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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第12章 夢幻樹海
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第12話 迷いの森

「ここが、迷いの森……?」


 初めて見た迷いの森は、木々が鬱蒼と生い茂っているせいで中が薄暗くなっているが、それ以外は普通の森とあまり変わらない。


 いや、デイトン村を出た後、街道に沿って歩いて辿り着き、その街道は森の中にも続いていることを考えれば人の出入りがない森よりも整備されていると考えられる。


 しかし、油断してはいけない。

 これまで多くの人間を迷わせ、上空から偵察に向かわせた使い魔すらエルフの里に辿り着くことができずに上空で迷ってしまった森だ。今は森にソードマンティスよりも強力な魔物がいることもあって危険な森であることに変わりはない。


 だが、どこに危険があるのか分からない。


「整備された道がなければ行商に馬車を使うこともできない。この道に沿って歩くことができればエルフの里まで辿り着くことができるよ」


 エルフの里までの明確な目印があった。

 なぜ、道に迷ってしまうのか分からないほどだ。


「迷う理由については森をしばらく歩けば分かるよ」

「そういうことなら」


 森へ一歩踏み出す俺たち。


 特に変わったところはない。


 後ろでゆっくりと付いて来るイリスを除いて。


「き、気持ち悪い……」

「我慢しな。自分がどれだけ飲めるのか分からないのに美味しいからって何杯も酒を飲む奴が悪いんだよ」

「だって……初めて飲んだお酒があんなに美味しいなんて思わなかったんだもん……しかもあんな言葉まで言ってしまって……後悔と二日酔いで頭が痛いよ」

「この娘は……」


 どうやらイリスは酔ってしまうとハイテンションになってしまうらしいが、その間の記憶が全て残っており、翌日には二日酔いで倒れてしまう体質らしい。


 しかし、どれだけ後悔と体調不良から引き籠りたくても付いて来てもらわなくてはならない。


「アンタ酔っていた時は昔と同じように敬語を使っていたし、今の口調は無理をしているんじゃないかい?」

「無理をしているつもりはない。みんなと仲良くなりたいのは本当で、お義母さんたちに相談したら口調から変えてみるように言われたから、頑張っているだけ」


 幼い頃から冒険者として年上の男性と一緒に活動してきたイリスは敬語で過ごすのが当たり前になってしまった。


 しかし、同年代の少女たちと仲良くなる為の方法として母たちに相談してみたところタメ口で会話をするように言われていた。


「ほら、行きな」

「きゃっ」


 背中を押されて前に進み出たイリスの足取りは体調不良のせいで覚束ない。


 仕方ない。


「行くぞ」


 イリスの手を引いて森の中を進む。


 特に変わったところがあるようには見えない。


「しばらくは自分たちで歩いてみるんだね」


 案内役に付いて来たはずのルイーズさんが後ろへと下がる。


 疑問に思いながらも進むこと5分。


「……あれ?」


 最初に気付いたのはアイラだった。


「ズレてる?」


 街道に沿って歩いてはずなのにいつの間にか街道のない森の中を歩いていた。

 しかも近くを歩いていたはずのパーティメンバーが全員バラバラになっていた。手を繋いでいたはずのイリスすら少し離れた場所にいた。


 いつの間に……。


 全員が戸惑うばかりだ。

 唯一戸惑っていないのは案内役であるルイーズさんだけだ。


「これが、この森が迷いの森と呼ばれる理由だよ」

「どういうことですか?」

「この森には神気が満ちていてね。理由は分からないけど、人を迷わせようっていう意思が働いているんだ。おかげで森に入った人間は感覚を狂わされて真っ直ぐ進むことができないうえ、仲間と離れても逸れたっていう意識が持てないらしい。気付いた時には手遅れになっていることが多いから気をつけるんだよ」


 ルイーズさん自身は神気の影響を受けないエルフであるため神気の影響を受けた人にどのような影響があるのか知ることができない。


 今回、アイラが真っ先に気付いたように思えたのは、アイラがあまりに離れすぎてしまったためにルイーズさんが声を掛けて正気を取り戻すようにしてくれたおかげらしい。


 迷宮主の俺ですら狂わせる神気。

 ステータスの高さはあまり役に立ちそうにない。


「お前たちはどうだった?」


 シルビアとメリッサに尋ねる。


「自分が真っ直ぐ歩いていない事には気付きました。ですが、どれだけ街道に戻ろうと意識しても体が戻ってくれないんです」

「私も精神に何らかの異常を来たしているのは理解したので、すぐに精神防御の魔法を使って落ち着かせようとしたのですが、それすらも無効化されて狂わされたままでした」


 シルビアとメリッサの2人は自分がおかしなことには気付けたらしい。

 それでも対抗策が上手く作用しなかった。


 まあ、意識したり魔法を使ったりするだけで平常に戻れるならこれまで迷いの森を攻略しようとした人によって攻略されているはずだ。


「気持ち悪い……」


 そして、イリスは役に立たない。

 フラフラした足取りで再び俺の腕に掴まってしまった。


「これで案内人が必要な理由が分かったかい? だったらアタシに付いて来るんだね」

「いえ、もう1つ試します」


 目を閉じる。

 これで視界情報から感覚を狂わされることはないはずだ。


 しかし、これだけだとどこへ向かえばいいのか分からない状態になってしまう。


 そこで、スキルを使って周囲の地図を頭の中に思い浮かべる。


 迷宮操作:地図(マップ)

 視界の隅に周囲の地形を地図として表示させるスキルだ。地図を表示させる視界についてだが、目を閉じていても地図を認識できるようになっている。


 視界情報を遮断した状態での地形の把握。


 表示させられる距離的に森全体を把握することはできないが、エルフの里まで続いているという街道を表示させる事には成功した。

 これに沿って歩いて行けば問題ない。


「アンタ、探索系のスキルまで持っていたのかい?」

「ええ、これなら迷わずに進むことができるかもしれません」


 自分のいる位置を青い光点で表示されるようにして街道へと向かう。

 問題なく街道へ戻ることができた。


「全員、俺の地図を頼れ」

「はい」


 迷宮同調で情報を共有すれば眷属にも情報が行き渡る。


 再びルイーズさんを最後尾に街道を歩く。


「……どうして、だ」


 数分する頃には再び街道から外れていた。

 自信満々にスキルを使っていただけに今の状況が恥ずかしい。


「だから言っただろう? この森に満ちる神気は、人を迷わせようとする効果がある。神気そのものに耐性を持っていなければ、どれだけ優れた地図を持っていても歩いている内に迷ってしまうのさ」


 ずっと地図を見ながら真っ直ぐ歩いていた。

 ……真っ直ぐ歩いているつもりだった。


 再びルイーズさんに肩を叩かれて足を止めてから自分が今いる位置を確認すると街道から外れていることに気付いた。


「こういう状況だから全力で走って逸れてしまうと危険なんだ。全員が歩調を合わせてアタシの傍を歩く。アタシから逸れそうになったら声を掛けて正気に戻るようにするから安心しな」

「はい……」


 最後にこれだけ確認する。


 ルイーズさんに気付かれないようにすぐ傍にいたイリスを召喚で呼び寄せる。


 結果、たった1メートルの移動だったが、空間を移動させることに成功した。

 人を迷わせる森だが、空間移動系の能力まで封じている様子はない。これなら逸れてしまった場合でも俺の傍に呼び寄せることは可能なので、最悪の事態になるようなことにはならない。


「……ん?」

「どうしました?」

「今、何かがあったような……」

「気のせいじゃないですか?」

「そうかい」


 さすがはギルドマスター。

 視線から外れていたし、僅かな移動だったから気付かれないかと思ったけど、何らかの異変を察知されてしまったらしい。

 ルイーズさんの前でスキルを使う時は気を付けないといけない。



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