第12話 王の依頼
「鑑定を使ってみろ」
正体を知っていたパトリック国王のことを訝しく見ていたら国王が鑑定を使うように言ってきた。
鑑定は、相手の力次第では使用されたことが分かってしまうので滅多な事では使用しないことにしていた。
チッ……思わず舌打ちしそうになるのを抑える。
サロン内にある道具には怪しい道具はない。しかし、パトリック国王のステータスに問題があった。
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名前:パトリック・メティカリア
年齢:51歳
職業:迷宮主 メティス王国国王
性別:男
レベル:42
体力:3630
筋力:3378
俊敏:3336
魔力:3462
スキル:迷宮操作 王の咆哮 迷宮結界
適性魔法:迷宮魔法
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突っ込みどころが多すぎる。
だが、一番に注目すべきは職業の迷宮主だ。
「迷宮主だったのですか?」
メティス王国内には2つの迷宮が存在している。
1つは王国の南東に存在しているアリスター近くにある迷宮。
もう1つは、ちょうど王都を挟んで反対側である王国の北西にある迷宮。
迷宮主は、1つのダンジョンに対して1人しか存在していない。俺がアリスターの迷宮主である以上、パトリック国王は他の迷宮の主であると考えられる。
けれども北西にある迷宮の主というのも考えにくい。
パトリック国王の3000以上ものステータスは、俺と同じように迷宮主になって得られたものだと考えられる。しかし、それを除いたステータスはレベルを考慮すると高すぎるというわけでもない。とても迷宮を攻略できるようなステータスには見えない。
それに迷宮主になった強化が3000というのも少ない。
『ああ、勘違いしちゃいけないよ。迷宮主になって強化されるステータスの値は主になった迷宮の規模によって変わってくるんだ。たった3000の強化ってことは10階層ぐらいしかない迷宮だね』
俺が疑問に思ったのを察知したのか迷宮核があっさりと教えてくれた。
10階層の迷宮で3000。
80階層の迷宮で10000。
『どうして迷宮によって強化が違うことを言わなかった』
『だって聞かれていないからね』
子供みたいなことを言い出した。
『前の迷宮主の時でさえ、この国には2つの迷宮しか存在していなかった。どうやら反対側の迷宮までわざわざ行ったりしないようだったし、向こうから現れる可能性も低いだろうから放置してもいいかなって思ったんだよ』
たしかに迷宮核が言うように他の迷宮へ挑むつもりはなかった。
他の迷宮へ行けば自分の迷宮の魔力を消費せずに一獲千金を狙うことができる。けれど、わざわざ国の反対側に行ってまで狙おうとは思わない。
「あなたが私の正体について知ることができた理由は分かりました」
「そうか」
「それで、迷宮主であることを知ったうえで依頼したいこととは何ですか? 私の職業から確信したんでしょうけど、鑑定を使って職業が見えたということはステータスの方も見えているはずです」
パトリック国王の適性には、しっかりと『迷宮魔法』が記載されている。
適正魔法の記載だけでは、どれだけの適性があるのか分からないので強力な魔法まで使えるのか、それともアイラのように鑑定のような魔法しか使えないのか判断することができない。
それでも鑑定のような簡単な魔法なら使えるはずだ。
「お前に頼みたいのは、迷宮の最下層までランドルフを連れて行く事だ」
「迷宮の規模にもよります」
「安心しろ。最下層は10階だ」
やっぱり10階層の迷宮だったか。
俺の知っている迷宮の常識に当てはめるなら10階ぐらいなら余裕だ。
「実は、この王都の地下には一般に知られていない迷宮が存在する」
知られていない迷宮の主か。
けれど、王都の地下に迷宮があるなんて噂すら聞いたことがない。
「その迷宮が何の為に存在しているのか迷宮主である私ですら知らない」
「では、迷宮主として何をしているんですか?」
「何も」
それは、おかしい。
ステータスにはしっかりと迷宮主だと書かれているので、迷宮主であることは間違いない。
迷宮主ほどの力があれば様々なことができる。なにせ魔力さえあれば宝物や金貨を自由自在に生み出すことができる。国王としてその力を利用すれば国の財政を豊かにすることだって可能だ。それに魔物も自由に生み出せる。国防の観点から魔物を相手に強化された騎士は必要な存在だ。
魔力さえあれば……そうか、魔力がないのか。
誰にも知られていない迷宮、ということは誰も訪れることのない迷宮ということだ。
誰も訪れなければ魔力を得られることができない。
現在も維持されている理由は分からないが、魔力不足では何もできないのは仕方ない。
「魔力が足りないのなら開放して訪れる人から魔力を集めればいいのでは?」
パトリック国王が首を横に振る。
「万が一にも王族以外の人間が最下層にある迷宮核に触れられて迷宮主になられるわけにはいかない」
主や眷属以外の人間が最下層に安置された迷宮核に触れると最後に触れた人間に迷宮の管理権限が委譲され新しい迷宮主となる。
「では、どうやって今でも迷宮を維持し続けているんですか?」
維持にも魔力が必要となる。
誰にも訪れさせていないのなら維持ができるはずがない。
「分からない。迷宮操作というスキルを持っていても私には迷宮の管理権限がほとんど与えられていない。それは、歴代の国王――迷宮主たちも同じだった。だが、私たちにとって最も必要なのは迷宮の管理権限よりも迷宮主になったことで与えられる『王の咆哮』の方だ」
王の咆哮がステータスにあることは確認してある。
使い方次第では危険なスキルだ。
「王の咆哮――威圧することによって相手を従わせるスキルですね」
「そうだ。先ほどのランドルフのように私に意見してくる者が多い。それが正しい意見ならばいいのだが、先ほどの意見は正しいものではない。だから私の方で一喝させてもらった」
そして、咆哮を聞いていた俺たちも影響下にあったのだが、残念ながら俺たちには効果がなかった。王の咆哮について詳しく調べてみると王よりも下の地位にいる者でなければ対象にはならないらしい。
どうやら迷宮主と王は同等、もしくは迷宮主の方が上だと判断されるらしい。
「歴代の王は、王位継承をする前に王の咆哮を手に入れる為だけに迷宮へと潜り、迷宮主になる。私の時も信頼のおける騎士だったが、迷宮核に触れれば迷宮主になれることなどは隠したうえで迷宮内にいる魔物の間引きを頼み、私が最後に騎士と共に挑んで迷宮主となった。近々、ランドルフにも王になってもらう為に迷宮内の魔物討伐を信頼のおける騎士に頼んだ」
しかし、そこで問題が起きた。
「私が迷宮に挑んだ時に出て来た魔物はゴブリンやスライム、強い魔物でもオーガといった連携の取れた騎士ならば無傷で倒せるような魔物ばかりだった。だが、今回最初に送り込んだ騎士は誰一人として帰って来なかったし、救助に向かわせた騎士も未だに戻って来ない」
迷宮で何か緊急事態が発生した。
「そこで、お前たちに迷宮の最下層までランドルフの護衛を頼みたい」
「いいんですか? 騎士の中でも信頼できる人物しか迷宮へ挑ませていないみたいだったですけど? 私たちは信頼できますか?」
「人柄の方は分からない。だが、迷宮主にならないという点では信頼できる」
……そういうことか。
眷属が迷宮核に触れても新たな迷宮主になったりするようなことはない。それと同じように迷宮主が自分の迷宮以外の迷宮核に触れてもその迷宮の管理権限が手に入るわけではないと迷宮核から教えられたことがある。
もしも迷宮を2つ手に入れることができたなら別の迷宮に挑んで別の迷宮を手に入れることも考えたかもしれない。
俺たちが王都の地下にある迷宮の最下層へ行っても迷宮の管理権限が手に入ることはない。
「その辺の事情は、迷宮主になった時に最低限の知識として教わっている。愚息のことで蟠りがあるだろうが、ランドルフを迷宮の最下層まで連れて行ってくれないだろうか? そして、叶うことなら迷宮で何が起こったのか、騎士たちがどのようになったのか調べてほしい」
王様から王都の地下に隠された迷宮の踏破を依頼されました。
迷宮主になった人間は、生涯で1つの迷宮しか持てないように設定されています。