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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第12章 夢幻樹海
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第15話 ルイーズの説教

「アンタたち自分が何をしたのか分かっているんだろうね」

『はい……』


 地面の上に正座させられたシルビアたちが辛そうにしながらルイーズさんの言葉に頷く。


 正直なところ全員スカートなので素足で地面の上に正座させられている姿を見ているとついつい庇いたくなってしまう。


 しかし、ここで庇っては彼女たちの為にならない。


「アンタたちが逃げ出した理由は分かっているけど一応聞くよ。どうして逃げ出したんだい?」


 しかも俺を置いての逃走だ。

 四人ともが巨大蜘蛛とは反対方向に逃げたおかげで逃走方向が一致したので全員が一緒に逃げ出したように見えたが、実際には自分の事だけを考えて逃げ出していた。


 冒険者として仲間の事を考えられなければ全員の生還率を著しく下げることになる。

 先輩冒険者としてルイーズさんは彼女たちの行動が許せなかった。


「その……あまりに蜘蛛の顔が気色悪かったので……」

「同じく」

「あれを相手にするのは女として無理です」

「私も冒険者として蟲型の魔物には慣れたつもりだったけど、あれはちょっと……」


 つまり、全員が蜘蛛の事が気味悪くて逃げ出した。


 たしかに俺も気持ち悪いとは思ったけど、逃げ出すほどではなかった。


 同じ女性であるルイーズさんは巨大蜘蛛の姿を見てシルビアたちが逃げ出した光景を見た瞬間に理由を悟ったらしい。


「冒険者なら全員が生き残る為に誰かを見捨てるなんて真似をしたらいけないよ。今回は、あの蜘蛛が男であるマルスに目もくれずにアンタたち女を追って行ったから助かったけど、コイツは蜘蛛の攻撃で身動きができない状態だったんだよ。下手をすれば喰われていた可能性だってあったんだ」


 俺が殺されていたかもしれないと聞いてシルビアたちの表情が青ざめる。

 いや、たしかに身動きができない状態だったのは間違いないんだけど、だからと言って喰われていたとは思えない。事実、捕まっていても余裕はあった。


「しかもこの森は逸れると合流の難しい場所だよ。そんな場所で自分から別行動をするなんて愚か者のすることだよ!」


 俺が召喚(サモン)を使えたから問題なく合流することができたが、巨大蜘蛛から逃れることができたとしても迷いの森では合流することが難しい。


「でも、あんな気味悪い魔物を目にしたら……」

「冒険者をやって行くならあれぐらい耐えな」

「ルイーズさんはどうして平気なんですか?」

「単純に慣れだね。長く冒険者をしていればあれぐらい巨大な魔物には何度か遭遇することはあるし、アタシはこの森で育ったエルフだからね。蟲型の魔物ぐらいは見慣れているんだよ」


 全く参考にならないアドバイスをもらった。


 慣れが必要だと言うなら迷宮にいる蟲型の魔物で慣れるという方法も取れるが、生憎とそんな事をしている時間はない。


「アンタたち、森に起こった異常については理解しているだろうね」


 4人が頷く。


 体長10メートルもの巨大な魔物は迷宮にも滅多に存在しない。4人を待っている間にルイーズさんから教えてもらったが、そこまで大きくなれば縄張り内で主を名乗ってもおかしくない存在との事だ。

 あの巨大蜘蛛が現在の迷いの森における主になっている可能性が高い。


 つまり、森に元々いた蟲型の魔物を追い出した魔物は先ほどの巨大蜘蛛であると考えられる。


「森に起こった異常を解決しに来たアンタたちだ。当然ながら異常の原因がさっきの巨大蜘蛛にあるなら巨大蜘蛛を討伐しないといけないんだよ」


 その言葉を聞いて表情が青ざめる4人。


「な、なんとかなりませんか?」

「……リーダーのコイツ一人に任せるかい?」


 俺なら巨大蜘蛛を前にしても気味悪いと思うことはあっても戦ううえで問題になるようなことはない。


 だが、彼女たちが戦うことに抵抗感があることは分かっている。

 サモンをする前から迷宮核(ダンジョンコア)によって4人の会話を聞かされていた為だ。


 どうしても巨大蜘蛛との戦闘を避けたいというのなら俺一人で戦っても構わないと思っている。


 けれどもシルビアは青褪めた表情のまま首を横に振る。


「ご主人様一人を戦わせるわけにはいきません」


 キッパリとルイーズさんに宣言する。


「ほう……」


 その宣言を聞いてルイーズさんも感心していた。


「ま、やることはやらないとマルスの仲間と言えないからね」

「主なら一人でも勝てると思いますが、支援ぐらいはしっかりとやりたいと思います」

「私もマルスさんが戦うというのに一人だけ逃げるつもりはありません」


 みんな……。

 巨大蜘蛛と戦うことに拒絶感はあるものの戦う決意をしてくれた。


 その事が凄く嬉しい。


「なるほど、そういうことかい」


 だが、ルイーズさんは全く別の事に感心していた。


「『ご主人様』に『主』かい」

「「あ」」


 シルビアとメリッサから『しまった』という感じに声が上がる。


 俺も2人の失態に気付いた。

 人前では俺の事を名前で呼んでいた2人だったが、巨大蜘蛛から逃れた安心感か説教による疲れから俺の事を普段通りに呼んでしまった。


「アンタたち、やっぱりそういう関係だったんだね」

「……その通りです」


 メリッサが肯定すると顎に手を当てて何かを考え始めたルイーズさんが俺に確認してくる。


「さっきのコイツら4人を呼び寄せたスキルだけど、アンタの傍に4人を呼び寄せるスキルかい?」


 本来なら他人には教えたくない俺のスキルだが、森で安全を確保する為にはルイーズさんの知識が必要になる。


「そうです。主である俺の傍に眷属である彼女たちを呼び寄せるスキルです」

「アタシは含まれないんだね」


 残念ながらサモンで呼び寄せることができるのは眷属だけだ。


「だったらアタシはアンタから離れない方がいいね」


 仮に逸れてしまったとしたら4人をサモンで呼び寄せることはできたとしてもルイーズさんを呼び寄せる事はできない。


「ちなみにアンタからコイツらへの移動は可能かい?」

「いえ、それは不可能です」

「分かった」


 サモンがあるおかげで最悪の事態だけは免れることはできる。


「あの……何か魔物と戦えるようになるアドバイスはないでしょうか?」


 いざ戦う決意はしても嫌らしい。


「慣れる以外に方法はないね。アンタたちはアタシが知らないようなスキルをいくつか持っているみたいだから何か使えるスキルはないかい?」

「ええと……」


 4人が尋ねるように俺へ視線を向けてくる。

 本来なら禁止したいところだが、巨大蜘蛛から逃げていた彼女たちの様子を知っているだけに禁止してしまうのは可哀想だ。

 仕方ないので頷く。


「……あります。ですが、他言無用でお願いします」

「その辺は大丈夫だよ。ギルドマスターの名に懸けて冒険者の秘密は守ることを約束しよう」


 メリッサの要請を了承してくれた。

 もはや、必要最低限など言っていられないので全力で戦ってもらうことにする。


「そろそろ出発しませんか?」


 既に20分近く説教されている。

 シルビアたちを追って行った巨大蜘蛛が戻って来る気配はないが、いつ戻って来るとも分からない。できることなら早目にこの場を離れた方がいい。今の彼女たちでは戦力にならない。


「……分かった。とりあえずエルフの里まで行こう。あそこなら里を囲うように魔物避けの効果がある魔法道具が置かれているからさっきの巨大蜘蛛も入って来られないかもしれない」


 都市にもある魔物避けの結界。

 それがあれば魔物を恐れる必要はない。


 説教が終わったことにホッとした4人が立ち上がると足に付いた土を叩き落としていた。


「里に着いたら続きだからね」


 しかし、説教が終わっていないことを聞いた彼女たちの表情が一瞬で暗くなってしまった。


 さすがに見ていられない。


「まあ、俺は結局無事だったんですから気にしていないですよ」

「アンタがそんな調子だからコイツらが逃げ出したんじゃないかい? アンタにもリーダーとしての責任を自覚してもらう必要がありそうだね」


 おっと、こっちにも飛び火してしまった。


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