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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第11章 王都迷宮
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第14話 王都迷宮―上層―

 騎士の1人が行き止まりだった壁に触れると押せるようになっていたため小さな窪みが生まれる。

 引き戸のように横へずらすと地下への階段がある小部屋になっていた。サイズは大人1人が通れるぐらいで余裕がある方ではない。


「行くぞ」


 騎士6人を連れたランドルフ王子が階段を下りて行く。

 俺たちも仕方なく付いて行く。


「ここが、迷宮……」


 初めて迷宮を目にした騎士が呟いていた。

 階段を下りた先にある空間は、岩肌の岩盤に覆われた薄暗い洞窟で俺たちの迷宮の洞窟フィールドとそれほど変わらなかった。ただ、光源となる結晶が壁から突き出ているのだが、俺の知っている物と比べて力が弱いように感じられる。この辺は迷宮の蓄えている魔力の影響ではないかと思われる。


 迷宮核に聞けば教えてくれるかもしれない。

 だが、聞かない。

 もしも本当に迷宮が窮地に立たされた時には迷宮核の力が借りられなくなっている可能性が高い。なるべく自分たちの力だけで対処したい。


「我々が先導します。殿下も付いて来て下さい」

「うむ」


 騎士の一人がランタンを取り出す。

 結晶から得られる光は弱々しく、奇襲されることを考えれば新たな光源を用意するのは間違ってはいないのだが、騎士が手を塞いでしまうというのはどうなんだろうか。


 4人の騎士が前に出て、間にランドルフ王子。後ろに2人の騎士が控える。


「あの、魔法を使える人はいないのですか?」

「後ろの2人が使えるな」


 2人は、腰に護身用の剣を帯剣していたもののローブを着た魔法使いだった。


「迷宮を探索するならこっちの方が便利ですよ」


 メリッサに視線で合図を送る。

 すると彼女の両手に光と炎の球体が生まれる。


 光球(ライトボール)

 火球(ファイアボール)


 2つの光源が薄暗い迷宮を明るくする。


「魔法が使えるならランタンを使うよりもこっちの方が効率的ですよ」

「たしか2人とも適性に関しては問題なかったはずだな」

「殿下、たしかに私は光と土の属性に対して適性に対して光球も使えます。ですが、私の魔力はこのようなことに使うべきではありません」

「アルトの言う通りです。道具で補えるのなら魔力の消費は抑えた方がいいです」

「そうか」


 騎士から言われて納得するランドルフ王子。


 一見すると正しいように思える意見だが、彼らは単純に道を照らす為だけに自分の魔法を使うことを躊躇っただけだ。


 たしかに魔法を使い続ければ魔力は常に消費し続ける。しかし、最下級の魔法なら威力の操作と維持は簡単で、必要最低限の灯を得るだけなら消費を気にするほどではない。

 まさか、王城の騎士になれるほどの魔法使いなのに単純な操作もできないはずがない。


「では、使う時が来た時には期待させてもらいます」


 メリッサが光球と火球を消す。

 俺たちの助けはいらないと言ったのだから、わざわざ彼らの為に光源を用意する必要はない。

 迷宮に慣れた自分たちの視界は周囲にある結晶だけで十分だ。


「みなさん迷宮の探索は初めてですよね」

「そうだが?」

「だったら先にこれに触れておくことをお勧めします」


 迷宮の奥へ進もうとしていた騎士たちを止めて入口横にある3メートルほどの大きさがある蒼い光を放つ結晶を見るように言う。


「これは転移結晶と言って他の階層にある転移結晶まで一瞬で移動することができる物です。ただし、1度でも触れたことのある転移結晶の傍にしか転移することができないので階層を移動した時には全員が必ず触れるようにして下さい」

「そうか」


 ランドルフ王子が罠などを警戒することなく触れる。

 不審に思っていたことが表情に出てしまったのかランドルフ王子がどうして信用してくれたのか教えてくれる。


「貴殿たちの仕事は私の護衛だ。私の身が危険に晒されるような真似はするはずがないだろう。冒険者は報酬の為なら何でもするような奴だが、報酬が貰えなくなるような事態に自分からするような真似はしない、と信用している」


 なるほど。王族らしい納得の仕方だ。

 その後、騎士たちも嫌そうな顔をしながらも転移結晶に触れる。


「ふんっ、我らにはこのような転移道具など必要ない」

「では、あなたたちだけ最下層の地下10階まで辿り着いたら帰りは歩いて戻ってください。俺たちと殿下は安全の為にここまで転移して来ます」

「……行くぞ」


 騎士たちが今度こそ奥へ歩き始める。

 王都の迷宮は、構造こそ洞窟フィールドと同じだが入口からは左へ真っ直ぐに道が続いていた。

 静かな洞窟内に騎士たちの足音が響き渡る。


「大丈夫かしらね」


 そんな様子を見ながらアイラがつまらなさそうに呟く。


「さっきも言ったけど、勝手に付いて来た騎士たちは見捨てても構わない。俺たちの仕事はランドルフ王子を最下層まで連れて行くことなんだからな」

「できれば騎士も守っていただけないだろうか」


 俺の言葉が聞こえたランドルフ王子が割り込んでくる。


 王子の立場としては騎士の損耗は避けたいところだろう。

 だが、不必要な荷物を背負うつもりはない。


「殿下……そんなに騎士が大切だと言うなら今からでも遅くありませんから引き返させて下さい。はっきり言って足手纏い以外の何者でもありません」

「私たちが足手纏いだと! いつ足手纏いになった!?」


 騎士の1人が声を荒らげる。


 具体的に言うなら現在進行形で足手纏いになっている。

 洞窟のような音が響き易い場所にいるにも関わらず大きな音の鳴る鎧を着込んだまま足音を消す努力すらしない。


 迷宮主としては舐め切っているとしか思えない態度だ。


 そして、荒らげられた声。


「ゴブリン接近」


 そんな物が聞こえれば迷宮に潜む魔物が襲い掛かってくる。


「貴様らは手を出すな!」


 騎士が手で制して俺たちが前に出られないようにしていた。

 言われなくても俺たちが手を出すつもりはない。


「総員準備」


 騎士4人が剣を抜く。

 道の向こうからは3体のゴブリンが棍棒を振り翳しながら近付いて来た。


「攻撃開始」


 近付いて来たゴブリンの体を上から振り下ろした剣で両断する。

 ゴブリンの体が左右に崩れ落ち、臓物が撒き散らされる。


 3体全てが同じような末路を辿った。


「どうだ?」


 振り向きながらドヤ顔で聞いてくるので笑みを浮かべながら拍手をする。


 だが、俺たちの評価は最低だった。


「ダメね。腕はそこそこあるみたいだけど、ゴブリンみたいな雑魚相手にも全力で攻撃している。あんなことを続けていたら体力が最後までもたないわよ」


 アイラの言う通りだ。

 ゴブリンが相手なら首を両断するなり、心臓を一突きした方が効率よく倒すことができる。頭頂から股下に掛けて両断するなど非効率的だ。


 さすがに見捨てるのは忍びないのでアドバイスぐらいはさせてもらおう。


「ゴブリンのような相手にも全力で攻撃していると後が持ちませんよ」

「貴様らのような冒険者には分からないかもしれないが、騎士ならばどのような相手でも敬意を表して全力で攻撃するべきだ」


 人相手ならそれでもいいかもしれないけど、相手は子供でも狩れるようなゴブリンだ。ゴブリン相手に騎士が全力を出したらただの虐殺でしかない。


「よし、この調子で進むぞ」


 4人の中で隊長らしき人物の号令で進み始める。

 ダメだって、そんな調子で進んだら。


「殿下。彼らは本当に信用できる人物なのでしょうか?」

「実力はともかく迷宮の存在を秘匿してくれるという意味では信頼できるぞ」


 本当だろうか?


「彼らは近衛騎士だ。近衛騎士は基本的に貴族でなければ入隊することができないようになっている。もっとも貴族と言っても爵位を継ぐことのできない次男や三男ばかりだがな。だが、貴族だからこそ王族の秘密を知ってしまうという重要性を理解している。もしも、彼らの口から迷宮の存在が語られた時には国家反逆罪で捕縛するとも脅してある」

「うわ……」


 思わずそんな声が漏れてしまった。


 国家反逆罪で裁かれた場合には、たとえ爵位を継ぐ予定にない親族の罪だったとしても貴族家全体へと罪が及ぶ。

 家柄を大切にしている貴族だからこそ彼らは実家に迷惑を掛けるような真似はしないだろう。


「ただ、近衛騎士の仕事は王城内での王族の護衛だ。訓練を積んでいるし、対人戦の経験は積んでいるが、魔物との戦闘はほとんどしたことがないので実力に関しては不安が残るな」

「魔物出現」


 また、ゴブリンか。

 しかも全力攻撃で倒してしまっている。


 バテても知らないぞ。


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