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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第11章 王都迷宮
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第21話 不浄の土地

 迷宮の最奥にある扉を開けた先には、これまでの無機質な岩壁とは違って真っ白な壁があった。


 真っ白な部屋は10メートルぐらいの広さがあり、中央に水晶の置かれた柱があるだけの部屋だった。


「なんだかあたしたちの迷宮の最下層みたいな場所ね」


 騎士を入口横に寝かせたアイラが呟く。

 彼女が言うように俺の迷宮と同じで最下層なら魔物は一切発生しないはずだ。


 それに最下層にはないと思われていた転移結晶が部屋の入口横に置かれていた。転移結晶の近くに魔物は寄れないようになっているので何も問題はない。


迷宮核(ダンジョンコア)が安置されている場所はどこも同じような物のはずです』

「誰だ!?」


 突然部屋の中に響き渡った声にランドルフ王子が声を上げる。

 声は、優しい感じがする女性のもので聞こえた者を安心させる力があった。


『まずは自己紹介から始めましょう。私は、この迷宮を管理する者です』


 部屋の中央に置かれた水晶柱の前に栗色の髪をツインテールにした白い小袖に緋袴を履いた10代後半ぐらいの少女が現れる。


 ただし、その姿は透けており目を凝らせば奥にある水晶柱が見える。

 幻術、もしくは立体映像のような物らしい。


『この姿は私が生きていた頃の姿を再現して投映した物です。年齢については――皆さんに合わせました』


 年齢について説明する前に迷いがあった。

 おそらく単純に若くしてみただけなのが本当の理由だろう。


「あなたが本当に迷宮の管理者――迷宮核なのですか?」

『実際には初代迷宮主の意識を迷宮核に転写させた存在です』


 意外に軽い口調をする迷宮核にランドルフ王子が尋ねていた。


 迷宮核の成り立ちについては俺の迷宮核と変わらない。


「父上からは迷宮核にこのような人格が宿っているなどという説明は受けたことがない」

『あなたの父上というとパトリックですね。私は迷宮主を継承する段階においても姿を現したことがないので私の存在について知らないのも無理はないです』

「では、なぜ今回は姿を現したのですか?」

『他の迷宮からやって来た主と眷属たちにお礼を言う為です』


 そう言って俺の方へ向く迷宮核の少女。


『改めてお礼を言います。管理者であるにも関わらず、私の管理から外れてしまったあのような化け物を退治してくれた事に感謝します』

「やっぱり、アレは迷宮が生み出した物ではなかったのですね」

『迷宮の魔力を利用して生まれたことは間違いありません。ですが、迷宮の管理下に置かれた魔物ではありません』


 アレ――スケルトンロードは迷宮が生み出した魔物ではなかった。


 そもそもゴーストやアンデッドのような過去にはいなかった魔物たちも迷宮の魔力を利用しているだけで迷宮が生み出した魔物ではないだろう。


「なぜ、このような事になっているのか事情を聞いてもいいですか?」

『迷宮主である貴方は気付いているのではないですか?』


 ランドルフ王子の質問に対して迷宮核の少女は俺が気付いているのではないかと聞いてくる。


 いや、スケルトンロードを鑑定したことである程度は予想できているが、答え合わせのためにも少女から教えてほしい。


 だが、少女は俺の答えに期待しているようでキラキラとした視線を向けてくる。

 この人、本当に何千年も意識を持っている迷宮核の人格か?


「まず、この迷宮の役割ですが、それは周囲の土地にある不浄な魔力を集めて浄化することですね」

『その通りです』


 魔力は憎しみや絶望といった感情と共に使用される際に不浄なエネルギーとなってその土地に留まることがある。

 戦争の影響でクラーシェル付近にも不浄な魔力が溜まっているはずだった。


 当然、不浄な魔力を浄化することのできる魔法を使える俺とメリッサが後片付けに奔走したので完全に浄化されている。


 けれどもその時に浄化の速度が想定以上に速いことに気付いた。

 気付いたが、原因は全く分からなかった。

 その原因がここにあった。


『迷宮主である貴方なら数千年前に起こった大災害についても知っていますね』

「はい」

『その際に人間が大災害から逃れられるよう神々から与えられたのが迷宮ですが、多くの土地が数年を経て人間が生きられるほどに環境が浄化されてもこの周囲だけは土地が汚染されたままでした。どうやら大災害の際に永遠に残るような呪いが施されてしまったみたいです。そこで最初の迷宮主となった私は、迷宮のリソースのほとんどを注いで周囲の土地を浄化することにしました』


 環境が汚染され、影響を受け続けた土地に宿る魔力そのものが不浄な物となってしまった。

 そこで迷宮主となった少女は、迷宮へ周囲の汚染された魔力を集めて迷宮の能力を使って浄化する手段を思いついた。


 とはいえ迷宮の力も無限ではない。収集と浄化に力のほとんどを注いでしまったために普通の迷宮としての力を失ってしまった。階層を増やすこともできず、弱い魔物を生み出すぐらいしかできない。

 それでも、そこに住む人々の安寧を願った少女はそれでよかった。


『この迷宮は、迷宮に訪れる人の魔力からではなく、周囲の土地から魔力を吸い取り、余剰エネルギーから浄化を行うと共に維持に必要な魔力を蓄えています』


 迷宮の役割を突き止めたことによって維持に必要な魔力を得ている方法の謎も分かった。

 アリスターの迷宮も同じように周囲の土地から微量の魔力を頂いているが、本当に微量なうえ、迷宮が広大なせいで維持に使うぐらいしかできない。


「アンデッドやゴーストが溢れるようになった今回の一件は、周囲の土地から魔力を吸収して浄化する――その力が仇となったものですね」

『その通りです』


 きっかけは盗賊に扮した第3王子が領民を襲ったことだった。


 それまで普通に生きていた人々がいきなり殺されたことによって王族を恨み、その魂が魔力と共に王都の迷宮へと周囲の土地にある魔力を吸収するという効果と共に流されていった。


 王都と強い繋がりのある第3王子を恨んでいた事もあって国王が迷宮主を務める王都の迷宮に辿り着いた彼らの憎しみはさらに増大されることになり、流れ着く人々の魂は留まる事を知らず、数年の時を経て気が付けば数千人という信じられない規模にまで達してしまった。

 その恨みは、浄化能力を持つ迷宮の力を以ってしても追いつけないほどだった。


 多くの人が集まった怨念は迷宮に蓄えられていた魔力を奪い、強大で凶悪な存在へとなり果てた――それがスケルトンロード。


『土地の浄化を目的とした迷宮の管理者である私に与えられた権限のほとんどは、魔力の収集と浄化だけです。スケルトンロードという強大な存在が生まれている事には気付いていましたが、私には対処するだけの力がありませんでした。スケルトンロードは迷宮の最下層で力を溜め込むと眷属であるスケルトンなどを生み出し、最近になって第3王子の魂を得て嬲る事に満足していましたが、近い内に迷宮の外へ出て行くような気配でした。このままでは王都の住民が本当に蹂躙されていました。討伐してくれた貴方たちには感謝してもし切れないほどです』


 迷宮核の少女が俺たちに頭を下げる。

 こちらは仕事を遂行するうえで必要な事だったし、メリッサの事情もあったから討伐しただけだ。


「ま、待ってください!」


 迷宮核の説明に納得できないランドルフ王子。


「建国時の伝承によれば人々が豊かな土地だった王都のある場所へと集まり、次第に国として発展していったとあります。ここが不浄な土地だというのは何かの間違いですよね!?」

『いいえ、それは順番が違います。不浄な土地であるが故に逃れる事も難しく、私が浄化を始めたことによって私を頼って多くの人が集まり、ここを中心に土地を豊かにした事によって迷宮が得られる魔力の量を徐々に増やして行ったのです。その後、村が町へ都市へと発展した事によって私の孫の代になる頃に国になるほどに土地が回復しました』

「そ、そんな……!」


 建国の伝承と違う真実にランドルフ王子がショックを受けている。


 王族としては、自分の治める土地が特別である方がいい。


 王都付近の土地は、年間を通して温暖な気候で、作物を育てれば豊壌が間違いない土地だ。

 それ故に多くの人が集まる。


 中には奇跡だと言う人がいるぐらいだったが、それが奇跡などではなく迷宮の力によるものだった。


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