第17話 王都迷宮―最下層―
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「この下が最下層となっているはずですが、準備は大丈夫でしょうか?」
地下10階へと続いている階段を前にして尋ねる。
主に息絶え絶えな騎士たちへの確認だ。
「……問題ない」
騎士たちは疲れているだけではない。
迷宮の最下層という場所を前にして緊張しているようだった。
「では――」
「お前が仕切るな!」
階段を下りようとしていた俺を押し退けて騎士たちが階段を下りて行く。
俺から聖剣を買った騎士だけは頭を下げてから下りて行く。
「どうしてあんなに嫌われているんでしょうか?」
「彼らには貴族としての誇り、騎士としての矜持があるから冒険者と肩を並べて仕事しているというのが我慢ならないのだろう」
騎士に続いて階段を下りようとしていたランドルフ王子に尋ねる。
迷宮探索に同行している騎士たちは、騎士の中でも最も偉い近衛騎士である。兄のような実力があるおかげで平民でもなれる一般的な騎士とは比べるまでもない。
ランドルフ王子が階段を下りて行くので仲間と一緒に苦笑しながら階段を下りる。
俺たちは権威とか全く気にしていない。
「ここは……」
階段を下りた先には広大な円形の空間が広がっていた。
入口の反対側にある壁には扉のような物があり、そこまで500メートルほどの距離がある。
『ユルセナイ……』
「なんだ?」
部屋の中に響き渡る低い声に騎士が呟く。
『ユルセナイ……』
再び同じ声が響き渡ると階段のあった入口が岩で塞がれる。
最下層の入口付近には転移結晶がないらしく、転移で逃げることもできなくなった。最下層に閉じ込められた形になった。
「どういうことだ?」
「お静かに」
騒ぎ出した騎士たちが煩いので注意したが、静かになる気配がない。
そうしている間に部屋の中心に黒い靄のような物が集まる。
「あれは……」
靄は体長4メートルある巨大な人の姿を取る。
ただし、その姿は異形。
窪んだ眼と口、異様なまでに痩せこけた肉のせいで骨の上に皮が貼り付いているのではないかと思わせる体。ローブを着ているので見えるのは手や顔だけだが、目に見えないローブの内側も同じような物だろう。
そして、両手に持った大きな剣。
挑んで来た者全てを両断して来たと思わせる鋭利な刃に騎士の誰かが恐怖から唾を飲み込む音が聞こえる。
『死ネ』
骸骨剣士が巨体から剣を振り下ろしてくる。
「さ、散開!」
騎士たちが部屋の左右へと逃げ出す。
逃げ出す騎士を気にすることなく骸骨剣士はランドルフ王子へと狙いを定めていた。
逃げ出さないランドルフ王子に感心していたが、様子を見ると骸骨剣士の放つ威圧に負けてしまったせいで足が竦んで動けなくなってしまったらしい。
「仕方ない」
宝箱から聖剣を取り出して骸骨剣士の剣を受け止める。
アンデッドやゴーストの相手をするなら神剣よりも聖剣の方が効率的だ。
『邪魔ダ』
「悪いが、邪魔なのはあんたの方だ」
骸骨剣士の剣を押し返して聖剣を上に掲げて地面に向かって振り下ろすと魔力による斬撃を走らせる。聖剣から放たれた斬撃には漏れなく光属性が付与されている。
『小癪ナ』
骸骨剣士が両手に持った剣を交差させて斬撃を受け止める。
2本の剣が砕けると同時に斬撃が霧散する。
俺みたいな素人が放った斬撃だとこれが限界か。
だが、骸骨剣士の武器を失わせることには成功した。
『無意味ダ』
そんな事を思っていると黒い靄が再び集まり、剣の形になると剣が握られていた。
武器破壊はあまり意味がないみたいだ。
しかし、これまでに出現してきた魔物に比べて明らかに強過ぎる。本気でなかったとはいえ、俺の斬撃を受け止められるほどの剣を持って聖剣の斬撃を霧散させられるだけの実力を持つ。
ちょっと気になったので鑑定を使用する。
敵が弱すぎて必要性がなかったのでこれまでは使用してこなかったが、骸骨剣士には使用してみた方がいい。
これは……
「ファイアボール」
「ライトボール」
鑑定結果に気を取られていると魔法使い2人が骸骨剣士に向かって初級魔法を使用していた。
初級魔法だったため消費魔力が少なく、同時に複数使用することが可能なため何十発という数の火球と光球が骸骨剣士に浴びせられる。骸骨剣士の体に当たった瞬間に火球は爆発を起こし、光球が爆ぜる。
「やった!」
騎士が爆発に飲まれる光景を見て声を上げる。
『王族に仕える愚か者どもメ』
骸骨剣士が頭上に剣を掲げると部屋の至る所に骸骨剣士が現れた時と同様の黒い靄が現れ、人の姿へと成る。
ただし、新たに現れた人型も異形。
大きさは人と同じ程度だが、皮や肉がない骨だけの存在で手に剣を持っていた。
骸骨戦士。
アンデッドの中では下級に分類される魔物。それが100体。
「な、なんだこの数は……?」
騎士が部屋の中に出現したスケルトンの数に驚いている。
『シルビア、アイラ2人でスケルトンを掃討しろ』
念話で指示を送ると近くにいたスケルトンから斬り倒していく。
ゴーストと違ってアンデッドであるスケルトンが相手なら物理攻撃も通用する。
「騎士たちも助けてくれるのか?」
「せっかく最下層まで無事に辿り着けたのに見捨てるのは忍びないですから」
俺は震えているランドルフ王子の護衛だ。
イリスには魔法を使って骸骨剣士を相手に時間稼ぎをしてもらう。
問題は……
「メリッサさん?」
「あ、ああ……」
骸骨剣士を相手に戦意を失ってしまったメリッサだ。
決してランドルフ王子と同じように威圧されて恐怖したわけではない。
俺が鑑定して詳しい情報を得ようとしたようにメリッサも相手の情報を得ようと鑑定を使った結果、戦えなくなってしまった。
骸骨剣士のステータスは――
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名前:スケルトンロード
レベル:150
体力:4500
筋力:4200
俊敏:4000
魔力:5250
スキル:眷属召喚 死霊王の叫び 双剣術
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騎士たちの手には負えない強さだが、4人で協力すれば既にレベル400の魔物を倒すことのできたシルビアたちなら問題なく対処できる強さだ。当然、俺なら余裕で倒せる。
問題は、ステータスの先にある備考だ。
鑑定は簡単に使用しただけの時は相手の名前とステータス、スキルを表示するだけのスキルだが、詳しく知ろうとすれば詳しい情報を得ることができるようになっている。
武器などの装備品に対して使用すれば詳細な使用方法が分かり、人に対して使用すれば生い立ちや出身地などまで表示されるようになっている。
浅い階層までしかない迷宮の割に強い魔物だけに詳細が気になってしまい、調べてしまった。
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備考:盗賊に襲われ死亡した人々の怨念が集まり、特殊な魔力を得たことによって生まれた骸骨王。その恨みは、盗賊の頭領が第3王子だったことを知ってしまったため王族へと向けられている。
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その後、スケルトンロードの素材になったと思われる人々の名前が書き連ねられていた。
数えるのも馬鹿らしくなるような人数。
ざっと数えただけでも数千人レベルでいる。
そして、問題なのが第3王子の盗賊団に殺された人々の魂という点だ。
『メリッサ、この名前の中にお前の知り合いはいるのか?』
『……はい。いました』
俺も見つけてしまった。
ほとんどが平民だったため家名を持っていなかったのだが、数少ない家名持ちの中に『ラグウェイ』という名前を見つけてしまった。家族はアリスターで健在なのだから親族といったところだろう。
『叔父です』
俺がラグウェイの名を持つ者を見つけたことに気付いたメリッサから短い返事が届く。
『叔父様は父様の弟で、領主だった父様の手伝いをしていました』
そんな折に責任感の強い叔父は盗賊に殺されてしまったらしい。
『生死不明との事でしたが、こうしてスケルトンロードに取り込まれているという事は亡くなっていたという事ですね』
親しかった知り合いの死を知って涙を流していた。
そのスケルトンロードがシルビアとアイラによって眷属であるスケルトンが次々と倒されていく光景を見ながら魔力を溜めた状態で咆哮を上げる。
あれは、マズい……!
最下層で待ち受けていたのは因縁の相手でした。