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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第12章 夢幻樹海
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第16話 エルフの里

 迷いの森をしばらく歩いていると木の柵に囲まれた場所が見えてくる。


「アレがエルフの里だよ」

「里っていう規模ですか?」


 柵は街道の左右に長く続いており、端が木に隠れて見えなかった。


 地図(マップ)で確認できる範囲から考えて都市であるアリスター以上の広さがありそうだ。


 それだけの広さが必要とした理由については里に近付く前から見えていた。


「なんですか、あの大きさは」

「あれが神樹ユグドラシルだよ」


 イタズラが成功した子供のようにルイーズさんが笑っている。

 初めて神樹ユグドラシルを見た俺たちは驚くしかない。


「一体何メートルあるんですか?」


 里の中心には巨大な樹があった。

 いや違うな。神樹の周囲に里が作られたんだ。


「計ったことがないから分からないけど、少なくとも1キロ以上の大きさはあるだろうね」


 神樹の傍には他にも大樹と呼べるだけの木が何本も生えている。

 しかし、大樹が細く見えるほど神樹は大きかった。


「これがエルフの里だ。そろそろ行くよ」


 神樹を見上げる為に止めていた足を進める。


 エルフの里へ続く街道には木で作られた門があり、門の前には俺たちと見た目の年齢はそれほど変わらない2人の男が槍を持って立っていた。


「何者だ?」

「アタシだよ」

「ルイーズ?」


 見ず知らずの相手が現れたということで門番が警戒していた。

 だが、同郷であるルイーズさんが歩み出ると門番をしていた相手も警戒を少しだけ解いてくれた。


「一体、何の用だ?」

「なに。普段から取引のあるアリスターの商人が里からの行商が途絶えて困っていると聞いて調査に来たんだよ。昨日は途中で迷いの森から追い出されたと思しき魔物も討伐してきたし、森の中で巨大な蜘蛛も見かけた。詳しい話を聞かせてくれるかい?」

「……分かった。今、上の方に掛け合ってくる」


 ルイーズさんと知り合いらしき男性が里の中へと入って行く。


「アンタたち元気だったかい?」

「少なくとも老化が始まったお前よりは長生きできそうなぐらい元気なつもりだ」

「女性に向かって老化とはなんだい? せめて成長と言いな」

「ふん……子供の頃は一緒に遊んだ相手の死期が近付いているんだ。これでも精一杯の気を遣っているつもりだ」


 やはり、と言うべきかエルフの里の門番をしていた男性はエルフだったらしい。

 しかも、俺たちと見た目の年齢はそれほど変わらないにも関わらず90歳以上のルイーズさんと同年代らしい。


 そんな風にルイーズさんが昔話に花を咲かせていると里の中に入って行ったエルフの男性が戻って来る。


「長老衆が会うらしい。里の中に入る許可が出た」

「まったく……同じ里で生まれたエルフが里帰りしたっていうのに許可が必要だなんて冷たい村だね」

「里帰りする度にそんなことを言っているぞ。さすがに長老衆も子供だったお前を里の外に追い出したことに負い目があるんだ。だから短期間の滞在なら認められているんだ」

「それぐらいの事は分かっているよ。コイツらもいいんだね」

「許可は貰っている」


 どうやら俺たちも里の中に入って問題がないらしい。


 門番の男性に先導されながら里へ入る。


「これは……」


 門を潜った瞬間、世界が一変した。


 迷いの森は、人を迷わせる為に同じような樹が等間隔で植えられ鬱蒼と生い茂った葉のせいで陽の光が入って来ないせいもあって荒野とは違った理由から殺風景な世界が続いていた。


 しかし、エルフの里は全く違う。

 同じ森の中にありながら空から陽の光が届き、里の中にある大樹の傍に住宅が作られており、生活に必要な水路が流れている傍で女性たちが穏やかな笑みを浮かべながら談笑していた。少し離れた場所では、談笑している女性たちに似た4人の幼い子供がボールで遊んでいた。


 談笑していた女性の一人が俺たちに見られていることに気付いて微笑みながら手を振ってくる。

 エルフの里に人間が訪れる事など滅多にないはずなのだが、ルイーズさんが同行しているせいか拒絶されるようなことはなく、歓迎されているみたいだ。


「アリスターに来られない事や森の様子から里では困っているのではないかと思っていたのですが、そんな事はないのですね」


 里の様子を確認しながらメリッサが門番の男性に尋ねる。


「我々エルフは神樹の加護さえあれば100年は若いまま余裕で生きる事ができます。そのせいか多少の危機では動じないのんびりとした者ばかりになってしまいました。今回の一件も困っていると言えば困っているのですが、長老衆が『時間が解決してくれる』と言ってくれたので、ほとんどの者がその言葉を信じて普段通りの生活を送っている状況です」

「やっぱりね……」


 この状況を予想できていたルイーズさんは里の状況に頭を悩ませていた。


 エルフであるなら特別な事でもない限り里から出て行く事はない。そのため里に引き籠る事になったとしても困らないという事だろう。


 だが、それも一部の者だけだ。

 本当に里の中だけで生活が完結するならアリスターとの商売など必要がないはずだ。

 商売が今でも続けられているということは、商売によって得られる物を必要としている人がいるというに他ならない。


「着きました」


 里の様子を確認しながら歩いている内に里の中心にある神樹ユグドラシルの根元に作られた家に到着する。


 この家にエルフの長老衆がいる。

 しかし、エルフの長老が住んでいるにしては小さな住居だ。


「勘違いしないでほしい。この建物は長老衆が会議などをする時に利用される建物で住んでいるわけじゃない。普段から住んでいる屋敷ならもっと大きな物がある」

「なるほど」


 言わば集会場みたいな物かと納得する。


「長老、ルイーズをお連れしました」

「入ってくれ」


 家の中から声が聞こえる。

 門番が家のドアを開けて中に入れるようになると家の中にはリビングのような広い部屋があるだけで大きな円卓の向こう側に5人の男性が座っていた。


 彼らが門番の言う長老衆。


 しかし、そこにいるのはエルフ(・・・)の長老衆。

 長老衆という言葉から祖父のような老人をイメージしていたが、円卓の前に座っていたのは見た目20歳ぐらいの青年だった。


「ふん。久しぶりだね長老衆。そっちは相変わらず変わっていないみたいだね」

「ルイーズ……会うのはお前を追い出す決定をした時以来だな。お前は里に帰って来る事が何度かあっても長老である私たちに会うようなことはなかったからな」

「私が里帰りした理由は結婚の報告に主人と帰って来たのと生まれた息子や孫を両親に見せに来ただけだからね。彼らにとっては孫や曾孫だ。誕生を喜ぶ権利ぐらいはあるはずだからね。だから、長老衆と顔を合わせる理由がなかったんだよ」


 ルイーズさんが長老5人の中でもリーダーらしき男性の向かいに座りながら話をする。


 俺たちはどうしたらいいのか分からないのでルイーズさんの後ろに立ったままだ。


「それで、今回帰って来た理由を聞いてもいいかな?」

「アリスターに2カ月も行っていないみたいだね。その理由が気になって調査に赴いた次第だよ」

「その件か」


 ルイーズさんと話をしていた長老が額を摘まんで悩む。

 左右にいる長老も話していいものか悩んでいるようだった。


「里の連中には『時間が解決してくれる』みたいに言っているようだけど、それは確かなんだろうね」

「いや、その説明で済ませているのは一般レベルの話だ。事態はそれ以上に深刻だと言っていい」

「……森で巨大な蜘蛛と遭遇した。アレが関係しているのかい?」

「災厄の3匹の内の1匹と既に遭遇しているなら話が早い。2カ月ほど前にそれまで見たこともない巨大な魔物が突然3匹も現れるようになった。名前がないと困るので私たちは仮に巨大蜘蛛(ジャイアントスパイダー)と呼んでいる。お前たちが遭遇した巨大な魔物が森の中を我が物顔で跋扈しているせいで私たちは森から出る事ができなくなってしまった」


 3匹の内の1匹。

 あんな魔物が他に2匹もいるとシルビアたちの表情が青褪める。


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