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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第11章 王都迷宮
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第13話 メリッサの正直な想い

「では、これより話し合いを始めたいと思います」


 依頼内容を聞いて王城を後にすると宿へと戻って来る。

 パトリック国王からは、明日の朝も迎えを宿へ向かわせるので待っていてほしいと言われている。


 迷宮探索は明日の朝からになる。

 10階層程度の迷宮なら1日で終わるはずなので準備もそれほど必要ない。


「議題は、依頼を受けるか受けないか」


 俺の言葉にメリッサだけが意外な顔をする。


「ま、待って下さい」


 他のメンバーが賛同する中、メリッサが声を上げる。


「どうした?」

「王族からの依頼です。冒険者に限らず、王族からの依頼というのは傭兵や商人にとって成り上がる最大のチャンスなのです。それなのに依頼内容を聞いた後で断るなどあり得ません」


 メリッサはそう言うが、俺たちがそんな話し合いをする理由はメリッサにある。


「じゃあ、お前は依頼を引き受けてもいいのか?」

「……え?」

「今のお前は普段からは考えられないほど嫌そうな顔をしているぞ」


 できれば王族からの依頼なんて引き受けたくない。

 そんな感情が見受けられる。


「……そんなことありません」


 否定する前に沈黙があった時点で嘘なことがバレバレだ。


「命令権を行使する。『自分の正直な気持ちを言え』」


 眷属は主からの命令には逆らえない。

 しばしの逡巡があった後でメリッサが答える。


「……正直な気持ちを言うなら王族からの依頼なんて受けたくありません。第3王子のせいで私だけでなく両親や妹、多くの知り合いが苦労させられましたし、亡くなった人だっています」


 そんな人たちのことを思えば主犯の父や兄に協力するなど受け入れ難いのだろう。


「では、依頼は断るという方向で――」

「――ですが、それ以上に主の為に依頼を受けたいと思います」


 メリッサの想いはまだ終わっていなかった。


「私の感情は、たしかに第3王子を恨んだ気持ちで一杯です。同じように知りながら放置していた王族に対しても受け入れ難いです。ですが、それ以上に隠されていた事実を暴いてくれた主に恩返しをしたいという思いがあります」


 王族への恨み。

 俺への恩返し。


 どちらの方がメリッサの中で想いが強いのか。


 そんなものは、両手で俺の手を掴んで自分の胸元へと引き寄せ潤ませた瞳で俺を見つめてくる姿を見れば明らかだ。


「……はっ!」


 そこで絶対命令権の効果が切れてしまった。

 正気に戻ったメリッサが俺の手を放して毛布を被るとベッドの上で蹲ってしまった。恥ずかしさのあまり耐えられなかったらしい。

 隣にいたイリスがメリッサの背中を擦っている。


「こんなの、卑怯です……」

「私はメリッサさんの正直な思いが聞けてよかったですよ」


 最近加入したばかりのイリスにとっては仲間の正直な気持ちを聞けるというのは嬉しかった。

 これまで家族同然の相手としかパーティを組んでこなかったので急に同年代の相手とパーティを組むことになって戸惑わないか心配していた。本気で一緒にいるつもりならお互いに素直な気持ちを語り合うのが早いのだが、アイラはともかくシルビアやメリッサが正直な気持ちを語るのはないと思っていた。


 ただ、絶対命令権を行使してまで語り合わせるのは違う気がするので今回限りにしたい。


「メリッサさんは結局賛成なんですか? 反対なんですか?」

「それは……」


 間違いなく正気に戻ったメリッサの口からは語られない。


「それでは、メリッサの正直な意見も聞けたところで採決を取りたいと思います」


 とはいえ、みんなの顔を見れば反対する者がいないことは分かり切っている。


「今回の依頼を受けたい人」

「「「はい!」」」


 メリッサ以外の3人が明るくしようと手を挙げてくれた。

 答えなかったけど、メリッサは賛成でも問題ないだろう。


「ですが、お金や名誉をそれほど必要としていない私たちでは王族からの依頼を引き受けるメリットが少ないです。そのうえ、引き受けた依頼は何があるのか分からない迷宮の最下層までの案内。どうして依頼を引き受けようと思ったのですか?」


 理由か。

 まずは、王族からの依頼を引き受けることによってメリッサの中で王族に対する蟠りをどうにかしてほしいという思いがあった。

 聡明な彼女の事だから第3王子の一件で無関係な王族全てにまで良い思いを持たないのは間違っている、というのは分かっているはずである。ただ、何らかのきっかけが必要だった。


 今回の依頼が、そのきっかけになってくれればと思った。

 だが、そこまで詳しく教えるつもりはないのでもう1つの理由を告げる。


「今回の依頼って迷宮で予想外のトラブルが発生した事に端を発するものだよな」

「そうですね」

「もしも俺たちの迷宮でも何らかのトラブルが発生してしまったら? 依頼主の為だけじゃない、俺たちの迷宮で何らかのトラブルが発生した時には誰かに頼るわけにはいかない。俺たちだけで対処しないといけないんだ。一種の予行演習みたいなものかな」


 とはいえ、そこまで深刻には考えていない。

 致命的なトラブルがこれまでに発生していたようなら迷宮核の方で事前に教えてくれているはずである。俺たちが四苦八苦している姿を楽しんでいるような奴だが迷宮の管理者であることには変わりない。自分にも被害が及ぶのでトラブル関係の話は事前にするはずだ。


「もう1つ。王都の迷宮核に会ってみたいっていう理由もある」

「迷宮核に、ですか?」

「ああ、どうやって迷宮を維持しているのか? 何の為に今でも維持されているのかが気になっているんだ」

「はい。きちんとした理由があるなら私たちは最後まで着いて行くだけです」


 面倒な事を頼んでいるというのに彼女たちは朗らかに笑って頷いてくれた。



 ☆ ☆ ☆



 昨日と同じように迎えに来た騎士に案内されて王城へ行くと、昨日サロンへ案内された時とは違う壮年の騎士に固められた。


 案内された道はサロンへ行った時とは違う。

 詳しい行き先について説明されなかったが、王城の奥の方へと移動している。


「まったく……冒険者を王城の奥へ案内するなど陛下は何を考えているのやら」


 俺たちの案内に不満そうにしていた騎士が呟く。

 まあ、国の重要拠点である王城――それも奥へ得体の知れない冒険者を案内するなど騎士として耐え難いものなのだろう。そんな事が呟けるということは、俺たちの正体についてはパトリック国王たちの方で秘匿してくれたみたいだ。


 ここは聞こえていない振りをしてスルーする。


「着いたぞ」


 辿り着いた先には騎士2人を横に待機させたランドルフ王子がいた。

 けれどもそこには壁があるだけで何もない。いや、違うな。奥にある壁の向こう側が空洞になっている。


「ここへ来てくれたということは、依頼を引き受けてくれたと解釈していいのか?」

「ええ、無事に王子を最下層まで連れて行く事をお約束します」


 それにここまで案内されてしまった以上、秘密だけを持ち帰るというのも難しいだろう。


「殿下……」

「どうした?」

「やはり、冒険者を連れて行く事に私は反対です」


 ランドルフ王子と先に来て待機していた騎士が忠言する。


「問題ない。彼を連れて行く事は私の一存ではなく、国王陛下からの命令だ。私に万が一の事があっては問題だ。迷宮に慣れている彼らを連れて行くのは理に適っている。それに、これは王位継承に必要な儀式だ。これ以上の時間を掛けていると王位継承に問題あり、と私の即位に反対する諸侯たちに付け入れられる要因になるかもしれない」

「かしこまりました」

「それに危険があると言うなら騎士であるお前たちが守ればいいだけの話だろう」

「仰る通りです。この一命に代えましても守ることをお約束します」


 王子の言葉に騎士たちが納得する。

 しかし、今度は俺の方が納得できない。


「ちょっと待って下さい。まさか、騎士の方々も連れて行くつもりですか?」

「ああ、冒険者だけを連れて潜ることに反発されてしまったのでここにいる6名だけだが連れて行く事になった。これは、父上も納得されている」

「当然だ。冒険者のような薄汚い連中と殿下を一緒にさせるわけにはいかない」


 どうにも騎士からは嫌われてしまっているみたいだ。

 元々、国に仕えている騎士と報酬の為なら何でもやるような冒険者では仲が良くなかった。


 まあ、そっちがそういう態度を取るならこっちにも考えがある。


「私たちが引き受けた依頼は、ランドルフ殿下を迷宮の最下層まで連れて行く事です。皆さんの面倒まで見るつもりはないので魔物が現れても自分の身は自分で守って下さい」

「当然だ。冒険者程度に守られる必要などない。殿下の身も私たちだけで守ってみせる」


 彼らは既に潜っている騎士が帰って来ていないという事実を忘れているみたいだ。

 騎士の皆さんからも言質を貰ったので俺たちはのんびりと着いて行くことにしよう。


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