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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第12章 夢幻樹海
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第2話 密林の収穫

 シルビアを連れて密林フィールドをのんびりと探索する。


 5人の中で別れて行動する時、特別な理由がない限り俺と誰かもう1人が一緒になって行動するようになっていた。

 今日はシルビアの番だった。


「特に異常はありませんね」


 隣を歩きながら周囲を警戒していたシルビアが呟く。

 迷宮同調があれば迷宮の魔物に襲われる事がなくなるが、現在は普通の冒険者と条件を同じにする為に適用されないように設定している。


「いつも、時間がある時はこのように探索をしていますけど、本当にわたしたちがする必要があるのでしょうか?」


 シルビアが迷宮核に任せておけばいいのでは?と言う。


 実際に異常を察知した迷宮核に教えられてから向かっても転移などの移動手段があるために間に合う。

 魔物が異常行動に出るなど外では時々ある事なので魔物の討伐を専門にしている冒険者ならそれぐらいのリスクは背負って当然の事だった。


 それでも俺が迷宮探索をしている理由は……


「暇なんだよ」


 凄まじいスピードで昇格してしまった為に俺たちには経験が不足している。

 強い力を持っていてもそれを適切に使える技量がなければ意味がない。


 冒険者ギルドには訓練場があり、依頼を受けていなくて時間のある冒険者の中には体を鍛える為に他の冒険者と模擬戦をしている冒険者がいる。


 俺たちも彼らに混ざって訓練をさせてもらおうとしたのだが、Aランク冒険者と模擬戦ができるわけないと断られてしまった。訓練場にはAランク冒険者もいたので彼らに頼み込んでみたのだが、ダメだった。


 理由は、俺たちの偉業にあった。

 シルバーファングを無傷で倒し、戦争を4人で終結させる。

 そんな力を持った人物なら実力はAランクに留まらないどころかSランク以上だと判断されて模擬戦に付き合ってくれない。


 そうなると仲間内で戦うしかなく5人で模擬戦をするのだが、5人だけでは戦い方などを覚えられてしまって模擬戦にも限界があった。しかもイリスを除く3人は時々ガチで戦ってしまうので地下57階以外では危険だ。


 そういった理由から迷宮を探索して魔物と戦っている。

 幸い、迷宮には様々な魔物がいるので実力的に問題があっても戦い方の豊富さから経験になっていた。


「わたしもこのような場所での探索は、探知能力を強化するのに役立ってくれているので助かります」


 そう言いながら自分へと迫って来た撓る枝を短剣で斬り落とす。


 枝の先には大木があったが、大木から生えた枝はまるで生きているかのように枝を揺らしていた。


 ハイトレント。

 木の魔物で自分のテリトリーに入って来た冒険者を枝で締め上げ、死後その体から養分を抜き取ってしまう魔物。

 見た目は普通の木と全く変わらないので森を探索する際には注意が必要だ。


「――行きます!」


 シルビアが自分に伸びてきた枝を切り払いながらハイトレントの方へと走る。

 足元へと伸ばされた枝は跳んで回避し、空中で回避ができない状態では伸ばされた枝を逆に蹴り上げて身軽に攻撃を回避して行く。


 ハイトレントの下まで辿り着いたシルビアが短い呼吸と共に短剣を振り抜くと動いていた枝の動きが止まる。


 魔石を破壊したことでハイトレントが完全に停止した。


「問題なさそうだな」

「ありがとうございます」


 動き回っていたシルビアの呼吸は乱れていない。


「ですが、攻撃力を強化する方法を考えた方がいいかもしれません」

「そうかもしれないけど……」


 シルビアの短剣ではハイトレントの大木を斬って倒すのは難しい。

 俺やアイラほどの筋力がないシルビアがハイトレントを倒そうとすれば体内にある魔石を破壊して停止させるより他に方法がない。


「魔石は手に入らなかったけど、素材が手に入るからいいだろ」


 魔物の素材の中で最も高値で安定して取引されるのが魔石だ。

 傷が付いてしまった魔石はエネルギー資源として利用することができなくなってしまうため素材の回収を考えるなら魔石を破壊しての討伐は避けるべきだ。


 とはいえ、ハイトレントの枝は魔法使いが使う杖の素材として利用されることが多々あるため素材としては十分だ。


「今後の課題だな」

「……はい」


 シルビアを慰める。

 何か新しい装備品を渡して解決することも可能だが、どういう風に成長していくのかは本人たちの自由意思に任せたい。


「見て下さい」


 ハイトレントの枝を切り取って収納リングに回収するとシルビアが木になった赤い果物に気が付いた。


「何の果物だっけ?」


 迷宮の構造を設定した俺だったが、多種多様に存在している植物の全てを覚えているはずがない。

 人間の体に害がある物は置かれていないはずなので目の前にある果物も食べられる物のはずだ。


 木から果物をもぎ取って食べてみる。


「あ、それは……」


 食べようとする俺を止めたかったみたいだが、既に果物は口の中へと入れられた後だ。


 ……これは!


「それはリリルの実と言って凄く酸っぱい果物なんです」


 思わず口の中に入っていた実を噴き出してしまうほどの酸っぱさだ。

 とても食べられた物ではない。


「でもリリルの実、ってもっと美味しい食べ物じゃなかったか?」

「あれは加熱処理が施された物だからです」


 リリルの実は熱すると酸味が失われて逆に甘みが増す果物だったらしい。


「この間のケーキに使ったリリルの実は加熱処理がされた物だったのか」

「その通りです」


 先週誕生日だったシルビアの為にシルビア以外の眷属3人が朝からケーキを作って振る舞っていた。


 俺は3人が作っている間、シルビアを連れ出して街で食事をしたり、雑貨屋を覗いたりしていたので完成したケーキの姿を見ただけなのでケーキの上に乗せられた桃色の果物しか知らない。


「リリルの実は加熱処理を施すと色が赤から桃色へと変化しますから加熱処理が施される前の姿を知らないと間違うのも無理ないのかもしれません」

「色々と勉強になったよ」


 自分の迷宮に生える果物なのに実物を知らなかった。


 せっかくなので木に生っていた3個のリリルの実も収穫する。

 持ち帰ればシルビアがきちんと調理してくれるだろう。


「では、もう少し奥まで進んでみましょう」


 シルビアが楽しそうに奥へ進む。


 誕生日の時は屋敷から連れ出すという目的もあって街でデートをしていた俺たちだったが、2人きりで探索をしている今の状況も彼女にとってはデートのように感じられるのかもしれない。


「楽しいか?」

「はい。生まれ育った村にいるだけでは、熱帯地方でしか手に入れられない果物を調理するなんて考えられないことでしたから」


 迷宮以外の入手先がなければ輸送費もあって高額な物となる。

 アリスターだからこそ低価格で手に入るし、自分で収穫することもできる。


「せっかくですからあれも収穫していきましょう」

「あれは豆か」


 地面から生えた植物に実のような物が生っていた。

 食糧事情の改善なんかを目的にアリスター近辺では手に入らないような野菜を手当たり次第に生るよう設定したから野菜なんかの収穫もできるようになっている。


 2人で屈むと豆の収穫を行っていく。


 すっかり目的を忘れているけど、楽しそうに野菜の収穫をしているシルビアの横顔を見ていると止めることができない。


 結局、密林フィールドで手に入る様々な野菜や果物の収穫を行っている内に合流時間になってしまった。


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