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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第12章 夢幻樹海
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第8話 穿つ光

「クソッ、なんなんだよコイツラ」

「ホーンラビットとかを狩る簡単な依頼じゃなかったのかよ!?」


 堅い大きな門が下ろされた村。

 村の周囲は柵で覆われ、魔物が近付けないようになっていた。


 村の中にある一番外側にある家の屋根に立った1人の冒険者が弓矢で村に襲い掛かっていたイートアントに攻撃していた。しかし、イートアントの硬い装甲に阻まれて体に当たると弾かれてしまう。


 弓矢で攻撃していた冒険者の隣に立った魔法使いが炎の矢を撃っているが、魔法なら自分にダメージを与えられると知っているイートアントは矢と違って確実に回避していく。


「おい、まだ退治できないのかよ!?」

「何の為に金を出してまで雇ったと思っているんだ!」


 家の近くでは村人たちが次々に罵声を浴びせていた。


 村人もイートアントという凶悪な魔物に襲われて気が気でないのだろうが、自分たちを守る為に戦ってくれている人に対する態度ではない。


「酷いのう」


 村人たちの態度を見たルイーズさんが呟く。

 俺も同意なのだが、ここまで来て見捨てるのは非情過ぎるだろう。


「たまには俺がやるか」


 門を喰い破ろうとしている5匹のイートアントに右手を向ける。


「レイスティンガー」


 5本の指の先から光の線が放たれ、門の前にいるイートアントへと飛んでいく。


「ギィ!」


 迫って来るレーザーにイートアントが気付くが既に遅い。

 レイスティンガーがイートアントの頭部を貫いて爆散させる。


「こんなものかな」


 5本のレーザーによって村に襲い掛かっていた5匹のイートアントが倒された。


「な、なんだ!?」


 ようやくイートアントが倒された事に気付いた冒険者が驚きから声を上げ、イートアントがいた場所を見る。


 そこには頭部を失った体が転がっているだけだ。


「あいつらがやったのか?」

「あんな凄い魔法を……?」


 俺たちの存在にも気付いたようなので村へと近付く。


「凄い魔法って……レイスティンガーはCランク相当の光魔法だぞ」


 レーザーを生み出し、高速射出することができる魔法。

 速度と威力のある魔法なので好んで使う人は多い。


「たしかにCランクの魔法だけど、今のはCランクなんかじゃないよ。レイスティンガーは狙った場所に真っ直ぐ飛んでいく魔法だから1度に1箇所狙うのが精一杯なのに5本も同時に扱うなんて……それにレーザーを曲げていなかったかい?」

「気のせいですよ」


 いや、本当に曲げている。

 俺の位置からだと手前のイートアントの影に隠れて頭部を狙うことができなかったイートアントがいたため確実に頭部を破壊する為に山なりに放ってから頭部を貫いていた。


 別に貫通させてしまえば問題なかったのだが、先ほどイートアントを討伐した時に素材が回収できなかったことを問題にしていたようなので頭部だけを破壊させてもらった。

 これなら素材としては十分だろう。


「おい、あいつって……」


 村の中まで入るとイートアントを討伐したのが誰なのか村人も気付いた。


「あの人がマルスさんか」


 俺に見覚えはないが、向こうは知っているらしく冒険者たちも俺が何者なのか気付いたようだ。


「冒険者のマルスだ。何が起こったのか説明してもらえるか?」

「は、はい」


 村人は無視して冒険者から話を聞く。


 冒険者のパーティは他に2人おり、魔法使いの傍に剣と盾を所持した男が立っており、弓使いの隣には長剣を持った男が立っている。


「俺たちは冒険者になったばかりのEランク冒険者なのですが、村に1泊して今朝の内に魔物が出る森へ行こうとしたところ近くの森からイートアントが溢れて来たのです。村には他に行商人の護衛をしていた冒険者もいたのですが、彼らは村を見捨ててさっさと逃げ出してしまいました。俺たちは、こういう事態にどうすればいいのか分からずに戸惑っている内に村に取り残されることになってしまいましたので戦っていました」

「そうか」


 村人はどうでもよかったが、簡単な討伐依頼を引き受けただけの彼らを助けられたのは良かった。

 それよりも彼らの態度が気になる。


「そんなに緊張する必要はないよ。見たところ、年齢にそれほど差はないはずだから」

「そういう訳にはいきません。俺たちはEランク。みなさんは異例の速さでAランクまでランクアップしたことで有名な方ですよね。冒険者にとってランクは絶対です。みなさんは俺たちにとって憧れなんです」

「Aランク!?」


 俺のランクを知って村人が驚いていた。

 まさか冒険者になって1年ちょっとでほぼ最高レベルのランクまで上げられたとは予想できていなかったのだろう。


「まあ、いいけど……」


 アリスターでは見覚えがない。

 しかし、デイトン村での依頼を引き受けているということはアリスターを拠点に活躍している冒険者なのは間違いない。


 ちょっと憧れるぐらいなら問題ない。


「それよりもイートアントは本当に森から現れたのか?」

「最初に見た時は20匹いて、逃げ出した商人たちを半分の10匹が追い掛けていきました。無事だといいんだけど」


 本気で心配しているようだったので途中で助けたことを教えるとホッとしていた。


 逃げ出したマドックさんたちは気付いていなかったが、村の見晴らしがいい場所から森を眺めていた冒険者たちは森から出たところで村から逃げ出す一団を見つけたイートアントが半数を逃げ出したマドックさんたちに狙いを変更したのを見ていた。

 外から回り込まれたマドックさんは、逃げ出した先で襲われたと勘違いしてしまった。

 これならば村で防衛していた方が被害を少なくできたかもしれない。


「しかし、森から出て来たのか……」


 それはちょっと厄介な事態になりそうだった。


「おい、マルス!」


 村人の一団の中から声が上がる。


 相手は村長になったリューという名前の俺たちよりも少し年上の少年だ。

 以前に村でトラブルがあった際に村の方針を決めなければならないにも関わらず当時の村長だった人物が問題を起こしたために臨時で村長を決める必要があったため村長の娘であるカレンと付き合っていたリューが村長に立候補していた。


 その後については興味がなかったので放置していた。


「今さら帰ってきて何の用だ?」


 幼い頃はガキ大将のように俺たちの世代をまとめていたため今でも高圧的な態度を取って来るらしい。


 ただ残念ながら既に両方とも成人している。

 そんな態度が通用するような年齢ではない。


「村に帰って来たつもりはない。たまたま近くを通ったら困っているって話を聞いたから駆け付けてあげた(・・・)次第だ。それよりも助けてもらったのに村長としてお礼も言えないのか?」

「マルスの癖に生意気な!」


 リューが拳を振るってくる。


 イートアントのせいで余裕がないせいもあるのかもしれないが、短気過ぎる。

 しかし、昔の俺なら拳に怯えるだけで頬を殴られていただろうが、今の俺の目にはしっかりと拳の動きが見えている。


 拳を手で叩いて逸らすとそのまま腕を掴んで引っ張ると地面に転ばせる。


「この非常事態に何をしているんだ?」

「くそっ……非常事態だっていう事ぐらい分かっているイートアントなんて強力な魔物が出たんだ。もっと強い冒険者を連れて来ないと……!」


 イートアント相手に手も足も出なかった姿からリューは雇った冒険者にイートアントの討伐をさせることを諦めてしまっている。


 冒険者たちも実力不足を痛感して反論せずに悔しそうな表情をしている。

 そういう表情ができるだけ今後の伸びしろに期待できる。


 しかし、俺が言いたいのはイートアントが森から現れたことではない。


「分かっていないな。イートアントが森から出現した事が問題なんじゃない。森から『昆虫型』の魔物が現れた事が問題なんだ」

「その、どこが問題なんだ?」


 生まれてからの20年近い時間を森に近い村で過ごしていたというのに気付いていない。


「あの森は基本的に『獣』型の魔物しか現れないんだ。だから雑魚にしても『昆虫』型の魔物がどこから現れたのか気にしないといけないんだよ」


 討伐依頼を引き受けたばかりの冒険者たちは仕方ない。

 しかし、すぐ近くにある村の村長として生息している魔物について把握していないのは問題だ。


「村長として近くの森に異常が起こっている事を理解して対策をしないといけないんだよ」

「だったらアンタが調べなさいよ!」


 リューの奥から1人の少女が現れた。


 リューの恋人で元村長の娘だったカレンだ。

 昔は俺たち子供の中でアイドル的な存在だったため淡い恋心を抱いたこともあったが、左右にいる4人の少女を見た後だとどうにも惹かれるものがない。


「な、なによ……」

「いや、なんでもない」


 どうして、こんな少女の事が好きだったのか……今となっては分からなくなった気持ちを封印して尋ねる。


「調査に行くのはいいが、報酬を支払うことができるのか?」

「お金を取るつもり!?」


 当然だ。


「ちなみに俺たちは5人全員がAランクのパーティだ。このレベルの冒険者を雇うとなると……」

「そうだね。ただの調査でも1人あたり金貨1枚は必要になる」

「金貨5枚なんて大金……」


 もちろん調査で済まされなければ更に金額が跳ね上がる。

 しかし、アリスターまで強い冒険者を呼びに行っている間に襲われて村が壊滅してしまう可能性だってある。


 村を守る村長としては、俺たちを雇うしか道が残されていない。


「金はなんとか用意するから助けてくれ……!」

「ま、いいだろ」


 リューが頭を下げて来たので簡単に了承する。


 『獣』しか出没しないはずの森に現れた『虫』の魔物。

 この生態の変化は俺の用事としても見過ごすわけにはいかないかもしれない。


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