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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第12章 夢幻樹海
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第7話 大食い蟻

 朝の早い時間の内に南門からアリスターを出てエルフの里へと向かう。


「アンタたち、本当に魔法なんかの補助なしにそれだけの速度が出せているのかい?」


 俺たちと一緒に走りながらルイーズさんが呟く。


 ルイーズさんは風属性魔法の風の加速(ソニックアセラレイト)を使って肉体の限界以上の速度を出して走っている。


 それにメリッサは同じように風の加速(ソニックアセラレイト)で追随しているが、俺たちは素のステータスで並走している。


「まったく、今のアタシたちは馬車以上の速度で走っているっていうのに……」

「ははっ……」


 笑うしかない。

 これぐらいの速度を出して移動しなければ昼過ぎに迷いの森まで辿り着くことができない。


「ルイーズさんこそ、よくこんな魔法が使えましたね」

「アタシは元々エルフの里から出て来た冒険者でね。若い時間が長いのを良いことに何十年も冒険者をしていたんだ。王都に腰を落ち着ける前は国内に限らず、あちこち移動していたからこういう移動に役立つ魔法も必要だったんだよ」


 たしかに移動に何日も掛けるわけにはいかない。

 本当に優秀な冒険者なら移動手段の1つや2つは用意しているものだ。


「おや?」


 ルイーズさんが何かを見つけて足を止めていた。


「どうしました?」

「イートアントだね」


 何でも喰らってしまうことで有名なイートアント。植物や動物に限らず、人間すらも喰らい尽くす2メートルもある大蟻だ。


 5匹以上の群れで行動することが多いので、接近すると1匹の相手をしている間に他のイートアントにあっという間に体を喰い散らかされてしまうので遠距離から狙いを付けるのがセオリーなのだが、今はそれができない。


「誰か追われていますね」


 イートアントは馬車を追っており、御者が必死に馬を走らせていた。


 馬車が向かう先には俺たちがいる。


「どうしますか?」

「助ける必要はないし、逃げるのは難しくないんだよな」


 馬車より速く走れる俺たちが逃げれば逃げ切るのは難しくない。


 しかし、魔物から逃げている人を見捨てて行くのは忍びない。


 そっとギルドマスターであるルイーズさんに視線を向ける。


「ギルドマスターとしては冒険者が無残に殺されるのは見過ごせない。できることなら助けてくれないかね」


 馬車の中には冒険者と思しき武器を持った男がいるみたいだ。

 俺たちの位置から見えるのは先頭にいる男だけだが、腕が血に濡れていることから怪我をしている可能性が高い。


「分かりました。助けましょう」


 馬車の方へと向かう。

 わざわざ走るまでもなく向こうの方から近付いて来てくれている。


「おい、逃げろ!」


 御者が怒鳴るように逃げるよう言ってくる。

 俺たちの方へ馬車を走らせていることからてっきり魔物を擦り付けるのが目的なのかと思ったが、違ったようだ。


「大丈夫ですよ」


 手を振りながらその場で立っていると馬車が横を通り過ぎて行く。


「では、手早く済ませます」

「任せた」


 メリッサが一歩前に出る。

 その手には魔法を発動させる為に必要な魔力が既に溜められており、魔法に変換された魔力が炎と風を巻き起こし火炎の旋風がイートアントを飲み込んで行く。


 ファイアストーム。

 炎の混ざった竜巻を起こし、広範囲を熱で焼き尽くす魔法。竜巻に巻き込まれた相手は体をズタズタに斬り裂かれ、中に閉じ込められた相手も周囲に渦巻く熱に体を焼き尽くされる。


 火炎旋風がイートアントの群れがいた場所を通り過ぎて行く。

 後にはボロボロに炭化した蟻の死体が残されていた。


「まったく、酷いもんだね」

「蟻型の魔物は素材を売っても二束三文にしかならないじゃないですか」


 蟻型の魔物の体は食用としても適さず、硬いので防具の素材として使われることはあっても加工が難しいので扱っている職人が少ない。


 そういった事情もあって討伐を優先させた。


「す、すごい……」


 蟻の死骸を見て馬車に乗っていた冒険者の1人が呟いた。

 いつの間にかイートアントが討伐されて安心だと分かった馬車まで戻って来ていた。


「そちらは大丈夫でしたか?」

「は、はい! あなた方が蟻を惹き付けてくれたおかげで助かりました」


 馬車から代表者らしき40代ぐらいの髭を生やした男性が下りて来る。

 服はローブを着ているものの少しふっくらとしたお腹からして冒険者というわけではなさそうだ。


「私はこの辺りを中心に行商をしているマドックという者です」

「ありがとうございます。俺がこのパーティのリーダーをしているマルスです」

「先ほどの魔物を退けた魔法――さぞや名のある冒険者なのでしょう」

「それはどうでしょう」


 実力はあって偉業そのものは知られていても名前まで知られているとは思えない。


「一応、Aランクパーティです」

「Aランク!?」


 馬車から下りた冒険者が俺たちのランクを聞いて驚いていた。

 Aランクと言えば実質最強クラスの冒険者だ。ランクを上げることを目標にしている冒険者にとっては憧れの対象になるのは間違いない。


「それより何があったのか教えてもらえますか?」

「はい。今朝早くからこの先にある村で商いをしていたのですが、村の近くにある森から魔物の群れが押し寄せてきたらしく、知らせを聞いた私は村には最低限の防備しかないことを知っていたので商品を持って逃げ出した次第です。まさか、逃げ出した先でイートアントの群れに遭遇するとは思いませんでした」


 逃げている途中で馬車と並走していた護衛の冒険者がイートアントを討伐するべく戦いを挑んだものの10匹以上の群れを相手にしている間に仲間の1人が噛み付かれてしまったことから劣勢に立たされてしまった。


 その後、どうにかイートアントの隙を突いて馬車に乗り込んで逃げることにしたらしい。


 それでも俺たちが合流した時には5匹にまで減っていた。

 半分以下にまで減らせただけ優秀な冒険者なのだろう。


「みなさんはこのような辺境にどのような用事でしょうか?」


 Aランク冒険者がこのような場所に用事があるとは思えない。


「コイツらはアタシの護衛だよ」


 ルイーズさんが威厳を含んで言う。

 俺たちよりもちょっと年上にしか見えないだけの女性が威厳を纏っても効果は薄いが、伊達に90年以上もの時間を生きていないのか妙な貫禄があった。


「失礼ですが、あなたは?」

「アタシはメティス王国の王都にある冒険者ギルドのギルドマスターをしている者だよ」

「王都のギルドマスターですか!?」


 マドックさんが再び驚いている。


 ギルドマスターという地位に権力は少ないが、冒険者に対する影響力は強い。ましてや、それが王都のギルドとなればメティス王国内にいる全ての冒険者に対して強い影響力を持っているようなものだ。


 後ろで話を聞いていた冒険者とマドックさんが緊張から固まってしまった。


「そんなに畏まる必要はないよ。それよりもアンタたちがいた村は無事なのかい?」

「はい。村には森に発生した魔物を討伐する為に雇われた冒険者もいたので、私が出る時には村の門を閉じて防備を固めるようでしたので閉じ籠もっている可能性が高いです」

「そうかい。情報ありがとう」


 その後、マドックさんとルイーズさんの間で情報のやり取りがされた。

 残念ながら気になることがあったので話の内容は入ってこない。


 ――この先の村、か。


 頭の中に周囲の地図を思い描いて馬車の来た方向にある村を確認する。


「悪いが、アンタたちに追加依頼を出せないかい?」

「それは構いませんが、どういった内容ですか?」


 まあ、こんな状況だからある程度は予想できる。


「この先にある村に救援に行ってもらいたい」

「……行かないとダメですか?」


 正直言って凄く気が進まない。


「どうしたんですか? ご主人様らしくないですね」

「そうね。いつものあんたなら利益にならないから助けない、ぐらいのことを言って拒絶することはあるのにそんな苦虫を噛み潰したような顔をするなんて」

「小さな村では出せる報酬も知れていますから利益が出せませんから救援を渋っているのですが、知り合いでもいて見捨てられないとかですか?」

「利益は少ないかもしれないけど、力を持つ者として助けるべきよ」


 そういえばシルビアたちには俺が村から出てきた経緯なんかを簡単に説明したけど、詳細までは知らせていなかったな。


 それにこの辺の地理まで知っているはずがないから俺の生まれ故郷だと分かることもない。


「この先にある村の名前はデイトン村。俺の生まれ故郷だ。詳しい事は向かいながら説明するよ」


 さすがに知ってしまったのに見捨てるという選択はできない。


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