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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第12章 夢幻樹海
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第5話 迷いの理由

「ほう、これはアンタが作ったのかい?」


 屋敷ですっかり寛いでいたルイーズさんが俺たちと同じメニューの夕食を食べていた。


 リビングに急遽置かれたテーブルには俺たちパーティメンバーとルイーズさんだけで食事を摂っている。さすがに見ず知らずの相手と家族を同じ食卓で食事させるのは忍びない。


「はい。ですが、迷宮探索から帰って来てから作った物なので、あまり豪勢な物は用意できませんでした」


 それでもシルビアが作ってくれた夕食はスープにパスタ、特製のソースがかけられた鶏肉を薄切りにスライスした料理。特別な日でもない限り、普段はこんな調子だ。俺としては十分に満足している。


 そんな中で急遽やって来ることになったルイーズさんの分にも対応しているシルビアの方が凄い。


「アンタたち大丈夫かい?」


 ルイーズさんの視線はしっかりと向かいに座っているメリッサとイリスに向けられていた。旧知の間柄だけに心配になったのだろう。


「大丈夫です」

「問題ない」


 別に料理ができるかどうかで関係を決めるつもりはない。


「どうやら2人とも上手くやれているようで安心したよ」


 ルイーズさんが優しい微笑みを向ける。


「メリッサは昔から大人を相手に商談をしていたし、イリスは自分の父親と同年代の連中とパーティを組んでいたせいで堅苦しいところが少しあった。こんな奴らと仲良くしてくれる同年代の仲間がいるのかと心配になったが、その心配は杞憂だったみたいだね」

「はい」

「そうですね」


 心配してくれるルイーズさんに対して2人の反応は凄く薄い。

 2人にとってルイーズさんは祖母のような存在であるため心配してくれるのはありがたいのだが、跳ね除けたい気持ちもあるのだろう。


「それより何があったのか教えてくれますか?」

「おお、そうだった。あまりに料理が美味しいものだから忘れていたよ」


 既にルイーズさんの食べていたパスタは完食されている。


 メリッサは何か失態を犯したらしく、その事が恥ずかしいのか黙したままだ。


「驚いたよ。今日の夕方前にギルドにある自分の部屋で仕事を片付けていたら急にメリッサがやって来たんだ。用件を尋ねてみたら『迷いの森を抜ける方法を教えてほしい』と来たもんだ」

「その……エルフの里へ向かうならエルフに話を聞くのが一番早いと思ったのです」


 たしかにエルフなら迷いの森の抜け方を知っているだろう。

 そして、俺たちの知り合いの中でエルフと言えばルイーズさん以外にはいない。彼女のいる場所はほとんど分かっているし、話を聞きに行くのに躊躇する理由はなかったのかもしれない。


「さすがにそんな話を聞く為だけに王都へ来るはずがない。で、問い詰めてみたら依頼のついでに立ち寄ったって言い訳をするじゃないか。そんな嘘が通用するはずがないのに」

「どうしてですか?」


 現に王都の迷宮を攻略する為に呼び出された時は表向きの依頼を用意されていた。

 その時と同じで依頼のついでに王都へ立ち寄るぐらいはおかしなことではないはずだ。


「アンタたちは自分の立場っていうものを理解した方がいいようだね。アンタたちは色々と目立ち過ぎたせいで王族も含めて動向を気にする連中がそれなりにいるんだよ。もしも王都へ行くような指名依頼があれば冒険者ギルドには情報が届くようになっている」


 随分と丁重なもてなしを受けるようになってしまった。

 そのせいでメリッサが王都へ立ち寄ることができるような依頼を引き受けていないことをルイーズさんはしっていた。


「それで、どうやって王都まで来たのか気になったんで色々と聞き出している内に空間魔法まで使えるようになっているみたいじゃないか」

「ごめんなさい」


 メリッサが開示したのは空間魔法の方の転移だけか。


「その後で、仕事を片付けてギルドにいる連中にしばらく休むからと挨拶だけしてメリッサの転移でアリスターまで来させてもらったよ。移動に数日は必要な距離を一瞬で移動できるなんて凄まじく便利な魔法だね」


 利便性については俺も同意したい。


「でも、迷いの森の抜け方を教えていいんですか?」

「問題ないよ。教えたところでどうにかなるようなものでもないし、アタシとしては孫のように思っていたメリッサに親しくしてくれている仲間に教えるぐらいならどうってことはない」

「ルイーズさん!」

「こいつは昔から賢いくせに今回は王都まで来た理由を用意していなかったっていう致命的なミスを犯した。どうしてだと思う?」

「どうしてって……」


 それだけ急いでいた、というわけではないだろうか?

 慌てていたせいで適切な言い訳を用意することができなかった。


「コイツはおそらくアンタの役に立ちたかったんだよ。自分なら王都まで一瞬で行くことができる。アタシなら確実な情報を持っているとまで理解していたんだよ」

「それは……」


 メリッサがらしくなく顔を赤くしている。

 そのまま自分の食事へと没頭してしまった。


「それで、迷いの森についてだけど」

「お願いします」

「具体的な攻略方法なんて存在しない」

「え?」


 攻略方法がエルフにも存在しない。


 しかし、ルイーズさんが迷いの森の性質について語り出した。


「アンタたちはエルフの里に神樹と呼ばれる大木があるのは知っているね。あの大木は周囲――国一つ分ぐらいなら簡単に覆えるほどの広範囲の環境を浄化する能力を備えている。けど、浄化と同時に周囲に特殊なエネルギーを振り撒く。アタシたちエルフは、魔力とも性質の違うエネルギーの事を神気と呼んでいる。その神気を吸収して成長した木が集まったのが迷いの森だよ」


 迷いの森にある木は、木そのものから微弱な神気を常に放出しており、微弱な神気が生物の感覚を狂わせる。人間の場合だと方向感覚が狂わされ、最後には自分という存在を見失うことまであるそうだ。


 神気による天然の迷路――それが迷いの森の性質。


 その森を唯一抜けられるのが同じように神気に適応して進化したエルフ。


「アタシたちエルフは神気を体の中に取り込むことができるんだ。そのおかげで齢を取りにくい体質になっているし、迷いの森で方向感覚を狂わされるようなことにもならない。攻略方法は単純だよ。森で迷うことのないアタシと一緒にエルフの里へ向かう。それだけだよ」


 聞いてみれば凄く単純な方法だ。

 道先案内人を用意して案内人に付いて行く。


「そんな方法で大丈夫なんですか?」

「問題ない。過去にも同じ方法で人間を案内したことがある」


 既に実績があるなら問題なさそうだ。


「ただし、それは通常の場合での話だよ。森、もしくは神樹に何らかの異常が発生している場合にはアタシたちエルフでも森で迷うことがあるらしい」

「らしい、ということは分からないんですか?」

「アタシも人に聞いた話だから正確なところは知らないんだけど、アタシが生まれる前――今から100年以上も前にも神樹が異常を来たしたことがあって、その時はエルフでも森で迷ってしまうせいで森から出ることができなくなってしまったらしい」


 とはいえ、そんな異常も半年が経つ頃には落ち着いており、再び行商が再開されることになったらしい。

 今回も似たような異常が発生していた場合には通常時と同じ方法で脱出できるとは限らない。


 ただ、外へ出られないだけなら転移で戻って来ればいい。


 できることなら致命的な異常でないことを祈るばかりだ。


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