表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第10章 蹂躙戦争
184/1458

第18話 少女たちの戦場―前編―

メリッサ視点です。

 クラーシェルの街の上空を飛び越えて北門に辿り着くと離れた位置に展開した帝国軍が外壁に向かって魔法の炎を放っています。


 一方、魔法を受けるクラーシェルは外壁の内側から表面にマジックシールドを展開させて魔法を防御しています。


 両者とも時間稼ぎが目的みたいで決定打に欠けます。

 救援に駆け付けた者としては、どうにかしなければなりません。


「テンペストランス」


 魔法を使用すると私の持っていた杖に風……竜巻が纏わり付きます。

 この魔法は、本来なら槍に渦巻く風を纏わせて突くことによって敵を薙ぎ払っていく対軍向きな魔法です。杖も槍もあまり変わらないので杖で使用したとしても問題ないでしょう。


「薙ぎ払いなさい」


 風が渦巻く杖を帝国軍のいる場所へと投げると直撃を受けた魔法使いと周囲にいた魔法使いの体が粉々に吹き飛ばされてしまっています。


 凄惨な光景が起こされたことで帝国軍の攻撃が止まります。


「誰だ!?」


 指揮官らしき騎士が攻撃のされた上空へと目を向けます。

 あまり上空にいたままでいたくなかったので杖を回収する為に地上へと降り立ちます。


「初めましてBランク冒険者のメリッサと申します。救援依頼を受けて貴方たちを殲滅に来ました」

「ほう……」


 殲滅、とわざわざ言ったにも関わらず指揮官は笑みを浮かべていました。


「たった1人で何ができる? お嬢さんは戦場というものが分かっていないみたいだな」

「たしかに戦争に参加するのは初めてのことですが、たかが500人を殲滅するのにどれだけの力があればいいのかぐらいは理解しているつもりです」

「女に何ができる」


 指揮官が鼻で嗤っています。


 まあ、私も眷属になる前ならたった1人で大軍を相手に何ができるのかと言いたいところです。


 ですが、彼らの本心は分かっています。

 彼らは1人で戦争に介入することの無謀さを嗤っているのではなく、女が戦場に立つことを嗤っているみたいです。その証拠に私自身ではなく私の体へと視線が向けられていることが分かります。街の男たちから厭らしい視線を向けられることには昔から慣れている私ですが、戦場で兵士から向けられることには憤りが感じられます。真面目に戦う気概が全く感じられません。


「はっ、ちょっと魔法が使えるぐらいでいい気になるなよ」


 剣を持った騎士らしき男が前に出て私へと剣を向けてきます。


 彼は私が空を飛んで来たことを知らないのでしょうか。

 魔法の中でも風属性魔法のフライは効果が単純ですが、代わりに緻密な魔力制御と膨大な魔力消費を要求されるため上級魔法扱いになっています。


 上級魔法が扱える技量があることにも気付けない。


 それだけで騎士に戦う価値はありません。


「勘違いしているようですから1つ忠告しておきますが、私が貴方と戦うつもりはありません」

「今さら逃げられると思っているのか?」

「逃げる? まさか、私は貴方()戦いに来たのではなく、貴方たち(・・)を倒しに来たのです」


 杖をその場で振るう。

 それだけで騎士だけでなく、近くにいた兵士の頭部が風魔法の刃によってスパッと切断されます。


 全属性を手に入れたことによって全ての属性魔法を使用できるようになった私ですが、やはり元々持っていた火と風属性に対しては相性がいいらしく水や土よりも威力が高くなっています。


「武器や防具といった全てを渡して降伏するなら命だけは保証します。命が惜しいなら降伏することをお勧めします」


 一応の降伏勧告をします。


「お前ら、何をしている相手は女1人だ! 囲んで攻撃しろ!」

「降伏を選んでいただけると楽だったのですが……」


 今回の依頼、私たちの報酬は帝国兵たちが持っている兵糧です。

 武器や防具はもちろんのこと彼らが所有している食糧すら私たちの報酬となります。そうなると価値のある装備は無傷の状態で手に入れたいところなので降伏していただけると有り難かったのですが、未だに女になら勝てると思い込んでいるみたいです。


「その思い込みによって命を散らしたことを後悔しなさい」


 風を自身に纏って敵軍へと突っ込みます。

 杖を振るって生み出した風の刃で鎧に守られていない頭部を狙って男たちの命を斬り裂いていきます。


 ただ殲滅させるだけなら炎で全てを焼き尽くしてしまうのが一番簡単なのですが、報酬目当てに装備を傷付けるような真似は自重しなければなりません。


「ひっ!」

「に、逃げろ」


 100人分も死体を作り上げる頃には逃げ出す兵士が出始めます。彼らには風の弾丸を頭部に撃ち込んで足を止めてもらうことにしましょう。

 魔力が強く、魔法に強い耐性のある者なら耐えられる魔法なのですが、特別な訓練を受けたわけでもない彼らでは後頭部に受けた一撃にすら耐えられなかったみたいです。


「栄光ある帝国騎士の男がたった1人の女に負けてどうする!?」


 それから一方的に100人をさらに虐殺したにも関わらず指揮官がそんなことを言っています。


 指揮官の言葉を聞いている兵士たちも誰1人として逃げ出す様子がありません。やはり、女である私に負けるはずがないという思い込みを持っているようです。


 もう、面倒です。


「その思い込みを抱いたまま焼き尽くされなさい」


 持てる魔力を注ぎ込んで上空に炎の球体を作り上げます。


 火属性魔法の中でも最強クラスの威力を誇るイグニスフレイム。


 地上にある戦場へと落とされた瞬間に周囲を業火と熱波が包み込みます。


 私も直撃を受けてしまう位置にいましたが、空間魔法で全ての炎と熱を遮断させて無事です。


『メリッサ、お前何をした!?』


 主から念話が届きます。

 爆発を起こしたことによって心配させてしまったみたいです。


『……答えたくありません』


 どのように答えるべきか悩んでいたところ私の目に映ったのは装備がボロボロになった500人の敵兵の死体。それから更地になってしまった街道だった場所。


 強い魔法が使えることに快感を覚えてしまうことを自重しなくてはなりません。


 報酬に帝国軍の兵糧を頂けることになっていますので街道の整備や怪我人の治療ぐらいは私の方でも手伝うことにします。少なくとも北側の街道が使えなくなってしまったのは私の責任です。

 ですが、今は戦争が終わったことをクラーシェルに伝えることにしましょう。


「帝国軍は殲滅しました。もう安全です」

「……………」


 魔法を使って声を届けているので聞こえていないはずないのですが、クラーシェル軍からの反応がありません。

 私が到着して少しした後で帝国軍からの攻撃が止んだため外壁の内側で帝国軍の魔法攻撃に耐えていた人々も外壁の上から私が戦っていた様子を見ていました。

 なので、私が帝国軍を殲滅させたという事実は理解しているはずです。


『うおおおぉぉぉぉぉ!』


 突然クラーシェルから歓声が上がります。

 なるほど。どうやら状況は理解できていても認識が追い付いていないせいで反応を起こすことができなかったようです。


 状況を正確に知らせるべく指揮官らしき人物の下まで飛びます。

 指揮官の男性は若い20代の男性で騎士鎧を着ていました。


「貴方がここの指揮官ですか?」

「は、はい。北側の守備を任されている騎士です」

「私はアリスターのBランク冒険者メリッサです。帝国軍は私たちで殲滅させました」

「はい、見ていましたので状況は理解しています。北側が問題ないようでしたら冒険者と一緒に東側へと向かって頂けますか?」


 さすがに伏兵が潜んでいる可能性を考えて全員で向かうような真似はしません。

 ですが、援護そのものが不要です。


「いえ、それには及びません。東と南にも私の仲間が救援に駆け付けています。そう時間を必要とせずに殲滅されることでしょう」

「え、そんなまさか……」


 指揮官は私の言葉が信じられないようで東側へと視線を向けていました。

 ですが、すぐに私の使っていた魔法によって引き起こされた光景を思い出したのか納得していました。


「それよりも領主様に報告をしたいのですが、案内していただけますか?」

「はい、もちろんです」


 指揮官の方でも報告をしなければならないと思っていたようで別の騎士に案内されてクラーシェルの中央にある領主の館へと案内されます。

 仲間の3人については、まだやることがあるので領主への説明は私がやらなければなりません。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ