構築されてすぐにお兄様の状態異常は解かされ始めました。それでも世界が維持されていたのは、お兄様が心のどこかでこの世界を望まれていたからです」

「そっか」


 その気持ちを否定するつもりはない。

 俺は元来稼げても慌ただしい日々を過ごすよりものんびりと変わらない毎日を過ごしていたい。


「では、最後に神樹ユグドラシルの遣いである私からの助言です」

「なに?」


 神樹の遣い。

 てっきり俺の夢に出てきた妹だったから俺のイメージが作り出した存在だと思っていた。


「神は世界を救いましたが、世界は神を救ってはくれません。お兄様の力を世界は必要としていますが、お兄様はお兄様のやりたいように日々を過ごしてください。それが同じ世界を救った者の願いです」

「ああ、言われるまでもない」


 こんな世界を作り出して俺の邪魔をする者がいると言うのなら――


「全部叩き潰してくれる」


外で何があったのかは次回。

5人中4人が戦闘不能状態なので地味に最大のピンチだったりします。

そして、フラグだけ置いて行く神樹の遣い。いつ回収しよう……。

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