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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第11章 王都迷宮
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第23話 安らぎの在り処

 宿屋のベッドで目を隣で丸くなって寝ているメリッサの寝顔を見る。


「そういえばメリッサの寝顔を見るのは初めてだな」


 いつもはメリッサの方が長く起きており、起きるのも彼女の方が速かったため何度も一緒に寝ているにも関わらず寝顔を見る事が出来ていなかった。


 だが、今横で寝ている少女は安らかな寝顔をしている。


 転移結晶を利用して気絶している王子と騎士を連れて王城へ戻る頃には既に陽が暮れ始めた夕方になっており、2人を背負ったまま王城を歩いていると脱出を察知した王城に務めている人々が慌てながら近寄って来た。

 一応、事情を説明して気絶しているだけだと伝えると安心して2人の身柄を引き取って行った。


 国王が倒れたことでも慌てていた王城だが、先代迷宮主が倒れることはパトリック国王が迷宮主になった時の経験から事前に準備がされていたらしく、王子も同じように対処がなされた。


 迷宮へ向かった騎士の数が減っていた事から騎士団長らしき人物が何か言いたそうにしていたが、王子が目を醒ましてから説明すると事情説明を断った。


 そのまま王城から解放されると宿屋へと向かい、遅めの夕食を摂る。


 その間、みんなが気になっていたのが目に見えて落ち込んでいるメリッサの事だ。

 どんなに気丈に振る舞っていたとしても自分の叔父だけでなく知り合いまで含まれていたアンデッドをその手に掛けたことはメリッサの心に重い杭を打ち込んでいた。


 それを我慢してまで迷宮主の継承や迷宮核との対話に付き合っていたのは、偏に俺の役に立ちたいとの想いからだ。後から話を聞いて事情を把握することはできるが、やはり直接聞いた方がよく理解できる。


 そう想うと愛おしくなって思わず髪を撫でてしまう。


「う、うん……」


 どうやらお気に召さなかったらしく、ゆっくりと瞼が開けられる。


「おはよう」

「……おはようございます」


 メリッサが窓の外を見る。

 時刻は朝陽が昇り始めたばかりでまだ薄暗い。


「そういえば昨日は一緒に寝たのでしたね」

「一緒に寝て、添い寝しただけなのは初めてだな」


 メリッサの状態を把握したシルビアによって俺とメリッサだけ2人部屋へと叩き込まれた。

 その後、別々のベッドで寝ていたのだが、寝ながら涙を流しているメリッサの姿を見ているとどうしても放っておけなかった。


「ご迷惑をお掛けしました」

「気にするな」

「いえ、あのように泣くなど私らしく……あうっ」


 メリッサの言葉を遮る為にデコピンをすると赤くなった額を押さえて涙目になっていた。寝ながらなのでそこまで強く打ったつもりはないんだけどな。


「お前らしくって何だ?」

「その……非常に言い難いですが、パーティの構成を考えると冷静に状況を判断して自らの知識を活かして行動の指針とするのが役目だと思っています」


 本当にちょっと失礼な話だ。


 シルビアは元々小さな村の出身だったため簡単な読み書きぐらいしかできなかったが、冒険者になってから依頼票を読むなど必要に追われて勉強したおかげでそれなりの知識がある。


 アイラは少し大きな町で育ったので最低限の知識については問題ないが、本人の性格が難しいことを考えるのに向いていないため方針の立案にはあまり関わらない。


 イリスにしても冒険者としての知識に偏っているので王族との交渉にはメリッサの知識が必要になる。


 だが、それはパーティでの話だ。


「お前自身はどういう人間なんだ? 眷属になって付いて来ているけど、本当は何がしたいんだ?」

「それは……」


 メリッサが言い淀む。

 いつも自分の知識から最適解を出している彼女にしては珍しい。


「そもそも私が眷属になった理由は、主たちの力に頼れば故郷に起こった出来事の真実が知れるのではないかという想いからでした。あの時の私はテックさんから夢を諦めるように言われて少し自暴自棄だったのです」


 少女なりに故郷を取り戻そうと必死だった。

 だが、そんな努力は信じた人たちにいいように使われるだけだと教えられて夢を諦めるように言われた。


「ところが、真実をあっという間に解明してもらったどころか家族の所まで案内してもらえました」

「その恩返しで一緒にいるつもりか?」


 メリッサが曖昧な笑みを浮かべながら首を横に振る。


「最初はその通りでした。ですが、今ではそれでよかったと思っています。あの時に私が本気になっていれば領地を取り戻すことも可能だったと思います」


 後から気になったので調べてみたところ、第3王子の失踪に伴って王城でも本腰を入れて組織改革を行い、ラグウェイを始めとした第3王子の息が掛かった領主を悉く捕縛していった。

 その際、多くの欠員が出てしまった為に領地経営のできる人間を広く募集していた。


 実績のないメリッサだったが、その才覚は王都の有力商人の何人かが知るところであり、元領主だった父親もいたのだから後見人を付けて新たな領主になることも可能だったかもしれない。


 だが、メリッサはその話を無視した。


「私が本当に欲しかったのは領主の地位などではなく、家族が帰って来られる場所だという話はしたと思います。テックさんも親切に接してくれましたけど、やっぱり父様に甘えたかったのです。領主になってもそれなりの事ができたと思いますけど、女の領主ということで女王陛下と同じように周囲からの反発もあったと思います。主と一緒にいて家族が待つ家に帰ることができるようになって同じ立場の仲間もたくさんできました。だから今の方が幸せだと感じます」


 メリッサがギュッと抱き着いてくる。


「それに幼い頃はお父様に抱き着いている時が一番安心できたのですが、今となってはこうしている時が一番安心できるのです」


 こうしている時――俺に抱き着いている時か。

 そこまで懐かれるような何かがあったとは自分では思えない。

 それでもメリッサの中では抱き着いている時が一番安心できると感じられる何かがあったのだろう。


「ちょっと甘えるぐらいならいくらでも抱き着いていいんだぞ」

「駄目です。そんな風に甘えさせられると溺れてしまいそうです」

「溺れて困るような事が起こるか?」

「起こります。そんな態度でいると近い内に眷属の誰かに子供ができてしまうかもしれませんよ」

「うっ……」


 できれば避けたい話題だったので有耶無耶にしたかった。


 成人して冒険者になってから1年ちょっと。

 さすがにこんな若くして父親になるような覚悟はない。


「迷宮核の少女にした質問もそういった事態に備えたものですよね。そんな心配をするようになったのも王都に来る前に私たちがあの薬を手に入れてしまったからでしょう」

「全部お見通しか」


 問題に対処するには問題が起きてからでは遅い。

 王都の迷宮は、最初の迷宮主の子孫が迷宮主を引き継いでいた。


 もしも自分に子供ができた場合に迷宮主の権限を引き継がせることは可能なのか参考までに聞いておきたかった。


 結局、自力で迷宮の最下層まで辿り着いてもらうか最下層に安置されている迷宮核と同調することで最下層まで転移してもらうしか方法はないということが分かった。迷宮核と同調できるかなど、その時になってみなければ分からないので問題は放置するしかなかった。


「大丈夫です」


 抱き着きながらメリッサが呟く。

 その目は眠たそうにトロンとしていた。


「あの薬は、魔力で手に入れようにもかなりの魔力が必要になるので簡単に手に入るような物ではありません。必要な素材を手に入れて自分で調合することも考えましたが、必要な素材にこの国では手に入らない物が含まれていたのですぐには……」


 スヤスヤと寝息が聞こえ始めた。


 時刻はまだ陽が昇ったばかり。

 少しぐらい寝坊しても許されるだろう。


「だから気配を隠すのは止めないか?」


 部屋の誰もいない隅に向かって声を掛ける。


「見つかってしまいましたか」


 誰もいないはずの空間にシルビアの姿が浮かび上がる。


「けっこう自信のあった隠れ方だったのですが?」

「ぶっちゃけ俺も見破れなかった」


 ただ主としての勘から眷属の誰かがいる感覚があった。

 シルビアによると壁抜けを応用して光や音、気配すらまでもすり抜けることができるようになったらしい。おかしいな、壁抜けは障害物をすり抜けるスキルであって隠密能力を高めるようなスキルではなかったはずなんだけど。


「どうやらぐっすり眠っているみたいですね」

「ああ」

「わたしたちも仲間として心配していたんです。誰かが悲しんでいれば全員が悲しくなる。それが仲間です」


 メリッサの口からはスケルトンロードの中にいた知り合いについて叔父さんしか教えられていない。けれども友達や知り合いがいた可能性がある。

 そういった知り合いの悲しみをメリッサは押し殺していた。

 俺にできることがあるとしたら慰めるだけだ。


「では、メリッサを慰めるのはご主人様にお任せてして、朝食の時間になったら起こしに来ることにします」

「頼む」


 扉からではなく壁をすり抜けて隣の自分たちの部屋に戻るシルビアの姿を見送る。

 人の部屋に勝手に侵入したのは褒められた行動ではないが、彼女は彼女なりにメリッサのことを心配していたに違いない。


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