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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第11章 王都迷宮
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第16話 王都迷宮―下層―

 王都迷宮地下9階。

 パトリック国王の説明を信じるならもうすぐ最下層に辿り着くはずだった。


 これまで全く戦闘をしていない俺たちは全く疲れていないが、騎士たちの表情には既に疲労が隠せないほど現れていた。体力や魔力は都度ポーションによって回復できるようになっているが、それでも疲労は溜まり続ける。


 上層では前衛の騎士たちばかりが戦っていたが、中層以降はゴースト系の魔物も出て来るようになったため魔法使いたちも消耗した魔力を回復させる為に魔力回復効果のあるポーションを飲んでいた。


 回復効果のあるポーションだが、効果の方は歓迎できるがとにかく不味い。

 良薬ほど口に苦いと言うが、1日に何度も飲み続けていると効果が薄くなり、苦味だけが体の中に残る。


 今も人よりも大きなゴーストを討伐した魔法使いが消費した魔力を回復させるべくポーションを飲んでいる。


「しかし、迷宮は稼げる場所だと聞いていたが、本当に稼げる場所なのか?」


 湯水の如くポーションを飲んでいく騎士たちの姿を見ながらランドルフ王子が呟く。

 ポーションの値段は質によって違うが、一番質の悪いポーションでさえ銀貨で数枚もする。それを探索の度に何本も飲み干していれば間違いなく赤字だ。


「普通はこんな風にポーションを使ったりしません。今回は最下層への攻略を最優先目標にしていますので、必要経費だと割り切ることにしましょう」

「経費の方もそうなんだが、宝箱が全くないではないか」


 地下9階まで宝箱を1つも見つけることができなかった。

 それに出現した魔物がゴブリンやスライム、ゴーストという体内に宿している魔石の質が悪い魔物ばかり。

 これでは持ち帰っても大した収入は得られない。


「宝箱の設置状況や魔物の配置については迷宮主が設定できるようになっています。ですが、この迷宮は迷宮主が設定することのできない迷宮なので宝箱が全くないのかもしれません」


 俺の答えにランドルフ王子が「そういうものか……」と納得していた。


「もっとも、私たちは攻略を優先させて進んで来たので、もしかしたら脇道に入った先に宝箱が置かれていた可能性もあります」


 実際、俺の迷宮でも洞窟フィールドでは脇道の先に置かれていることの方が多い。

 その方が探索をしている冒険者が道に迷い、長時間迷宮に居てくれるからである。


 しかし、そもそも誰も訪れることのない迷宮ではそのような時間稼ぎをする必要がないので宝箱を置いて時間稼ぎをする必要性そのものがない。


「全員止まれ」


 ランドルフ王子と会話をしながら進んでいると騎士が止まるように言う。

 進行方向からはカチャカチャという金属鎧を着た者の足音が聞こえてくる。


「もしかして、生存者か……?」


 足音から騎士だと判断した1人が呟く。


 けど、俺たちパーティは誰もが首を横に振りたくなった。

 前回の探索から数日が経過し、誰も訪れることのない状況では生存者がいるはずがない。それに正面から近付いてくる相手には生気を感じられない。


「空っぽ……?」


 やがて姿を現した人物は、鎧を着ているだけで中には誰もいなかった。

 ゴーストと同様に怨念による魔力が鎧などの物体に宿ったことで勝手に動くようになった魔物――リビングアーマーが現れた。


「あれは近衛騎士の鎧……!」

「しかも真新しいということは……」


 自立して歩いて来る鎧を見た騎士たちが呟く。

 騎士たちに分かったようにリビングアーマーの鎧はそれなりに新しい物だった。迷宮の魔力から新たに造り出す事も可能だろうが、数十年単位で人が訪れることのない迷宮ではそこまでの余裕がないはずだ。あの鎧はおそらく数日前に迷宮へ挑んだ騎士の鎧を再利用した物だろう。


「く、くそっ……誰の鎧か知らないが騎士の鎧を奪うとは……」


 迷宮はあくまでも戦力の1つとして鎧を再利用したのだからそんなことを言われても困るだろ。


「攻撃開始」


 リビングアーマーはゴーストの一種であるが、ゴーストなのは鎧を動かしている力そのものであり鎧には実体がある。そのため騎士の攻撃も通用するので騎士たちも斬り掛かっている。


 その表情には鬼気迫る物がある。

 同僚の鎧がリビングアーマーの鎧として使用されているということは、着ていた本人は既にいないということだ。


 敵討ち。

 鬼気迫る表情で斬り掛かる騎士たちだったが、


「うおっ!」

「硬い!」


 自分たちの着ている鎧以上に硬い鎧に攻撃してしまったせいで逆に剣が砕けてしまった。

 リビングアーマーは動かす体として利用すると同時に魔力で鎧の材質を硬くしており、並の剣では通用しなくなってしまった。


 彼らの収納リングの中には予備の剣もあるが、予備であるため今まで使っていた剣よりも質が落ちる。同じように鎧を斬ろうとすれば剣の方が先に折れてしまうことは分かり切っていたため躊躇していた。


 そろそろ稼ぎ時かな?


「聖剣1本金貨20枚で売りましょう。今回の探索の間のみの貸し出しも金貨2枚で引き受けます」


 何言っているんだこいつ?


 そんな目で騎士たちから見られる。


「聖剣は全てが漏れなく光属性の力が付与されています。これなら魔法使いの力に頼ることなくゴーストでも斬ることができます」


 アイラやイリスが持つ聖剣とは違う光属性の力が付与されたゴーストやアンデッドを斬ることに特化した剣。少量の魔力を流すことによって効果を発揮する。

 ゴースト相手に何もできなかった騎士たちなら喉から手が出るほど欲しい装備なはずだ。


「金を取るのか!?」


 何を当たり前の事を言っているのか。

 リビングアーマーの振り下ろして来た剣を回避しながら騎士が叫んでいた。


「必要ないと言うのなら買わなくて結構です」

「クッ……」


 金貨は近衛騎士でも簡単に出せるほど安い金額ではない。


「そんな物は必要ない!」


 騎士の代わりにリビングアーマーが出現してから仰々しい詠唱を唱えていた魔法使いが叫ぶ。

 強敵の出現に際して最初から強力な魔法を使うことを選択したみたいだ。

 詠唱は途中で中断することができない。詠唱を止め、叫んでいるということは魔法の準備が整ったということだろう。


「巻き込まれたくなかったら離れていろ!」


 魔法使いが持つ杖から光がブレスのように吐かれ、リビングアーマーへと迫る。


 聖光の息吹(ディバインブレス)

 杖から放たれた光が洞窟の通路を埋め尽くし、リビングアーマーとなっていた鎧ごと操っていた霊体を破壊する。


 光が駆け抜けた通路には何も残されていなかった。


「おお~」


 思わずそんな声が漏れてしまう。

 ディバインブレスを使える技量もそうだが、魔力消費の激しい魔法を躊躇なく使える姿に感心する。


「これが私の実力だ」


 ただゴキュゴキュとポーションを飲み干す姿を見てしまうとガッカリする。

 俺やメリッサならディバインブレスを連発しても問題ないだけの魔力量がある。


「す、すまない……」


 剣を失った騎士の1人が申し訳なさそうな表情をしながら近付いて来た。


「本当に聖剣を売ってくれるのだろうか?」

「ええ、何本か持っているので問題ないです」

「だったら1本売ってくれ。お金は地上に戻ったら必ず払う!」


 剣を失ってしまったので必要としているのかと思えば意外な理由があった。


「近衛騎士の装備は基本的に支給される物を使用することになっているが、自分の武器を使用してもいいことになっている。私も隊長たちが持っているような聖剣を手にしてみたいのだ」

「そういうことなら」


 宝箱(トレジャーボックス)から聖剣を取り出して渡す。


「おお、これが!」


 初めて手にする聖剣に騎士が目を丸くして子供のようにはしゃいでいた。

 聖剣を翳すと刀身が結晶の放つ光を反射して輝き、握っている柄には金色の装飾が施されていた。

 宝箱から得られる聖剣の中では一番それっぽい聖剣だ。


「気に入りましたか?」

「ああ!」

「では、地上に戻ったら支払いの方はお願いします」

「もちろんだ」


 他の騎士たちの表情も見てみたが、彼らは一様に悔しそうな表情で歯を噛みしめるだけで聖剣を売ってくれと言ってくるようなことはなかった。

 どうやら聖剣の金額を支払えるだけの蓄えがないらしい。


 貴族とはいえ、爵位を継げない者では自由に使える金額はそれほどない。


「騎士団長が持っていた聖剣に劣らないほどの聖剣。これほどの聖剣で金貨20枚なら安い方だ」


 同僚に自慢して見せる騎士。


 騎士が言うように聖剣の値段は高いのだが、それは金額の話だ。

 魔力で生み出しているので金額に換算すれば実際のところは金貨1枚分の魔力すら消費していない。


 全員に売れればもっと儲けられたが、1人に売れただけでも十分な儲けは出せている。


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