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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第11章 王都迷宮
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第2話 夢見る新人

「うわぁ~」


 迷宮の地下11階。

 地下10階までの薄暗い洞窟フィールドとは打って変わって晴れた青空と長閑な草原がどこまでも続く草原フィールドを目にした10人の新人冒険者たちが口を開けて呆けていた。


「こんなに変わるものなんだな」

「この光景が見られただけでも田舎から出て来た甲斐があるよ」

「馬鹿! 呆けている場合か! 早くデップを街の病院に連れて行かないと死ぬことになるぞ」

「そうだった!」


 彼らは全員15歳ぐらいの少年少女たちで俺よりもちょっと幼く見える。

 その内の1人が隣にいた少年の頭を叩いて地面に倒れた別の少年を介抱する。


「何の為に1カ月近く雑用をして金を溜めたと思っているんだ。迷宮で戦える装備を買って一獲千金を狙う為だろうが! 俺たちの戦いはこれからなんだよ」

「そうだけど……街までもつのかよ」


 地面に倒れた少年は腹部から大量に血を流しており、とてもではないが街に辿り着くまでもつようには見えなかった。

 それに他のメンバーも戦闘をした後で疲弊していた。


「俺たちも魔物を倒して強いと思っていたんだけどな……」

「実際、上にいたゴブリンとかなら楽勝だったろ」

「でもボスが……」


 地下10階には洞窟フィールドのボスであるハイゴブリンがいる。

 レベルも15と低く、地下10階まで辿り着ける実力のある冒険者なら数人が協力すれば倒すことができる。しかし、彼らの場合は無傷というわけにはいかなかったみたいだ。


 ハイゴブリンは、それまでのゴブリンとは違って身長が2メートル以上ある巨体で上から大鉈を振り下ろしてくる。そんな攻撃を安物の武器で受け止めればすぐに使い物にならなくなる。どうやら安物の武器だったらしく、所々罅割れていた。


「どうすればいいんだよ」

「でも、デップを見捨てるなんてできるわけがないだろ」

「だから困っているんだよ」


 回復手段を持ってきていない新人冒険者たちが困っていた。


「俺も疲れたよ」

「わたしも」


 何人かの少年少女が地面に座り込んでしまった。

 彼らがいる転移結晶の近くには魔物が出現しないようになっているので気を抜いても魔物に襲われるようなことはないのだが、気を抜いた新人から金を奪い取る人間は注意してほしいところだ。


 仕方ない。

 そろそろ出て行くことにするか。


「良かったら回復薬(ポーション)はいるか?」

「あなたは?」

「俺は君たちと同じようにアリスターで冒険者をしている先輩だよ」

「……見たことがありませんね」

「そりゃ、ここ数日は外に出ていて帰って来たのは昨日のことだからギルドには顔を出していないんだよね」


 本当なら午前中はのんびりするつもりだったのだが、ボスに挑む新人たちがいるという報告を迷宮核(ダンジョンコア)から受けて迷宮へと跳んできた。


 ボスのいる部屋はパーティ以外は入れないようになっているので普通なら他人が中の様子を把握することはできないのだが、迷宮主(ダンジョンマスター)である俺は迷宮同調で外から覗かせてもらった。

 結果、ハイゴブリンに重傷を負わされる姿を見ることになってしまった。


「君たちの中で回復魔法を使える人は?」

「……いません」


 10人もいて魔法適性を持っている者すら3人しかいない。他の7人が前衛を務めている。


 正直言って迷宮を舐めているとしか思えないパーティだ。


 そもそも10人で行動している時点で多すぎる。

 迷宮は草原フィールドのような広大な場所ならともかく5人ぐらいが動き回れば狭く感じるような通路だってあるのだから10人は多すぎる。現にハイゴブリンとの戦闘は10人で取り囲んでいるだけで動き回ることができなかったせいで人数の多さを活かすことができていなかった。

 パーティで戦いをするならバランスも考えなくてはならない。


 そして、回復魔法を使える人間がいないなら別の回復手段を確保しておかなければならない。


「回復薬は持ってきていないのか?」

「その、そんな金もなくて……」


 俺も迷宮に潜った初日は最低限の装備をしただけなので人のことは言えない。

 それでもすぐに引き返すつもりだったので彼らのように3日目でボスに挑むような真似はしていない。


「迷宮に潜るなら最低限の回復手段は必要になるぞ」

「くれるんですか?」


 傷を負って体力まで消費している彼らにとって回復薬は必要な物だろう。

 俺としても迷宮に対して恐怖を覚えて10人もの人間が来なくなるよりは回復薬の提供の方が安く済む。


「ただし、1本につき銀貨1枚ね」

「金取るのかよ!」


 少年の1人が金を取られることに吠えるが、俺だって慈善事業ではないのだ。

 それに価格だって良心価格だ。


「銀貨1枚なら安い方だぞ」

「けど、せっかく手に入れた銀貨を回復薬に使うのか?」

「街で普通に回復薬を買おうと思ったらそれぐらいの値段はする。彼はここまでの運搬費もなく俺たちに売ってくれようとしているんだ」

「デップの命には代えられないわ」

「ううっ……」


 なにやら大金を必要としているらしい少年以外は金を出してでも重傷を負っている少年に回復薬を飲ませることに賛成みたいだ。


「……分かった」


 結局、仲間の命には代えられないということでデップ少年に回復薬を飲ませることにした。

 その後、体力を消耗していたのでさらに4本を購入することを決めた。


 収納リングから回復薬を取り出す。

 新人冒険者たちは何もない場所から突然出現した回復薬を怪しんでいたようだったが、俺が収納リングという魔法道具から取り出したことを説明すると1人が勇気を振り絞って飲み始めた。


 宝箱から手に入れた銀貨は使い切ってしまったようだが、魔物を倒して手に入れた魔石があるので売却すれば十分な収入になる。


「まったく、今でもこんな商売をしているのか」


 護衛も兼ねて少年たちの傍にいると1人の冒険者が近付いて来た。

 その冒険者は背中に大きな剣を背負った大男で薄手のシャツの上にベストを着ており、蛮族のような鬚の生えた人だった。


「え……?」


 俺は地下11階に転移してきた瞬間に気付いていたのだが、疲れ切っていた新人冒険者たちは気付いていなかったみたいだ。


「別に問題のある行為ではないでしょう?」

「そうだな。迷宮で困っている奴に適正価格で商品を売り付ける。普通の商売だ」


 昔、緊急依頼で長時間の探索が必要になった冒険者たちを相手に回復薬の販売を行った。


 敢えて言うなら売った回復薬が店売りできないような安価な回復薬だということだ。

 おかげで、適正価格で売り付けても収益がある。


「あの、Bランク冒険者のガンザスさんですよね」

「そうだが?」

「俺あなたに憧れているんです。昔、俺たちの村が近くで暴れていた魔物に困っていたところをガンザスさんたちのパーティが手に持った剣で次々と屠っていってくれて」

「そうか」


 ガンザスさんが煽てられて笑顔になっていた。


「お前たち、迷宮は危険な場所だがしっかりと準備をしてくれば怪我をするようなこともない安定した狩場だ。今回の教訓を活かして危険な場所に挑む場合には十分な準備をしてから挑めよ」

『はい!』


 俺みたいな1年先輩なだけの奴が言うよりもガンザスさんみたいな貫禄のあるベテランが言った方が説得力があるのか全員が頷いていた。


「あの、失礼なことを伺うようですが……」

「なんだ?」

「迷宮で一獲千金は可能なんでしょうか?」


 さっきから金関係に煩い少年がガンザスさんに尋ねていた。

 アーカナム地方では一獲千金を狙うなら迷宮が一番だという話がある。

 実際、俺も一攫千金を夢見て迷宮へと挑んだので間違いではない。


「可能だ。宝箱の中には銀貨じゃなくて金貨が詰まっている宝箱もある。それよりももっと高価な魔法道具が入っていることだってあるんだから挑戦する価値はあるぞ」

「金貨よりも、もっと……」


 その金額に思わず唾を飲み込んでしまっている。

 どれだけの金額を欲しているのか分からないが、金貨の詰まった宝箱が手に入れられたなら大金を手に入れたと言える。


「一獲千金を夢見るなら俺よりもコイツの方が適任だぞ」

「この人が、ですか?」

「ああ、実際に高価な魔法道具を手に入れて1年の間にAランク冒険者にまで登り詰めた男だからな」

「ちょっと!?」


 さすがに俺のことを言われると思っていなかったので驚いてしまった。

 それにギルドへ立ち寄ったわけでもないのにAランクに昇格した事実をガンザスさんが知っているのも不思議だ。


「ギルドマスターが新しいAランク冒険者が現れたって自慢していたよ」

「そうですか」


 なるべく秘密にして落ち着いていたかったのだが、無理みたいだ。


「本当に一獲千金は可能なんですか?」

「本当だ。俺の場合はSランクの剣とコートの入った収納リングを手に入れることができたから自分よりも強い相手と戦い続けることができた。気が付けばAランク冒険者だよ」


 表向きの理由を言うと新人冒険者たちがキラキラとした視線を向けてきた。


「もっと色々と話を聞かせて下さい!」


 やはりAランク冒険者というのは魅力的に映ったらしく口々に俺の話を聞きたがった。

 中でも一獲千金を狙うにはどうすればいいのか、という話だ。


「狙い目は構造変化が起こる満月の翌日だ。大金の隠されているような宝箱は隠されているのが普通だから、金が無くてレベルが低い内は上の階層で宝箱を探しながら魔物と戦ってレベルをコツコツと上げるのも1つの手だ」

「なるほど」


 彼らにはゆっくりと迷宮を下りてほしい。

 その方が得られる魔力も多くなるし、実戦を積んでレベルを上げてからの方が効率いい。


「今日のところは帰って魔石を換金したらしっかりと準備をしてから迷宮へ挑むように。それが先輩の教訓だ」


 新人冒険者たちを助けると最下層へ転移する。


 ガンザスさんは、地下11階でしか手に入れることのできない素材を手に入れる必要があったらしく、さっさと俺たちから離れていった。


 最下層にはパーティメンバーが全員集結していた。


顧客確保の為に迷宮の構造について頭を悩ませたり、新規の客が逃げないようにサポートすること。

それが迷宮主の仕事。

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