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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第12章 夢幻樹海
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第18話 VS巨大蜘蛛

 翌朝、目を醒ますとルイーズさんの家を出て迷いの森へと向かう。


「おはようございます」

「おはよう。話には聞いていたけど、本当にあの巨大魔物を討伐しに行くつもりですか?」


 昨日も会った門番に挨拶をすると彼は森に巨大魔物が出る事を知っていた。

 門番とはいえ軍人であることには変わりないか。


「まあ、安心して待っていて下さい」


 門番に見送られながら森の中へ足を踏み入れる。


 同行者はパーティメンバーにルイーズさん。

 それから……


「そこにいるお二人は付いて来るつもりですか?」

「……気付いていたか」


 門を出た先にある木に隠れていた二人に向かって告げる。


「我々はエルフの戦士の中でも精鋭だ。以前の芋虫との戦闘にも参加している。余所者であるお前たちに勝手をされては困る。だから長老からの命令で監視させてもらうことになった」


 また、面倒な……

 助けを求める為にルイーズさんの方を見ると首を横に振っていた。


 次いで念話で仲間に確認する。


『役に立ちそうにないので置いて行くことにします』


 反対意見は出なかった。


「監視するのは勝手ですけど、こっちは自分たちのやり方でやらせてもらいます。付いて来られなかったとしても待つような事はしませんよ」

「きさま……! 私たちを愚弄するのか」

「愚弄というか……まあ、いいか」


 行動を開始すれば分かる事だ。


「ふん。迷いの森で満足に行動する事もできないような連中がどうやって動き回る魔物を探すつもりでいるのか」

「それなら既に対策を用意してあります」

「なに……?」


 迷いの森にいるといつの間にか意識を逸らされて仲間とも逸れてしまう。


 それは、つまり逸れるまである程度の時間があるという事。時間にして数分は余裕があるはずだ。


 その数分の間に巨大蜘蛛まで辿り着けばいい。


振り子(ダウジング・ペンデュラム)


 収納リングから久しぶりにダウジング・ペンデュラムを取り出す。

 この魔法道具は、イメージした対象の方向に振り子が向き、使用者に対象までの距離を知らせてくれるという効果を持つ。


 振り子が北西を向く。距離は5キロ。


「随分と便利な道具を持っているね」

「使用には魔力を大量に消費するので俺たち以外が使っても使い物になりませんけどね」


 とにかく巨大蜘蛛の位置は分かった。

 しかし、振り子が北西から北へと徐々に動いている。


「チッ、動き回っているっていうのは本当だったのか。全力で行くぞ」

『はい』


 パーティメンバーから返事があったのを確認すると全力で走り出す。


「ちょ……」


 二人のエルフが置いて行かれたことに声を上げるのを後ろに確認しながら迷いの森を駆ける。



 ☆ ☆ ☆



「ぜぇ……ぜぇ……」


 息も絶え絶えなエルフが二人背後から近付いてくる。


「遅かったですね」

「どういうことだ、これは……?」


 二人には目の前の光景が信じられないらしい。


「だから討伐ですよ」

「ふざけるな! これが討伐なはずないだろ!」

「けど、あの蜘蛛が貴方たちエルフを追い詰めた相手で間違いないでしょう」


 その時、ズシンという重たい音が響き渡る。

 アイラとイリスの剣に切断されてしまったことで巨体を支えていた足が半分も失われたせいで巨大蜘蛛(ジャイアントスパイダー)が地面に倒れる。


「剣で、足を斬っている……?」


 エルフは非力な者が多く、魔力に優れている種族らしいので巨大蜘蛛との戦闘でも風の刃や土の弾丸で攻撃していた。


 しかし、ほとんどの攻撃が硬い体に弾かれてダメージを与えることができずにいた。


 そんな光景を自分の目で見ていた彼らには剣で軽々と切断していく光景が信じられないみたいだ。


 ――キシェアアアァァァァァ!


「うるさい」


 足を失った痛みからジャイアントスパイダーが声を上げる。

 それを煩わしく思ったアイラが聖剣で斬り付けていた。


 本来なら狙いの外れる迷いの森での戦闘だが、ジャイアントスパイダーは足の大きさだけでも1メートル近くある。そんな物を斬り付けるだけなら多少の感覚を狂わされても問題ない。

 さらに言えばアイラには何でも斬れる明鏡止水がある。エルフの攻撃を防いでいた硬い体も軽く斬り付けるだけで問題なく斬ることができた。


 そして、イリスにもアイラの明鏡止水と同様に『迷宮破壊』がある。

 迷宮破壊は、迷宮にある非破壊特性を持つ壁や構造物すらも破壊できるようになるスキル――明鏡止水の迷宮バージョンだ。

 当然ながら非破壊特性など持っていないジャイアントスパイダーの足は紙のように斬り裂けていく。


「あの力だ。ジャイアントスパイダーともまともに戦えるようになるだろうと思っていたよ。問題は、逃げ出したあの娘たちの精神性だ。それを魔法でカバーするなんてね」


 イリスが剣士として前衛二人がジャイアントスパイダーと戦っている。

 その手前ではメリッサが俺以外のパーティメンバー全員に『狂戦士の心(バーサクハート)』という魔法を使用している。


 バーサクハートは、目の前にいる敵を倒す事以外考えられないようにする光属性の精神魔法で本来は状態異常に陥らせる為の魔法だ。


 魔法を掛けられているおかげで彼女たちの心には――


『あれは敵。敵は――殺す!』


 逃げる、という選択肢が消えていた。


 ただし、問題がいくつかある。


 その一つが俺たちのステータスの高さだ。

 状態異常の魔法であるため魔力値の高さから防ごうとしてしまう。そのせいで、せっかくの魔法も数秒もてばいい方だった。


 だから――


狂戦士の心(バーサクハート)狂戦士の心(バーサクハート)狂戦士の心(バーサクハート)――」


 メリッサは全員に魔法を掛け続けていた。

 普通の魔法使いならとっくに魔力切れで倒れていてもおかしくない回数の魔法を使用しているのだが、ジャイアントスパイダーと対峙する為に必死なメリッサに魔力の残量を気にする様子はないし、する必要もない。


 そして、二つ目の問題。


「この短期間で慣れろ、なんて酷な事を言うつもりはなかったけど、いいのかい?」


 俺たちに付いて来たルイーズさんは戦闘に参加せず、離れた場所から3人が戦っている様子を見ていた。

 正確には、戦っている彼女たちの表情。


「彼女たちが受け入れているんですから今回限りです」


 バーサクハートを使われたアイラとイリスの表情は、ジャイアントスパイダーを斬る度に笑っていた。しかも斬る度に笑みが深くなる。

 はっきり言って女の子がしていい表情ではない。


「おっと」


 足を斬られた事に怒ったジャイアントスパイダーがアイラの方を向いて口から糸を吐き出す。

 吐き出された糸を剣で斬ろうとするアイラだが、縦に斬ることはできても少しでも付着すると面倒になる。


 バーサクハートのせいで回避する選択肢も失われてしまっているらしい。これはバーサクハートの欠点だな。


召喚(サモン)


 糸に捕まるよりも早くアイラが俺の傍に転移する。


 吐き出した糸が何もない場所に当たって驚いているジャイアントスパイダー。


「あはっ、もらった!」


 隙だらけのジャイアントスパイダーの足が斬られる。


 残りの足の数――3本。


「こら、あたしの分も残しときなさい!」


 標的が少なくなった事に憤ったアイラが駆け出そうとするが、その肩に手を置いて止める者がいた。


「もう見つかったわ」


 アイラよりも速く駆け出したシルビアが両手に短剣を持って跳び上がる。

 彼女も当然の如く狂戦士の心(バーサクハート)が施されており、その笑みは見ていられない。


「魔力刃」


 シルビアが短剣に魔力を流すと刃の先から金色に輝く光の刃が生まれる。


 攻撃力不足を嘆いたシルビアの為に渡した新装備で、魔力を流すことによって長剣と同等の長さまで刃を生み出す事が可能になる。本物の刃と同様に相手を斬る事が可能な剣だが、魔力で作られているため重さを感じさせずに短剣と同じように振り回す事が可能になる。


 長剣まで伸びた剣がジャイアントスパイダーの額に突き刺さる。

 そのまま額を蹴って離れたシルビアの短剣には、たしかに巨大な魔石が突き刺さっていた。


 魔石がなければ魔物が動き出す事はない。


 シルビアには他のメンバーが戦っている間、感覚を狂わされる森の中で【探知】をずっと使ってもらいながらジャイアントスパイダーの魔石を探してもらっていた。


 あれほどの巨体なら倒すのに時間が掛かる。

 魔石を真っ先に狙ったおかげで戦闘開始から数分で討伐が完了した。


「とはいえ、必要なかった作戦かもしれないな」


 倒れたジャイアントスパイダーの状態は酷かった。

 このまま戦い続けても倒せたかもしれない。


「みんな、大丈夫だったか?」

「……大丈夫じゃない」


 いつも快活なアイラが落ち込んでいる。


 狂戦士の心(バーサクハート)を使われている間も本人の記憶は残る。

 きっと自分の振る舞いを思い出して恥ずかしくなっているに違いない。


「ほらほら討伐は終わったんだから、とりあえず長老たちに報告する為に戻ろう」


 油断していたわけではない。


 偶然に遭遇したのがジャイアントスパイダーだったせいで、もう1匹の存在を忘れていた。


「雪……?」


 上空からパラパラと何かが落ちてきた。


 最初は雪かと思った。


 しかし、今は春。

 夏にはまだ早いが、雪が降るほど寒くない。むしろ熱い。


「チッ、これは……!」


 付いて来たエルフ二人が口を塞ぎながら離れて行く。

 何をしているのか尋ねることはできなかった。


「あれ……?」


 そこで、意識が途絶えた。


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