表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第10章 蹂躙戦争
185/1458

第19話 少女たちの戦場―後編―

アイラ視点です。


 シルビアと一緒に走りながら南からクラーシェルへと向かう。

 こういう時、迷宮魔法全てに適性を持っているマルスや全属性という魔法使いにとって最強とも言える適性を持っているメリッサが羨ましい。

 彼らのようにあたしも空を飛んでさっさと戦場へと辿り着きたい。


「かなりの数がいるわね」

「どうする?」

「わたしに2人みたいな殲滅力を期待する?」


 この場にはあたししかいないとあってシルビアの口調も砕けていた。

 そっちの喋り方が素なんだからマルスのいる前でもあたしといると同じような口調でいいのに。


「あたしも一撃で殲滅っていうのは無理」


 魔法にそれほど適性のないあたしたちでは強力な迷宮魔法は使えない。

 適性は持っているから使えないということはないので簡単な便利魔法をいくつか使えるだけだ。


「となると、できることは限られるわね」

「同感」


 もう帝国軍の最後尾が見える位置まで近付いている。


 走りながら武器を抜く。


「ん?」


 帝国兵が接近するあたしたちに気付く。

 けど、もう遅い。


「ふっ」


 真っ先にあたしたちの存在に気付いた兵士を両断する。


「な、なんだ!?」

「ひっ、斬られている!?」

「う、ううう狼狽えるな!」


 仲間が斬られたことに気付いた帝国兵が声を上げている。

 彼らは農民みたいで死体を見て狼狽えていた。


 それを隊長らしきあたしたちと同年代の騎士が落ち着かせようとしていたけど、騎士の方が狼狽えているように見えるのは気のせいかな?


「何者だ貴様は?」


 馬に乗った別の30代の騎士が近付いて来た。


「Bランク冒険者アイラ。アリスター伯爵からの救援依頼を受けて駆け付けたわ」

「……どうやら本気みたいだな。だが、戦場というものを理解していないらしい。たった1人が加わったところでどうなる?」

「あたしも以前なら同感なんだけど……」


 眷属になって得た力は2人で協力すれば500人を相手にするのも問題ない。


「この状況でするとは思えないけど一応、降伏勧告だけはしてあげる。生き残りたい奴は大人しく降伏しなさい」

「そんなものを受け入れるはずがないだろ」


 馬に乗った騎士が溜息を吐いている。

 うん、その気持ちは分かる。


 けれども降伏勧告をしたにも関わらず受け入れるつもりがないなら殲滅するしかないよね。


「後悔しないでね」


 軍勢に突っ込みながら剣を振るう。


「なに?」


 兵士は簡素ながら革鎧を着ていたし、騎士に至っては金属鎧を着ている。

 兵士も騎士も関係なく全員の体が斬られる。

 あたしの聖剣なら金属鎧なんてあってないような物だ。


 軍勢の間を縫うように駆けながら剣を振っているだけで人が斬られていく。突っ込まれている兵士たちも迎撃しようと持っている剣や槍で攻撃しようとしているけど、勝って当然の戦いの中に突然現れたあたしの存在に動揺してまともな攻撃できていない。


「に、逃げろ……!」


 軍勢に突っ込みながら数十人と斬っている内に兵士が逃げ出した。


「シルビア!」


 逃げ出した兵士たちの首が優先的に狩られていく。

 あたしが真正面から突っ込んで指揮官や兵士たちの注意を惹き付けている間にシルビアがこっそりと近付いて兵士たちの首を狩って行った。


「なんだ? 何が起こっている?」


 指揮官が呆然としながら呟いていた。

 指揮官には敏捷に特化したステータスを活かしながら人混みの中に紛れて移動しているシルビアの姿を捉えることができなかった。指揮官の目には逃げ出した兵士の首がいつの間にか飛んでいたようにしか見えていなかった。


 あたしだけじゃなくてシルビアも怒っている。

 南側では魔法使いの数が不足していたみたいで何人かの前衛職の冒険者が帝国軍と戦っていた。


 彼らは故郷を守る為に必死に戦った。

 けれども、そんな彼らの努力を嘲笑うかのように帝国軍騎士は槍を突き刺していった。


 その姿には相手の気持ちを思い遣る心はなかった。


 ただ、勝てる戦いで虐殺を楽しんでいた。

 マルスが使い魔を通して見せてくれた光景に思わず眉を顰めてしまった。


「あんたたちは、クラーシェルにいる住民を殺すつもりでやって来たんでしょ。その想いが今度は自分たちに向けられただけでしょ」


 指揮官を守るように立っていた騎士たちを斬り殺した後、剣を突き付ける。


「降伏する? 命だけは保障してくれると思うわよ」

「ふざけ……」


 ふざけるな、とでも言って断ろうとしていたみたいだけど、冷静になって周囲を見てみると人が少なくなったおかげで首を狩るべく走っているシルビアの残影を追うことができるようになっていた。

 たった1人の少女が兵士の首を狩っている。


 気付けば500人いた帝国兵も100人すら残っていなかった。


「……降伏する」


 指揮官が降伏すると残っていた兵士も降伏した。


「ひっ!」


 シルビアの短剣が1人の兵士の眼前で止まる。


「指揮官が降伏を選んでくれてよかったわね」


 短剣を引くと兵士が崩れ落ちた。

 指揮官が降伏を選んだのは、外壁の向こうに数百人の兵士がいるのは帝国軍にも分かっていたからだ。残った数十人だけでクラーシェルの戦力を相手にできるはずもなく、降伏するしか選択肢は残されていなかった。そもそもあたしとシルビア相手にすら勝てると思っていないみたいで心が折れてしまっている。


 あたしたちは装備品の回収に関してはそれほど気にしていなかった。

 報酬に直結する問題だったけど、それ以上に帝国軍の殲滅が優先される。マルスやメリッサのような殲滅能力のある魔法攻撃を持たないあたしとメリッサでは時間を掛けていると逃げられる者が出て殲滅が不可能になってしまう可能性があったからだ。


 それに『本命』はまだ残っている。


『アイラ、シルビアそっちが終わったなら合流しろ』

『いいけど、捕虜とかはどうするの?』

『放置しろ。どうせクラーシェル軍の連中がどうにかしてくれるだろ』

『了解』


 抵抗する気のなくなった帝国軍をその場に放置して『本命』の為にマルスに合流することにする。

 さて、クラーシェルでの戦争はあっという間に解決してしまったけど、あたしたちには解決しなければならない問題が残っている。


「わたしの方が多いわね」

「いや、あたしの方がたくさん斬っているから」


 クラーシェルに辿り着くまでの間にどっちが多くの敵を斬るのか勝負していた。

 乱戦と言ってもいい状態だったので2人とも30人以上斬ったところから数えていない。


『シルビアが184人、アイラが229人』

「やった!」


 こういう時、倒して敵の数をしっかりとカウントしてくれる迷宮核の存在が頼りになる。


「わたしは逃げ出した奴を優先して倒していったから少ないのも当然よ」


 シルビアが言い訳をしているけど、シルビアの短剣だと軍勢に突っ込んで斬っていくのは難しい。

 お互いの戦闘スタイルを考えるとこれがベストな戦い方だ。


『おまえら……言い争うのはいいけど、こっちに来てくれないか?』


 おっと、マルスから呼び出しを受けていたのを忘れていた。

 迷宮同調で光景を見せてもらうと既に戦場にいた兵士は片付けた後で、今は捕らえた奴隷を入れた檻に魔力を受けて自動で動く車輪を取り付けてクラーシェルに運んでいるところみたいだ。

 そう時間を掛けずに引き渡しも終わりそうだ。


「というわけでアリスターに帰ったらアイスを奢るのを忘れないでよ」

「……分かっているわよ」


 敗者は勝者にアイスを奢らなければならないとなっていた。

 パーティで受けた依頼の報酬は、生活費を家に入れた後で自由に使えるお金を4人で等分することになっている。それなりに高額の依頼を受けたりもしているので余裕はあるんだけど、スイーツのような贅沢品は誰かの奢りで食べた方がやっぱり美味しい。


「さ、解決しないといけない問題はまだ残っているんだからさっさと終わらせに行くわよ」

「はいはい」


 アリスターに帰ってから奢ってもらうアイスに思いを馳せながらクラーシェルの東へと走る。

 まだ本当に殲滅したわけではない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ