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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第11章 王都迷宮
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第6話 神の運―ゴッドラック―

「……どうした?」


 翌朝、起きてからリビングへ行くとテーブルに突っ伏している4人の姿があった。

 アイラがだらけている姿は何度か見たことがあるが、シルビアまで朝食の準備をせずにいるのは珍しい。

 いや、思い当たる節はある。


「また喧嘩でもしたのか?」


 時折、くだらない理由で喧嘩をすることがある。

 そういう時は必ず迷宮の地下57階でさせるようにしているので、地下57階の闘技場に設置された結界のおかげで傷を負って帰ってくることはない。だが、傷が治療されてもダメージを負ったという感覚まで消えるわけではないので憔悴してしまうことがある。

 今日もそんな感じだろう。


「たしか20日ぐらい前にもやったばかりだろ」


 理由については覚えていない。

 呆れながら4人の状態を確認するとテーブルの上に置かれた瓶に気付いた。


「なんで、この薬があるんだよ!?」

「ああ……!」


 思わず瓶を奪い取るとシルビアが声を上げた。

 シルビアを無視して犯人と思われる相手に話しかける。


「お前な、なんで勝手に渡しているんだよ」


 テーブルの上に置かれていたのは、昨日迷宮探索に行く前に迷宮核(ダンジョンコア)宝箱(トレジャーボックス)で出現させた非常に危険な……俺にとっては危険な薬だ。


 シルビアたちに渡した犯人がいるとしたら迷宮核以外に考えられない。


『残念だけど、その薬については僕が渡したわけじゃないよ』

「は? 他に誰がいるんだっていうんだよ……」


 もう1人迷宮操作が使える人物が加わったことを忘れていた。

 しかし、イリスに視線を向けると顔を上げてフルフルと首を横に振っていた。彼女でもないらしい。


「主、その薬は私たちが自分の力で勝ち取った代物です。私たちの誰かに所有権があります」

「勝ち取った?」

「最初の頃に約束したはずです。『個人で得た報酬については自分たちの物にしていい』と」


 個人的に受けた依頼の報酬は生活費に思い思いの金額を入れてくれるだけで残りは自分の物にしていい、と事前に決めていた。

 だから俺の誕生日プレゼントも彼女たちが自分の所持金から購入していた。


 やはり、自分で稼いで自由に使えるお金は必要だ。


 それは物についても適用される。

 だから彼女たちが依頼を受けて報酬として薬を譲り受けたというのなら彼女たちに所有権がある。


「この薬は迷宮の宝箱から得た物です。私たちに所有権があるはずです」

「まあ、そうだな」


 薬を返す。

 椅子に座ったところで、ふと思った。


「迷宮で手に入れた?」


 ちなみにテーブルの上に置かれた薬のランクはSだ。

 Sランクの宝物が入った宝箱などそうそう運がよくなければ手に入れることができないし、迷宮でも下層まで潜る必要がある。


 いや、1箇所だけ確実にSランクの宝物が手に入る場所があった。


「まさか、地下77階に挑んでいないよな!?」


 地下77階には5つの部屋があり、それぞれにSランクの宝物が確実に手に入る宝箱が置かれている。しかし、宝箱を開ける為には番人のようにいる強力な魔物を倒す必要がある。


 俺が戦った時にはレベル500の魔物が出現した。

 迷宮主だからこそ倒すことができた魔物で、眷属の彼女たちでは勝てない。


「何なんですかレベル400の魔物って!?」


 地下77階で戦ったらしいイリスが声を上げる。

 あれ、俺が戦った魔物よりも弱い?


 そうだ。地下77階で出現する魔物はレベルが400~500に設定されている。俺は運が悪かったせいで連続でレベル500を引き当ててしまったけど、運がよければレベル400を引き当てることだってできる。


「そういう階層なんだ、諦めろ」

「でも、ツインヘッドドッグとかいう魔物で炎と氷の息吹を使ってくる魔物がいるなんて聞いたことがありません! 鑑定があって相手の能力が全て分かっていたから倒すことができましたけど、本当に命懸けだったんですよ!」

「けれど、その甲斐あって薬を手に入れることができました」

「……私は別に欲しかったわけじゃなかったんですけど」

「いいじゃない。ちょっとしたレクリエーションよ」


 どうやら薬を狙っていたのは3人だけでイリスは付き合わされただけみたいだ。


「もしかして1つ目の宝箱で手に入れることができたのか?」

「鑑定を使ってみて下さい。シルビアさんが宝箱を開けてくれたおかげです」

「また盗賊系のスキルか……」


 新しく手に入れたシルビアのスキル『神の運(ゴッドラック)

 効果は確率操作。無数に存在する可能性の中から望んだ可能性を引き当てることができる豪運を手にすることができる。ただし、可能性を強く望む力に影響されるので心の底から強く願う必要がある。


 何百種類という宝箱の中から望んだ薬を手に入れる。

 神の運を使用すれば難しいことではらしい。


 ただし、一言だけ言わせてほしい。


「どれだけ欲しかったんだよ」


 己の願望に影響される以上、シルビアの『欲しい』という感情がそれだけ強かったということだ。


 はっきり言おう。この薬の効果を思うとちょっと引いてしまう。

 俺だって今の年齢で親になるつもりはない。


「今は必要ないかもしれませんが、将来的には必要になるかもしれない代物です」


 それで存在を知った日に手に入れる為に命懸けの戦いをしたのか。

 そこまで欲しかったなら言えば渡したのに。


「なんだ。喧嘩をしたんじゃなくて命懸けの戦いをしたから疲れているのか」

「いえ、それが……」


 イリスが苦笑しながら何があったのか説明してくれる。

 手に入れた薬は、4人で分けて飲んだからと言って確率が25パーセント上昇するような代物ではなく、1本飲んで初めて効果を発揮してくれる代物だった。


 そうなると誰が飲むかで揉める。

 揉めた場合の解決方法など彼女たちの間では1つしかない。


「つまり、3人の中で誰に所有権があるのか揉めて喧嘩に発展した」


 イリスは人数制限に気付いた時点で辞退した。


「あの時はビックリしました。話を聞いててっきり模擬戦みたいに寸止めをしたり刃引きをした武器を使って攻撃するのかと思えば真剣を使って相手の急所を狙うし、殺傷能力のある魔法で攻撃を始めたりしてしまうので……」


 しかも地下57階の特性について何も説明せずに戦いを始めてしまった。

 思わず目を逸らしてしまったイリスが戦闘音の止んだ闘技場の上に視線を向けると体を両断されて血だまりの上に倒れたシルビアと左胸に短剣が突き刺さって火傷を負ったアイラ、頭部を失ったメリッサが倒れていた。


「やり過ぎだ……」


 事情を知らない者が見れば3人が死んだようにしか見えない。

 いや、実際に死んでいる。

 単純に結界の効果で死んだ後で蘇生が行われているだけだ。


 そんな死ぬような負傷をすれば疲れが残るのも仕方ない。


「で、誰に所有権があるんだ?」

「いえ、その後で話し合って誰か1人だけが使うというのは良くないということになりました」

「そうか」


 ホッと一息吐く。

 どうやら彼女たちの間で話は終わったらしい。


 ただし、俺にとっては終わってなかった。


「既に薬の成分は解析が終わりました。ただし、複製に必要な素材が不足しているので複製を作るのはしばらく先の話になりそうです。アリスターでは手に入れることができない素材がいくつか使われていました」


 薬を使うことそのものを諦めたわけではなさそうだ。

 どうやら一服盛られてしまうのは確実らしい。


「おいおい頑張るのはいいけど、今日は久し振りにギルドへ行く予定でいたんだからしっかりしろよ」

「ああ、大丈夫です」


 全員が朝食代わりのポーションを収納リングから取り出す。

 これもいつもの光景だ。


「私、このパーティで大丈夫でしょうか?」


 そこに小さくなってオロオロするイリスが加わった。

 イリスには他のメンバーのように襲い掛かってくることがないように期待したい。彼女は今のままの方が可愛い。




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