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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第10章 蹂躙戦争
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第27話 休戦

「まさか、本当に帝国軍を追い返せるとはな!」


 フロード村まで突撃してきたギルドマスターが笑いながら俺の肩を叩いている。


「みなさん無事でよかったです」

「何を言っている。俺たちは本当に突撃しに来た(・・)だけだ」


 敵と戦う為に死地へ赴くつもりで突撃してきたクラーシェル側の戦力だが、実際に戦うことなく帝国軍のほとんどが逃げ帰ってしまったので接敵する機会はなかった。


「ええと、彼らのように戦える人間にこのような仕事を依頼するのは気が引けるんですけど……」

「さすがにお前のパーティでやるには人手が足りないからな。この場を放置できないのは俺たちも同じだし、遺体の処分は俺たちも手伝うことにするよ」

「もちろんその分の報酬は出します」


 ギルドマスターが連れて来た500人。

 俺が今回の戦争で得た報酬を考えれば、それぐらいの報酬は許容範囲内だ。


 冒険者だけでは3000人以上の遺体を処理するのはちょっと大変なのでこちらからも人員を出す。ただし、パーティメンバーではない。


「クソッ、どうして俺たちがこんなことをしているんだ」


 嫌々ながら遺体の処理をしているのは元帝国軍兵士の奴隷たちだ。

 彼らには最初からフロード村の復興をしてもらうつもりだったので早速働いてもらっている。彼らが殺したフロード村の村人の遺体は村はずれに適当に埋葬されていたので後で冒険者に依頼を出してきちんと埋葬してもらえるようにする。


 ギルドマスターが仕事を押し付けに冒険者たちの方へ歩いて行く。


「こちらも終わりました」

「ご苦労様」


 俺の傍に戦闘を終えたイリス、アイラ、メリッサが近付いてくる。


迷宮眷属(ダンジョンサーヴァント)の力というのは凄いですね」

「帝国兵を倒して実感できたか」

「はい」


 昨日の戦闘では数十人を相手にするだけでも満身創痍だったにも関わらず、もっと多い数の敵を倒して来たイリスに疲れたような様子はなかった。


「体力が上がって継戦能力が向上したこともそうですが、軽い力で鎧の上からでも敵を斬ることができますし、敵の攻撃も難なく回避することができる。それに魔法を何度も使ったのに魔力が尽きる様子がありません」


 俺と同じでオールラウンドに戦えるイリスなら様々な恩恵を感じられるはずだ。

 今は昨日までの自分と比べて戸惑っているみたいだけど、直に慣れてくれるだろう。


「問題はなかったか?」

「はい。こちらへ向かってきた帝国軍は全て倒しました」


 ほとんどが逃げ帰った帝国軍だったが、全ての兵士が逃げたわけではなかった。中には村に放置された知り合いの死体を見つけた兵士が突撃するクラーシェル軍に突っ込もうとしていた。

 ただ突撃するだけの少数の兵士ならクラーシェル軍に任せても問題なかったのだが、極力クラーシェルの戦力を減らしたくなかったのでイリスを中心に任せ、アイラとメリッサにはサポートに就いてもらった。


 これでイリスも故郷を守れたことになるはずだ。


「どうだ、満足したか?」

「はい。ただ、ティアナさんのように自分の力だけで成し遂げたわけではないというのが心残りです」

「眷属になって得た力はお前の物だ。だから功績もお前の物だ」

「分かりました」


 いまいち納得していないのか悔しそうな表情をしていたが、彼女がメインに戦った相手は100人近くいたのだから納得してほしい。


「ご主人様」


 シルビアが俺の傍に音もなく現れる。

 直前まで気配もなかったせいでちょっと驚いてしまった。

 自称メイドなはずなんだから暗殺者みたいな技能を身に着ける必要はないんだけど、気付けばいつの間にか身に着けてしまっていた。


「伏兵の類も付近にはいません」

「ま、奴らは勝った味方に合流するだけのつもりだったんだからそういうことをするつもりがなかったんだろ」


 本隊の様子を見ても行軍中に欠伸をしたり、隣の兵士と談笑をしたりと戦争をしているような様子ではなかった。


 最初から最後まで主導権は俺たちの方にあった。


「それにしても本当に数万の軍勢を追い返すことができるんですね」

「これなら魔物1000体を相手にした方が大変だったよ」


 思い起こされるのは1年近く前の戦い。

 故郷のデイトン村で魔物1000体と戦った時には1人しかいなかったことや経験が足りていなかったこともあって大規模な罠を仕掛けて魔物を一掃した。必要なことだったとはいえ、魔力を多量に消費して大変だった。


「あの時は罠を駆使することができたから勝つことができたのでは?」

「たしかにそうなんだけど、人間と戦う時と魔物と戦う時を一緒に考えてはいけない」


 魔物は本能に忠実で目の前にいる人間に襲い掛かる。たとえ、その前に罠があったとしても避けたり解除したりということをしない。もっとも小さな罠では簡単に食い破られてしまう突進力がある。


 一方、人間には罠を避けたり解除したりする知恵がある。

 ただし、そんな知恵も正常な精神状態でなければ使い物にならない。


「帝国軍は俺が最初に1000人近く落とし穴に落とした段階で恐慌状態に陥っていただろ。おまけに力の強い奴らが直後に倒されていったものだから『俺を倒す』ことより『俺から逃げる』ことだけを選んでいたんだよ」


 だから目の前に罠があっても気付くことができない。

 一方的に落とし穴へ落として行った戦いだったが、落とし穴を生成する為にはナイフを目的の場所に突き刺す必要があった。彼らが落とし穴を生み出させないようにする為には、発動に必要なナイフを叩き落すのではなく掴むなり木の盾に突き刺して受け止める必要があった。


 しかし、そんなことには一切気付かずナイフが突き刺さると思われる場所から逃れることしか考えていなかった。


「たしかに今回の相手は数こそ多かったけど、そもそも領民から徴兵したような質の低い相手だった。そんな奴らが恐慌状態に陥ってパニックになれば簡単に倒すことができる。俺が戦争前に『魔物1000体を相手にするより大したことがない』って言ったのはそういう理由からだ」

「なるほど」


 数が多かったせいで時間が掛かってしまったが、あれから強くなったこともあって全く苦労していない。


「それにしてもあんたはよくそんなことを思いつけたわね」


 アイラの疑問ももっともだ。

 俺だって戦争に参加したのが初めてなら身近なところで起こったこともない。

 戦争にどうやって勝利したらいいのかなど考えたことない。


「ああ、それは――」

『――僕が教えたんだよ』


 適当にはぐらかそうとしたところで迷宮核が言ってしまった。

 俺としては、なんとなくズルをしているようだったので秘密にしておきたかったのだが、状況を面白がった迷宮核が見逃すはずなかった。


『戦争なんて昔からやり方が変わるわけじゃないからね。昔いた迷宮主が戦争に参加した時の方法を教えてあげたんだよ』


 俺は単純に迷宮核の提案した戦略に乗っかっただけだ。


『このまま行けば数日以内に帝国軍の方から休戦の申し込みがあるはずだよ。そうなると最大の功労者で多くの元帝国兵奴隷の主人である主は面倒な立場になっちゃうからその前に片付けとか終わらせてアリスターに帰ることにしようか』

「片付け、か……」


 迷宮核の言葉に反対する要素はない。

 やっぱり自宅でぐっすりと休みたい。


 ただ、その前に俺たちで荒らしてしまった街道の整備。それから得られた物資の分配に奴隷たちの処遇。

 色々とやらなければならないことがある。


「面倒だけど、片付けに行くことにしようか」

『……はい』


 4人から力ない返事が返って来る。

 片付けには少なくとも数日を要するものと思われる。


 戦争そのものは1時間程度で終わったにも関わらず、後片付けに数日が必要。準備や後片付けの方が多くの時間を必要とする戦争なんてやるものじゃないね。


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