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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第12章 夢幻樹海
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第14話 逃げ出した眷属

シルビア視点です。



 全力で森の中を駆け抜ける。

 全力、と言っても個々のステータスで敏捷に差があるためにある程度速度を抑えて走る。


「で、わたしたちはいつまで逃げればいいの?」


 そっと首だけを後ろに向ける。


 ――キシェアアアァァァァァ!


 わたしが振り向いたことに気付いた巨大蜘蛛が奇声を上げる。


「「「「無理無理無理!」」」」


 4人の声が一斉に響き渡る。


 蜘蛛型の魔物を見るのは初めてではないけど、わたしたちの5倍以上もある巨大と呼んでも問題ないサイズの蜘蛛を見るのは初めて。


 巨大蜘蛛から逃げている私たちの気持ちは一致していた。


「あれは無理!」

「キモッ!」

「……」

「生理的にダメ」


 前方にあった木を左右に分かれて回避すると再び4人で合流する。


 少しすると後ろの方で木が弾き飛ばされる音が聞こえる。巨大な蜘蛛は途中にある木など障害物と見做さずに弾き飛ばしてわたしたちに狙いを定めている。


「っていうか、ご主人様を置いてきたけど良かったの?」

「いや、普通によくないよ」


 わたしの疑問にイリスが答えてくれる。


 眷属として主を置いてくるなんて問題外だけど、巨大蜘蛛の姿を見つけた瞬間にそんなことを気にしていられるような余裕はなくなってしまった。

 戦う気力すら失って逃げることしか考えられなくなってしまった。


「いつものようにキッチンにいるあの黒い虫を叩き潰しているようにあの蜘蛛も叩き潰したらどうよ?」

「サイズが違い過ぎる!」


 眷属になる前なら怯えるしかなかったあの黒い虫を相手に戦えていたのは、眷属になったことで得たステータスのおかげで自分よりも小さな虫が動いていても止まったように見えていたから。


 しかし、後ろから迫る巨大蜘蛛はわたしの何倍ものサイズがある。

 あれに近付くことを考えただけで嫌悪感が凄い。


「そういうアイラだってあれだけ大きな相手なら真ん中を狙えばこの森の影響で狙いを外すような事もなさそうだから斬ってみれば?」

「あれを……? 斬った瞬間におぞましい体液とか溢れてきそうで嫌なんだけど」


 本当に嫌らしく、いつものような快活な様子がない。

 わたしも同じ理由で短剣を使うのは躊躇われるので気持ちは分かる。


「こういう時こそ魔法使い2人の出番でしょう」

「分かりました」


 何かを決意した瞳のメリッサが詠唱を始める。


「――深淵より呼び覚まされし焔よ。全てを紅に染め上げ――痛っ!」


 詠唱をしていたメリッサの頭が隣を走っていたイリスによって叩かれていた。


 叩かれた痛みから詠唱が中断されたせいで魔法も発動しなかった。


 というか、普段から威力を抑えてでも無詠唱で魔法を使っているメリッサが本気の詠唱をしていたということは、それだけ強力な魔法であると言える。


「一体、どんな魔法を使おうとしているの!」


 現にそのことを咎める為にイリスはメリッサの頭を叩いていた。


「そんなに強力な魔法を使おうとしていたの?」

「火属性の魔法の中でも最強クラスの魔法――深淵の焔(ムスペルヘイム)。ただでさえ森の中で火属性魔法を使用するのは危険だというのに、それだけ強力な魔法を使えば森が一瞬の内に焼き尽くされてしまう」


 巨大蜘蛛を倒す為だけにそんな強力な魔法を使おうとしていたメリッサに思わずドン引きしてしまう。


 そんな大惨事に巻き込まれたらわたしたちも無事では済まされない。


「……本当にアレをどうにかしたかったのです」


 申し訳なさそうにしながらメリッサが後ろに向かってウィンドカッターを何本も放つ。


 迷いの森の影響のせいで的外れな方向に飛んで行くウィンドカッターが含まれているけど、3枚のウィンドカッターが巨大蜘蛛の体に当たる。

 けれども巨大蜘蛛の体に当たったウィンドカッターは硬い体に弾かれてしまう。


「下級の魔法ではいくら当てられたところで意味がなさそうです。やはり、ここはムスペルヘイムほど強力な魔法で消毒を――」

「それはダメ!」


 いつもは冷静なはずのメリッサが巨大蜘蛛の醜悪な姿を目にしてしまったせいか冷静な判断ができないどころか大火力による消滅を考えている。


 メリッサに頼るのは危険だ。


「……イリスは何かいい案がないの?」

「私の魔法能力で逃げながらだと……氷柱を生み出して当てるぐらいしかできないけど、さっきのウィンドカッターと大差ない結果にしかならないから意味がないと思う。なら、いっそのこと森ごと凍らせてしまうのが……」


 もう聞いていられない。

 イリスもメリッサと同じで災害を引き起こしてでも倒すことしか考えていない。


 2人の強すぎる魔法に頭を悩ませている間に巨大蜘蛛との距離が徐々に近づいていた。


「もう、いっそのこと分かれて逃げる?」

「その結果、誰かを犠牲にすると?」

「あ~」


 敵はたった一匹。


 ここで4人が分かれて逃げれば敵が追うのは自然と一人だけになる。他の三人は生き延びることができる。

 しかし、同時に追われた一人は犠牲になることになってしまう。


 そんな状況は許容できない。


「この場に仲間を見捨ててでも生き延びたいと思う人間がいるなら今すぐ離れなさい」


 わたしの言葉に誰も離れない。


 まあ、分かっていたことではある。

 わたしたちの主は、他者に犠牲を出す事を厭わない人だったとしても身内に犠牲が出る事を絶対に許容しない人だ。そんな主の眷属であるわたしたちが身内である仲間を犠牲にするような選択をするわけにはいかない。


 それに一緒にいた時間はまだ1年にも満たないし、時折本気の喧嘩をするような間柄だけど掛け替えのない仲間だと思っている。


「ま、肝心の主を置いて来たあたしたちが何を言ったところで説得力なんてないんだけどね」


 アイラが笑いながらそんなことを言う。

 わたしも笑えるなら笑いたい失態だ。


「助けに来てくれないのはちょっと心配だけど、無事なことはたしかなのよね」


 主が絶命した時、眷属であるわたしたちも共にする。

 現在、無事に逃げられている状況である以上、ご主人様が少なくとも生きている状態であることは確かだ。


「さて、そろそろ十分な距離は稼げたことですし、逃げることにしますか」

「……え?」

「いえ、逃げるだけなら簡単なのです」


 冷静さをようやく取り戻したメリッサが打開策を教えてくれる。


 けれど、打開策があるにしては表情が暗い。


「逃げ出した手前、頼るのは非常に気まずいのですが、頼らないとその内に追い付かれてしまいそうですから必要な事です」


 迷いの森の特性のせいで真っ直ぐ逃げているはずが蛇行しながら走っているせいで影響を受けることがない巨大蜘蛛との距離は縮まる一方。


 普通に走って逃げているだけでは遠くない内に追い付かれてしまう。


「もしもし……主ですか? 今すぐに私たち全員を『召喚(サモン)』して下さい」


 逃げているせいで余裕のないメリッサの口から念話の内容が漏れ聞こえてきた。


 召喚――それは、迷宮操作によってできる事の一つで迷宮内にいる魔物や眷属を自らの傍に呼び出すことができるスキル。


 今回は、離れてしまったわたしたちを呼び出してもらう。


 たしかにその方法なら既にご主人様から離れた状態なので巨大蜘蛛との距離を一瞬で大きく引き離すことができる。


 ただし、それは置いて来たご主人様との対面を意味している。

 普段なら呼ばれれば真っ先に駆け付けたい相手だけど、今ほど呼ばれるのが嫌に感じたことはない。


『召喚』


 ああ、そんな声が頭の中に響き渡る。


 いきなり空間移動させられると目の前の景色に驚いてしまうので、事前に移動させる事を知らせる為に呼び掛けていた。


 目の前の景色が一瞬で変わ――ったようには見えないけど、目の前には丸太に腰掛けたご主人様と両腕を組んでイライラした様子のルイーズさんがいた。


 ご主人様はいつも通りだけど、ルイーズさんは間違いなく怒っている。


 その瞬間、わたしたち四人の心は一致した。


『すみませんでした!』


 全員で平伏しての土下座。


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