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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第11章 王都迷宮
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第5話 マグマ急流下り

 地下26階から地下30階までの火山フィールド。


 鉱山フィールドと同様に鉱石の採掘ができる岩肌の壁に囲まれ、道を歩いて奥へと進むフィールドなのだが、鉱山との違いは通路のあちこちから湧き出ている火山のマグマだ。

 触れれば人の体など一瞬で溶かす危険な代物で、マグマが放つ熱気のせいで火山フィールドはいるだけで蒸し暑く汗が流れてくる。


 そして、やって来た地下27階はちょっと変わっていた。

 地下26階から転移して来た場所は左右に蛇行した道が伸びており、途中にある洞窟の中に潜りながら10キロ先にある最奥を目指す構造になっている。


 ただし、地下27階にだけショートカットできるコースが存在する。


 それがマグマの急流下り。


「随分と簡素なボートですね」


 入り口である転移結晶の正面から真っ直ぐにマグマの川が流れており、流れに沿って進むと左右の道を普通に進んだ時と同じように地下27階の最奥まで1キロで辿り着くことができるようになっている。


 川を下る為のボートは迷宮の方で準備させてもらった。

 もちろんマグマの川を下るのだから普通のボートではなく、迷宮で採取できる特殊な金属を用いて造られた特殊なボートでマグマの上を流れても溶かされることがない。

 ボートはイリスが言ったようにパーティを運ぶ為の物なので10人が座っても問題がないように大きく作られているが、飾り気など全くないボートだった。


「このボートを造るのだって迷宮の魔力を消費しているんだから文句を言うな」


 ボートに乗り込む。シルビアたちも俺に続く。

 全員が乗り込んだ瞬間、ボートがわずかに揺れたが、最後に乗り込んだメリッサが重いとかそういうわけではなく、そういう仕様になっているためだ。


「話に聞いているだけで初めて乗り込みましたが、5人が乗り込んだだけで揺れてしまうのですね」

「その方が面白そうだろ?」

「面白そうって……」


 実際、地下27階の急流マグマが作られたのは迷宮を訪れた冒険者の為にコースのショートカットの用意したわけではない。強すぎる力を持て余した当時の迷宮主(ダンジョンマスター)が暇つぶしに造ったアトラクションだ。


 全員が乗り込んだことをしっかりと確認してボートの先端に立つ。

 さすがにマグマの海に落ちれば俺たちでも無事では済まされないので慎重になる必要がある。


「動かすぞ」

「きゃ」


 ボートに魔力を流すと前へ動く。


「魔力を流している人間の意思に反応して方向を決定しているのですね」

「動かしてみるか?」

「はい」


 先頭を代わって操作をイリスに委ねる。

 操作、と言っても左右のどちらに動かすのか、速度をどうするのか程度しか要求されないため操作に必要な魔力操作能力さえ持っていれば誰でも操作することができる。


「見てください亀です」


 シルビアはのんびりとした様子でボートに座りながらマグマの海を眺めている。

 マグマの海からは亀が顔を出している。この亀――フレアタートルも魔物で火山のような熱い場所を好んで生息し、背中には燃える甲羅を背負った大きな亀だ。


「げっ、マグマの塊を吐き出して来たわ」


 アイラが同じようにフレアタートルを見ながら女子らしくない声を上げる。

 フレアタートルから吐き出された燃える岩の塊がボートに迫る。

 一撃で壊れるようなことはないが、何発も受けていればボートが壊れるようになっている。


「ちなみに地下27階を探索する時はマグマの海から突然現れる魔物を警戒しながら進んで攻撃に備える必要があるから注意しろよ」

「そういうことは早く言って下さい!」


 イリスが叫びながら魔法で造り出した氷柱をマグマ弾に叩き付ける。


 マグマと氷が衝突して水蒸気が周囲に立ち込める。

 発生した冷気にフレアタートルが逃げ出す。フレアタートルは冷気や水に弱いという性質を持っているので、自分の身に危険が迫っていることを感じると逃げ出す傾向にある。


「他にはどんな魔物がいるんですか?」


 落ちると危険なので先に確認しようとイリスが聞いてくる。


 だけど、危険なのは魔物だけじゃない。


 突然マグマの海から噴き出してきたマグマが蛇のようにうねりながらこちらへと襲い掛かってくる。


「アイスウォール」


 イリス以上の速度で空中に出したメリッサの氷の壁がマグマを受け止める。

 溶かされながらもマグマを受け止めた氷の壁がマグマの海に落ちる。


「噴き出したマグマが襲い掛かってくることがあるから天然の罠にも注意しろよ」

「どうして、そんなに楽しそうなんですか!」


 実際にちょうどよい緊張感を味わえて楽しい。

 当時の迷宮主が退屈凌ぎに造った気持ちが分かる。


 その後もボートを走らせているとマグマで造られた人型の魔物――マグママンや鮫型の魔物であるマグマシャークが襲い掛かってきたが、イリスとメリッサの魔法によって全て退けられている。


 地上とは違ってボートの上から襲い掛かってくる敵を攻撃しなければならないので遠距離手段が要求される。

 シルビアとアイラも遠距離攻撃手段として飛んで行くナイフと弓を持っているが、物理攻撃はマグマの体に呑み込まれて有効な攻撃手段ではない為イリスとメリッサに任せている。


 俺は海から飛び出してくる敵の存在を楽しんでいた。


 そんな楽しい旅も10分経過する頃には終点を迎える。


「そろそろイベントボスだぞ」

「イベントボス?」

「10階や20階で出現するボスとは違う存在ですか?」


 各フィールドの最奥には強大な力を持ったボスが存在する。

 ボスを倒さなければ次の階層へは進めないようになっているため冒険者の多くがボス攻略の為に頭を悩ませている。


 そういったボスとは違ったボスの存在だ。


 マグマの海が盛り上がり、中からは真っ赤な鱗を持った蛇のように胴体が長い竜がいた。

 急流マグマ最後の試練だ。


「何ですか、レベル200って!?」


 鑑定を使用して驚いたイリスが叫ぶ。


 迷宮の外では全く見ないレベルの魔物――マグマドラゴン。

 このレベルになると普通の人間が単独で倒せる強さを超えている。地上で出現した場合には国が総力を挙げて犠牲を出しながらも立ち向かう必要があるほどの強さだ。

 ま、迷宮主の俺なら倒せるけど、2割しか持たない眷属では難しい。


 マグマドラゴンが炎弾を吐く。


「ひ、左!」


 イリスが口に出しながらボートの進行方向を左へ変える。

 想像以上に焦っているみたいだ。


「あいつが本気で倒すつもりで襲ってくることはないから安心しろ」

「根拠は!?」

「あいつはマグマを下って来た相手の進路を塞いで引き返させるのが目的なんだ。だから立ち回り方次第で攻撃を避けるのは簡単だ」

「そんなこと言っても!」


 しかし、イリスはボートを左へ右へと動かしながら直進を続けている。

 このままだと10秒以内に接敵する。


「仕方ありません」


 次々と降って来る炎弾にじれったくなったイリスがボートの先端から飛び立つ。


 ――は?


絶対零度の零(アブソリュート・ゼロ)


 マグマドラゴンから吐き出された炎弾が一瞬で凍らされ、マグマドラゴンの体も至る所から凍らされていく。


 GYAOOOOO!


 凍る体に怯えたマグマドラゴンが咆哮を上げる。

 イリスが使った魔法は迷宮の75階にいるボスが使用する魔法で、一定空間内にある動いている物体を凍らせて相手の動きを停止させる絶対零度の魔法。この魔法への対処法は速く動く物体ほど凍らされていくので極力動きを抑えたうえで相手を倒す。マグマのドラゴンの体は常に揺れているマグマだったため動きを抑えることなど不可能だった。

 最上級魔法に分類される魔法で、それに見合った効果があるのだが発動中は同じように魔力を異常に消費し続ける為に眷属になったイリスの魔力量があって始めて25秒間だけ使用可能となる。しかも、ここに辿り着くまでに魔力を消費してしまっているので発動させられていられる時間は10秒が限界。


 限界の10秒が経過する。

 空中にいながら足元の空気を凍らせて立っていたイリスが落ちて来る。


「おっと」


 滅多に見られない魔法を眺めている場合じゃない。

 イリスが飛び出したことによって魔力を流す者のいなくなったボートを操作して落ちて来るイリスを受け止める。


「倒せましたか?」

「当然だ」


 自分の魔法の結果が見えていないようなので肩を支えながら自分の足で立たせる。

 周囲では襲い掛かってきたマグマドラゴンだけでなくマグマの海すら凍り付いてしまっている。


「凄まじい威力の魔法だけど、威力が強すぎて制御ができていないせいで魔力が尽きるまで魔法が発動している。おまけに5000以上の魔力量があっても短時間の発動しかできないから今後は状況を考えて使用するように」

「……はい」


 反省した様子のイリスが頷く。


 急流下りもここまでだ。

 ボートもアブソリュート・ゼロの効果範囲内にあったせいで凍り付いてしまっているせいで動かすことができなくなってしまった。しばらくすれば周囲の熱気によって溶かされるだろうが、すぐに動けるような状況ではない。


「これ以上の探索はできそうにないし、今日のところは帰るか」

「そうですね」


 マグマドラゴンに襲われている間も座っていた3人が立ち上がる。

 俺が乗ってしまうと魔物もマグマも余裕で迎撃できてしまうので緊張感がないのだが、誰かが操作しているボートに同乗していると緊張感があって楽しめた。今度はメリッサが運転するボートに乗せてもらおう。


 屋敷に帰ろうと目の前にいるイリスの顔を見ると真っ赤になっていた。

 マグマの熱気はまだ残っているので、そのせいかとも思ったが違った。

 俺が抱き寄せているせいで照れて顔を真っ赤にしているみたいだ。


「ご、ごめんなさい!」


 慌てた様子のイリスが俺から離れる。

 こういう反応はシルビアたちからは見られなかったので新鮮だ。


「どうします? わたしたちもああいう反応をした方がいいのでしょうか?」

「できなくはないと思うけど」

「私たちがやると逆効果でしょう」


 3人娘が何か言っている。

 今さら肉食系女子から草食系の反応をされても罠なんじゃないかと警戒して落ち着かないので止めてほしい。


「ほら、帰るぞ」


 屋敷に帰るとその日は1人でぐっすりと眠った。


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